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2019.6.28

免疫チェックポイント阻害薬による
免疫関連有害事象マネジメント①
~九州大学病院チームICIと薬剤師の関わり~

カテゴリー: 副作用対策
福岡徳洲会病院 薬剤部 薬剤部長 渡邊 裕之 先生
(前:九州大学病院 薬剤部 副薬剤部長)
九州大学病院 薬剤部 副薬剤部長 渡邊 裕之 先生

irAE対策において薬剤師が担う役割の重要性

本院におけるチームの体制と運営

薬剤師はirAE対策の主体となり得る

ICIの普及に伴う今後の期待と課題

 近年、免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint inhibitor:ICI) が、がん治療の新たな選択肢として脚光を浴びている。ICI は、免疫チェックポイントであるcytotoxic T lymphocyte antigen 4 (CTLA-4) 、programmed death protein 1 (PD-1)/PD-1 ligand 1 (PD-L1)を標的とする薬剤である。ICIは、従来の殺細胞性抗がん薬や分子標的薬とは異なる、頻度は低いながらも生命に関わる、免疫関連有害事象(immune related adverse event:irAE)が発現することが知られている1,2)。しかしながら、irAEの発現時期や危険因子等は明らかになっておらず、適切な対処法も確立していないことから、診療科・職種横断的な緊密な連携によるチーム医療の実践が求められている。
 そこで、九州大学病院チームICIにおけるirAEマネジメントの実際を6回にわたりシリーズで紹介する。本稿では第1回目として、九州大学病院チームICIの活動と薬剤師の関わりについて概説する。

1. チームICIの設置

 ICIにより増強した免疫が正常細胞を攻撃することで、内分泌障害、間質性肺炎、下痢・大腸炎などのirAEが発現する。これに対応するには、がん治療の専門家以外の知識や経験が必要であり、診療科・職種を超えた安全管理体制の構築が必要不可欠である。
 そこで、九州大学病院では、ICIの治療を実施する診療科を中心に、連携が必要となる消化管内科や内分泌内科など専門診療科、さらに看護師、薬剤師、社会福祉士など職域を超えて約60名からなる、「ICI 適正使用委員会(チームICI)」を結成し、ICIの適正使用推進のための体制構築を図っている(図1)。

図1)チームICI

2. 情報共有による知識・経験値の向上

 ICIは現在、様々ながん種で使用されている。このため、個々の知識を深め、チームとしての経験値を高めるために、専門医によるirAEに関するショートレクチャー、およびirAE治療に難渋した症例の検討を行っている。これらの取り組みが有用であった1例を挙げる。
 内分泌内科医師から副腎不全発症時は、好酸球が上昇すると情報提供があった。そこで、ニボルマブ中止後数ヶ月経過してから好酸球増加があった症例について、内分泌機能精査を行ったところ、続発性副腎不全の診断に至り、その後、適切な治療が施行された3)
 このことから、診療科・横断的な知識の共有、および他の診療科と顔が見える関係の意見交換は、irAEマネジメントに必要であると考えられる。

3. チームICIにおける薬剤師の役割

 領域(臓器)毎のスペシャリスト(医師)に対して、薬剤師は担当する病棟(領域)を固定せず流動的に活動する職種で、チーム ICIにおける役割が大きいのは明らかである。
 そこで、チームICIの継続的な成長を予想して院内のがん治療に関わる20名の薬剤師をチームICIに投入し、また、主体的に活躍できる人材の育成を目指しICI適正使用委員会の世話役を順次担当させ、さらに、進捗状況と情報を逐次共有することで、参画する薬剤師の能力と意識の底上げを目指している。
 薬剤師がもっとも注力しているのは、ICIの適正使用推進およびirAEの早期発見と早期対応を念頭においた資材作成と運用の整備である。

  • 1) irAEを早期発見するための検査項目の標準化:
    ICI導入時又は投与継続時に確認を必須とする検査項目および患者個々のリスクに応じて行う追加の検査項目を統一化し、それぞれに推奨グレードを設定した。
  • 2) 患者教育用資材と患者教育の標準化:
    irAEの多くは早期発見・対応が可能であり、時に患者自覚症状にも表れる。このことを念頭におき、患者教育シートおよび副作用確認シートを作成し、活用している。患者にirAEの症状や兆候を教育するとともに、ICI開始時および投与終了後まで、irAEが起こり得ることを理解させ、何かあれば直ちに病院に連絡させるよう繰り返し教育している。
  • 3) irAE対策アルゴリズムの標準化:
    irAE発現時の治療を円滑に行うため、irAEの種類(間質性肺疾患、内分泌障害、神経障害、1型糖尿病、皮膚障害、肝・腎機能障害、下痢・腸炎、インフュージョンリアクション、心筋炎)ごとに対策アルゴリズムを作成している。

4. irAEマネジメントの均霑化と福岡市内施設の連携に向けて

 ICIの臨床導入に伴い、多くの患者がその恩恵を享受する一方で、適切なマネジメントができるメディカルスタッフの育成が急務となっている。また、ICIは幅広いがん種への適応追加が見込まれるため、irAEマネジメントの体制作りも喫緊の課題である。
 そこで、チームICIの薬剤師が中心となり、福岡市がん診療連携拠点病院の実務担当薬剤師と連携し、情報共有および各施設における課題解決を図ることで、福岡市におけるirAEマネジメントの標準化を目指したセミナーを2019年2月から開始した。セミナーの内容は、各施設におけるチームICI活動状況・運用ノウハウの共有、irAEマネジメントツールの共有、irAEマネジメント事例の共有、症例検討によるグループディスカッションである。将来的にはこの活動により、irAEの標準的なマネジメントにおける地域間の格差の是正を図りたいと考える。

5. チーム医療が進化・醸成するために

 irAEの多様性を鑑み、早期発見・治療を患者に提供するには、資料作成や情報共有、運営に相当の時間と手間がかかる。これまで責任感を持って取り組んできたチームICIの薬剤師には多大な負荷がかかっており、そのエネルギーに対する対価は今のところない。このことは、チーム医療を実施・普及させるためのインセンティブが少ないことに起因しているかもしれない。昨今、厚生労働省が作成した最適使用推進ガイドラインには、医療従事者による副作用モニタリングや、主治医と情報を共有できるチーム医療体制の整備がうたわれている4)

医療従事者による有害事象対応に関する要件

 今後、チームの質の向上と活動の維持に向けての工夫、およびチーム医療の有効性を多角度から検証していくことで、近い将来、診療報酬改定にてがんのチーム医療に対する加算が新設されることを願っている。

6. 今後の課題

 ICIは現在、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、腎細胞癌、頭頸部癌、古典的ホジキンリンパ腫、尿路上皮癌、悪性胸膜中皮腫、メルケル細胞癌および胃癌に承認されている。近々、ICIは既存の抗がん薬や分子標的薬と組み合わされ、複合的がん免疫療法として実地医療に導入される5-8)。実地医療においては、複合的がん免疫療法におけるirAEの発現率およびその重篤度は高くなることが予想され、これまで以上に我々は、irAEのマネジメントに精通する必要がある。

まとめ

 ICIを安全に使用するためには、治療を行う診療科だけでなく、irAEの対応に必要な専門診療科や薬剤師、看護師等が迅速に対応できる連携体制の構築が重要である。チーム医療においては薬剤師が主体となり、職種間のコミュニケーションを図ることで、チームが醸成し、その結果、ICIの適正使用推進、より良いirAEマネジメントの実現、およびQOLの向上につながる。チームICIにおける薬剤師の活動は、将来他領域にも拡がり得る様々なチーム医療への薬剤師参画の手本になると考えられる。

【引用文献】
  • 1) Haanen JBAG, Carbonnel F, Robert C, et al.: ESMO Guidelines Committee. Ann Oncol. 2018; 29 (Supplement_4): iv264-6.
  • 2) Brahmer JR, Lacchetti C, Schneider BJ, et al.: Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline. J Clin Oncol. 2018; 36: 1714-68.
  • 3) Otsubo K, Nakatomi K, Furukawa R, et al.: Two cases of late-onset secondary adrenal insufficiency after discontinuation of nivolumab. Ann Oncol. 2017; 28: 3106-7.
  • 4) 最適使用推進ガイドライン ニボルマブ(遺伝子組換え)~非小細胞肺癌~. 平成29年2月(平成30年11月改訂). 厚生労働省
  • 5) Gandhi L, Rodríguez-Abreu D, Gadgeel S, et al.: Pembrolizumab plus Chemotherapy in Metastatic Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018; 378: 2078-92.
  • 6) Paz-Ares L, Luft A, Vicente D, et al.: Pembrolizumab plus Chemotherapy for Squamous Non-Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018; 379: 2040-51.
  • 7) Socinski MA, Jotte RM, Cappuzzo F, et al.: Atezolizumab for First-Line Treatment of Metastatic Nonsquamous NSCLC. N Engl J Med. 2018; 378: 2288-301.
  • 8) Horn L, Mansfield AS, Szczęsna A, et al.: First-Line Atezolizumab plus Chemotherapy in Extensive-Stage Small-Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018; 379: 2220-9.
【参考文献】
  • ・中西 洋一監修/渡邊 裕之、辻 敏和、濱田 正美、岩谷 友子編集:対応の流れと治療のポイントがわかるフローチャート抗がん薬副作用,じほう,2020
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