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2014.6.16

聖路加国際病院での
抗がん剤の安全な取扱い方法

カテゴリー: 曝露対策
聖路加国際病院 薬剤部 チーフ 石丸 博雅 先生
聖路加国際病院 薬剤部 チーフ石丸博雅 先生

 聖路加国際病院(以下、当院)の抗がん薬調製は、オンコロジーセンター(外来化学療法室)内の薬剤室で全て行っている。オンコロジーセンターにはローテーションで薬剤師4名と看護師13名,事務3名が勤務し、センターに併設された外来診察室で腫瘍内科医師が毎日診療を行っている。抗がん薬の曝露対策は薬剤師と看護師中心に医師の協力を得ながら検討・実行され、聖路加国際病院で実施される全てのがん化学療法が常に安全に行われることを目標の一つとしている。

抗がん薬による曝露対策

 2004年National Institute for Occupational Safety and Health(NIOSH)が、「医療環境での抗がん剤と危険性薬物への職業上の被曝防止について勧告」1)を発行している。日本病院薬剤師会も国内6施設による調査が行われ、日本の抗がん薬曝露の現状が明らかになった。 当院の抗がん薬曝露対策は、抗がん薬調製マニュアル2)およびISOPP Standards of Practice 20073)の曝露対策のヒエラルキー(図1)にしたがって検討を行っている。

(図1)曝露対策のヒエラルキー
図1曝露対策のヒエラルキ

I.抗がん薬の調製、投与、廃棄

当院で使用される抗がん薬は、入院,外来含め全てオンコロジーセンター薬剤室で閉鎖系器具を使用して調製している。閉鎖系器具の選定に際して文献検索を行い、閉鎖系器具として最もエビデンスのあるPhaSeal™ Systemを2010年2月に採用した。PhaSeal™は、NIOSH から発行されているHazardous Drug list4)を参考に、2014年現在、44種類の抗がん薬に使用している。レジメンに適した輸液ラインを用いて生食やブドウ糖液などでプライミングしている。病棟等でこれらの薬剤を投与する場合は、搬送者の曝露対策と搬送中の不慮の事故による汚染を防止するため、全てチャック付ビニール袋に入れて払い出している(図2)。また、当院では、看護師の曝露対策や付き添いの家族への曝露対策として、輸液ラインの抜き差しを禁止し、投与時もPhaSeal™を使用している。使用後は輸液ライン等を接続したまま入ってきた袋に入れ、チャックを閉めて感染性廃棄BOXへ廃棄している(図3)。

(図2)調剤後
(図2)調剤後
(図3)廃棄
(図3)廃棄

II.職員の教育・トレーニング

抗がん薬の曝露対策は、いくら素晴らしい設備や資材等を整えても、それを使用する人の正しい知識と正しい認識がなければ、良い曝露対策は実施できない。当院では、閉鎖系器具を導入する際に薬剤師にはもちろんのこと、看護師や研修医をはじめとしたがん化学療法を実施する診療科の医師に対しても年間で50回以上の勉強会と実技演習を開催した。現在では、研修医には血液腫瘍科医師によるOJT(On-the-Job Training)、看護師には、がん化学療法認定看護師とがん専門薬剤師が中心となってトレーニングを行っている。薬剤師の教育は、オンコロジーセンターに勤務する薬剤師が中心となり、ISOPP Standards of Practice20073)を参考に初期研修プログラムを策定し、約2ヵ月間かけてミキシング業務を中心に曝露の対策のトレーニングを行っている。

III.個人防護具の選定

当院では、抗がん薬を調製する時だけでなく、抗がん薬を取り扱う際の手袋は、ASTM(米国試験材料協会)の定める基準を満たした製品を使用している。また、ガウンにおいても薬剤師の抗がん薬調製時はもちろんのこと、看護師の投与時、そしてオンコロジーセンター清掃時にもガウンの着用を義務としている。

まとめ

 抗がん薬の曝露対策は、病院全体の問題である。薬の専門家である薬剤師がリーダーとなり、院内の抗がん薬の取扱いを考えていかなければならない。より安全な職場環境を作るためには、安全キャビネットや閉鎖系器具、化学療法に適した個人防護具を導入するだけでなく、薬剤師,看護師,医師をはじめとした院内職員に正しい抗がん薬の知識と正しいスキルを教育し、正しい認識を持って使用することが重要である。

【引用文献】
  • 1) NIOSH Alert 2004: preventing occupational exposures to antineoplastic and other hazardous drugs in health care settings 2004. U.S. Department of Health and Human.
  • 2) 日本病院薬剤師会監修. 抗がん薬調製マニュアル 抗悪性腫瘍剤の院内取扱指針第2版 じほう 東京 2009
  • 3) ISOPP Standards of Practice. J Oncol Pharm Pract 13, 17-26. 2007.
  • 4) NIOSH List of Antineoplastic and Other Hazardous Drugs in Healthcare Settings 2012
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