HOME > エキスパートコラム > チーム医療 > 横断的知識集約を実現する体制づくり − 患者さんの思いを叶えるより良いがん治療のために −
2016.1.8

横断的知識集約を実現する体制づくり
− 患者さんの思いを叶えるより良いがん治療のために −

カテゴリー: チーム医療
地方独立行政法人 広島市立病院機構
広島市立安佐市民病院 薬剤部 部長 柳田 祐子 先生
地方独立行政法人 広島市立病院機構 広島市立安佐市民病院 薬剤部 部長 柳田祐子先生

 安佐市民病院の臓器横断的キャンサーボードとは、がんの種類・進行度・合併症などの身体的特徴に加えて患者の意思を総合的に検討し、エビデンスに基づいた有効性の高い、最適な治療方針を提示していくことを目標に、多職種で行う「より包括的な診断治療の検討会」である。
当院では、医師以外でも症例提示できる運用を構築し、1週間に1回開催しており、リアルタイムの検討がスピーディーにできている。

キャンサーボードメンバー

 腫瘍内科・外科・内科・放射線科・病理科・産婦人科など各専門領域の医師、がん専門薬剤師、がん化学療法看護認定看護師、緩和ケア認定看護師、栄養士、歯科衛生士、臨床検査技師、ソーシャルワーカーなどの多職種で構成されている。

図1)キャンサーボードメンバー

キャンサーボードの体制づくり

 2009年に臓器横断的キャンサーボードを設立したが、症例提示は一部の医師に限られ不定期にしか開催されていなかった。症例申し込み手順の煩雑や開催日時に問題があった。そこで、2012年7月から以下のような運用方法に変更した。

【運用手順】

  • 1. 電子カルテの診療科に「キャンサーボード」を新規に設定し、外来診療予約と同じ要領で、直近の開催日枠に予約(患者登録)をする。(図2)
  • 2. 腫瘍内科医は「予約一覧」(図3)から患者情報を把握し検討症例を最終決定する。
  • 3. プレゼンテーションはショートサマリーを用いて基本的に主治医が行う。
  • 4. 最新のがん医療に関する知識やエビデンスを常にリバイスしていくことも重要であり、当院ではweb電話サービスを介し、適宜外部の専門医に参加して頂く体制を採った。
図2)電子カルテの予約枠を利用し簡単に症例をエントリーできるようにした
図3)決定した症例はキャンサーボード開催日、前々日までに院内LANで参加者全員に周知した

キャンサーボード症例検討件数の推移

 2012年に運用方法を変更することにより、変更前は年間で9~11件だった検討症例数が、2014年度には135件まで増加した。

図4)検討症例件数

キャンサーボードにおける薬剤師の関わり

 薬剤師は抗癌剤治療の処方監査・疑義照会を行っているが、主治医のレジメン選択に疑問をもつ経験をされた方は少なくないと思う。疑義照会で主治医と1対1でミニカンファレンスを行ってきたが、もっと多職種で検討した方がより良い治療が選択できるのではないかと考え、薬剤師もエントリーしている。最近エントリーした症例は、膵癌の患者である。FOLFIRINOX療法が処方されていたが、脾腫があり、血小板減少がみられた。疑義照会を行い、FOLFIRINOX療法を施行するのはリスクが高く、レジメン変更の提案をした。同時にキャンサーボードでのプレゼンテーションを依頼し、エントリーを行った。主治医も快く承諾し、キャンサーボードで検討した結果、レジメン変更となった。

まとめ

 システムと一体で体制を整えたことで、リアルタイムに院内外の専門知識を活用できるようになり、患者さんの意思を反映しつつ、エビデンスに基づいた最適な治療選択が可能となった。
 キャンサーボードでは、標準治療が終了した後の選択肢の検討や、手術適応か、放射線化学療法の適応か、厳しい病態から緩和治療を主体とするか、などを検討することが多い。薬剤師は支持療法の提案のみに留まらず、治療戦略を決定する段階で、レジメンのエビデンスレベルや推奨度を示しながら処方の可否を検討するなど、積極的にコンサルテーションを行っていくことも大事だと感じている。

エキスパートコラム