チーム医療における薬剤師の役割とは
がん化学療法の分野では、チーム医療の重要性が言われている。医師、薬剤師、看護師等多職種が集まり、カンファレンス等で治療方針を共有し、各職種がそれぞれの専門性を発揮することは重要であると思う。しかし、チーム医療の本質は、これらのことで言い表せられるのであろうか。臨床現場で感じていることに基づき、チーム医療における薬剤師の役割を考えてみたい。
チーム医療の本質は?
チーム医療イコール医師や看護師とのカンファレンス、医師の回診に同行するということをイメージされることがあるが、本質はその中で薬剤師として何を行ったかが重要である。カンファレンスや回診に参加するのは、治療方針や患者の状態を把握することが目的であり、それ自体が目的ではない。ただ、居るだけ、参加するだけの薬剤師は医療現場では必要とされなくなるだろう。
チーム医療の本質はぶつかり合いだと考える。我々の目的は、患者さんに最良の治療を提供することであり、そのためには医師、看護師に対して薬剤師の視点から意見を言うことが重要である。医師に気を使い、モノを言えない、看護師との関係を気にして意見を言えない薬剤師はチーム医療の本質を理解していないと思う。それぞれの専門職がそれぞれの立場から意見をぶつけ合い、そのぶつかり合う時に出る力が、2倍、3倍となり患者さんへの最善の治療へとつながる。日々、本気で医者や看護師とぶつかり合いをしているかが問われているのがチーム医療の本質だと考える。
薬剤師としての武器は?
では、そのぶつかり合いで薬剤師としてやるべきことは何だろうか。多職種とぶつかるためには、薬剤師としての武器が必要だと考える。具体例をあげると、当院では腎機能や肝機能低下時の抗がん薬の投与量設計については、医師より薬剤師に問い合わせがある。薬剤師としては腕の見せ所であり、抗がん薬の排泄経路、代謝経路などの薬物動態の知識は薬剤師の武器の一つであると思う。
また、薬剤師外来業務では、医師の診察前に薬剤師が副作用評価を行い、支持療法薬の提案や抗がん薬の減量や中止等を提案している。薬剤師が患者の副作用を評価して、薬の特性から最適な支持療法薬の選択、抗がん薬の減量等を考え、医師と協働して副作用マネージメントを行うことは薬剤師の武器の一つになると考える。
自分でつかみ取るモノ
しかし、ここで大切なのは、医師からの問い合わせが来る環境を作ることや抗がん薬中止という薬剤師の提案を医師が受け入れる環境を作ることである。これらは誰かが与えてくれた環境ではなく自分でつかみ取った結果である。
病棟に常駐し始めた時に、何をやったらいいかわからず、居場所がなく、時間がとても長く感じたことを今でも覚えている。その中で、薬剤師にできること、やるべきことを考え、腎機能や肝機能が低下している症例に対して恐る恐る医師に問い合わせをしたのが始まりである。また、薬剤師外来においても、支持療法薬の提案が却下されたことが何度もあり、その失敗から学び、今では95% 以上の処方提案が実際に処方されることになった1)。大切なのは日々の自分自身の努力と継続力だと思う。
チーム医療における本質を理解し、医師・看護師等とは違った薬剤師としての武器を持ち、日々をど真剣に医師や看護師とぶつかっていくことでしか、チーム医療の中での薬剤師の役割は果たせないと感じている。チーム医療とは楽しいものではなく、辛く、大変なものであるが、患者のために薬剤師として仕事をできる喜びをかみしめ、私自身も頑張っていきたい。
- 1) 前勇太郎, 横川貴志,川上和宜, 八木奈央, 末永光邦, 松阪諭, 水沼信之, 濱敏弘: XELOX 療法における薬剤師外来の有用性. 医療薬学. 37, 11, p611-615, 2011