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2024.04.03

シスプラチン+ビノレルビン療法

監修前橋赤十字病院 薬剤部 品川 理加 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○シスプラチン+ビノレルビンの術後補助療法の効果は、より進んだステージの患者にメリットが大きい。
  • ○2022年度版肺癌診療ガイドラインにおいて、病理病期Ⅱ-ⅢA期の完全切除例に対して、シスプラチン併用化学療法を推奨している。
  • ○治療開始前の腎機能、心機能、肝機能などの臓器機能に問題ないか確認する。
  • ○ビノレルビンは間質性肺炎または肺線維症の既往歴のある患者には慎重投与である。投与開始前の呼吸困難感や咳嗽の有無や程度を確認する。
  • ○シスプラチンの腎障害予防として、ショートハイドレーションを行う場合は、腎機能、心機能、PS、年齢を考慮したうえで、飲水指示等に理解が示され、適応可能と考えられる患者にのみ実施する。
  • ○用量規制因子について、シスプラチンは腎機能障害、神経障害、発熱性好中球減少症(FN)、ビノレルビンは肝機能障害、骨髄抑制、神経障害である。
  • ○骨髄抑制による減量の頻度は高く注意が必要である。術後療法での使用でもあるため、治療強度を保つためにもG-CSF製剤の使用や抗菌薬の使用も考慮する必要がある。

薬剤師からみたポイント

  • ○投与開始前に腎機能、肝機能、心機能に問題ないことを確認する。
  • ○シスプラチンは腎機能に応じて減量・中止を提案する。
  • ○ショートハイドレーションを行う際は、水分の経口摂取が重要であるため、水分摂取の必要性を十分に理解させる。
  • ○高度催吐性リスク(HEC)に分類されるレジメンのため「制吐薬適正使用ガイドライン」に準じた制吐療法を行う。その際、オランザピンの禁忌疾患である糖尿病の有無を確認する。
  • ○ビノレルビンは投与後に重篤なイレウス発症が報告されているため、治療開始前の便通状況を確認する。
  • ○便秘は食欲不振の原因となることもあり、また硬便は肛門の傷となり感染症の原因となるため下剤を事前に処方しておき、患者に調節させるよう指導を行う。
  • ○ビノレルビンは壊死性抗がん薬であるため投与部位の違和感があるときは、すぐに医療者に報告するよう指導する。帰宅後の炎症や発赤などの出現がないか観察するように説明する。

看護師からみたポイント

  • ○Hydrationを適正時間で行うよう点滴管理を行う。
  • ○ショートハイドレーションの際は水分摂取を促す。
  • ○シスプラチンによる過敏症発症の報告は1~20%と比較的高頻度である。ほとんどは投与開始数分で発症するが、投与終了してから遅発性に発症する例もあり注意する。複数回投与後に発症することが多い。
  • ○静脈炎予防対策として末梢投与の場合は、血流・薬剤の吸収を高める目的で温罨法を用いることがある。
  • ○ビノレルビンは壊死性抗がん薬に分類される。少量の漏出でも紅斑、腫脹、水疱性皮膚壊死を生じ、難治性潰瘍を形成する可能性がある。投与中の投与部位の観察が重要であり、患者にも漏出時のリスク、投与中は穿刺している腕を動かさないよう指導し、違和感があればすぐに報告するよう説明する。
  • ○血管外漏出の予防ケアとして適切な穿刺部位の選択を行う:できるだけ太くて弾力のある血管を選択し、手背・関節部、前肘窩、以前に漏出や静脈炎が生じた血管、浮腫のある上肢、麻痺側は避ける。

副作用の詳細

副作用の発現率

進行非小細胞肺癌を対象としたFACS試験1)におけるシスプラチン+ビノレルビン療法(n=146)のグレード3以上の有害事象は、好中球減少88%、白血球減少67%、ヘモグロビン減少30%、食欲不振21%、発熱性好中球減少症18%、悪心14%、便秘14%などであった。

1) Ohe Y, et al.: Ann Oncol. 2007; 18(2): 317-23.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
悪心・嘔吐自覚症状でわかる
  • ●吐き気
  • ●嘔吐
  • ●食欲不振
  • ●高度(催吐性)リスクに該当し、下記薬剤による制吐療法が推奨される。
  • ●アプレピタント+5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、パロノセトロン)+デキサメタゾン
  • ●予期性の不安による悪心・嘔吐がありそうな場合は、投与前日眠前や投与日朝にアルプラゾラムなどを使用する。
  • ●若年、女性、飲酒歴なし、乗り物酔い、妊娠悪阻の有無など患者側の因子にも注目した対応が必要となる。
  • ●強い不安をもつ患者では催吐リスクが高いため、十分な支持療法とday2以降の内服方法の説明が必要。
  • ●3~4日以上の嘔吐の持続、1日以上食事が困難な場合は、医療機関に連絡するよう指導。
  • ●悪心・嘔吐時は食事を工夫(水分量が多く、喉ごしのよいものなど)し、食事がとれない場合でも水分をとるように指導する。
  • ●嘔吐後は、口腔内を清潔にするため、うがいをする。
  • ●軽い散歩などの気分転換。

発現時期の目安
day1-7, 8-11

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSFを考慮。
  • ●発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600 mg/日、など)
  • ●発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • ●外出時はマスクを着用、人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃。

発現時期の目安
day7-21

ヘモグロビン減少検査でわかる
  • ●口唇・眼瞼粘膜などの蒼白
  • ●息切れ
  • ●めまい
  • ●頭痛
  • ●耳鳴り
  • ●貧血傾向が出現した場合には、初期対応として鉄剤の投与を考慮する。
  • ●Hb値<7g/dLを目安として赤血球輸血を検討する。
  • ●緩徐に進行した場合、自覚症状に乏しいので注意。
  • ●体力低下に応じた周辺環境の整備や動作の補助。
  • ●四肢の冷えに対する保温。

発現時期の目安
day21-

静脈炎
(表在性)自覚症状でわかる
  • ●点滴部位の痛み
  • ●点滴した血管に沿った痛み
  • ●静脈炎や血管痛発症時に鎮痛薬を考慮する。
  • ●ビノレルビン投与時間を10分以内に完了する。
  • ●血管外漏出ではないことを確認。
  • ●血流の良い太い静脈を選択。
  • ●毎回、できるだけ穿刺部位を変更。
  • ●静脈炎が発現した場合は、次回投与時に別の血管を選択。
  • ●血管を拡張させるため、ホットパックなどで穿刺部位の血管を温める。

発現時期の目安
day1-2, 8-9

便秘自覚症状でわかる
  • ●排便回数の減少
  • ●排便困難
  • ●残便感
  • ●弛緩性便秘の場合:副交感神経刺激薬(ネオスチグミンなど)
  • ●硬便の場合:浸透圧性緩下薬(酸化マグネシウムなど)、膨張性下薬(カルメロースNaなど)
  • ●腸蠕動低下の場合:大腸刺激性下薬(センノシドなど)、小腸刺激性下薬(加香ヒマシ油など)
  • ●直腸便貯留の場合:坐薬(炭酸Na/リン酸Naなど)、浣腸下剤(50%グリセリンなど)投与後は、排便の性状などを確認しながら、投与量を調節。
  • ●排便回数、性状、量の記録。
  • ●水分摂取(温かい飲み物を少量ずつ)。
  • ●食物線維の多い食事(腸閉塞の既往がある場合は勧めない)。
  • ●適度な運動。
  • ●イレウスの発現に注意。

発現時期の目安
day1-3, 8-10

感覚性
ニューロパチー
(末梢神経障害)自覚症状でわかる
  • ●四肢のしびれ・痛み・筋力低下
  • ●腱反射減弱
確立した予防法・治療法はないが、下記の投与が試みられている。
  • ●メコバラミン
  • ●疼痛に対しては、アミトリプチリン、プレガバリンなど
  • ●少しでも症状に気づいたら、連絡するように指導。
  • ●早期発見のため問診、ふらつきなどの動作支障の観察、VASなどの客観的評価を行う。
  • ●感覚障害(痺れや痛みの程度)と機能障害(ボタンを留めることができる、ペンで文字を書くといった機能の程度)の評価を行う。
  • ●患部のマッサージ・保温、手指の運動(症状が悪化する場合は、中止する)。
  • ●感覚低下のため、けが・転倒・熱傷などの対策。

発現時期の目安
day8-

聴力障害自覚症状でわかる
  • ●主に高音域の聴力低下
  • ●耳鳴り
  • ●確立した予防法・治療法はない。
  • ●不可逆的なことが多いため、症状の程度によりシスプラチンの投与中止を検討する。
  • ●早期発見が重要な副作用であることを伝え、聴力低下や耳鳴りがみられた際には、早めに相談するよう指導する。
  • ●感音性難聴の特徴として音が小さく聞こえるなどあるため、以前よりテレビの音量が大きくするなどいった行動で気が付くこともある。そのためご本人だけでなく同居家族にも注意を促すとよい。
※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。