アルコール含有抗がん剤投与の工夫
− アドヒアランス向上を目指したチームによる患者対応について −
診療教授 小松嘉人 先生 |
看護部 三宅亜矢 先生 |
薬剤部 齋藤佳敬 先生 |
1.アルコール含有製剤投与時に看護師が担う役割 (三宅亜矢)
事前準備
看護師は、医師の問診結果をカルテ上で確認するとともに、投与する前に患者と家族へ「これまでアルコールを口に含み気分が悪くなったことがないか」を尋ねている。気分不快の経験がある患者には、より具体的に症状を確認し起こり得る症状を予測する。
アルコール不耐症の有無を確認し既往に応じて漸増法を選択することで、より安全な投与管理に結び付く。
投与管理と患者教育
看護師は、安全・確実な投与管理の一環として、回避可能な急性症状の予防、症状が出現した場合には早期発見とその対応を行う。投与中は患者の様子を定期的に観察し、流量を漸増する。「体が熱くなる、むかむかする、火照る感じがする」などの症状が出現した際には、直ちに薬剤の投与を中止し、バイタルサインなど全身状態の確認を行う。アルコール不耐症状ではなく過敏症と判断される場合には、医師と相談しその対応を行う。
症状の早期発見には患者教育も重要である。患者が十分に理解していないと、医療者への連絡が遅れ、重症化することがある。患者には症状に関する注意点を十分に説明し、患者に意識づけを行うことが大切である。
治療継続についての精神的サポート
症状が一度でも出現すると、患者は「また具合が悪くなるのではないか」と治療の継続に不安をもつ場合がある。医療者はしっかりと観察を行っており、症状出現した際にはすぐに対応することを伝えるなど、不安の軽減に配慮することも大切な役割である。
化学療法に不安を感じている患者は多く、患者に最も近い存在であり、相談しやすく安心できる看護師の役割は大きい。
看護師の聞き取り調査の必要性は高く、これによってアルコール不耐症の状況が把握でき、その対応も行いやすくなる。
副作用を少なく、治療を継続できる方法を提案するという姿勢が大切である。(小松嘉人)
2.プレミックス製剤のメリット~ミキシング時間の短縮~ (齋藤佳敬)
従来のドセタキセル製剤はドセタキセルと溶解用の無水エタノールが別々に分注された2バイアル製品であったが、現在は当薬剤が無水エタノールにより溶解された状態のプレミックス製剤が主となっている。このプレミックス製剤はドセタキセルの無水エタノールとの溶解作業が不要となったため、2バイアル製品と比較して1調製あたり約7分の調製時間の短縮が見込めることが報告されている。1) また、調製時に用いる注射針付きシリンジの使用本数も2バイアル製品と比較して減少することも報告されている(プレミックス製剤:1±0.3本、2バイアル製品: 2±1.4本)。加えて、調製時の作業工程の増加はコンタミネーションや調製ミスなどのリスク要因となるため、リスクマネジメントの観点からも作業工程の短縮は重要であると考えられる。
プレミックス製剤のデメリットとその対応 ~アルコール不耐症例への対応~
プレミックス製剤においてはその投与により呼気中にアルコールが検出されないこと、酩酊感の出現の可能性は低いことが報告されている2) が、この検討ではアルコール不耐の患者は含まれていない。北海道大学病院ではアルコール不耐症の患者への初回投与時には50mL/hr→100mL/hr→200mL/hrと投与時間を15分毎にアップする方法(計95分で投与)を採用している。この投与方法の是非に明確なエビデンスはないが、2014年のFDAによるプレミックスドセタキセル投与に対する注意喚起においては「点滴速度を遅くすることにより、アルコールに起因すると考えられる諸症状が消失する可能性がある」と記載されており、投与時間の延長はアルコール不耐の患者に出現し得る諸症状の軽減に一定の効果があると考えられる。この投与法での運用で投与後に悪心が出現した、酩酊状態になったなどの問題は現時点では生じておらず、今後これらのデータをまとめていく予定である。
プレミックス製剤投与不可能症例への対応策(自家用車での来院も含む)
アルコールアレルギーを持つ患者や自身で運転して通院せざるを得ない患者に対しては、プレミックス製剤の投与に慎重となるべきと考える。本邦のドセタキセルの添付文書には投与後の車の運転などに関する記載はないが、先に述べたFDAの2014年の注意喚起においては「投与1-2時間後は車および機器の運転操作を避けるべき」とあり、当院ではドセタキセル投与時は自家用車での来院を控えてもらうよう指導している。患者の体質・生活環境にあわせてプレミックス製剤と2バイアル製品を使い分ける場合には、プレミックス製剤では20mg/mL、2バイアル製品では10mg/mLと薬液濃度が異なるため調製時の抜き取り量に注意が必要となる。
多職種による共同作業 ~プロトコルの作成、問診、アセスメント~
実臨床に即した化学療法プロトコルの作成、患者からの問診、薬剤の説明、投与時・投与後のアセスメントは一つの職種だけでは完結しがたいと考えられる。特に外来化学療法時には、各職種が専門性を発揮し患者の状態を多角的にとらえることが重要であり、他職種の役割を認識しコミュニケーションを取りながら積極的に患者と向き合っていくことが肝心だと感じている。
薬剤師は薬剤の特徴を理解し、患者への影響、副作用を考慮し、看護師は患者と接することで気持ちの些細なゆれや、動きを事前に読み取る。医師はそれらの情報を包括して治療方針を決定する。各職種がそれらの情報をチームとして共有し、理解しあうことで治療の継続性と質の向上が得られるものと思われる。
アルコール不耐症の取り扱いシェーマは治療の質向上を目指す3職種の共同作業の産物である。このシェーマを使ってからは、治療継続ができない患者はほぼみられなくなった。(小松嘉人)
- 1) Pinguet F et al. EJHP Practice, 2010
- 2) 坂田ら:ワンタキソテールに含まれるアルコールの影響に関する検討.医療薬学.38,12,p780-784,2012