免疫チェックポイント阻害薬による
免疫関連有害事象マネジメント②
~irAE早期発見・早期対応のための資材作成と活用~
検査項目と対策アルゴリズム標準化の実践的取り組み
推奨グレード、検査タイミングを組み入れた検査項目一覧の作成
具体的に要点をまとめた対策アルゴリズムの作成
標準化により、共通認識をもって院内連携irAEマネジメントが実践できる
近年、がん治療を取り巻く環境は、免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)の登場により、大きな変化を遂げている。治療の選択肢が増えただけでなく、臨床効果にも大きな期待が寄せられている。その一方で、従来の抗がん剤と異なる免疫関連有害事象(immune related adverse event:irAE)が起こることが知られている1,2)。irAEは多種多様で発現時期・発現部位は明らかではない。重症度に応じて速やかに適切な治療を行うことで、多くのirAEをコントロールすることが可能であるが、重症例や死亡例も報告されているため、注意深いモニタリングが必要である。
本稿では第2回目として、九州大学病院チームICIのirAE早期発見・早期対応を目指した取り組みについて紹介する。
1. 検査項目の標準化
ICIによるirAEは多岐にわたるが、間質性肺疾患や内分泌機能障害など検査値に反映されるものもある。しかし、どのような検査項目をいつ測定すべきかということが問題点として挙げられた。どのようなirAEがいつ発現するのかわからないため、投与開始前の状態を把握しておくことは重要である。しかしながら、通常、検査値は診療科によって確認するポイントが異なるため、確認漏れや検査漏れが生じる可能性がある。そこで、チームICIでは、irAEのモニタリングに必要な検査項目を診療科横断的に検討し標準化を図った。
まず、検査項目は必須の検査と、患者個々のリスクに応じた検査とし、それぞれに推奨グレードを設定した。さらに、ICI治療導入の可否を決定するためのスクリーニング検査、および治療継続時にirAEを早期発見するためのフォローアップ検査を設定した。
必須の項目を「推奨グレードA」、副作用が疑われる場合に検査すべき項目を「推奨グレードB」、その他に推奨される項目を「推奨グレードC」とカテゴリー分けした。また、検査項目には、同日検査しない項目や、検査を実施する際に必要となる保険病名など保険診療に従った事項についてもアナウンスしている。
●スクリーニング検査
一般的な血液学的検査や血液生化学的検査、尿検査に加え、免疫学的検査(リウマチ因子や抗核抗体)などを推奨グレードAとした。これは、自己免疫疾患合併の評価を目的としている。ほかに例として、「劇症1型糖尿病では、アミラーゼ(AMY)上昇を伴う膵炎を併発する例が多い」、「甲状腺機能低下症では、総コレステロールが上昇する」、「ICIによる重症筋無力症では、しばしばクレアチニンキナーゼ(CK)が上昇する3)」等の知見を踏まえ、専門医と協議し検査項目を設定した。
画像検査では特に死亡例や重症例の報告もある間質性肺炎の有無を胸部X線により評価することとしている。症例に応じて、頸部超音波、腹部超音波、CTなどを追加する。
特定の疾患・リスクに応じて実施する検査項目(推奨グレードB)としては、以下が挙げられる。
SP-D(間質性肺炎)、抗アセチルコリン受容体抗体(重症筋無力症)、リパーゼ・抗GAD抗体(劇症1型糖尿病)、F-T3・抗サイログロブリン抗体・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(甲状腺機能障害)、ACTH・コルチゾール・DHEA-S(副腎機能障害)。
●フォローアップ検査
ICI投与中に定期的なモニタリングが必要な項目として、内分泌障害や間質性肺炎等のirAEを考慮し、一般的な検査に加え、HbA1c、TSH、F-T4、KL-6を4〜6週毎に測定することを推奨度の高いグレードAとしている。推奨グレードBはスクリーニング検査と同様の場合に追加検査する。
2.irAE対策アルゴリズムの標準化
irAEの多くはステロイド反応性であり、ステロイド投与後6~12週以内に改善する。しかしながら、適切なステロイド治療にもかかわらず、irAEの改善が不十分または悪化する場合は、免疫抑制薬を使用する。主な薬剤は、インフリキシマブ、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、シクロスポリンである。一般的に、ICIの中止基準は、生命を脅かすirAE(Grade4)または、重度のirAE(Grade3)の再発、適切な治療を受けても改善しないirAE(Grade2)となる。しかしながら、内分泌学的irAEは、これらの基準の例外となる。すなわち、内分泌学的irAEがGrade4であっても、適切なホルモン補充療法継続下においては、ICIの中止は必要ない。このようにirAE発現時は、多彩な症状を専門的に判断し、治療を実施する必要がある。
チームICIは、irAE発現時の治療を円滑に行うため、irAEの種類ごとに対策アルゴリズムを作成している(間質性肺疾患、内分泌障害、神経障害(重症筋無力症、脳炎・髄膜炎)、1型糖尿病、皮膚障害、肝・腎機能障害、下痢・腸炎、インフュージョンリアクション、心筋炎を含む心血管障害)。
このアルゴリズムは、副作用の身体所見、検査所見に関する要点と他科受診時に迅速な対応ができるよう必要な検査を加え、Grade毎に具体的な治療を明記し、irAEの徴候が認められた場合は、重症度に応じて専門医にコンサルトすることを記載している。また、当院採用薬とその投与量、および投与期間を具体的に記載していることも特徴である。アルゴリズムの構成は詳細版と簡易版を作成しており、副作用症状に関する身体・検査所見や対応の要点を確認しやすいように工夫している。
一例として、間質性肺疾患のアルゴリズムを示す。
このアルゴリズムでは、身体所見(息切れ、労作時息切れ、咳嗽、発熱、SpO2低下、fine crackles聴取)と検査所見(KL-6上昇、LDH上昇、白血球数上昇、CRP上昇、SP-D上昇、胸部X線・CT異常)との組み合わせでGradeと対処法が決定される。間質性肺疾患の発現が確認されれば、Gradeを問わず速やかにICI投与を中止し、Grade分類に応じた検査を実施する。その後、呼吸器および感染症の専門医にコンサルトし、治療やフォローアップを行う。なお、症状再燃のリスクを考慮し、ステロイドは慎重に漸減することとしている。
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の適正使用の実践においては、irAEの徴候を早期に見極め、必要に応じて迅速に対処することが肝要である。
こうして作成した検査値項目の一覧により、検査の依頼が容易となり、患者の自覚症状や検査値などから医師に早期に異常を伝えやすくなった。irAEの徴候が認められた場合は、アルゴリズムに則った重症度に応じて専門医にコンサルトすることをルール化したこと、irAEの治療に使用する薬剤の種類や投与量を統一したことで、医療者同士が共通認識で対応できるようになった。検査値やアルゴリズムの内容に変更が必要な場合は、専門診療科の意見を取り入れながら改訂を行い、より良い対応ができるように取り組んでいる。
今後もICIに関する新たな知見と安全性情報に留意し、検査値やアルゴリズムの標準化に努めることが必要不可欠である。
- 1) Haanen JBAG, Carbonnel F, Robert C, et al.: ESMO Guidelines Committee. Ann Oncol. 2018; 29 (Supplement_4): iv264-6.
- 2) Brahmer JR, Lacchetti C, Schneider BJ, et al.: Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline. J Clin Oncol. 2018; 36: 1714-68.
- 3) Suzuki S, Ishikawa N, Konoeda F, et al.: Nivolumab-related myasthenia gravis with myositis and myocarditis in Japan. Neurology. 2017; 89: 1127-34.
- ・中西 洋一監修/渡邊 裕之、辻 敏和、濱田 正美、岩谷 友子編集:対応の流れと治療のポイントがわかるフローチャート抗がん薬副作用,じほう,2020