看護師の視点による抗がん剤血管外漏出の予防と対応のポイント

血管外漏出は、外科的処置が必要となることがあり、QOL、治療意欲にも悪影響を及ぼすことから、その予防は重要である。壊死起因性抗がん薬の血管外漏出の発生頻度は、1.0~6.5%1)、中心静脈(CV)カテーテルを介した漏出の発生頻度は0.4~4.7%と報告2)されており、少ないながら経験する患者が存在する。従って、漏出は、予防のみならず、早期発見と初期対応が重要となる。
予防①:太く弾力がある静脈に穿刺し、針先の血管内留置を確認する
予防方法として、血管選択が重要であり、ポイントは次の通りである。
穿刺する血管は、なるべく太く弾力がある静脈を選択し、穿刺針の固定が容易な部位に穿刺する。
●次の血管は避けた方がよい
1. 直近(目安として24時間以内)の穿刺歴がある血管
2. 抗がん薬の繰り返し投与により硬化しているなどの脆弱な血管
3. 利き手側の血管
4. 関節部位など留置針が不安定となる部位
穿刺後は血液の逆流や生理食塩液を注入して、漏出がないことを確認する。
同側同部位の血管を連続で使用することは、血管が脆弱化し、血管外漏出のリスクが高まるため、可能であれば穿刺側を交互に利用することが望ましい。
治療の目的や治療回数、投与する抗がん薬の特徴(組織障害性の分類や血管刺激性)、投与速度、投与時間などを考慮して、穿刺する血管を選択することが重要である。
よくある質問 臨床現場でよく遭遇する場面と対応
<太い血管を触知または視認できない>
腕を温めると血管が拡張して、血管が確保できる場合がある。ホットパック(温罨)で5~10分程度温めて、穿刺が可能か確認する。著者等の施設では、600Wの電子レンジで40秒間温めたホットパックを用いて、タオルで包んで使用する。また、静脈可視化装置*1を用いて、血管を確認する場合もある。患者には駆血時に掌握運動を5回程度行ってもらったり、穿刺前に温かい飲み物を摂取してもらうことも良い。
<穿刺に失敗した>
穿刺に失敗した血管は血管外漏出のリスクが高いため、その日の投与には使用せず、別の血管を穿刺する。穿刺側が限られており、血管確保に適する血管が他にない場合、穿刺に失敗した部位より中枢側から穿刺することが良いであろう。また、同じ看護師が穿刺を2回失敗した時は、より技術のある看護師に穿刺を代わってもらうようにし、患者の穿刺の苦痛軽減や穿刺する看護師の心理的負担軽減を図るチームワークも大切である。
<腋窩リンパ節郭清を受けた患者>
腋窩リンパ節郭清を受けた側はリンパ浮腫が起こりやすく、血管外漏出のリスクとなる。リンパ節郭清を行っていない側の腕の血管を選択するようにする。穿刺しやすい血管が少ない患者の場合、採血は手背でしてもらうように患者に説明をし、血管の選択肢を残しておくことも良い。
<過去に血管外漏出を起こした血管がある>
血管外漏出を起こした部位にリコール現象(抗がん薬の血管外漏出によって組織障害が出現し、症状が軽快しても、その後同一の抗がん薬を投与することで同部位に症状が再燃する)が出現する可能性がある。血管外漏出を起こした時に使用した抗がん薬の投与では、血管外漏出を起こした血管から穿刺しないことが原則である。
*1:静脈可視化装置とは、赤外光と可視光により「静脈」を「可視化」する医療機器で、可視化された静脈をディスプレイに映し出すものや、皮膚の上に直接投影して目視できる
予防②:投与ルートとして中心静脈投与を検討する
抗がん薬の投与ルートとしては末梢静脈投与と中心静脈投与があり、中心静脈投与にはCVカテーテル、CVポートに加えて、PICC(末梢静脈挿入型中心静脈カテーテル)が普及してきている。(図1)中心静脈の血管は太く、血流量が豊富であり、繰り返しの穿刺による血管の脆弱化もないため、末梢静脈投与と比較して血管外漏出のリスクが低い。一方で、CVカテーテル、CVポート挿入時の気胸・血胸などの重篤な合併症リスクが課題となるが、PICCではこれらのリスクも低いとされている。各投与デバイスの特徴を下表にまとめるが、静脈確保が困難な場合にはこれらの中心静脈投与を積極的に検討することも血管外漏出対策の1つとなる。
図1

「がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン 2023年版 第3版」では、投与ルートに関する推奨が示されており、繰り返しがん薬物療法薬の投与を予定する患者に対して中心静脈投与が弱く推奨されている。ただし、具体的な適応基準や末梢静脈投与を行っている患者が中心静脈投与に移行するタイミングについては明確ではない。中心静脈投与で推奨されるデバイスについては、デバイス抜去や合併症のリスクからCVカテーテルよりPICCを、固形がん患者においてはCVカテーテルやPICCよりCVポートが推奨されている。
末梢静脈 | CVカテーテル | PICC | CVポート | |
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デバイス failure |
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特徴 |
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予防③:頻回に末梢静脈カテーテル交換を行う必要はない
これまで24時間以上留置した末梢静脈カテーテルは交換すべきとされていたが、前述のガイドラインでは、定期的な入れ替えによる血管外漏出予防の根拠が弱いことなどから「定期的な入れ替えを行わない」ことが弱く推奨されている。末梢静脈カテーテル交換は患者の苦痛を伴うことからも、現在ではできるだけカテーテル交換は控えた方がよいと考えられる。ただし、長期間の留置にも限度があり、感染防止の観点からは約96時間毎の交換が妥当である。
早期発見:医療者と患者自身で穿入部を観察する
<医療者の観察>
穿入部は、観察しやすいように透明のドレッシング材で覆い、定期的に観察する。観察の間隔は、15~30分のことが多い。観察時は、医療者による血管外漏出の徴候(発赤・腫脹・硬結の有無、血液逆流の有無、点滴滴下速度の低下や滴下の停止の有無)の有無の確認のみならず、患者の主観的情報(疼痛、掻痒、熱感、違和感など)とから総合的に判断すべきである。先の観察間隔とは別に、抗がん薬を交換する時や患者がトイレ移動などで動いた後も、随時血管外漏出の徴候を確認すべきである。
<患者指導>
医療者の定期観察による早期発見には限界がある。患者自身に血管外漏出に気づいてもらうことも早期発見に重要であり、血管外漏出について患者の理解と協力を得る。これには、患者には血管外漏出の徴候についても説明し、抗がん薬投与中に異常を感じる場合は我慢せず、看護師に伝えるよう、患者指導を行う。また、抗がん薬投与中の患者の動き方、例えば、血管確保前にトイレを済ませておき、点滴中のトイレ移動の回数を減らすとよいこと、トイレ移動時の点滴台の操作は点滴が穿刺側と逆の腕を使うことなど、協力を仰ぐことも大切である。抗がん薬投与に関わる看護師は、壊死起因性抗がん薬投与中はできるだけ安静に保てるような投与環境の調整を話し合っておくことも大切である。具体的には、壊死起因性抗がん薬投与前中の安静が図れるとよいことを患者に伝え、どれくらいの時間で安静を保てるとよいかを説明しておく。また、患者の排泄パターンや食事などの活動状況を確認し投与前に必要な活動を行ってもらってから投与を開始する。多くの場合、治療開始前に血管外漏出に関する説明がなされているが、血管外漏出以外の情報も同時に説明するため、1度の説明では患者が十分に理解できていない可能性がある。また、血管外漏出は、投与中・投与直後だけでなく数時間~数日後、つまり外来化学療法では帰宅後に臨床症状があらわれることもある。そのため、患者があとで振り返られるように下記(図2)のようなパンフレットや小冊子を使用した説明や、投与終了後に再度簡潔に説明して理解を確認しておくことが必要である。
図2

漏出時の初期対応
漏出時の初期対応例を以下に示す(図3)。施設毎の使える医療資源と対応を記載した対応マニュアルを作成し、初期対応を標準化し、スタッフと共有することが重要である。
漏出が起きた時は、次の情報をカルテ(図4)に記録し、漏出部位をマーキングする。マーキングの範囲は、発赤を伴わない腫脹の場合、腫脹している部位に行う。マーキングは症状が出現している範囲を示しているので、あえて大きくマーキングをしなくてよい。実際の皮膚状態の写真撮影を行い、併せて記録に残すとよい。
図3

図4

フローチャートの対応のポイント
- 漏出を認めたときは、速やかに点滴を中止し、医師へ報告する。漏出が起きた時の報告先医療者(当日の主治医など)を確認しておく。
- 薬液を数ml(2~5mL)吸引しながらラインを抜去し、漏出部位にマーキングをする。
- 投与薬剤の種類の確認、漏出確認時刻、漏出推定量、漏出部位などを記録する。漏出部位の写真も併せて記録に残すとよい。
- 壊死起因性抗がん薬、炎症性抗がん薬の場合は、速やかに上記報告先医療者に報告し、対応を仰ぐ。
- 非壊死起因性抗がん薬であれば経過観察する。
- 患者には状況をよく説明し、漏出直後だけでなく、数日後でも症状が悪化する可能性を伝え、その際の対応について説明しておく。
- 皮膚症状が悪化した場合は、皮膚科(または形成外科)にコンサルテーションを行う。
ステロイド局所注射については、前述のガイドライン 2023年版では、ステロイド局所注射による益と害を総合的に判断して、「ステロイド局所注射を行わない」ことが弱く推奨されている。その代替として、ステロイド外用剤の塗布が推奨されているが、そのステロイドランクや塗布期間、ドレッシングの有無は標準化されていない。壊死起因性抗がん薬による血管外漏出時の薬剤投与については、ガイドラインを参考に、各施設での対応を検討しておくことが重要である。
おわりに
血管外漏出について、ポイントを絞って解説した。患者の高齢化により血管外漏出リスクを有する患者は増えており、対策の重要性は増している。医療者はマニュアルによる標準化を図るとともに、患者にも理解と協力を得ることが大切である。また、血管外漏出リスクが高い患者には、多職種で対応を検討する必要がある。血管外漏出の予防・管理は、患者を含めた治療に関わるすべての人の協力が不可欠である。
- 1) Dorr RT.: Antidotes to vesicant chemotherapy extravasations. Blood Rev. 1990; 4(1): 41-60.
- 2) Cassagnol M, McBride A.: Management of Chemotherapy Extravasations. US Pharm. 2009; 34(9)(Oncology suppl): 3-11.
- 1) 森文子:安全確実安楽ながん化学療法ナーシングマニュアル. 医学書院. 2009
- 2) 福島亮治:血管ルートの取り方.外科治療.2009; 101(3):264-72.
- 3) 淺野耕太:末梢静脈穿刺×血管外漏出予防.がん看護.2023; 28(5):405-9.
- 4) 朝鍋美保子:CVポート×トラブルシューティング.がん看護. 2023; 28(5):415-9.
- 5) 大内紗也子:PICC×安全な取り扱い.がん看護.2023; 28(5):420-3.
- 6) 日本がん看護学会 日本臨床腫瘍学会 日本臨床腫瘍薬学会 編:がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン 2023年版 第3版.金原出版株式会社. 2022
