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2025.04.09

Ld療法

監修堺市立総合医療センター 薬剤科 がん化学療法担当 主査 小川 直希 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○Ld療法は未治療で移植適応のない多発性骨髄腫の標準治療の一つである1)。患者年齢や末梢神経障害、血栓症などのリスクや肺の間質影の合併の有無などを考慮して、Ld療法が選択される。
  • ○Ld療法は、未治療の移植非適応の多発性骨髄腫患者を対象としたMPT療法(メルファラン、プレドニゾン、サリドマイド)とのランダム化比較試験(MM-020試験)において、PFSおよびOSの延長効果を示した2)。また、Ld療法の継続投与は、18コースで終了した場合に比較してPFSの延長が示されている。
  • ○レナリドミドは催奇形性を示す薬剤のため、胎児への曝露を防止すること目的として、レナリドミド・ポマリドミド適正管理手順を遵守しなければならない。
  • ○患者を男性、妊娠する可能性のない女性、妊娠する可能性のある女性に分類し、男性および妊娠する可能性のある女性に対して避妊の徹底を指導するとともに、妊娠する可能性のある女性においては妊娠反応検査を実施する。
  • ○レナリドミドなどの免疫調整薬を含む化学療法では、静脈血栓症及び動脈血栓症の発現リスクの評価を行った上で、必要に応じて、学会のガイドライン等1)を参考に抗血栓薬又は抗凝固薬の予防投与を考慮する。レナリドミドなどの免疫調節薬を投与中の骨髄腫患者では静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)をきたしやすく、特に大量デキサメタゾン(DEX)との併用でその発症リスクは上昇する。また、VTE発症のリスク因子としては、高齢、DVTの既往、中心静脈カテーテルの使用、併存疾患(糖尿病、感染症、心臓疾患)なども挙げられる3)。未治療骨髄腫を対象としたTHALを含む寛解導入療法を行った前方視的検討において、アスピリン予防内服(100mg/日)(適応外)が最初の6カ月間におけるDVT、心血管イベント、突然死などの発症率を6.4%にまで低下させた4)

薬剤師からみたポイント

  • ○服用後のPTPシートの回収や残薬から服用状況の確認を行い、適正管理手順の遵守状況の確認を実施する。
  • ○腎機能障害患者では、レナリドミドの血中濃度が上昇することが報告されているため、投与量及び投与間隔の調節を考慮する必要がある。
  • ○高脂肪食摂取後の投与によってAUC及びCmaxの低下が認められることから、レナリドミドは高脂肪食摂取前後を避けて投与することが望ましい。
  • ○Ld療法の主な副作用は、骨髄抑制、便秘、下痢、疲労、末梢性感覚ニューロパチー、発疹、無力症、筋痙縮、錯感覚である2)
  • ○未治療の造血幹細胞移植非適応の多発性骨髄腫患者を対象とした臨床試験において、皮膚障害202例のうち99例(49.0%)がレナリドミド投与開始後4週間以内に発現していた2)。治療導入初期は皮膚障害の発現に注意しながら副作用モニタリングを行い、重症度に応じて抗アレルギー薬、外用ステロイド剤(体幹:very strongクラス、顔:mediumクラス)を処方提案を実施する。
  • ○レナリドミドおよびデキサメタゾンはB型肝炎ウイルス再活性化について添付文書上注意喚起がなされているため、開始前にHBVスクリーニング検査を実施する。HBVキャリアおよび既往感染者の場合は核酸アナログの予防的投与や定期的なモニタリングを実施する5)
  • ○ステロイドによる高血糖が生じる可能性があるため、血糖値およびHbA1cのモニタリングを実施する。

看護師からみたポイント

  • ○入院中の誤投与事例も報告されていることから、入院患者のレナリドミドを病棟で管理する場合には、配薬時のダブルチェック、与薬時の本人確認、そして服用後のPTPシートを回収するなどして服薬確認を行う。
  • ○脱カプセルや粉砕しないよう指導を行う。介助者が内服介助を実施する際には手袋等の曝露対策を実施する。投与終了後最低48時間以内の患者の排泄物・体液の取り扱いについて指導する6)
  • ○患者の服薬管理ついての理解度を評価し、必要に応じて家族や介助される方への服薬管理について指導する。
1) 日本血液学会.: 造血器腫瘍ガイドライン2023年版 第3版, 金原出版. 2023.
2) Lotfi Benboubker, et al.: N Engl J Med. 2014; 371(10): 906-17.
3) Dimopoulous M, et al.: N Engl J Med. 2007; 357(21): 2123-32.
4) Palumbo A, et al.: J Clin Oncol. 2011; 29(8): 986-93.
5) 日本肝臓学会.: B型肝炎治療ガイドライン(第4版). 2022.
6) 日本がん看護学会, 日本臨床腫瘍学会, 日本臨床腫瘍薬学会.: がん薬物療法における職業性曝露対策ガイドライン2019年版 第2版, 金原出版. 2019.

副作用の詳細

副作用の発現率

65歳以上または未治療で移植適応のない多発性骨髄腫患者 を対象としたFIRST試験1)におけるLd療法(n=532)のグレード3以上の有害事象は感染症29%、好中球数減少28%、貧血18%、心機能障害12%、血小板数減少8%、肺炎8%、深部静脈血栓症/肺血栓塞栓症8%などであった。

1) Benboubker L, et al.: N Engl J Med. 2014; 371(10): 906-17.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
催奇形性
  • ●催奇形性
  • ●低用量ピル(OC)
  • ●子宮内避妊器具(IUD)
  • ●緊急避妊薬(避妊をせずに性交渉した場合など)
  • ※薬剤以外の避妊法として、両側卵管結紮・切除術がある。
  • ●投与開始予定4週間前から投与終了4週間後まで、避妊法の実施を徹底するように指導する。
  • ●確実な避妊法は「性交渉を控えること」であることを説明する。
  • ●性行為をする場合、下記の指導を行う。
    ・男性(患者・女性患者のパートナー):コンドームを正しく着用する。
    ・女性(患者):OC、IUD、両側卵管結紮・切除術のいずれかを行う。
    ・女性(男性患者のパートナー):上記避妊法の実施を奨める。
  • ●避妊に失敗した可能性がある場合、妊娠した可能性がある場合は、速やかに連絡するよう指導する。

発現時期の目安
day1-

血栓塞栓症自覚症状でわかる
  • ●急激な片側下肢の腫脹・疼痛
  • ●胸痛
  • ●突然の息切れ
  • ●四肢の麻痺
    など
  • ●低分子ヘパリン
  • ●ヘパリン
  • ●ワルファリン
  • ●低用量アスピリン
  • ●抗凝固薬
  • ●脱水は血栓塞栓症のリスクとなるため、適度な水分補給を心がける。
  • ●血栓塞栓症と思われる症状があらわれたら、すぐに医療機関に連絡するように指導する。

発現時期の目安
day1-

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSFを考慮。
  • ●発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600mg/日など)
  • ●発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要である。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認する。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行する。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔を保持する。
  • ●外出時はマスクを着用、可能な限り人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃する。

発現時期の目安
day7-28

血小板減少検査でわかる
  • ●皮下出血
  • ●粘膜組織からの易出血
  • ●血小板数だけでなく、出血症状、合併症、侵襲的処置の有無等を総合的に考慮して、血小板輸血を検討する。
  • ●歯ぐきや鼻粘膜などの粘膜組織から出血しやすいため、歯みがきや鼻をかむときは優しく行う。
  • ●出血時は安静にし、出血部位をタオルなどで圧迫して止血する。
  • ●出血が止まらない場合は、病院に連絡するようにする。

発現時期の目安
day7-28

重篤な
皮膚症状自覚症状でわかる
  • ●口唇や眼瞼の浮腫
  • ●水疱性の発疹
  • ●抗アレルギー薬
  • ●抗ヒスタミン薬
  • ●外用ステロイド薬
  • ●経口プレドニゾロン(短期投与)
    ※剥離性、剥脱性、水疱性の皮疹、血管浮腫、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis)などが疑われる場合はレナリドミドを中止し、皮膚科医と連携して対応にあたる。
  • ●口唇や眼瞼の浮腫、水疱性の発疹がみられた場合には、直ちに主治医へ連絡するようにする。

発現時期の目安
day1-

めまい・眠気自覚症状でわかる
  • ●めまい
  • ●眠気
  • ●自動車運転など危険を伴う機械の操作は避けるようにする。

発現時期の目安
day1-

末梢神経障害自覚症状でわかる
  • ●四肢のしびれ・痛み・筋力低下
  • ●腱反射減弱
確立した予防法・治療法はないが、下記の投与が試みられている。
  • ●メコバラミン
  • ●疼痛に対しては、アミトリプチリン、プレガバリンなど
  • ●少しでも症状に気づいたら、連絡する。
  • ●早期発見のため問診、ふらつきなどの動作支障の観察、VASなどの客観的評価を行う。
  • ●感覚障害(痺れや痛みの程度)と機能障害(ボタンを留めることができる、ペンで文字を書くといった機能の程度)の評価を行う。
  • ●患部のマッサージ・保温、手指の運動(症状が悪化する場合は、中止する)。
  • ●感覚低下のため、けが・転倒・熱傷などの対策。

発現時期の目安
day3-

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。