チーム医療のツールとしてのPBPM
(Protocol Based Pharmacotherapy Management)
− 薬剤師の積極的な治療への参加 −
薬剤部 薬剤主任部長 開 浩一 先生
がん領域では薬の安全域が狭いため、有効性や安全性を確保して適正な使用を推進するには薬剤師の専門的知識をベースとし、各職種間との連携を図り、患者中心の医療を推進しなければならない。
このような状況下、平成 22 年厚生労働省医政局長通知(医政発 0430 第 1 号)が発出された。この医政局通知は、『医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について』というタイトルで、薬剤師を積極的に活用することが可能な業務の一つとして、「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダーについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること」を奨励している。つまり医政局通知からPBPM(Protocol Based Pharmacotherapy Management)が始まった。これを起点とし薬剤師が患者のために積極的な提案を行う時代になったと言える。
ここでは、当院における医師と薬剤師で行っているプロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)作成と実施に関する例を紹介する。
PBPMを作るにあたって
日常で行なっている業務を精査することにより見えてくるものがある。ガイドライン・添付文書が遵守されていない場合や疑義照会、処方提案での受け入れが多いものなどはPBPMとして医師と協働する上で受け入れられやすい。
PBPMの目的
薬剤師が専門性を発揮することにより医療の質の向上、患者の利益や安全性の確保、医師の負担軽減、経済性を目的に行なっている。
PBPMが実施されるまで(がん領域)
PBPMは(図1)のフローで実施される。プロトコールの作成ではPBPMの意義、目的、必要性、除外基準などを明確にするため、薬剤師がPBPM届け出書(図2)にまとめる。作成したプロトコールについて医師や薬剤師、その他医療スタッフとの内容、運用に問題がないことを検討し各部署の合意を得る。最終的に病院全体へ周知する手続きとなっている。
実施するには、医師やその他医療スタッフが協働し、各役割を熟知し相互に確認することが重要である。また、運用の初期に問題が発生することが多いため、問題点を早期に把握、共有して解決することが安全に運用を進めるポイントである。さらにPBPM を運用して一定期間後、有用性を評価している。評価は、PBPM作成時の目的に対してアウトカムを定量的に評価しPBPM実施件数なども考慮して行っている。評価した結果によりPBPMの改訂や削除に反映させている。つまり、PBPMを再評価しプロトコールの手順や実施内容などをより良い方向に改善させている。
PBPMの具体例
PBPMでカバーしているのは、下記のような支持療法の薬剤の用量調節、投与期間の調整確認、スクリーニングとなる検査オーダーなど、ガイドラインや添付文書に従って遵守すべき内容・副作用対応で漏れることがあってはならないものを担っている。
- ①新規化学療法導入患者に対するHBV(B型肝炎ウイルス) スクリーニング(HBs抗原、HBc・HBs抗体、HBV-DNA定量の測定)
- ②ゾレドロン酸投与患者に対する添付文書に基づく腎機能による用量調節
- ③ペメトレキセド投与患者に対する9週間ごとのビタミンB12注射液1,000μg/Bodyの処方
- ④抗上皮成長因子受容体(EGFR)抗体(セツキシマブ、パニツムマブ)投与患者に対する投与期間中のマグネシウム(Mg)値検査依頼、1.9mg/dL未満でのMg補正液20mEq/Bodyの処方
- ⑤パクリタキセル(PTX)、リツキシマブ(R-mab)投与患者に対する投与前のH1拮抗薬処方
- ⑥CVポートでのヘパリンのオーダー漏れに対応
- ⑦抗EGFR抗体投与時に起こる皮疹の時期・症状に応じた処方
- ⑧イリノテカン投与時のコリン様症状に対する処方
- ⑨抗VEGF抗体使用時の尿蛋白測定
各PBPMの具体例はこちらからご覧いただけます。(PDFファイル)
病院の状況や実績により多種多様なPBPMが構築され実践されていると思う。医療現場での様々な問題や課題を解決するため、ツールとしてPBPMを利用しチーム医療を展開することが有用である。チーム医療は、医療スタッフ間で情報を共有し、相互理解を深め、信頼し各医療スタッフの専門性や役割を熟知して協働することが重要であり、専門性を十分に発揮できる環境が、PBPMの質向上に寄与すると思う。PBPMは、患者への最適な薬物療法の提供や安全性、医療の効率化や高度化、医師の負担軽減などを主な目的とする。
プロトコールを作成することが、医療スタッフの連携を強化し、より高度なチーム医療の実践に繋がることになる。