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2022.2.25

抗がん薬調製時の残薬廃棄問題
〜付加価値をつけたジェネリック医薬品への期待〜

カテゴリー: 薬剤選定
大垣市民病院 医療安全管理部 医療安全管理課 課長 
宇佐美 英績 先生
市大垣市民病院 医療安全管理部 医療安全管理課 課長 宇佐美 英績 先生

日本における医療費の高騰化

 日本における医療費は、高齢化による患者増、医療技術の進歩や新規医薬品の登場により、10年前の平成22年度における36.6兆円に対し、令和2年度には42.2兆円に上り、実に15.5%の増加となっている。厚生労働省は患者負担の軽減や医療保険財政の改善を目的とし、平成25年4月「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を策定し、令和2年度末で後発医薬品の使用割合(数量ベース)は、82.1%と増加した。しかし、新規の高額薬剤は次々に登場し、今後も医療費の高騰化が予測される。

抗がん薬の進化と落とし穴

 近年抗がん薬は、分子標的薬あるいは免疫チェックポイント阻害薬の開発が進み、劇的に進化し、高い治療効果が得られている。しかし、これまでの抗がん薬では見られなかった副作用の出現、薬剤費の高騰化など様々な課題が山積される。また、抗がん薬は、抗腫瘍効果と有害事象が現れる用量の差(治療域)が一般薬と比べて非常に狭い。他の医薬品と異なり、患者の身長と体重から適切な投与量が算出される。そのため、調製時には残薬が生じ、高額な抗がん薬でも廃棄され、経済的損失が生じている。

臨床現場から生まれたClinical Question

 高額な抗がん薬の残薬を見て「もったいない」と感じる薬剤師は多いのではないか。調製時の廃棄を減らす1つの方法として、drug vial optimization(以下、DVO)がある1)。DVOとは複数患者でバイアル製剤を分割使用し、廃棄薬剤を減らす取り組みである。厚生労働省よりDVOに関する手引き2)が発出されたものの、日本の医療保険制度では、バイアル内の一部の薬剤を使用し、その残薬を廃棄した場合でも全量を使用したとして切り上げ請求が認められている。そのため、DVOが浸透していないのが現状である。2016年、当施設では「もったいない」から生まれたClinical Questionを臨床研究として行った3)。2012年1月〜2014年12月の3年間、大垣市民病院で投与された高額な分子標的薬の廃棄金額を算出した。ベバシズマブ、ボルテゾミブなど単施設における1年間あたりの廃棄金額は、実に1,500万円を超える高額であった(表1)。

表1 単施設における1年間あたりの廃棄金額

 さらに、廃棄金額と廃棄率が高いボルテゾミブに着目した4)。がん診療連携拠点病院2施設における3年間のボルテゾミブ廃棄金額は1億5,000万円を超え、廃棄率が42.6%と高かった(表2)。

表2 2施設3年間におけるボルテゾミブ廃棄金額と廃棄率

医療資源有効利用の提案 〜ボルテゾミブ「もったいない」軽減への工夫〜

 ボルテゾミブの廃棄率が高いため、がん診療連携拠点病院2施設における1回投与量の分布を調査した(表3)。ボルテゾミブは3mg/バイアルのみであるが、平均1回投与量は1.72mg/回であり、2mg以下の患者が88.2%を占めていた。日本人の体格、末梢神経障害などの副作用による投与量減量から2mgを超えて投与される患者が少ないと考えられた。

表3 2施設3年間におけるボルテゾミブ投与量分布

 廃棄金額が高額であったベバシズマブ、リツキシマブ、あるいはトラスツズマブは、小容量規格を含む2規格の製品が存在する。しかし、ボルテゾミブは3mg/バイアル一規格のみの製品であった。日本では1回の使用量が少ないため、3mg/バイアルと大容量規格の必要性は低く、小容量規格が存在した場合の廃棄率軽減と削減可能な薬剤費についてシミュレーションを行った(表4)。2mg/バイアル規格が存在すれば、廃棄率は42.6%から13.2%へと大幅に軽減され、3年間で約1億1,000万円の薬剤費が削減可能と試算された。
 新規容量規格の提案は、ボルテゾミブ以外でも数多く報告され5〜8)、薬剤費の経済的損失削減に向けて取り組むべき課題と考える。

表4 2施設3年間における小容量規格製品を仮定した場合の試算

付加価値をつけたボルテゾミブジェネリック医薬品(GE)への期待

 ボルテゾミブは、2006年12月新規抗がん薬として登場し、多発性骨髄腫治療のキードラッグとなっている。発売当初は、単剤使用のみの適応であったが、現在は多剤併用療法が認められ使用頻度は高い。2021年12月ボルテゾミブGEが薬価基準に収載され、今後、製造販売が待たれる。薬価は先発品の134,923円に対し、46,350円(先発品の約34.4%)と医療費が大幅に抑制される。さらに、これまで先発医薬品にはなかった小容量規格である2mg/バイアルも31,876円(先発品3mg/バイアルの約23.6%)と安価で発売される。ボルテゾミブ3mg/バイアルGEへの切り替えによる医療費削減のみではなく、小容量規格2mg/バイアルが新規に誕生することで調製時の残薬廃棄率が大幅に軽減される。

まとめ

 「もったいない」から生まれたClinical Questionが、小容量規格製品設計の工夫へと結びつき、先発医薬品にはない付加価値をつけたGEへの期待は大きい。今や「もったいない」は、「MOTTAINAI」と世界の環境問題活動の共通語にもなっている。薬剤師からの情報発信が、日本の医療費削減の一助となることを期待する。

【引用文献】
  • 1) 岩本 隆: 抗がん剤のDrug Vial Optimization (DVO). 癌と化学療法. 2017;44(5):353-6.
  • 2) 厚生労働省: 医政局総務課医療安全推進室、 医薬・生活 衛生局医薬安全対策課事務連絡「注射用抗がん剤等の安全な複数回使用の要点」(2018年6月22日). https://www.jshp.or.jp/cont/18/0625-5.pdf (2022 年1月4日参照)
  • 3) 宇佐美英績他: 分子標的治療薬調製時の薬剤廃棄による経済的損失と経費削減に向けたシミュレーション. 癌と化学療法. 2016;43(6):743-7.
  • 4) 福岡智宏他: ボルテゾミブの残薬破棄による経済的損失と分割調製による薬剤費削減効果の検討. 日本病院薬剤師会雑誌. 2016;52(3):297-300.
  • 5) 山村 翔他: 注射用抗がん剤の残液廃棄に関する調査と小容量規格製品の追加による薬剤費削減効果の検討. 日本病院薬剤師会雑誌. 2017;53(10):1240-6.
  • 6) 中村暢彦他: 抗がん薬における注射バイアル規格の妥当性評価手法の検討.日本病院薬剤師会雑誌. 2017;53(11):1389-95.
  • 7) 中井將人他: アルブミン懸濁型パクリタキセルの投与量を考慮した新規製剤規格の必要性の検討.日本病院薬剤師会雑誌. 2018;54(12):1524-7.
  • 8) 菊池 健他: アザシチジン製剤の新規製剤規格の必要性および廃棄量削減効果に及ぼす影響.日本病院薬剤師会雑誌. 2021;57(7):765-70.
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