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2022.12.6

シスプラチン+ドセタキセル療法

監修大阪国際がんセンター 薬局 薬局長 髙木 麻里 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • 〇Ⅳ期非小細胞肺癌で、ドライバー遺伝子変異/転座陰性、PD-L1 TPS50%未満、もしくは不明のPS0-1、75歳未満に対する一次治療の患者を対象とする。
  • 〇治療開始前の腎機能、心機能、肝機能などの臓器機能に問題ないか確認する。
  • 〇用量規制因子について、シスプラチンは腎障害、悪心・嘔吐、骨髄抑制、ドセタキセルは骨髄抑制(主に好中球減少)である。
  • 〇抗癌薬投与後の悪心・嘔吐、腎機能障害、骨髄抑制、浮腫のグレード評価により、投与量が適正かを確認する。
  • 〇シスプラチンの腎障害予防として、ショートハイドレーションを行う場合は、腎機能、心機能、PS、年齢を考慮したうえで、飲水指示等に理解が示され、適応可能と考えられる患者にのみ実施する。
  • 〇浮腫や神経毒性は累積投与量が増加すると発現頻度が高くなる。

薬剤師からみたポイント

  • 〇高度催吐性リスクのレジメンであり、悪心・嘔吐のグレード評価および支持療法は適切か確認する。
    オランザピン併用時は、糖尿病、糖尿病の既往がないことを確認し、最大投与日数は6日間を目安とする。
  • 〇腎機能、心機能、肝機能などの臓器機能に問題ないか確認する。
  • 〇腎障害時にはシスプラチン、肝障害時にはドセタキセルの減量または中止を提案する。
  • 〇投与当日の好中球数が2000/mm3未満であれば、投与の延期を考慮する。
  • 〇腎障害の予防として、投与日・翌日は水分摂取を心掛け、尿量を確保し、体重測定を行い、急激な増加が認められるようであれば、連絡するように指導する。利尿剤を適宜投与する。また、ショートハイドレーション時には、適正かどうか確認した上で、患者には飲水の必要性等について理解を得る。
  • 〇並存疾患に対し、服用している薬剤との相互作用を確認する。(ドセタキセルはCYP3A4で代謝される。また、シスプラチンとNSAIDs1)、アミノグリコシド系抗生物質との併用で腎障害が増強されることがあるので注意する。)
  • 〇アルコールが含まれるドセタキセルを投与する場合は、アルコール過敏症の確認と、自動車運転など危険を伴う機械の操作に従事しないように指導する。

看護師からみたポイント

  • 〇投与中はアレルギー症状の有無、血管外漏出の有無を確認する。
  • 〇自宅での注意点(感染対策、倦怠感の有無、悪心・嘔吐のコントロール、排便コントロール、注射部位の反応、浮腫など)を指導する。
  • 〇腎障害の予防として、投与日・翌日は水分摂取を心掛けがけるように伝える(目安1.5~2L/日)。尿量の確保、体重測定を行なうことを指導する。ショートハイドレーション時は、経口補水量の確認を行う。
  • 〇手足のしびれや難聴などが出た場合は、早めに申し出るように説明する。問診で症状を聴取し、早期発見に努める。
1) Okamoto K, et al.: Anticancer Res. 2020; 40(3): 1747-51.

副作用の詳細

副作用の発現率

ステージⅣの非小細胞肺癌を対象とした無作為化比較試験1)におけるシスプラチン+ドセタキセル療法(n=151)のグレード3以上の有害事象は、好中球減少74%、白血球減少46%、食欲不振21%、貧血10%、悪心・嘔吐9%、下痢9%などであった。

1) Kubota K, et al.: J Clin Oncol. 2004; 22(2): 254-61.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
悪心・嘔吐自覚症状でわかる
  • ●吐き気
  • ●嘔吐
  • ●食欲不振
  • ●高度(催吐性)リスクに該当し、下記薬剤による制吐療法が推奨される。
  • ●アプレピタント+5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、パロノセトロン)+デキサメタゾン±オランザピン(ただし、オランザピン投与時は、糖尿病や糖尿病の既往のある患者は禁忌)
  • ●予期性の不安による悪心・嘔吐がありそうな場合は、投与前日眠前や投与日朝にアルプラゾラムなどを使用する。
  • ●若年、女性、飲酒歴なし、乗り物酔い、妊娠悪阻の有無など患者側の因子にも注目した対応が必要となる。
  • ●強い不安をもつ患者では催吐リスクが高いため、十分な支持療法とday2以降の内服方法の説明が必要。
  • ●3~4日以上の嘔吐の持続、1日以上食事が困難な場合は、医療機関に連絡するよう指導。
  • ●悪心・嘔吐時は食事を工夫(水分量が多く、喉ごしのよいものなど)し、食事がとれない場合でも水分をとるように指導する。
  • ●嘔吐後は、口腔内を清潔にするため、うがいをする。
  • ●軽い散歩などの気分転換。

発現時期の目安
day1-7

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSFを考慮。
  • ●発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600 mg/日など)
  • ●発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • ●外出時はマスクを着用、人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃。

発現時期の目安
day7-14

皮膚障害自覚症状でわかる
  • ●発疹、落屑
  • ●爪障害
    (変色・変形)
  • ●確立した予防法・治療法はないが、下記の外用薬・内服薬が用いられる。
    ・保湿剤(尿素軟膏、ヘパリン類似物質含有軟膏、ビタミンA含有軟膏など。アルコールを含まない低刺激性のものを選択)
    ・ステロイド外用剤(部位や症状の程度によってステロイドランクや塗布量を選択)
    ・経口抗ヒスタミン薬
    ・経口ステロイド薬
  • ●保湿剤をこまめに塗布して、皮膚の保湿を維持。保湿剤は、すり込まずに押し当てるように塗布。
  • ●入浴・シャワー浴の際は、ぬるめのお湯、低刺激の洗浄剤でやさしく皮膚を洗浄。入浴後は、早めに保湿剤を塗布。
  • ●紫外線吸収剤を含まない日焼け止め(紫外線散乱剤のみ含有)などを使用して紫外線を避ける。
  • ●爪障害の予防に、治療中のフローズングローブやソックスによる冷却療法が効果的な場合がある。

発現時期の目安
day7-14

脱毛自覚症状でわかる
  • ●頭髪の脱毛
  • ●腋毛、陰毛、眉毛などの脱毛
  • ●確立された予防法はない。
  • ●脱毛から回復までの過程(時期・抜け方など)を説明。
  • ●見た目の脱毛量が減るため、治療前に頭髪をカット。
  • ●頭皮を清潔に保つために低刺激のシャンプーを使用して優しく洗髪する。
  • ●脱毛した髪が飛び散るのを防ぐため帽子・バンダナを使用。
  • ●パーマやカラーリングは、治療が終わるまで控える。
  • ●かつらなどの購入(治療前に検討することが好ましい)。

発現時期の目安
day14-

浮腫自覚症状でわかる
  • ●主に下肢の浮腫。全身浮腫に移行することもある。
  • ●投与前日から3日間のデキサメタゾン(8mg1日2回)経口投与が予防・重症度軽減に有効とされている。
  • ●軽症時から、利尿薬(フロセミド、カンレノ酸カリウム、スピロノラクトンなど)を投与する。
  • ●靴下の跡がつくなど、むくみの症状が現れたら申告するように指導する。
  • ●軽度の場合は、脚上で対応する。
  • ●塩分の取り過ぎに注意する。
末梢神経障害自覚症状でわかる
  • ●手足のしびれ
  • ●痛み
    (四肢末梢の手袋靴下型)
  • ●確立した予防法、治療法はないが、症状緩和を目的とした薬物療法が行われる場合がある。
  • ●用量依存性に出現する。
  • ●症状出現時には、早めに相談するよう指導する。
  • ●ドセタキセルによる末梢神経障害は、予防に冷却療法が効果的である場合がある。
聴力障害自覚症状でわかる
  • ●主に高音域の聴力低下
  • ●耳鳴り
  • ●確立した予防法・治療法はない。
  • ●不可逆的なことが多いため、症状の程度によりシスプラチンの投与中止を検討する。
  • ●早期発見が重要な副作用であることを伝え、聴力低下や耳鳴りがみられた際には、早めに相談するよう指導する。
腎障害自覚症状でわかる
  • ●尿量減少
  • ●体重増加
  • ●倦怠感
  • ●食欲不振
  • ●悪心・嘔吐
  • ●血清クレアチニン、尿素窒素、その他尿検査で腎機能を定期的に評価する。
  • ●投与前日・投与日・投与日後に十分量の補液を行い、尿量を確保する。
  • ●十分な水分補給が可能な患者ではショートハイドレーション法での予防も可能である。
  • ●腎障害を疑う症状がみられたら、速やかに医療機関に連絡するよう指導する。
  • ●医師の指示に従って、水分補給を行うよう指導する。体調などで水分補給が不十分になった場合は、医療機関に連絡するよう指導する。
※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。