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2022.10.07

シスプラチン+ゲムシタビン療法

監修中部労災病院 薬剤部 主任 山口 智江 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○非扁平上皮癌でペメトレキセド(PEM)が使用できない場合や、扁平上皮癌でタキサン系抗癌剤が使用できない場合のレジメン選択肢の一つである。
  • ○シスプラチン(CDDP)+PEM療法とCDDP+ゲムシタビン(GEM)療法の第Ⅲ相試験(JMDB試験1))では、全体では同等の治療効果であったが組織型による差が認められ、扁平上皮癌においてCDDP+PEM療法群でPFS(4.4カ月 vs 5.5カ月,HR 1.36,95%CI:1.12-1.65,P=0.002、Cox比例ハザードモデル)、OS(9.4カ月 vs 10.8カ月,HR 1.23,95%CI:1.00-1.51,P=0.05、Cox比例ハザードモデル)ともに劣っており、GC療法は、扁平上皮癌にも選択肢の一つとなるレジメンである。
  • ○2019年6月にネシツムマブとGC(GEM 1250mg/m² day1、8、CDDP 75mg/m² day1)併用療法が「切除不能な進行・再発の扁平上皮非小細胞肺癌」に適応を取得している。
  • ○GEMは間質性肺炎又は肺線維症のある患者、胸部放射線療法施行患者は禁忌、CDDPは腎機能が保たれており(肺がん領域では中等度以上の腎機能低下があればカルボプラチン選択も考慮)、ハイドレーション時の補液負荷に十分耐えうる心機能がある場合に選択する。

薬剤師からみたポイント

≪副作用評価、対策≫

  • ○ポストハイドレーションは、シスプラチンによる腎障害の原因である遊離型シスプラチンが検出される投与後6時間、特に投与後2~3時間が重要と考えられ、通常は尿量を確保し、尿量をモニタリング指標の一つにするが、非乏尿性急性腎障害例も報告されている2)
  • ○ゲムシタビンは、静注後、速やかにシチジンデアミナーゼ(CDA)により解毒代謝されて腎排泄されるが、日本人ではCDAの遺伝子多型(CDA*3 ホモ接合)による、好中球減少などの重篤な副作用発症が報告されている3)。CDA*3 ホモ接合患者におけるゲムシタビン血中濃度は非保有者の約5倍、健常人における CDA*3のアレル頻度は、人種差があり、日本人206例で0.022、白人系米国人(150例)、黒人系米国人(150例)では検出されなかった。通常、実臨床で事前に測定はしておらず、注意が必要である。

看護師からみたポイント

≪点滴時の注意、自宅(生活上)での注意≫

  • ○投与後の排尿状況の確認として、尿量、尿回数、体重の変化、水分摂取量を確認する。大量の輸液を行うため、心不全の発現に注意する。
  • ○悪心・嘔吐に関しては、臭いの対策を行い(吐物の速やかな除去、脱臭剤の利用、換気、空気清浄機の設置など)、精神的援助(傾聴し、支持的に関わる)も行う。
  • ○入院では、食事の配慮を行い、無理に摂取する必要はなく、食べられる時に少量ずつ摂取する、などのポイントを説明する。
  • ○シスプラチンは尿中排泄率が高く(5日間で未変化体と代謝物で75%)、排泄後のトイレの蓋をしての洗浄や男性は座位での排尿など、曝露対策に関して指導を行う4)。尿道カテーテル留置患者では、尿廃棄時に他者が関わる場合は注意が必要。
  • ○投与時の血管穿刺部位の発赤や疼痛の有無について確認の上、看護記録に記載する。
  • ○グレード3以上の脱毛は10.55)~21.4%1)と比較的低いが、目立った脱毛がなくても、抜毛が増加する可能性について事前に説明する。
1) Scagliotti GV, et al.: J Clin Oncol. 2008; 26(21): 3543-51.
2) 前田 章光, 他.: 日本病院薬剤師会雑誌. 2020; 56(6): 656-62.
3) 斎藤 嘉朗.: 薬学雑誌. 2011; 131(2): 239-46.
4) 日本がん看護学会, 他.: がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン 2019年版 第2版. 金原出版.
5) Maase H, et al.: J Clin Oncol. 2000; 18(17): 3068-77.

副作用の詳細

副作用の発現率

進行非小細胞肺癌を対象としたFACS試験1)おけるシスプラチン+ゲムシタビン(GP)療法(n=151)のグレード3以上の有害事象は、好中球減少63%、血小板減少35%、白血球減少33%、ヘモグロビン減少27%、食欲不振27%、悪心23%、嘔吐14%などであった。
同試験において、GP群のグレード3以上の好中球減少の発現率は62.9%(P<0.001)と、80%以上だった他の併用療法群に比べて最も低かったが、グレード3以上の血小板減少はGP群で35.1%(P<0.001)と最も高かった。グレード2以上の悪心/下痢は、IP群60.5%/48.3%と最も高く、GP群57.6/5.3%、NP群47.3/8.2%、TC群で24.3/4.7%であった。
(IP:CPT-11+CDDP、TC:PTX+CBDCA、GP:GEM+CDDP、NP:VNR+CDDP)

1) Ohe Y, et al.: Ann Oncol. 2007; 18(2): 317-23.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
悪心・嘔吐自覚症状でわかる
  • ●吐き気
  • ●嘔吐
  • ●食欲不振
  • ●高度(催吐性)リスクに該当し、下記薬剤による制吐療法が推奨される。
  • ●アプレピタント+5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、パロノセトロン)+デキサメタゾン
  • ●予期性の不安による悪心・嘔吐がありそうな場合は、投与前日眠前や投与日朝にアルプラゾラムなどのベンゾジアゼピン系抗不安薬を使用する。
  • ●若年、女性、飲酒歴なし、乗り物酔い、妊娠悪阻の有無など患者側の因子にも注目した対応が必要となる。
  • ●非糖尿病患者ではオランザピン併用も考慮する。
  • ●day2以降の制吐剤が内服の場合は、服用方法の説明が重要。
  • ●3~4日以上の嘔吐の持続、1日以上食事が困難な場合や、水分摂取ができない程度嘔吐が続く場合は、医療機関に連絡するよう指導。
  • ●悪心・嘔吐時は食事を工夫(水分量が多く、喉ごしのよいものなど)し、食事がとれない場合でもできるだけ水分をとるように指導する。
  • ●嘔吐後は、口腔内を清潔にするため、うがいをする。
  • ●軽い散歩などの気分転換。

発現時期の目安
day1-7, 8-11

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点で患者のリスク因子に応じて、予防的抗菌薬やG-CSF製剤の使用を考慮する。
  • ●発熱時:臨床腫瘍学会『発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン』に準じて、抗菌薬を選択する。
  • ●発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。ペグフィルグラスチム使用時は投与約14日間は抗がん剤を開始できないため注意。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • ●外出時はマスクを着用、可能な限り人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃。

発現時期の目安
day3-

血小板減少検査でわかる
  • ●皮下出血
  • ●粘膜組織からの易出血
  • ●血小板数だけでなく、出血症状、合併症、侵襲的処置の有無等を総合的に考慮して、血小板輸血を検討する。
  • ●歯ぐきや鼻粘膜などの粘膜組織から出血しやすいため、歯みがきや鼻をかむときは優しく行う。
  • ●出血時は安静にし、出血部位をタオルなどで圧迫して止血する。
  • ●出血が止まらない場合は、病院に連絡するようにする。

発現時期の目安
day7-

ヘモグロビン減少検査でわかる
  • ●口唇・眼瞼粘膜などの蒼白
  • ●息切れ
  • ●めまい
  • ●頭痛
  • ●耳鳴り
  • ●貧血傾向が出現した場合には、初期対応として鉄剤の投与を考慮する。
  • ●Hb値<7g/dLを目安として赤血球輸血を検討する。
  • ●緩徐に進行した場合、自覚症状に乏しいので注意。
  • ●体力低下に応じた周辺環境の整備や動作の補助。
  • ●四肢の冷えに対する保温。

発現時期の目安
day7-

静脈炎
(表在性)自覚症状でわかる
  • ●点滴部位の痛み
  • ●点滴した血管に沿った痛み
  • ●静脈炎や血管痛発症時に必要に応じて鎮痛薬を考慮する。
  • ●溶解液を生理食塩液から5%ブドウ糖液に変更することで軽減した、との報告がある1)2)
  • ●血管外漏出ではないことを確認。
  • ●血流の良い太い静脈を選択。
  • ●毎回、できるだけ穿刺部位を変更。
  • ●静脈炎が発現した場合は、次回投与時に別の血管を選択。
  • ●血管を拡張させるため、ホットパックなどで穿刺部位の血管を温める。

発現時期の目安
day1-2, 8-9

発熱自覚症状でわかる
  • ●発熱
  • ●アセトアミノフェンまたは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を考慮する。
  • ●無治療でも数日で軽快するが、辛い場合は左記の薬剤を服用するよう指導する。
  • ●投与1週間以上経過後の発熱は、感染などが原因と考えられるため、医療機関に連絡する。

発現時期の目安
day1-3, 7-9

発疹自覚症状でわかる
  • ●発疹
  • ●蕁麻疹
  • ●経口抗ヒスタミン薬や外用ステロイド薬を考慮する。
  • ●無治療でも軽快することが多いが、症状が強い場合は医療機関に連絡、または左記の薬剤を使用するよう指導する。

発現時期の目安
day1-7, 7-14

聴力障害自覚症状でわかる
  • ●主に4,000~8,000HZ付近の高音域の聴力低下
  • ●耳鳴り
  • ●確立した予防法・治療法はない。
  • ●不可逆的なことが多いため、症状の程度によりシスプラチンの投与中止を検討する。
  • ●一般的にシスプラチンの総投与量が300~500mg/m²以上になると聴力障害の頻度が高くなると報告されている。
  • ●早期発見が重要な副作用であることを伝え、聴力低下や耳鳴りがみられた際には、早めに相談するよう指導する。
間質性肺炎自覚症状でわかる
  • ●息切れ
    (呼吸困難)
  • ●乾性咳嗽
  • ●発熱
  • ●確立した予防法はない。
  • ●発症後は、被疑薬の投与を中止し、症状に応じてステロイドを中心とした治療を行う。
  • ●息切れ(呼吸困難)、乾性咳嗽、発熱などの症状が、新規に、または症状がすでにある場合は症状の悪化があれば、次の診察を待たずに、すぐに医療機関に連絡する。
  • ●喫煙者には、禁煙を指導する。

発現時期の目安
なし(治療期間を通して注意)

末梢神経障害自覚症状でわかる
  • ●手袋・靴下型の手足のしびれ
  • ●感覚障害
  • ●感覚鈍麻
  • ●確立した予防法はない。
  • ●用量依存性で、累積投与量が200~300mg/m²以上になると発生頻度が高くなるといわれている。
  • ●シスプラチンの減量や中止が望ましいが、症状によってプレガバリンなどの鎮痛補助薬で対応する。
  • ●早期から症状の変化を観察する。
  • ●治療終了後にも症状が長期間残存する可能性について説明する。

発現時期の目安
なし(治療期間を通して注意)

1) 菅 幸生, 他.: 医療薬学. 2012; 38(3): 177-83.
2) 樋野 光生, 他.: 日本病院薬剤師会雑誌. 2008; 44(5): 801-3.
※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。