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2014.6.16

注射抗がん剤調製時の安全のためのポイント

カテゴリー: 曝露対策
がん・感染症センター 都立駒込病院 薬剤科 宮澤 真帆 先生
がん・感染症センター都立駒込病院 薬剤科 宮澤 真帆 先生

 医療従事者の抗がん剤曝露による健康被害の可能性は、1970年代より様々な報告があり、Sessinkらは、シクロホスファミドの曝露量と発がん危険率について言及している1)。調製手技の不備による曝露量増加がないよう「適切な調製手技」で業務に臨みたい。

(写真1)
(写真1)駒込病院の混注室。広々した余裕のあるスペースを確保している。

抗がん剤を安全に調製するために必要な手技

 安全かつ円滑な業務遂行のために、各施設に合わせたマニュアルを作成し、調製手順や手技の標準化を行うこと、そしてそのマニュアルを遵守することが重要である。
 調製は、抗がん剤が外環境に出ないことを前提にすべての操作を行う。調製時の曝露汚染度は「調製ミス(スプラッシュ等)>バイアル表面汚染>揮発薬剤」2)とされており、調製はスプラッシュやスピルが生じないことを第一に注意深く行うことが肝要である。また、バイアル製剤より直接薬液を採取する場合は原則として陰圧操作を行う。これは、バイアル内が陽圧になることで抜針時にエアロゾルが発生するのを防ぐためである。但し、予め内部が陰圧となっているバイアル製品もあるため、製品ごとの取扱いの検討が必要である。最近では圧の調製が可能な閉鎖式接続器具があり、これを使用した場合は陰圧操作を行う必要がない上、曝露対策にも非常に有用であることが明らかとなっている。

「適切な調製手技」をどう維持するか?

 当院では、人員配置など内部的事情もあり、すべての職員がローテーションで週1~2回程度調製業務に従事している。それゆえに固定の担当者が毎日業務を行うのに比べ、調製者の手技を一定レベル以上に維持することは常に大きな課題であり、様々な工夫をしている。具体的な方策として、コアとなる調製手技のトレーナーを育成・配置し、常にアドバイスや注意喚起が可能な体制をとっている。また、様々な調製手技に関わるツールを作成し、安全キャビネットのそばに掲示しており、いつでも標準手技を確認できるようにしている(写真2)。調製手技の確認には様々な方法があると思うが、自身の施設で適する何らかの方策は持つべきであると考える。

写真2
(写真2)安全キャビネットの掲示物

 しかし、適切な調製手技を行う必要性を認識していなければ、どのような方策も意味をなさない。抗がん剤曝露は視覚的にとらえることが難しいため、その危険性を認識しにくい点は否めない。経験的に環境モニタリング(サンプリングシート法(クーポン法)やワイプ試験)による汚染状況の数値化は、職員の抗がん剤曝露の理解や意識向上に非常に有益であったことを加えたい。

まとめ

 安全キャビネットの設置や閉鎖式接続器具注)の導入を行っても、適切な手技で調製が行われなければ抗がん剤曝露の危険性は低減されない。そして安全な調製業務遂行には、適切な手技の継続的な確認だけでなく、それを維持するために職員が同じ認識を持って業務に臨むことが何よりも重要である。

  • 注)薬剤を移し替える器具であり、外部の汚染物質をシステム内に混入させないと同時に,危険性薬物がシステム外に漏れ出すこと、あるいは濃縮蒸気が漏れ出すことを機械的に防ぐ器具である。(International Society of Oncology Pharmacy Practitioners(ISOPP)の定義より)
【引用文献】
  • 1) Sessink PJ,Kroese ED,van Kranen HJ et al.Cancer risk assessment for health care workers occupationally exposed to cyclophosphamide.Int Arch Occup Environ Health.1995;67:317-23
  • 2) 西垣玲奈ほか、抗がん剤調製作業以外に由来する汚染調査、第20回日本医療薬学会年会(2010)
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