2025.2.10

診療報酬改定に向けた取り組み
~薬剤師外来編~

北里大学病院 薬剤部 稲野 寛 先生
稲野 寛 先生

化学療法室の概要

がん薬物療法指導 213件/月  連携充実加算対応 43件(30患者)/月
がん患者指導管理料ハ 29件/月
がん薬物療法体制充実加算の算定件数
令和6年6月:55件、令和6年7月:88件、令和6年8月:137件
算定割合(がん薬物療法体制充実加算算定患者数/外来化学療法診療料1算定患者数)
令和6年6月:2.5%、令和6年7月:3.8%、令和6年8月:6.1%

 当院では、診察後問診(化学療法室ラウンド業務)と診察前問診(乳腺薬剤師外来)の2つの薬剤師外来を運用しており、それぞれの概要とがん薬物療法体制充実加算の算定に向けた統一化の動きについて述べる。

化学療法室ラウンド業務(診察後問診型の薬剤師外来)の概要

 ラウンド業務として行っている薬剤師外来は2017年から開始しており、注射剤の薬物療法初回治療の患者を対象に、ベッドサイドで副作用説明、支持療法提案、情報提供書の交付を行っている(消化器内科外科、呼吸器内科外科、泌尿器科、婦人科、甲状腺外科では内服単剤指導も対応)。特に注力しているのが、情報提供書に含まれる治療進捗報告書で、レジメン名、プロトコール、引き継ぎ事項、治療当日のバイタル、副作用発現状況などを詳細に記載しており、患者、医師、保険薬局から高い評価を得ている。特に保険薬局では、アンケート調査においてがん薬物療法指導時の自信がついたという回答が得られており、またトレーシングレポートの受診率が40%を超えているなど、薬薬連携および地域のボトムアップに繋がっている。

乳腺薬剤師外来(診察前問診型の薬剤師外来)の概要

 乳腺甲状腺外科より、治療に強い不安を抱く患者が多いことや、ホルモン療法の不定愁訴に対するより適切な治療介入の必要性などの相談がきっかけとなり、2021年より開始したのが乳腺薬剤師外来である。名称のとおり、乳腺甲状腺外科の乳癌患者のみを対象としており、診察前問診により主に初回化学療法及びホルモン療法を受ける患者の不安軽減、意志決定支援を行っている。
 乳腺薬剤師外来の予約方法は、初回のみ薬物治療を行う1~2週間前に担当医が予約し、2回目以降は薬剤師が個別に必要性を判断して予約している。
 診察前問診のメリットは、初回治療から支持療法の個別化が可能なこと、抱えている不安を解消して治療に臨めることが挙げられ、その実例を次に示す。

トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)初回治療時の悪心・嘔吐に対する介入

【症例】

30代女性、3次治療としてT-DXdを導入。
前治療で悪心・嘔吐を経験しており、強い不安を抱えている。悪阻の経験あり。

【乳腺薬剤師外来での対応】

制吐療法適正ガイドライン第3版においてT-DXdは中等度催吐性リスクに分類されており、前治療よりは制吐性リスクは低いものであった。しかし、強い不安を抱えていること、NCCNガイドライン2023 ver.2ではT-DXdは高度催吐性リスクに分類されていること、T-DXdには持続期間が長い遅発性悪心があること、悪阻の経験があることなど悪心嘔吐のリスク因子が複数あることから、NK1受容体拮抗薬とメトクロプラミド(頓用)の追加処方を提案した。

ホルモン療法の不定愁訴に対する介入

【症例】

40代女性、術後補助療法としてタモキシフェンを1ヵ月間服用。
イライラに対して加味逍遙散を服用しているが、のぼせと下腹部、足の冷え性が悪化したとの訴え。

【乳腺薬剤師外来での対応】

漢方薬には詳しい医師は少ないため、薬剤師の視点から治療提案をすることにした。加味逍遙散は補血、抗ストレスなど様々な症状に効く分、一つあたりの生薬成分が少なめのため効果はマイルドである。本症例のように症状が明確な場合は生薬を絞る。肌の乾燥がなく、下腹部の瘀血が疑われ、のぼせ、足の冷えが認められることから桂枝茯苓丸を処方提案した。

加算に向けてラウンド業務から診察前問診への移行を開始

 がん薬物療法体制充実加算の算定に向けて、2024年1月よりラウンド業務の薬剤師外来を試験的に診察前問診に移行している。問診場所は、化学療法室前にある診察室に設け、看護問診後にコンシェルジュが薬剤師外来に案内する形で行っている。

 移行に伴って感じた診察前問診のメリット・デメリット・課題(図1)と、診察前問診と診察後問診の比較(図2)を示す。1番のメリットは効率化で、診察後問診では10~15名の患者を8:30~16:00に対応していたが、診察前問診では同じ患者数を午前中に対応でき、午後は他の業務を行うことが可能になっている。

図1 診察前問診のメリット・デメリット・課題
図1 診察前問診のメリット・デメリット・課題
図2 診察後問診と診察前問診の比較
図2 診察後問診と診察前問診の比較

今後の流れ

 診察前問診の試験期間は3ヵ月間としており、その後は2つある薬剤師外来の統一を図る予定である。統一後は、診療部とPBPM (Protocol Based Pharmacotherapy Management)などについて、医事課と算定について調整し、診察前問診の本格運用を開始したいと考えている。また、運用が軌道に乗った後は、保険薬局との調整・連携を進め、更なる地域のボトムアップを図りたい。

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