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2015.2.16

腎障害に注目した抗がん剤投与のポイント

カテゴリー: 副作用対策
北海道がんセンター 薬剤科 高田 慎也 先生
海道がんセンター 薬剤科 高田 慎也 先生

 腎臓は肝臓とならび薬物代謝の中心的な役割を担う重要な臓器である。しかし、この腎臓による排泄機能は様々な原因にて障害されることが知られている。その障害は、薬物の排泄遅延へと繋がり薬物動態を左右する重要な因子である。よって、腎障害による影響の理解は、抗がん剤による治療を円滑に進める上で必須項目である。

腎障害の発生機序

I.尿細管機能障害(腎細胞への直接作用)

 抗がん剤やその代謝物による尿細管への直接的な障害として知られている。主なものにシスプラチンやイホスファミドなどがあげられる。シスプラチンを例にあげると、シスプラチンは、静脈内投与の後、2時間程度で血漿蛋白と結合するが、非結合シスプラチンは糸球体濾過を受け近位尿細管へと移行し、尿細管壊死を引き起こすことが主原因と考えられている。よって、尿中シスプラチン濃度を低くする術として水分負荷と利尿剤の使用が必要と考えられている。

II.尿細管閉塞性障害

 糸球体濾過や尿細管分泌後に、尿濃縮後に伴い薬物濃度位が上昇し、薬物の析出が起こることが知られている。その結晶化した薬物が尿細管を閉塞させることにより腎障害を引き起こすことが知られている。代表的な薬剤には、メトトレキサートが知られている。メトトレキサート投与時には、尿のアルカリ化などの輸液の調整も必要とされていることも確認しておきたい点である。

III.腫瘍崩壊症候群(TLS:Tumor Lysis Syndrome)

【腫瘍崩壊症候群の予防と注意点(TLSガイドライン)】1)
腫瘍崩壊症候群は、腫瘍細胞の急速な崩壊により、細胞内の代謝物である核酸、蛋白、リン、カルシウムなどが血中へ大量に放出されることによって引き起こされる代謝異常の総称と示されている。具体的な現象としては、①高尿酸血症に起因する尿細管閉塞を伴う急性腎不全、②高カリウム血症を伴う不整脈の誘発、③高リン血症による急性腎不全(尿細管でのリン酸カルシウムの析出)や低カルシウム血症による痙攣などの神経症状などの様々な病態が引き起こされる。

◆腫瘍崩壊症候群の危険因子(抜粋)

<腫瘍のタイプ>
●バーキットリンパ腫
●びまん性大細胞リンパ腫
●増殖能が高く治療反応性の良好な固形がん 等

<腫瘍の生体内総量>
●かさのある病態(>10cm)
●LDH上昇(>2×基準上限値)
●WBC上昇(>25,000/μL)

<腎機能>
●腎不全の既往歴、欠尿
●尿酸値:>7.5mg/dL

TLSの診断基準(2010,TLS panel consensus)2)

Laboratory TLS;下記の臨床検査値異常のうち2個以上が化学療法開始3日前から7日後までに認められる
・高尿酸血症:基準値上限を超える
・高尿酸血症:基準値上限を超える
・高リン血症:基準値上限を超える
Clinical TLS;LTLCに加えて下記のいずれかの臨床症状を伴う
・腎機能:血清クレアチニン≧1.5✕基準値上限
・不整脈、突然死
・痙攣

*国際的に統一されたTLSの定義、分類は確立していない

腎障害のハイリスク因子

●糸球体疾患
●慢性腎臓病
●水腎症の既往
●腎障害の増悪因子(NSAIDs、造影剤の併用)
●脱水 など

腎機能のモニタリング時のポイント

 腎機能の評価には、血液学的な検査、尿検査が繁用されている。その中でも、血液尿素窒素や血清クレアチニン値が腎機能を反映している。しかし、それらの値を直接使用するのではなく、具体的な抗がん剤の投与時前の用量調節に用いられる指標はクレアチニン・クリアランス値がGFR値の代用として用いられている。真のクレアチニン・クリアランス値を算出するためには蓄尿が必要であり煩雑になるため、日常的な簡易的な代替え方法として、性別、年齢、血清クレアチニン値、体重をもとにCockcroft-Gault式を用いた推定値が一般的である。ただし、この推定Ccr値を用いる上で念頭に置くべき項目として、体表面積における補正がされていない点や見かけ上血清クレアチニン値が低くなる人や高くなる人がいる点を念頭に置く必要がある。例えば、肥満患者、高齢者では実際の値と差が出ることを意識する必要がある。また、この血清クレアチニン値の測定方法の違いが注目されている。日本では酵素法を用いて求めているが、海外では未だヤッフェ法が多く使われている。このヤッフェ法で測定した血清クレアチニン値を用いてCockcroft-Gault式から算出されたクレアチニン・クリアランスは、糸球体濾過量に近似した値が得られるとされているが、酵素法の場合では、約1~2割程高値となることが問題となっている。そのため、酵素法で算出したクレアチニンを用いた場合には、計算上腎機能が良い方へ見積もってしまうため、酵素法で得られた血清クレアチニン値に補正係数として0.2を加えることによりヤッフェ法に近似したクレアチニン・クリアランスを算出することが可能になる。これで得られた補正済みのクレアチニン・クリアランスは、糸球体濾過量の代用として用いることが可能になると考えられる。

腎機能保持のための工夫

 シスプラチンは多くの固形癌の標準治療のキードラックとして用いられているが、シスプラチンの用量規制毒性に腎障害がある。この腎障害の管理が治療継続に結びつき治療強度の維持へと繋がることが期待される。シスプラチンによる腎障害は、遊離型シスプラチンが尿細管細胞内へ蓄積することが原因と考えられている。よって、遊離型シスプラチンが検出される投与後約6時間までに輸液や利尿剤を使用し腎障害の軽減を図っている。よって、Post Hydrationは、シスプラチン投与後2~3時間が重要と考えられる。しかし、それらを考慮したとしても、完全には防ぐことができないため、支持療法の更なる発展が期待されている。その話題の1つに、マグネシウムによる腎障害軽減効果があげられる。

I.マグネシウム投与による腎機能保護効果

 シスプラチン起因性の腎障害の予防効果として注目されている支持療法の1つにマグネシウムの補充療法があり、最近では、様々な報告を目にする。そのきっかけは、NCCN Order Templateに明記されたことも一因と考えられる。ここで議論されるポイントにマグネシウム量があげられる。NCCN Order Template 2012では8~24mEqとなっているが、経口マグネシウムにて対応する方法から56mEqを静脈内投与する方法まで幅広く報告されている。よって、適切な投与方法が確立していないのが現状と思われる。しかし、腎障害予防効果としては、尿中アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)量の低下が、マグネシウム補充群において非補充群に比して少なかったという報告もあり、腎障害予防効果を裏付ける報告となっている3)4)。よって、まだまだ開発の余地がある領域と考えられ、エビデンスの構築が必要と考える。

II.経口補液によるショートハイドレーションの実現化

 Tiseo等は、2007年に“short hydration”という表現を用いた治療方法を提唱した5)。この報告では、シスプラチン投与前後に合計2,000mL(500mL/hr)としている。その内訳は、Pre Hydrationにて1000mL 、シスプラチンを500mLの生理食塩水に希釈し、Post Hydrationに500mL程度の生理食塩水等を流し合計2000mLとしている。投与後2、3日目の強制的なHydrationは不要と考えられており、経口補水を行う方法も取り入れられている。例として、OS-1による経口補水を取り入れている施設報告も散見されるようになってきており、有効性が期待されている。

まとめ

 がん化学療法を施行する上で腎機能は、治療に有する抗がん剤の量を決定する重要な因子である。単純に尿量を確保する目的での大量補液は、外来治療が進んでいる昨今の状況には合わず、安全性の確保と共に患者のQOL向上を目指す治療方法が研究され実施されつつある。よって、より安全で有効な治療法の確立が望まれているため、薬剤師として治療法の確立に寄与できるよう努めていく必要がある。

【引用文献】
  • 1) 腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス, 金原出版株式会社
  • 2) Coiffire B, Altman A, Pui CH et al. Guidelines for the management of pediatric and adult tumor lysis syndrome: An evidence-based review. J Clin Oncol 2008;26:2767-78.
  • 3) Bodnar L, et al. Renal protection with magnesium subcarbonate and magnesium sulphate in patients with epithelial ovarian cancerafter cisplatin and paclitaxel chemotherapy: a randomized phase II study. Eur J Cancer 2008; 44:2608-14.
  • 4) Willox JC, et al. Effects of magnesium supplementation in testicular cancer patients receiving cis-platin:a randomized trial. Br J Cancer 1986; 54:19-23.
  • 5) Tiseo M, et al. Short hydration regimen and nephrotoxicity of intermediate to high-dose cisplatin-based chemotherapy for outpatient treatment in lung cancer and mesothelioma. Tumori 2007; 93:138-44.
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