2024.3.21

抗がん薬による味覚異常に
がん専門薬剤師はどう関わるべきか?

カテゴリー: 副作用対策
静岡県立静岡がんセンター 薬剤部 副薬剤部長 石川 寛 先生
静岡県立静岡がんセンター 薬剤部 副薬剤部長 石川 寛 先生

1.原因となる主な抗がん薬

 味覚異常を起こしやすいといわれている抗がん薬を表1に示す1)

表1 味覚異常を起こしやすい抗がん薬

2.定義・特徴・好発時期など

  • 定義:味を感じる感覚の異常
  • 特徴:味覚は、基本味に酸味・塩味・甘味・苦味・旨味の5種で区別される。しかし、味覚は個人差が大きく、年齢、性別、精神的・肉体的条件、気候風土の影響を受ける。味覚異常の種類は、味覚脱失や錯味、味覚減退、悪味症などがある。
  • 好発時期:その原因によって味覚異常の発現時期は異なるが、早ければ化学療法開始直後から発現する場合もある。多くの場合は化学療法開始後の3週間より発現し、化学療法継続中は常に味覚異常も続き、化学療法終了後(3.5ヵ月以内)に改善する。頭頸部領域(特に舌)の化学放射線療法の場合は、改善するまでさらに時間を要する(約1~2年)2)
  • 好発頻度:化学療法で56.3%、放射線治療で66.5%、化学放射線療法で76.0%の患者に味覚異常が生じ、味覚、嗜好が変わるという報告3)があり、脱毛に続いて患者を悩ませる有害事象といわれている2)。味覚異常により食事摂取が低下することで、栄養状態の悪化、QOLの低下が生じるが、致死的な症状ではないため、日常臨床で見過ごされることも多い。

3.発現機序

  • 化学療法および放射線療法は、味および嗅覚受容細胞を破壊することによって味および匂いに障害を引き起こすと考えられている。その細胞障害は、①正常な受容体細胞数の減少、②細胞構造または受容体表面の変化、③神経伝導路の異常の3つである3)。そのため、味蕾機能の低下や味覚伝導路異常、口腔内感染症や粘膜炎(口腔粘膜炎・舌炎など)、口腔内乾燥による唾液量の減少などの症状が起きる。
  • フルオロウラシル等のフッ化ピリミジン系薬剤は粘膜障害を起こしやすく味蕾の障害を引き起こす。パクリタキセルやドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチンなどは舌咽神経障害による味覚異常を引き起こす。

4.味覚異常に関するエビデンス・ガイドライン

 化学療法による味覚異常に関するエビデンスは十分ではない。Pubmedや医学中央雑誌Web Ver.5を用いて検索式から文献検索をした結果、多くの論文を得ることができる。多くの論文は味覚異常と亜鉛製剤との関連で、亜鉛製剤を補充することで味覚異常が改善したという報告である。しかし、化学療法による味覚異常に対する亜鉛製剤の有効性を示した報告は少ない。がん治療(抗がん薬、放射線等)に伴う味覚異常に対する亜鉛製剤の有効性については、2007年に化学放射線療法あるいは放射線療法のみを受ける頭頸部がん患者169名を対象に、硫酸亜鉛45mgあるいはプラセボを治療終了1ヵ月後まで投与し、味覚異常の発現率を比較した試験で、統計的に有意差なしという報告がある。そのため、味覚異常に対する亜鉛製剤の効果は限定的なものであると結論されている4)。2010年にはISOO(International Society of Oral Oncology)より悪性腫瘍の治療に伴う味覚異常に対するシステマティックレビュー1)が報告された。その結論では、がん治療(抗がん薬、放射線治療等)による味覚異常を予防または治療するための決まった方法はないと記載されている。この報告をもとに、国際的な支持療法のガイドラインであるMASCC(Multinational Association of Supportive Care in Cancer) / ISOOでは、頭頸部がん患者の味覚異常の予防に亜鉛製剤を使用しないよう推奨する(エビデンスレベルⅡ、推奨度C)となっている。また、MSKCC(Memorial Sloan Kettering Cancer Center)の基準では、亜鉛製剤はいくつかのがん治療の症状をコントロールするのに役立つかもしれないものの、エビデンスは不明5)とされており、頭頸部がん患者の他の研究では有意な効果は見られず6)、味覚異常に対する亜鉛製剤の有効性について相反する結果が記載されている4、7、8)。以上より、日常臨床では化学療法による味覚異常に対して亜鉛製剤を積極的に用いることはできない。また、他の薬剤に関しても十分なエビデンスはない。

5.味覚異常の重症度評価(表2)

表2 CTCAE v4.0(味覚異常)

6.味覚異常の評価と情報収集

  • 化学療法による有害事象の評価方法として、CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)v4.09)が広く用いられている(表2)。味覚異常に関しても記載されている。「Grade1: 味覚の変化はあるが食生活は変わらない、Grade2: 食生活の変化を伴う味覚変化; 不快な味;味の消失」と記載されているので、問診で患者の訴えを聞きGrade評価をする。しかし、化学療法中の味覚異常は複数の要因が考えられるので、CTCAE以外にも口腔内の観察、神経障害の評価、栄養状態の評価などが必要である。

7.味覚異常の原因の鑑別

  • 既往歴があり抗がん薬をやる前から味覚異常があるかどうか確認する。
  • 抗がん薬以外でも味覚異常を起こしやすい薬剤は多数あるため、原因の判別を行う必要がある1)

8.薬物療法

 薬剤性味覚異常を疑う場合、まず原因薬剤を中止する。しかし、化学療法の場合、原因薬剤を容易に中止できないので、化学療法を優先しながら口腔支持療法を行う。

<予防対策>

  • 味覚異常を予防するためには、口腔ケアが非常に重要である。患者には抗がん薬開始前から口腔内を清潔にしておくよう伝える。常に口腔内を清潔にし、湿潤環境を保つ必要がある。そのため、化学療法開始前より口腔内評価を行い、口腔ケアを行う。特に、経験的に口腔トラブルリスクが高い患者(味覚異常を起こしやすい抗がん薬や頭頸部がん・食道がん(化学放射線療法・化学療法)、強力な化学療法(好中球1000/μL以下))には、予防対策を徹底する。
  1. 口腔内の保清:常に口腔内を清潔に保つ。(歯みがき(ヘッドが小さく、毛先が柔らかめの歯ブラシ)など)
  2. 口腔内の保湿:含嗽薬(酸味のある水分(生理食塩液など))を用いて口腔内乾燥を防ぐ。また、唾液の分泌を促進することで味蕾の感受性が高まる。
  3. 口腔内の処置:口腔内を清潔に保ち、舌苔を取り除くことで、味蕾の感受性を維持する10)

<治療>

  • 予防対策を行っても症状が出現した場合は、十分なエビデンスのある治療法はないが、その症状に応じた薬物療法や栄養指導、口腔ケアを行う。
  • 治療薬および対処法
    化学療法により味覚異常とともに口腔粘膜炎、口腔内乾燥、舌炎、舌苔、口腔カンジダ症、神経障害、貧血などを併発することがある。その場合、その原因となる治療を行うと味覚異常が改善することがある。

(1)西洋薬

  • ポラプレジンクや酢酸亜鉛水和物製剤(ノベルジン®)は亜鉛が含有されているため、創傷治癒や粘膜保護作用で口腔粘膜炎に効果を示す。しかし、亜鉛欠乏による治療のエビデンスはあるが、予防のエビデンスはない11)。そのため、血清亜鉛値が低値の時のみ使用する。
  • ラフチジンは、胃酸分泌抑制や粘液増加として使用されるが、カプサイシン感受性知覚神経を介した消化管粘膜保護作用がある。その作用が臨床的に口腔粘膜炎治療として効果を示したと考えられる。予防もしくは治療に使用される。

他は、
[口腔粘膜炎] ビタミン剤や外用剤(アズレンスルホン酸ナトリウム軟膏、ジメチルイソプロピルアズレン軟膏など)、含嗽薬(アズレン製剤)など
[口腔乾燥] 去痰薬(カルボシステイン、塩酸ブロムヘキシン)1)や人工唾液(サリベート®)、シェーグレン症候群用薬(セビメリン、ピロカルピン)など
[口腔カンジダ症] アムホテリシンB、ミコナゾールなど
[疼痛] リドカイン・アズレンスルホン酸ナトリウム軟膏、アセトアミノフェン、NSAIDs、オピオイド内服、モルヒネ含嗽など
舌苔による場合は(歯みがき、含嗽、舌ブラシなど)を徹底して行い、舌苔を除去する。尚、治療においては口腔ケアと含嗽(グリセリン液+含嗽用ハチアズレ、図1)を使用する。

表2 CTCAE v4.0(味覚異常)

(2)漢方薬

味覚異常に対しての漢方薬の適応は確立されていない。漢方の診断方法では、ランダム割り付け比較や二重盲検は困難で、記述研究にならざるを得ないため評価が難しい。また、漢方薬による治療においては証の概念があり、証判断や病態把握が正確に行われないと誤った治療薬を選択することになる。そのため、味覚異常に対する漢方薬のエビデンスはなく推奨されない。しかし、著効する場合もあるため、以下に使用例を記載する12)
[味覚消失] 補中益気湯、十全大補湯
[口の苦み・口粘り] 柴朴湯、小柴胡湯加桔梗石膏
[口の苦み] 黄連解毒湯、小柴胡湯
[口腔粘膜炎] 半夏瀉心湯
[口腔乾燥症] 白虎加人参湯
[舌痛症・味覚過敏] 加味逍遙散、滋陰至宝湯
[慢性的な自発性異常味覚] 竜胆瀉肝湯、八味地黄丸、加味逍遙散
[糖尿病・加齢性] 八味地黄丸
特に半夏瀉心湯は、プロスタグランジンE2の誘導の抑制作用で口腔粘膜炎に伴う味覚異常に効果を示す。含嗽(温湯100mLで溶解して口の中に入れて飲み込む)(および患部に直接塗布する)あるいは、アイスボールにしてなめるなど様々な方法で使用する。

(3)その他の治療薬・対処法

[粘膜保護薬] スクラルファート、レバミピド、グルタミンなど

9.食事・栄養指導、栄養補助食品13)

 化学療法による味覚異常で食欲が低下し栄養状態が悪くなることもある。その場合、食事内容や環境、栄養補助食品を考える必要がある。患者に詳細な問診を行い、味覚異常の症状に応じた食事の形態や味付けの工夫を行い、経口摂取量が維持できるように対処する。

10.治療開始後の評価

  • 口腔内の保清、保湿、処置や薬物療法・対処法、食事療法を行って再評価する。
  • もし回復していれば、含嗽薬は生理食塩液、食事は徐々に普通食に変更する。
  • もし回復していなければ、一旦、抗がん薬を休薬して味覚異常の治療に専念する。
まとめ

 がん治療では、手術・化学療法・放射線治療、いずれも味覚異常の原因となる。また、がんによる全身状態の悪化や、不安・抑うつなどの心理的要因も味覚異常の原因となる。がん化学療法の有害事象である味覚異常は、化学療法の継続を困難にする要因の一つである。しかし、致死的な症状ではないため、日常臨床で見過ごされることも多い。そのため、医療者側は味覚異常を軽視しがちだが、がん治療中の味覚異常は、患者の「食の楽しみ」を喪失し、QOL(Quality of life)低下、食欲不振や食事摂取量減少による栄養状態の低下を生じ、患者の予後に影響する可能性がある。抗がん薬による味覚異常で薬剤の中止・変更は避けなければならない。がん治療を継続するためにも、味覚異常の予防・早期発見・早期治療を行い、低栄養を防ぐことが大切である。

【引用文献】
  • 1) 池田 稔・編:味覚障害診療の手引き(第4版). 金原出版株式会社, 2012
  • 2) Lindley C ,et al. Perception of chemotherapy side effects cancer versus non-cancer patients. Cancer Pract 1999 ; 7 : 59-65, 1999
  • 3) Hovan AJ : A Systematic Review of Dysgeusia Induced by Cancer Therapies Support Care Cancer. 18(8): 1081-1087, 2010.
  • 4) Halyard et al : Does zinc sulfate prevent therapy-induced taste alterations in head and neck cancer patients? Results of phase III double-blind, placebo-controlled trial from the North Central Cancer Treatment Group (N01C4). Int J Radiat Oncol Biol Phys 67(5):1318–1322, 2007.
  • 5) Yarom N et al : Systematic review of natural agents for the management of oral mucositis in cancer patients. Support Care Cancer. Jun 14 2013.
  • 6) Sangthawan D et al : A randomized double-blind, placebo-controlled trial of zinc sulfate supplementation for alleviation of radiation-induced oral mucositis and pharyngitis in head and neck cancer patients. J Med Assoc Thai.Jan 2013 ; 96(1):69-76, 2013.
  • 7) Ripamonti C et al : A randomized, controlled clinical trial to evaluate the effects of zinc sulfate on cancer patients with taste alterations caused by head and neck irradiation. Cancer. May 15 1998 ; 82(10):1938-1945, 1998.
  • 8) Najafizade N et al : Preventive effects of zinc sulfate on taste alterations in patients under irradiation for head and neck cancers : A randomized placebo-controlled trial. J Res Med Sci. Feb 2013 ; 18(2):123-126, 2013
  • 9) Japan Clinical Oncology Group (JCOG). Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE) version 4.0 有害事象共通用語基準 v4.0 日本語訳JCOG版
  • 10) Sasako M. et al. Five-Year Outcomes of a Randomized Phase III Trial Comparing Adjuvant Chemotherapy With S-1 Versus Surgery Alone in Stage II or III Gastric Cancer, J Clin Oncol, 2011; 29(33): 4387-4393, 2011
  • 11) Henkin RI et al.A double blind study of the effects of zinc sulfate on taste and smell dysfunction Am J Med Sci 1976
  • 12) 前田英美他;味覚障害の治療:日咽科,31(2):149-154、2018
  • 13) 静岡県立静岡がんセンター・編:がん患者さんと家族のための抗がん剤・放射線治療と食事のくふう. 女子栄養大学出版部, 2018
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