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2023.02.15

カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ療法

監修NHO 災害医療センター 薬剤部 新井 聡子 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○カルボプラチン+パクリタキセル(PTX)+ベバシズマブ(BV)療法は、 ECOG(E)4599試験1)の結果から進行非扁平上皮肺がんに対する標準的初回化学療法の一つとなった。70歳以上ではE4599のサブグループ解析において治療効果の上乗せは認められず、若年と比較して好中球減少、出血、蛋白尿が多かったとされている。また、本邦においては75歳以上の高齢者におけるBV併用療法の十分なデータはなく、有効性や安全性は確認されていない。E4599試験のサブグループ解析、E4599試験とPointBreak試験を統合したサブグループ解析、ARIES試験、SAiL試験などの結果をふまえて、高齢者に対するBV併用療法は行わないことが弱く推奨(提案)されている2)。BVの臨床試験並びに観察研究においてその大半がPS0-1であり、PS2に対するBVの安全性や有効性のデータは少ない。
  • ○治療選択の際には、扁平上皮がんでないこと(第Ⅱ相試験3)で4/13(31%)で重篤な肺出血あり)、喀血の既往がないことを確認する。また、脳転移は慎重投与であるので治療選択の際には考慮する。
  • ○PTXは添加物として無水エタノールを含有するため、治療選択の際には患者にアルコール過敏がないことを確認する必要がある。

薬剤師からみたポイント

  • ○カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ療法の主な副作用は、投与時反応(infusion-related toxicity)、血液毒性、消化器毒性、末梢神経障害、高血圧などがある。
  • ○パクリタキセルの過敏性反応は投与開始後に起こりやすく、95%が1~2コース目に起こる。
  • ○ベバシズマブはinfusion reactionを軽減させるために初回は90分、2回目は60分、3回目は30分かけて投与する。レジメンチェック時にはパクリタキセルの前投薬としてジフェンヒドラミン、H2ブロッカー、デキサメタゾンの処方を確認する。消化器毒性(悪心・嘔吐)に対しては、中等度催吐性リスク(カルボプラチン使用時)に準じた予防的制吐療法が推奨される4)。骨髄抑制に対しては、感染対策について患者教育を徹底し発熱時にはすぐ病院に連絡するようになど対応を必ず伝えておく。転倒などによる出血にも注意を促す。
  • ○パクリタキセルの末梢神経障害は累積投与量が250mg/m2を超えるとほぼ必発と言われている。症状の程度により減量や休薬を検討する。
  • ○高血圧に対しては、患者の家庭内血圧の推移も把握し、高値の際には高血圧ガイドラインに準じた降圧薬追加の提案を医師に行う。
  • ○カルボプラチンはパクリタキセルの後の投与が推奨される。カルボプラチンが先に投与されることでパクリタキセルの排泄遅延によるパクリタキセルの血中濃度の上昇、毒性増強のリスクがある。

看護師からみたポイント

  • ○ベバシズマブの副作用として高頻度の高血圧があり、投与後徐々に血圧が上昇する。投与時のみでなく家庭内血圧の推移を血圧手帳で確認し、急激な上昇や異常を認めた際には連絡するように患者教育する。
  • ○パクリタキセルのアナフィラキシー様症状(呼吸困難、痒み、潮紅、発汗など)は、早期型で投与開始直後に出現しやすいため開始後のバイタルサイン(血圧,脈拍数)のモニタリングを行うなど患者の状態を十分に観察する。症状出現時は、速やかに投与中止し適切な対処を行う。
  • ○パクリタキセルの希釈液は、過飽和状態にあるためパクリタキセルが結晶として析出する可能性があるので、0.22ミクロン以下のメンブランフィルターを用いたインラインフィルターを通して投与する。また、DEHPを溶出させる可能性があるため、可塑剤としてDEHPを含有している点滴セット(PVC製など)の使用は避ける。
  • ○パクリタキセルは起壊死性抗がん剤のため血管外に漏出させないことが重要である。些細な感覚の変化でも点滴部位に何か異常を感じた際にはすぐに報告するように指導する。
1) Sandler A, et al.: NEJM. 2006; 355(24): 2542-50.
2) 日本肺がん学会.: 肺がん診療ガイドライン2022年度版
3) Johnson DH.: J Clin Oncol. 2004; 22(11): 2184-91.
4) 日本癌治療学会.: 制吐薬適正使用ガイドライン 第2版 一部改訂版ver2.2.

副作用の詳細

副作用の発現率

未治療のⅢB期、Ⅳ期の非扁平上皮非小細胞肺癌を対象としたECOG4599試験1)におけるカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ療法(n=427)のグレード3以上の有害事象は、好中球減少25.5%、高血圧7.0%、発熱性好中球減少症5.2%などであった。

Sandler A, et al.: N Engl J Med. 2006; 355(24): 2542-50.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
過敏症自覚症状でわかる
  • ●掻痒感、蕁麻疹
  • ●顔面浮腫、顔面紅潮
  • ●しびれ
  • ●脱力感
  • ●口腔内・咽頭不快感
  • ●咳、くしゃみ
  • ●動悸、頻脈、悪心
  • ●パクリタキセルに対する前投薬(デキサメタゾン、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ラニチジンまたはファモチジン)を行う。
  • ●発現時は投与中止。症状に応じて、抗ヒスタミン薬、ステロイド、β作動薬、アドレナリン投与など適切な処置を行う。症状消失後緩徐に再開するか否かは症状の程度や患者の状態で判断する。
  • ●早期発見・対応のため、少しでも何か異常を感じたら、すぐにスタッフに伝えるように指導する。
  • ●ベバシズマブでもinfusion reactionが発現することがあるので注意する。

発現時期の目安
day1-2

悪心・嘔吐自覚症状でわかる
  • ●吐き気
  • ●嘔吐
  • ●食欲不振
  • ●中等度催吐性リスク(カルボプラチン使用時)に該当し、下記薬剤による制吐療法が推奨される。
  • ●アプレピタント+5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、パロノセトロン)+デキサメタゾン
  • ●予期性の不安による悪心・嘔吐がありそうな場合は、投与前日眠前や投与日朝にアルプラゾラムなどを使用する。
  • ●若年、女性、飲酒歴なし、乗り物酔い、妊娠悪阻の有無など患者側の因子にも注目した対応が必要となる。
  • ●強い不安をもつ患者では催吐リスクが高いため、十分な支持療法とday2以降の内服方法の説明が必要。
  • ●3~4日以上の嘔吐の持続、1日以上食事が困難な場合は、医療機関に連絡するよう指導。
  • ●悪心・嘔吐時は食事を工夫(水分量が多く、喉ごしのよいものなど)し、食事がとれない場合でも水分をとるように指導する。
  • ●嘔吐後は、口腔内を清潔にするため、うがいをする。
  • ●軽い散歩などの気分転換。

発現時期の目安
day1-7

関節痛・
筋肉痛自覚症状でわかる
  • ●関節痛
  • ●筋肉痛
  • ●症状によっては、Nsaids、アセトアミノフェン等で対応。2クール目以降は予防的投与も検討する。
  • ●痛みのある部分を、温めたり、マッサージすると改善することがある。
  • ●通常5~6日以内で改善すること、症状がつらい場合は痛み止めを投与できることを伝える。

発現時期の目安
day1-7

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSFを考慮。
  • ●発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600mg/日など)
  • ●発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • ●外出時はマスクを着用、人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃。

発現時期の目安
day7-14

末梢神経障害自覚症状でわかる
  • ●四肢の感覚異常・機能障害

確立した予防法・治療法はないが、下記の投与が試みられている。

  • ●メコバラミン
  • ●疼痛に対しては、アミトリプチン、プレガバリンなど
  • ●デュロキセチンのエビデンスがあり。
  • ●症状が強い場合はパクリタキセルの休薬も考慮。
  • ●手足のしびれ、刺すような痛み、感覚が鈍いなどの症状の変化に少しでも気づいたら、連絡するように指導する。
  • ●早期発見のため問診、ふらつきなどの動作支障の観察、VASなどによる客観的評価を行う。
  • ●投与中止後数ヵ月で回復するが、回復が長期に及ぶ場合や機能障害が残存する場合もあるので、症状を正確に把握して対応することの重要性を伝える。
  • ●患部のマッサージ・保温、手指の運動が効果的な場合がある(症状が悪化する場合は中止)。
  • ●けが・転倒・熱傷などに注意する。

発現時期の目安
day3-

脱毛自覚症状でわかる
  • ●頭髪の脱毛
  • ●腋毛、陰毛、眉毛などの脱毛
  • ●確立された予防法はない。
  • ●脱毛から回復までの過程(時期・抜け方など)を説明。
  • ●見た目の脱毛量が減るため、治療前に頭髪をカット。
  • ●頭皮を清潔に保つために低刺激のシャンプーを使用して優しく洗髪する。
  • ●脱毛した髪が飛び散るのを防ぐため帽子・バンダナを使用。
  • ●パーマやカラーリングは、治療が終わるまで控える。
  • ●かつらなどの購入(治療前に検討することが好ましい)。

発現時期の目安
day14-

高血圧検査でわかる
  • ●高血圧
  • ●降圧薬(ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬など)
  • ●毎日、血圧を測る。
  • ●医療機関に連絡する血圧値の基準を伝える。

発現時期の目安
day1-

出血自覚症状でわかる
  • ●鼻血、歯肉出血などの粘膜出血
  • ●薬剤による予防法はない。
  • ●軽度の出血は、自然に、または軽く圧迫することで止血することを伝える。出血が止まらない場合は、医療機関に連絡をする。
  • ●歯磨きは、柔らかい歯ブラシで、やさしく行う。
  • ●歯科を受診する際は、ベバシズマブの投与を受けていることを伝える。

発現時期の目安
day1-

尿蛋白自覚症状でわかる
  • ●尿の泡立ちの増加
  • ●浮腫
  • ●体重増加
  • ●Grade 2以上の場合は、1以下になるまで休薬する。グレード4の場合は、中止する。
  • ●ネフローゼ症候群を疑う症状があらわれた場合は、次の診察を待たずに、すぐに医療機関に連絡する。

発現時期の目安
day1-

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。