免疫チェックポイント阻害薬による
免疫関連有害事象マネジメント③
~患者教育とirAE評価のための資材作成と活用~
患者教育シートと副作用確認シートの活用による
irAEマネジメント
自覚症状の理解向上を促す患者教育シートの作成
共通認識で症状の確認・評価ができる副作用確認シートの作成
資材活用は患者と医療者の理解を助け、適切な副作用検出・対処が可能になる
免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)の登場によりがん治療は大きな変化を遂げた。今後も適応拡大や新たなICIの登場により、その恩恵を受ける患者数が増加することが予測される。ICIには従来の抗がん薬とは異なる、頻度は低いながらも生命に関わる、免疫関連有害事象(immune related adverse event:irAE)が発現することが知られている1,2)。irAEは発現時期や危険因子等は明らかになっておらず、治療終了数か月後に発現したケースも報告されている3)。一方で、irAEの発現が治療効果と相関するという報告もあり4,5)、ICIの効果を最大限に得るためにはirAEの適切なマネジメントが極めて重要であることが分かる。irAEは患者の自覚症状として現れることもあるため、早期発見・早期対応のためには自覚症状についての患者理解と医療スタッフの適切な評価が重要であるといえる。
本稿では第3回目として、九州大学病院チームICIの患者の自覚症状に着目した資材の作成と取り組みについて紹介する。
1. 患者教育シートの作成と活用
irAEの好発時期は明らかでなく、ICI投与終了数か月後も発現する可能性がある。外来でのICI投与が多い状況で、自宅において患者自身がirAEの自覚症状に気付き、適切に対応できることが求められる。そこで、チームICIでは自覚症状について患者の理解を向上させるべく、患者教育シートを作成した。
患者教育シートは、早期に起こり得る臨床症状への対応を重篤化リスクに応じて分類し、患者が理解しやすいよう平易な表現として記載した。
具体的には、発現した際に早急な対応が必要とされるirAEとして、重症筋無力症・筋炎、1型糖尿病、間質性肺炎、大腸炎・下痢の4項目を「すぐに病院に連絡が必要な症状」と分類した。例として重症筋無力症・筋炎であれば、その症状を分かりやすく「まぶたが下がってくる」、「物が二重に見える」、「筋肉痛がある」と記載している。
また、発現しても経過が緩徐で次回受診まで待てるirAEとして、内分泌障害、静脈血栓塞栓症、皮膚障害、神経障害の4項目を「次回受診時に報告が必要な症状」と分類した。
ICI治療開始時に、いつ・どのようなirAEが発現するか予測できないため、当院では普段から自覚症状の変化に注意し、変化があれば患者教育シートに則った対応を取るよう、時間をかけて指導している。それに加えて、患者教育シートをもとに作成した確認テストを定期的に行い、患者の理解度の確認と理解の定着を図っている。また、患者教育シートは自宅に持ち帰ってもらい、家族も含めて目の付くところに掲示するよう説明している。これにより自覚症状の確認がしやすくなるばかりでなく、何かあった時に家族にも対応してもらうことが可能となる。
実際に、ひどい口渇による電話連絡で受診したケースがあったが、急性1型糖尿病の診断に至り、適切な対処がなされ重篤化を防ぐことができた。
このような事例から、いつ発現するか分からないirAEの自覚症状を患者に理解してもらうことが非常に重要であることが分かる。
2.副作用確認シートの作成と活用
医療スタッフはirAEの自覚症状を患者から確実に聴取する必要があるが、職種や経験年数によって確認する項目や評価に差が生じる可能性がある。それを防ぐため、多職種で共通に使用する副作用確認シートを作成した。
副作用確認シートには、内分泌障害や間質性肺炎の発現時に参考となるバイタル(体重、体温、血圧、脈拍数、SpO2)、自覚症状の項目のほか、それぞれの具体的な症状とGrade分類を記載した。これにより、医療スタッフが一様に自覚症状の聴取と重篤度の確認ができるようになる。
当院ではICI投与毎、医師の診察前に副作用確認シートを用いたチェックを行っており、速やかにカルテへの取り込みを行っている。症状の経時的変化が把握できるため、irAEの早期発見に有用であり、情報共有ツールとしても役立っている。
実際に、SpO2の値が前回より低下しており、間質性肺炎疑いで緊急CTになったケースや、皮疹ができたと訴える患者の足に大きな水疱が形成されており、皮膚科受診によって水疱性天疱瘡と診断されたケース、貧血で倒れたと訴える患者の脈拍測定で不整脈の出現が確認され、心電図検査によって心筋炎と診断されたケースなどがあった。
このような事例から、副作用確認シートを活用して診察前問診を行い、採血データだけでは得られない情報を確認することが重要であると分かる。
irAEの適切なマネジメントにおいては、いつ発現するか分からない自覚症状を見逃さず適切に評価することがポイントとなる。
患者教育シートを用いた指導と定期的な確認テストによって、自宅で過ごしている間もirAEに関してセルフチェックを行うようになり、必要に応じて直ちに病院に連絡するよう理解が定着していると考える。
副作用確認シートによって、医療スタッフも共通の認識でirAEの確認・評価を行うことができるようになり、ささいな異常も医師に報告しやすくなった。
今後、ICI治療を受ける患者数の増加が見込まれる状況で、より効果的にirAEを検出できる体制を検討し続けていくことが求められる。
- 1) Haanen JBAG, Carbonnel F, Robert C, et al.: ESMO Guidelines Committee. Ann Oncol. 2018; 29 (Supplement_4): iv264-6.
- 2) Brahmer JR, Lacchetti C, Schneider BJ, et al.: Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline. J Clin Oncol. 2018; 36: 1714-68.
- 3) Otsubo K, Nakatomi K, Furukawa R, et al.: Two cases of late-onset secondary adrenal insufficiency after discontinuation of nivolumab. Ann Oncol. 2017; 28: 3106-7.
- 4) Freeman-Keller M, Kim Y, Cronin H, et al.: Nivolumab in Resected and Unresectable Metastatic Melanoma: Characteristics of Immune-Related Adverse Events and Association with Outcomes. Clin Cancer Res. 2016; 22: 886-94.
- 5) Haratani K, Hayashi H, Chiba Y, et al.: Association of Immune-Related Adverse Events With Nivolumab Efficacy in Non-Small-Cell Lung Cancer. JAMA Oncol. 2018; 4: 374-8.
- ・中西 洋一監修/渡邊 裕之、辻 敏和、濱田 正美、岩谷 友子編集:対応の流れと治療のポイントがわかるフローチャート抗がん薬副作用,じほう,2020