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2022.11.22

カルボプラチン+ペメトレキセド+ゲフィチニブ療法

監修宮城県立がんセンター 薬剤部 土屋 雅美 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○本レジメンは、NEJ009試験1)で日本人においてゲフィチニブ単剤と比較し、唯一、OSが有意差をもって上回ったレジメンである(OS中央値 カルボプラチン+ペメトレキセド+ゲフィチニブ療法群50.90カ月(95%信頼区間 41.77カ月-62.50カ月)、ゲフィチニブ単剤療法群38.80カ月(31.10カ月-47.33カ月)(ハザード比0.722、95%信頼区間 0.55-0.95、p=0.021、Cox比例ハザード回帰分析、log-rank検定))。主要評価項目であるPFS2ではゲフィチニブ群との間に有意差が認められず、ガイドライン上の推奨の強さは2(弱い推奨)にとどまっている。他のEGFR-TKI単剤レジメンと比較するとGrade3以上の血液毒性の頻度が高く、好中球減少や貧血、血小板減少の発現に注意が必要である。
  • ○適応に際して考慮されるポイントとしては、癌性リンパ管症等により肺野に網状影を認めており、間質性肺炎との鑑別が困難で、間質性肺炎の頻度が高い他剤の投与を回避したい場合や、すでに免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けるなどして間質性肺炎のリスクがある場合などが挙げられる。過去の治療歴を踏まえ、患者が本レジメンに適格であるかどうかを慎重に判断する必要がある。

薬剤師からみたポイント

  • ○本レジメンは、EGFR-TKIによる下痢、皮膚障害や間質性肺炎、殺細胞性抗がん薬による悪心・嘔吐、骨髄抑制など多様な副作用症状のマネジメントを行う必要がある。特に皮膚障害のマネジメントに際しては、多職種連携が重要である。
  • ○カルボプラチンは患者の腎機能に基づき投与量が規定されることから、腎機能や腎機能の推算に影響を与える因子(体重)の変動などに注意する。
  • ○ゲフィチニブは無酸症など著しい低胃酸状態が持続する状態で、血中濃度が低下し作用が減弱するおそれがある。特に日本人高齢者では無酸症が多く報告されていることから、食後投与が推奨される。
  • ○ゲフィチニブは主にCYP3Aによる代謝を受けることから、CYP3A誘導・阻害作用を有する薬剤との併用には注意する。強力なCYP3A誘導剤であるリファンピシンとの併用によりゲフィチニブのAUCが17%に減少、あるいは強力なCYP3A阻害薬であるイトラコナゾールとの併用によりゲフィチニブのAUCが78%増加したとの報告がある。2)
  • ○ペメトレキセドの副作用軽減のため、投与期間中は葉酸とビタミンB12の投与を行う。治療終了時もペメトレキセド最終投与から22日目までは投与を継続することに留意する。

看護師からみたポイント

  • ○ゲフィチニブによる皮膚障害(ざ瘡様皮疹、爪囲炎、乾皮症など)のセルフマネジメント手技を確立するための支援が重要である。患者の普段のスキンケアの実施状況や意欲、家族などのサポート力の把握を行い、患者の状況に即した指導を行う。
  • ○ざ瘡様皮疹が発現した際は、泡立てたせっけんで患部を洗う、保湿などのスキンケアを行ったのちに外用ステロイドを塗布するなど指導を行う。ざ瘡様皮疹が痂皮化している場合、外用ステロイドが患部に到達しなくなる可能性があるため、痂皮や鱗屑を蒸しタオルやワセリンでふやかし、除去してから外用薬を塗布する。
  • ○女性患者の場合、皮疹出現時のスキンケアおよびメイク方法について指導を行う。男女を問わず、外観変化による気分の落ち込みや社会生活への影響も懸念されることから、アピアランスケアの専門家につなぐのも一案である。
1) Hosomi Y, et al.:J Clin Oncol. 2020;38(2):115-123.
2) Swaisland HC, et al.:Clin Pharmacokinet. 2005;44(10):1067-1081.

副作用の詳細

副作用の発現率

EGFR遺伝子変異陽性のⅢB期、Ⅳ期、再発の非扁平上皮非小細胞肺癌を対象としたNEJ009相試験1)におけるカルボプラチン+ペメトレキセド+ゲフィチニブ療法(n=170)のGrade3以上の有害事象は、好中球減少31.2%、白血球減少21.2%、貧血21.2%、血小板減少17.1%、肝機能障害12.4%、発熱性好中球減少症2.9%などであった。

1) Hosomi Y, et al.:J Clin Oncol. 2020;38(2):115-123.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
悪心・嘔吐自覚症状でわかる
  • ●吐き気
  • ●嘔吐
  • ●食欲不振
  • ●高度(催吐性)リスクに該当し、下記薬剤による制吐療法が推奨される。
  • ●アプレピタント+5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、パロノセトロン)+デキサメタゾン
  • ●予期性悪心・嘔吐が疑われる場合(不安が強い、化学療法前から症状が出現するなど)、投与前日眠前や投与日朝にアルプラゾラムなどを使用する。
  • ●若年、女性、飲酒歴なし、乗り物酔い、妊娠悪阻の有無など患者側の因子にも着目した対応が必要となる。
  • ●強い不安をもつ患者では催吐リスクが高いため、十分な支持療法とday2以降の内服方法の説明が必要。
  • ●3~4日以上の嘔吐の持続、1日以上食事が困難な場合は、医療機関に連絡するよう指導。
  • ●悪心・嘔吐時は食事を工夫(水分量が多く、喉ごしのよいものなど)し、食事がとれない場合でも水分をとるように指導する。
  • ●軽い散歩などの気分転換。

発現時期の目安
day1-7

好中球減少検査でわかる
  • ●咽頭痛
  • ●鼻汁
  • ●口腔粘膜炎
  • ●排尿時痛
  • ●発熱など
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSF製剤の使用を考慮。
  • ●発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600mg/日など)
  • ●発熱性好中球減少症(FN)が認められた場合、原則として投与量の減量を考慮する。患者のFNリスク因子を考慮して、G-CSF製剤の使用を検討する。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • ●外出時はマスクを着用、人混みは避ける。

発現時期の目安
day7-14

血小板減少検査でわかる
  • ●皮下出血
  • ●粘膜組織からの易出血
  • ●血小板数だけでなく、出血症状、合併症、侵襲的処置の有無等を総合的に考慮して、血小板輸血を検討する。
  • ●歯ぐきや鼻粘膜などの粘膜組織から出血しやすいため、歯みがきや鼻をかむときは優しく行う。
  • ●出血時は安静にし、出血部位をタオルなどで圧迫して止血する。
  • ●出血が止まらない場合は、病院に連絡するようにする。

発現時期の目安
day7-14

皮膚障害自覚症状でわかる
  • ●発疹、落屑
  • ●ざ瘡様皮疹、
    乾皮症、
    爪囲炎など
  • ●確立した予防法・治療法はないが、下記の外用薬・内服薬が用いられる。
    ・ 保湿剤(尿素軟膏、ヘパリン類似物質含有軟膏、ワセリン、ビタミンA・E含有軟膏など。アルコールを含まない低刺激性のものを選択)
    ・ ステロイド外用剤(部位や症状の程度によってステロイドランクや塗布量を選択)
    ・ 経口抗ヒスタミン薬
    ・ 経口ステロイド薬
  • ●保湿剤をこまめに塗布して、皮膚の保湿を維持。外用薬は、すり込まずに押し当てるように塗布。
  • ●入浴・シャワー浴の際は、ぬるめのお湯、低刺激の洗浄剤でやさしく皮膚を洗浄。入浴後は、早めに保湿剤を塗布。
  • ●紫外線吸収剤を含まない日焼け止め(紫外線散乱剤のみ含有)などを使用して紫外線を避ける。

発現時期の目安
day1-21

下痢自覚症状でわかる
  • ●軟便
  • ●水様便
  • ●腹痛
  • ●ロペラミド塩酸塩
  • ●重症例では、脱水・電解質異常に対する適切な補液を実施。
  • ●アヘンチンキ(ロペラミド塩酸塩が無効な場合)
  • ●食事の工夫(温かく、消化吸収のよい食事)。
  • ●肛門周囲を傷つけない(温水洗浄便座の使用など)。
  • ●脱水に注意する。水分摂取の励行を指導する。経口での水分摂取が困難な場合、速やかに医療機関に連絡する。

発現時期の目安
day7-

肝機能障害検査でわかる
  • ●倦怠感
  • ●食欲不振
  • ●黄疸
    ※無症候の場合もある
  • ●重症度に応じて休薬する。
  • ●定期的な肝機能の確認を行う。
  • ●倦怠感、食欲不振、黄疸などの症状があらわれた場合は、医療機関に連絡する。

発現時期の目安
day7-

間質性肺炎自覚症状でわかる
  • ●息切れ(呼吸困難)
  • ●乾性咳嗽
  • ●発熱
  • ●確立した予防法はない。
  • ●発症後は、被疑薬の投与を中止し、症状に応じてステロイドを中心とした治療を行う。
  • ●リスク因子として肺への放射線照射歴、肺線維症や間質性肺炎の既往歴、喫煙歴などが知られている。
  • ●息切れ(呼吸困難)、乾性咳嗽、発熱がみられた場合は、次の診察を待たずに、すぐに医療機関に連絡する。
  • ●喫煙者には、禁煙を指導する。

発現時期の目安
day1-

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。