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2022.6.6

免疫チェックポイント阻害薬による
免疫関連有害事象マネジメント⑤
~irAEマネジメントの地域連携~

カテゴリー: 副作用対策
九州大学病院 薬剤部 池田 宗彦 先生
九州大学病院 薬剤部 池田 宗彦 先生
ポイント

irAEマネジメントの均霑化に必要な病院薬剤師同士の連携と病診薬連携の強化

irAEマネジメントの地域連携モデル「FRENS」の活動内容

地域連携による長期的なirAEフォローは、安全なICI治療に寄与する

保険薬局でirAEマネジメントを実践するためのモニタリングツールの作成

irAEに対応できる薬剤師育成と地域連携推進の重要性

 免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)は免疫を増強してがんを治療する薬剤であるが、増強した免疫が正常細胞も攻撃することで、自己免疫疾患様の内分泌障害、間質性肺炎、下痢・大腸炎などの症状が発現することがある1-3)。これに対応するには、がん治療の専門家以外の知識や経験が必要であり、診療科・職種を超えた安全管理体制の構築が必要不可欠である。昨今、診療科・職種横断的な連携体制を整備する施設が全国的に増加傾向にあるが、irAEに対応可能な専門診療科が施設内に無いこと、irAEマネジメントチームが形骸化しているなど、諸問題を抱えている施設は少なくない。一方で、ICI投与患者の多くは外来治療になるが、外来患者をフォローする保険薬局においては、ICI投与歴を把握することが困難であり、また、irAEに対応する知識も十分でないのが現状である。これからのirAEマネジメントは「チームICI」のような自施設対応型から、地域の病院や薬局が協働した地域対応型にシフトする必要があると考えられる。本稿では、irAEマネジメントの均霑化と福岡市内施設の連携に向けた取り組みについて紹介する。

1. irAEマネジメントの地域連携組織

 福岡市では、全国に先駆けてirAEマネジメントの土台を築いた九州大学病院チームICIの薬剤師が中心となり、irAEマネジメントの地域連携モデルを目指した「Fukuoka irAE Management System:FRENS」を組織し、2018年から活動を開始している(図1)。


図1

2. 病病連携
irAE Management Seminar for Pharmacists with Team ICI:irAE MSP

 irAE MSPは福岡市周辺のがん診療連携拠点病院と連携した「irAE Management Seminar for Pharmacists with Team ICI:irAE MSP」である。各施設における院内irAEマネジメント体制の整備、及び地域におけるirAEマネジメントの標準化を目標に、年4回のセミナーを開催している。
 セミナーは、レクチャーとディスカッションの2部構成とした。レクチャーパートでは、irAEマネジメント体制が構築されている全国の施設から薬剤師を招聘し、体制構築における薬剤師の取り組みについての実践的な活動内容を共有した。これにより、irAEマネジメントに必要となる薬剤師の役割が整理されたと共に、セミナー参加薬剤師の実践的力量を向上させることができた。ディスカッションパートでは、irAEマネジメント体制構築について、施設背景が近似している施設毎にグループ化し、各施設の現状や問題点に対する改善策を繰り返し協議することで、各施設でのirAEのスクリーニング方法が確立され、専門医へのコンサルトを含めたirAE出現時の治療体制が整備された。

3. 病診薬連携
irAE Management Basic Seminar for Community Pharmacists with Team ICI:irAE MSCP

 irAE MSCPは、福岡市薬剤師会と連携した「irAE Management Basic Seminar for Community Pharmacists with Team ICI:irAE MSCP」である。ICI治療中のみならず、ICIによる治療が終了し次治療に移行した後もirAEが出現するといった調査報告がある4)。すなわち、ICI使用履歴があれば、ICI治療中~治療終了後に渡る長期間のフォローが必要となる。しかしながら、治療終了後の患者を、病院薬剤師が継続的にフォローすることは困難であることから、保険薬局薬剤師と連携し、ICI治療中から治療終了後の長期間にわたるirAEモニタリングを実施する必要があると考えられる。また、irAEが発現した場合、多くの患者がステロイド治療、内分泌障害の場合はホルモン補充療法が開始となる。ICI治療継続のためには、服薬アドヒアランスを向上させると共に、irAEの再燃を監視することが極めて重要になる。そこで、保険薬局薬剤師のirAEマネジメントに関する知識を深め、irAE治療薬剤のアドヒアランス向上に寄与することを目標に、年4回のセミナーを開催している。
 セミナーはレクチャー(病院薬剤師、医師)と体制構築のためのディスカッションの3部構成とした。病院薬剤師によるICI基礎知識レクチャーパートはICIの全般的な知識定着を主眼に置いた内容とした。irAEを診療する専門医によるレクチャーパートでは、irAEの病態とモニタリング方法、及び治療方法に関する内容とした。さらに、ディスカッションパートでは、病院薬剤師と保険薬局薬剤師の連携体制を構築するために必要なツールや取り組みについての協議を継続し、課題の把握と実践的なツールの作成を推進している。

4. 保険薬局で活用するirAEモニタリングツール
ICIシールと副作用確認シート

 irAE MSCPでのディスカッションにおいて、保険薬局薬剤師がirAEモニタリングを実践するには、ICI投与歴のある患者を把握するためのツールと簡便にirAE出現の有無をチェックするためのツールが必要であることが明らかになった。そこで、ICI投与中・投与歴患者を判別するために、福岡市薬剤師会の協力のもと、お薬手帳に貼付する「ICIシール」を作成した(図2)。


図2: ICIシールPDF

 「ICIシール」の運用については、irAE MSPで協議をおこない、現在、irAE MSPに参加する病院薬剤師が、自施設でICI投与歴のある患者に、その有用性を説明し、お薬手帳へのシール貼付を開始している。また、薬局薬剤師が簡便にirAE出現の有無をチェックできるように、九州大学病院チームICI作成の資材を基盤として、保険薬局薬剤師が活用するための「副作用確認シート」も作成した(図3)。

 現在、2020年度の診療報酬、調剤報酬では、連携充実加算、特定薬剤管理指導加算2の推進が図られており、トレーシングレポート等を活用した情報共有体制の整備が加速している。ICIシールと副作用確認シートの活用が浸透していくことで、福岡市の保険薬局薬剤師のirAEマネジメントに対する地域連携の基盤が整いつつある。

まとめ

 近年、ICIと殺細胞性抗癌剤や分子標的治療薬との併用による、がん複合免疫療法の登場で、irAEの鑑別はさらに複雑化しており、マネジメントの質の向上が求められている。すなわち、ICI治療の有効性を担保しつつ、安全に治療を継続するためには、従来の抗腫瘍薬以上に有害事象のマネジメントが不可欠である。そこで、irAEに対応できる薬剤師をより多く育成し、より多くの地域の連携病院や保険薬局にirAEマネジメント体制を広げることが重要である。今後は、病院薬剤師と薬局薬剤師の力を結集し、irAEマネジメントの地域連携・協働の推進を継続することが課題となる。
 福岡市におけるFRENSの活動は、irAEマネジメントの地域連携モデルとして、ICIチーム医療への薬剤師参画の手本になると考えられる。

【引用文献】
  • 1) Weber JS, Dummer R, de Pril V, et al.: Patterns of onset and resolution of immune-related adverse events of special interest with ipilimumab: detailed safety analysis from a phase 3 trial in patients with advanced melanoma. Cancer. 2013; 119:1675–82.
  • 2) Haanen JBAG, Carbonnel F, Robert C, et al.: ESMO Guidelines Committee. Ann Oncol. 2018; 29 (Supplement_4):iv264-6.
  • 3) Brahmer JR, Lacchetti C, Schneider BJ, et al.: Management of Immune-Related Adverse Events in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitor Therapy: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline. J Clin Oncol. 2018; 36: 1714-68.
  • 4) Otsubo K, Nakatomi K, Furukawa R, et al.: Two cases of late-onset secondary adrenal insufficiency after discontinuation of nivolumab. Ann Oncol. 2017; 28: 3106-7.
【参考文献】
  • ・中西 洋一監修/渡邊 裕之、辻 敏和、濱田 正美、岩谷 友子編集:対応の流れと治療のポイントがわかるフローチャート抗がん薬副作用.じほう. 2020
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