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2025.01.28

ILd療法

監修日本赤十字社 伊勢赤十字病院 薬剤部 薬剤部長 三宅 知宏 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○近年、多発性骨髄腫の治療戦略は大きく変化しており、イキサゾミブ(I)は初の経口プロテアソーム阻害薬である。
  • ○イキサゾミブは、少なくとも1つの標準的な治療が無効又は治療後に再発した患者が対象である。
  • ○抗CD38抗体のダラツムマブ(D)に抵抗性でなければダラツムマブ(D)+レナリドミド(L)+デキサメタゾン(d)のDLd療法またはレナリドミドの代わりにカルフィルゾミブ(K)を用いたDKd療法の3剤併用療法が推奨されるが、ダラツムマブに抵抗性の場合にはLd療法にエロツズマブ(E)を併用したELd療法やKLd療法、ILd療法が推奨される。
  • ○TOURMALINE-MM1試験の結果から、ILd療法はボルテゾミブとレナリドミドに感受性を有する初回再発・再燃時に投与することが最良であり、この状況では、Ld療法の併用薬として抗CD38抗体のダラツムマブ(D)、抗SLAMF7抗体エロツズマブ(E)やカルフィルゾミブ(K)などの選択肢があるが、経口薬のイキサゾミブは高齢者や遠方等で来院困難な患者に長期継続しやすい治療である。

薬剤師からみたポイント

  • ○イキサゾミブは経口薬のため治療の利便性はよいが、食事の影響を受けるため空腹時に服用する。食事の前後(食事前の1時間、食事後の2時間)に服用するとCmaxおよびAUCが減少する。
  • ○イキサゾミブを飲み忘れた場合は、次回服用まで72時間以上の場合すぐに服用、72時間未満の場合は服用せずに次回から服用するよう指導する。
  • ○レナリドミドは高脂肪食摂取後の服用によってAUC及びCmaxの低下が認められている。
  • ○レナリドミドはサリドマイド誘導体のため催奇形性を有する可能性がある。レナリドミドおよびイキサゾミブは、妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与してはいけない。妊娠する可能性のある女性に投与する場合は、投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認した上で投与を開始する。また、投与開始予定4週間前から投与終了4週間後まで、性交渉を行う場合は避妊を遵守していることを十分に確認する。
  • ○イキサゾミブの減量
イキサゾミブの減量
  • ○クレアチニンクリアランスが30mL/min未満の患者あるいは総ビリルビン値が基準値上限の1.5倍超の患者にイキサゾミブを投与すると副作用が強くあらわれるおそれがあるため、腎機能や肝機能の値を確認する。
  • ○レナリドミドを腎機能障害患者に投与する際の開始用量の目安
レナリドミドを腎機能障害患者に投与する際の開始用量の目安
  • ○好中球減少、血小板減少、皮膚障害の副作用による減量は、レナリドミドから減量し、その後イキサゾミブとレナリドミドを交互に減量する。
  • ○血小板減少及び好中球減少が発現した場合のイキサゾミブ、レナリドミドの休薬等の目安(TOURMALINE-MM1試験)

・ イキサゾミブ

イキサゾミブ

・ レナリドミド

レナリドミド
  • ○イキサゾミブはCYP3A誘導薬であるリファンピシンとの併用においてCmaxおよびAUCが大幅に低下した報告があることから、CYP3A誘導作用を有する薬剤やセイヨウオトギリソウを含有する食品との併用でイキサゾミブの血中濃度が低下し効果が減弱する可能性がある。
  • ○遠方等で来院困難な患者には、悪心、嘔吐対策としてメトクロプラミド、下痢対策としてロペラミドが予め処方されていることを確認する。

看護師からみたポイント

  • ○イキサゾミブとレナリドミドは脱カプセルしないよう指導する。
  • ○転倒や出血、感染症に注意するよう伝える。
  • ○末梢神経障害による日常生活への影響を説明し、疼痛の有無を確認する。
  • ○皮膚障害が発症しやすいため、皮膚の状態を観察するよう指導する。

副作用の詳細

副作用の発現率

再発・難治性の多発性骨髄腫患者を対象としたTOURMALINE-MM1試験1)におけるILd療法(n=361)のグレード3以上の有害事象は好中球数減少22.4%、血小板数減少19.1%、貧血9.4%、下痢6.4%、不整脈5.5%、発疹5.0%などであった。

1) Moreau P, et al.: N Engl J Med. 2016; 374(17): 1621-34.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
催奇形性
  • ●催奇形性
  • ●低用量ピル(OC)
  • ●子宮内避妊器具(IUD)
  • ●緊急避妊薬(避妊をせずに性交渉した場合など)
  • ※薬剤以外の避妊法として、両側卵管結紮・切除術がある。
  • ●投与開始予定4週間前から投与終了4週間後まで、避妊法の実施を徹底するように指導する。
  • ●確実な避妊法は「性交渉を控えること」であることを説明する。
  • ●性行為をする場合、下記の指導を行う。
    ・男性(患者・女性患者のパートナー):コンドームを正しく着用する。
    ・女性(患者):OC、IUD、両側卵管結紮・切除術のいずれかを行う。
    ・女性(男性患者のパートナー):上記避妊法の実施を奨める。
  • ●避妊に失敗した可能性がある場合、妊娠した可能性がある場合は、速やかに連絡するよう指導する。

発現時期の目安
day1-

血栓塞栓症自覚症状でわかる
  • ●急激な片側下肢の腫脹・疼痛
  • ●胸痛
  • ●突然の息切れ
  • ●四肢の麻痺
     など
  • ●低分子ヘパリン
  • ●ヘパリン
  • ●ワルファリン
  • ●低用量アスピリン
  • ●抗凝固薬
  • ●脱水は血栓塞栓症のリスクとなるため、適度な水分補給を心がける。
  • ●血栓塞栓症と思われる症状があらわれたら、すぐに医療機関に連絡するように指導する。

発現時期の目安
day1-

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSFを考慮。
  • ●発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600mg/日など)
  • ●発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要である。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認する。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行する。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔を保持する。
  • ●外出時はマスクを着用、可能な限り人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃する。

発現時期の目安
day7-28

血小板減少検査でわかる
  • ●皮下出血
  • ●粘膜組織からの易出血
  • ●血小板数だけでなく、出血症状、合併症、侵襲的処置の有無等を総合的に考慮して、血小板輸血を検討する。
  • ●歯ぐきや鼻粘膜などの粘膜組織から出血しやすいため、歯みがきや鼻をかむときは優しく行う。
  • ●出血時は安静にし、出血部位をタオルなどで圧迫して止血する。
  • ●出血が止まらない場合は、病院に連絡するようにする。

発現時期の目安
day7-21

悪心・嘔吐自覚症状でわかる
  • ●吐き気
  • ●嘔吐
  • ●食欲不振
  • ●症状が重度のときは、メトクロプラミド、5-HT3受容拮抗薬(グラニセトロンなど)等の制吐剤の投与をする。
  • ●長期にわたって続く吐き気、1日に何回もおこる嘔吐のときは主治医に連絡するように指導。
  • ●吐き気・嘔吐・食欲不振時、食べたいものを少しずつ食べる。
  • ●熱いものはにおいが強いので、冷ましてから食べる。

発現時期の目安
day1-

下痢自覚症状でわかる
  • ●軟便
  • ●水様便
  • ●腹痛
  • ●症状が重度の場合は、止しゃ薬(ロペラミドなど)の投与、輸液等の対症療法を行う。
  • ●下痢がひどいとき(頻回におこる水のような便など)はすぐに主治医に連絡するよう指導。
  • ●脱水症状に注意し、水分補給を心がける。
  • ●排便時には、肛門を清潔に保つ。

発現時期の目安
day1-

重篤な
皮膚症状自覚症状でわかる
  • ●口唇や眼瞼の浮腫
  • ●水疱性の発疹
  • ●抗アレルギー薬
  • ●抗ヒスタミン薬
  • ●外用ステロイド薬
  • ●経口プレドニゾロン(短期投与)
  • ※剥離性、剥脱性、水疱性の皮疹、血管浮腫、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、
    中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis)などが疑われる場合はレナリドミドを中止し、皮膚科医と連携して対応にあたる。
  • ●口唇や眼瞼の浮腫、水疱性の発疹がみられた場合には、直ちに主治医へ連絡するようにする。

発現時期の目安
day1-

めまい・眠気自覚症状でわかる
  • ●めまい
  • ●眠気
  • ●自動車運転など危険を伴う機械の操作は避けるようにする。

発現時期の目安
day1-

末梢神経障害自覚症状でわかる
  • ●四肢のしびれ・痛み・筋力低下
  • ●腱反射減弱
確立した予防法・治療法はないが、下記の投与が試みられている。
  • ●メコバラミン
  • ●疼痛に対しては、アミトリプチリン、プレガバリンなど
  • ●少しでも症状に気づいたら、連絡する。
  • ●早期発見のため問診、ふらつきなどの動作支障の観察、VASなどの客観的評価を行う。
  • ●感覚障害(痺れや痛みの程度)と機能障害(ボタンを留めることができる、ペンで文字を書くといった機能の程度)の評価を行う。
  • ●患部のマッサージ・保温、手指の運動(症状が悪化する場合は、中止する)。
  • ●感覚低下のため、けが・転倒・熱傷などの対策。

発現時期の目安
day3-

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。