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2017.2.15

治療完遂に向けた静岡県立総合病院の取り組み
− 化学療法版お薬手帳「かけはし」を活用して −

カテゴリー: 患者支援
地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立総合病院
薬剤部 部長代理
がん診療部 化学療法センター 副センター長 木村 緑 先生
地方独立行政法人 広島市立病院機構 広島市立安佐市民病院 薬剤部 部長 柳田祐子先生

 静岡県立総合病院は40床の外来化学療法センターを有し、毎日40~120人の患者の外来通院化学療法を支えています。外来通院治療は、ご自身の体調に応じて社会生活を続けられるメリットがある一方で、2週毎や3週毎といった患者の治療周期に応じた外来受診日以外は、医療従事者への相談の機会が少なくなります。少ない接点を最大限活かし、患者が不安なく治療完遂できるよう、医療従事者は配慮しなければなりません。

【「かけはし」作成】

 薬剤部では「化学療法版お薬手帳:かけはし」を作成し、活用しております。その目的は、患者が自主的にご自身の状況を評価できるようになることと、主治医や看護師、薬剤師など患者にかかわる医療従事者が客観的に副作用発現状況を把握し、患者の支援につなげることです。
 手帳の前半には、治療日以降の毎日の副作用症状とレスキュー薬の服用状況を記録し、後半には、実施レジメン名称と投与薬剤の名称/用量を印刷したシールを貼付するとともに当日の臨床検査値を残し、誰にでも現在の状態がわかるように工夫をしてあります。

【薬剤師の患者介入】

 化学療法センターでは、毎朝9時10分、看護師(10名余)・薬剤師・臨床心理士・管理栄養士がテーブルを囲み、当日の予約患者リスト一覧を見ながら、その日に介入する患者の確認を行います。
 薬剤師が介入するのは、①治療初回の方 ②病棟で治療を開始し、センターでの治療が初回の方 ③治療2回目の方 ④治療2回目の介入時に問題点が見つかり、継続介入の必要な方 ⑤レジメン変更後初回治療の方 ⑥レジメン変更後2回目治療の方 ⑦疼痛緩和目的のオピオイドなど、化学療法以外の部分で薬剤師の介入を必要とする方 などです。
 薬剤師以外の職種も同日に同一患者に介入する場合は、患者の負担が最も軽く、かつ効果的で効率的な介入順序を決めます。当センターでは看護師⇒薬剤師⇒管理栄養士⇒臨床心理士 が一般的な順序となっています。

【「かけはし」の役割】

 治療完遂のためには、副作用軽減が欠かせません。薬剤師はレジメン登録に当たり、添付文書や各種ガイドラインを参考に、考えうる副作用対策を組み込みます。しかし、副作用発現には個人差が大きく、現状では事前の推測は困難です。そこで、初回投与後の諸症状をどれだけ正しく医療従事者が聴き出せるかが、治療継続における重要な鍵となります。
 初回化学療法開始時、入院、外来どちらでも、薬剤師が患者に「かけはし」を提供し、その活用法とメリットを説明し、使い方を指導しています。レジメン毎にメーカーが作成した治療日誌もありますが、「かけはし」はレジメン変更があっても継続使用できるため、レジメン変更前後の変化にも患者自身が気づきやすく、治療への理解が深まります。変更前のレジメンによる末梢神経障害が、レジメン変更後も長く患者を悩ませることも多く、治療歴の長い患者にとって、継続的な評価は極めて重要です。

【薬剤師による2回目介入の重要性】

 薬剤師による患者への介入は、特に2回目の介入が大変重要であると考えています。
 治療日以降の日々の記録を残した「かけはし」を患者と確認しながら、医療従事者は患者に発現した症状と、その際のレスキュー薬使用状況を聴き取ることができ、主治医も看護師も薬剤師も、情報を共有できます。症状発現とレスキュー薬使用のタイミングに問題がないのか、効果は出ているのかを評価し、必要な場合は、支持療法強化やレスキュー薬変更、レスキュー薬の処方数量の調整を行っていきます。主治医が拾うことのできなかった部分に薬剤師が気づき処方提案する機会は多く、患者の助けになっています。
 現在化学療法センターでは、点滴治療単独レジメンと、自宅でのキードラッグの併用(経口抗がん剤など)を必要とするレジメンがあります。薬剤師による2回目介入時、患者の自宅での内服に不安があると判断した場合は、主治医にレジメン変更を提案します。患者自身が使用に対し消極的な場合、自宅での内服は自己中止するリスクが高いからです。独居の中高年男性においては、しばしば副作用対策の薬剤使用や内服抗がん剤継続にも問題が発生するケースが多いため、注意深く評価したうえで外来通院治療が完結するレジメンを医師に提案しています。
 薬剤師の提案に対する医師の受諾率は90%以上となっており、患者の治療完遂率向上に寄与しています。一方、患者も薬剤師と共に「かけはし」の記録を振り返ることで、ご自身の症状や対応への理解が深まり、さらに上手に「かけはし」を活用できるようになっていきます。

【医療従事者間の「かけはし」に】

 「かけはし」という名前は、この小さな手帳が患者と医療従事者を繋ぐ「かけはし」になってほしい、という私たちの願いから名づけました。院内スタッフのみならず開業医や調剤薬局など、患者を支援する多くの医療従事者に、この「かけはし」は沢山の患者情報を共有することができます。
 院外処方せん発行率が90%以上の静岡県立総合病院では、併用される経口抗がん剤や医療用麻薬もほぼ院外処方となります。処方せんをやり取りする窓口で患者の指導にあたる薬局の薬剤師が、「かけはし」を通じて治療内容や副作用状況を知り、より細やかな指導をしていただくことができれば、治療完遂に向けた大きな支援になることでしょう。
 ある患者は、受診のたびに頑張って書き込んだ「かけはし」のページを主治医に見てもらい、「頑張っていますね」と言ってもらうのが励みですとおっしゃいます。これからも「かけはし」を活用し、患者の抗がん剤治療支援を続けてまいりたいと思います。

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