抗がん剤の血管外漏出への対応
~ガイドライン改訂のトピックス~
血管外漏出は、静脈内に投与されるべき薬剤が血管外に漏れ出ることによる皮膚障害である。症状に は、周辺組織にまたがる発赤、腫脹、疼痛、灼熱感、びらん、水疱の他、後述する壊死起因性薬剤の漏出では、組織の壊死・潰瘍を生じる。臨床的に漏出が起きる頻度は高くないものの、これが生じたときの患者へのデメリットは非常に大きい。従って、日頃から血管外漏出の予防、治療のノウハウを熟知しておく必要がある。
2022年12月に日本がん看護学会、日本臨床腫瘍学会、 日本臨床腫瘍薬学会の3学会合同による「がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン2023年版」(以下、ガイドライン)が改訂されている。今回、その一部トピックスを紹介したい。
薬剤による漏出の影響度分類
血管外漏出の影響度は、漏れ出た薬剤の組織障害性が大きく関連する。障害性の強いものから壊死起因性(vesicants)、炎症性(irritants)、非壊死性(non-vesicants)の3段階に分類される(表1)。海外においては、壊死起因性抗がん剤の薬理作用からDNA結合型とDNA非結合型の2つ分けるものもある。アントラサイクリン系抗がん剤のように組織のDNAに結合する抗がん剤は、組織内で代謝されず、持続的な組織破壊を引き起こすため、影響が持続的かつ甚大であるとされる。
表1. 漏出影響度による薬剤分類
壊死起因性抗がん剤 (vesicants) |
炎症性抗がん剤 (irritants) |
非壊死性薬剤 (non-vesicants) |
血管外に漏出した場合に,水疱や潰瘍,糜爛(びらん)をもたらす可能性がある薬剤である。また,組織傷害や組織壊死のようなEV の重度な副作用が生じる可能性がある。 | 注射部位やその周囲,血管に沿って痛みや炎症が生じる可能性がある薬剤である。多量の薬剤が血管外に漏出した場合には潰瘍をもたらす可能性もある。 | 薬剤が血管外に漏出したときに,組織が傷害を受けたり破壊されたりすることはない(可能性は非常に低い)といわれる薬剤である。 |
血管外漏出の対処には、漏れた薬剤がどの影響度に該当するかにより、治療戦略は変わるので、分類は、施設毎のマニュアルやレジメン管理上把握して欲しい情報である(表2)
表2. 薬剤分類表
壊死起因性抗がん剤 (vesicants) |
炎症性抗がん剤 (irritants) |
非壊死性薬剤 (non-vesicants) |
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*1:アントラサイクリン系抗がん薬と併用した場合、壊死起因性抗がん剤になりうる
*2:漏出が長時間・大量になった場合、壊死起因性抗がん剤になりうる
ただし、分類は絶対の安全性を保証するものではなく、あくまで目安と考えるのが妥当である。例えば、炎症性抗がん剤であっても大量であったり、発見が遅れると壊死に至る例がある。逆に、壊死起因性抗がん剤であっても早期に対処すれば壊死を防げる可能性もある。さらに、点滴時間の長さ、希釈濃度の影響、他剤併用の影響など臨床での状況が障害性を左右する。
漏出時の治療 ステロイド局注 vs ステロイド外用
ステロイド局注は、漏出時の対処として古くから教科書に掲載されている対処法である。しかし、炎症を生じている皮膚に注射針を刺すこと自体が炎症を惹起する可能性があり、施行を躊躇する施設も多いのではないであろうか。山田らは、壊死起因性抗がん剤漏出時の重症度スコアと治療期間をステロイド局所注射群と非局所注射群で比較している。ステロイド局所注射群は、重症度スコアが高く、治療期間も5倍弱延長すると報告した1)。さらに、Ohisaらは、ステロイド外用剤、局所麻酔剤、ステロイド皮下投与を使用した群とステロイド外用剤のみの群で比較した結果、ステロイド皮下注射併用群は、皮膚潰瘍に対する手術発生率が高いことを報告している2)。以上より、ガイドラインでは、漏出時の局所注射を「行わないよう弱く推奨」し、ステロイド外用を「行うよう弱く推奨」している。ただし、ステロイドのランクや塗布量、塗布期間などの用法用量は明確にされていない。
漏出時の治療 温罨法 vs 冷罨法
血管の拡張による静脈炎予防などで温罨法が広く行われている。漏出時にも、ビンカアルカロイドとエトポシドのみは、温めることがよいとされてきた。漏出に対する温罨法は、血管拡張と血流増加により薬剤の吸収を促し、潰瘍を抑制することが期待されてきた。しかし、ガイドラインによるエビデンスレビューでは、ヒトでの有効性に関する根拠は乏しく、動物実験での結果では、温罨法により潰瘍形成の促進が示唆されている。一方、冷罨法は、局所炎症反応の抑制や血管収縮による薬剤の局在化が潰瘍の拡大を抑制すると考えられてきた。温罨法同様に豊富にエビデンスがあるわけではないが、冷罨法をステロイド外用などと組み合わせることにより、疼痛の軽減や炎症の減少といった効果があることが示されている。以上より、漏出時には、温罨法より冷罨法を行うことが弱いながら推奨されている。ただし、オキサリプラチンなど冷感過敏を誘発する薬剤での実証は、患者の訴えなど聞きながら慎重に行う必要がある。
ホスアプレピタントは、血管外漏出を増やすか
NK1受容体拮抗剤であるホスアプレピタントの制吐効果は、高度催吐性抗がん剤投与時には必要不可欠な薬理効果であるが、薬剤による血管炎・血管痛・注射部位反応の増加が懸念されている。Fujiiらは、ホスアプレピタントは、経口剤であるアプレピタントに比べ、注射部位反応が4倍近く多く、特にアントラサイクリンベースのレジメンでリスクが高いことを示した3)。ガイドラインのレビューでは、注射部位反応の増加を起こすホスアプレピタントが血管外漏出まで増やすかという根拠は不明としながらも、その使用はアプレピタントの内服困難症例などに限定し、注射部位反応に注意しながら使用することを推奨している。これらの事実が、注射部位反応が少ないとされるホスネツピタントでは、回避できるかは、今後のFuture Questionであろう。
今回のコラムでは、血管外漏出に関わるケアのうち、日頃臨床で迷うステロイド局注と外用、温罨法と冷罨法の違い、ホスアプレピタントの注射部位反応をとりあげた。また、新たに漏出時の障害性が分類されており、一覧で示した。血管外漏出に関する詳細な情報は、「副作用とその対策」(https://navi.towa-oncology.jp/sideeffect/index.html)にアップデートしているので参照頂きたい。
- 1) 山田 みつぎ, 鎌形 幸子, 石渡 麻衣子.がん化学療法における血管外漏出時のステロイド局所注射の有効性に関する検討.日本がん看護学会誌. 30巻. 2016
- 2) Ohisa K, et al.: Association between subcutaneous steroid injection for extravasation of vesicant anticancer drugs and skin ulcers requiring surgery. Eur J Oncol Nurs. 2022; 58: 102119
- 3) Fujii T, et al.: Differential impact of fosaprepitant on infusion site adverse events between cisplatin- and anthracycline-based chemotherapy regimens. Anticancer Res. 2015; 35(1): 379-83.