2024.3.21

ディスカッション

カテゴリー: 副作用対策
静岡県立総合病院 薬剤部 医療安全室 主幹薬剤師 中垣 繁 先生
静岡県立総合病院 薬剤部 医療安全室 主幹薬剤師 中垣 繁 先生

 79名の参加者が一堂に会した本シンポジウムは、既存のガイドラインで対応できない状況下での副作用対策に焦点を当てディスカッションを行われました。参加者の内訳は病院薬剤師が6割以上を占め、開局薬剤師も3割ほど参加し、他にも大学教員や看護師も参加していました。(図1を参照)

 今回のテーマの背景には、がん治療の副作用対策に関する既存のガイドラインが存在する一方で、実際の臨床現場で十分に活かし切れていないという認識より生まれました。パネルディスカッションでは、参加者に対して、抗がん剤治療時の食事に関する質問と倦怠感の対応についての質問を参加者のスマートフォンを通じて行いました。

【1】抗がん剤治療時の『生もの』の摂取について

(事例)58歳女性 乳がん術後療法(TC(ドセタキセル+シクロホスファミド)療法)の初回説明時に患者本人より以下の質問を受けました。「インターネットで抗がん剤治療を行っている時は『生もの』の摂取を避けるように書いてあったのですが、本当ですか?」と尋ねられました。

Q1 抗がん剤治療時の『生もの』摂取について、施設内の基準などありますか?

 抗がん剤の薬剤支援を行っていると『生もの』の摂取については、最も多い質問の一つと考えられますが、多くの施設で基準が設定されていなく、対応する薬剤師に判断を委ねられている現状が見受けられました。(図2)

 3人のシンポジストの方からの意見でも、院内における明確な基準は設定されていない現状や患者の状態(骨髄機能の回復具合・消化器症状の有無)や抗がん剤の種類によって、判断するとの意見がありました。
 そこでこの具体的な事例に関する質問を行いました。

Q2 『事例』において、このような質問が来た時に院内の基準もしくは各自の判断にてどのような返答を行いますか?

Q3 事例において、『生もの』を避ける期間についてどのように返答しますか?

 全ての『生もの』を避けることを推奨した意見は少数でしたが、一部の食品のみ制限を設けて生野菜・果物および新鮮な食品を許容する意見が多かった。また、避ける食品は特に設けないとの意見もありました。その他としては、生卵や自分で釣った魚は避けるなどの意見がありました。
『生もの』を避ける期間についても、治療期間全てと回答された方は少なく、多くの方が白血球が下がりやすい時期や体調の悪い時以外は許容するように説明している現状がうかがえました。

 このような意見が分かれる背景としては、急性骨髄性白血病患者の治療期間中に生の果物や野菜を避けるべき群と許容する群と比較し感染症の発症率に有意差がなかった研究(J Clin Oncol 26:5684-5688)があることや今回の事例のように術後療法で比較的骨髄機能の回復が速やかな事が想定できる場合にQOLを低下させるような食事制限はすべきでないという考えから意見が分かれたと推測されます。

【2】倦怠感について

 倦怠感は化学療法や放射線療法を受けた患者の80%がこの症状に直面すると言われています。しかし、これに対する明確なガイドラインや確立された対処法は存在しておらず、実際に参加者がどのように対応しているかを質問してみました。
 参加者の87.3%の方が抗がん剤による倦怠感の対応について苦慮しており、約6割の方が倦怠感の評価(程度や原因)や抗がん剤の減量や中止の提案に関する事でした。特に薬物療法の提案について悩んでいることが最も多く、69.6%の参加者から示されました。
 次に実際に倦怠感に対して処方提案した薬剤について質問を行いました。

Q4 倦怠感に対する薬物治療で処方提案した経験がある薬剤は?(複数回答可)

 NCCNなどの海外ガイドラインに記載されているステロイドより補中益気湯などの漢方薬を提案する方が多く見受けられました。これは、ステロイドの長期使用に対する懸念や日常の診療で頻繁に使用される漢方薬に好意的な評価が示されたと思われます。また、中枢刺激薬であるモダフィニルに関してはがん治療に伴う倦怠感に対して、適応が承認されていない現状より提案される機会が限られているようです。
 今回は時間の都合上、非薬理学的な介入であるヨガや運動療法・リラクゼーションまた本人・家族への教育方法などには議論することが出来なかったですが、これらの重要な側面については、次回の機会に触れていきたいと考えています。

まとめ

 本コラムでは、ガイドラインのない抗がん剤治療の副作用である、「皮膚障害」、「味覚障害」、「流涙」について、3名のがん専門薬剤師から、エビデンスに基づいたそれぞれのマネジメントについて紹介していただいた。いずれも薬剤師として症状を多角的に観察し、アセスメントされている。また様々な職種と積極的かつ綿密な連携を図っている。チーム医療の中で薬剤師は、ガイドラインのない副作用マネジメントにも積極的に関わり、がん薬物療法の向上に寄与できる。

本コラム内で記載されている適応外使用の情報に関しては、東和薬品として推奨しているものではございません。

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