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2025.06.25

MPB療法

監修宮崎県立延岡病院 薬剤部 日髙 里奈 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○移植適応のない未治療多発性骨髄腫に対する治療法である。現在はダラツムマブ(D)を併用したD-MPB療法が主流となっているが、ダラツムマブが適応とならない患者については、本療法が選択肢となり得る1)
  • ○B型肝炎ウイルス感染事前スクリーニング・予防措置、肺機能及び心機能の事前・定期スクリーニングを行う。
  • ○腫瘍量が多く、腫瘍崩壊症候群リスクが高い場合は、適宜補液で十分な尿量を確保し、アロプリノール(適応外)*(若しくはフェブキソスタット)やラスブリカーゼの使用を検討する。
  • ○易感染性に対し、必要に応じてST合剤や抗ウイルス薬を処方する。
  • ○好中球減少、血小板減少及び貧血が高頻度に起こるため、適宜G-CSF製剤や輸血で対応する。
  • ○ボルデゾミブによる末梢神経障害は高頻度に起こり(主に感覚障害、時に自律神経障害(高度便秘からのイレウス・尿閉・起立性低血圧等))、しばしば継続困難となる場合もあるため、症状増悪時は適切かつ迅速に評価を行い減量・休薬を検討する。

薬剤師からみたポイント

  • ○治療スケジュールが煩雑なため、治療導入時からしっかり指導を行い、適宜、理解度・服薬状況の確認を行う。飲み忘れ時の対応についても指導を行う。
  • ○メルファランの服薬タイミングについて;メルファランは、食事の影響を受けやすく、食後投与は一晩絶食後の投与に比べ、Tmaxが遅延し、AUCが39%〜45%まで減少し、空腹時投与が望ましいとの報告がある2)3)。一方で、食後投与は胃腸障害や飲み忘れ防止等の利点があり、はっきりと定められていないため、患者の状態に合わせて評価・検討する。
  • ○高用量のステロイドの投与を行うため、特に高齢者や糖尿病等の既往歴のある患者については、血糖変動等に注意する。必要に応じて減量や対処療法について医師と検討する。
  • ○易感染対策に使用される薬剤についても服薬意義を説明し、服薬遵守を徹底する。相互作用にも注意する。
  • ○ボルテゾミブによる末梢神経障害については、継続的に評価を行い、グレード評価に応じた至適量となっているか確認する。
  • ○軽度催吐性リスク相当のレジメンである。軽度催吐性リスク抗がん薬に対する予防的制吐療法について、現段階では明確な根拠が認められていないため、最新のガイドライン等を参考に症状に応じて制吐療法を検討する3)
  • ○外来治療が主となるため、メルファランの自宅での取り扱い(曝露対策等)について指導を行う。

看護師からみたポイント

  • ○感染症対策が重要である。一般的な感染対策から患者の生活スタイルに応じた感染対策の工夫に努める。発熱や体調不良時の対応・医療機関への連絡方法等について常時指導を行う。
  • ○ボルテゾミブを皮下投与する場合は、注射部位反応(疼痛、炎症、硬結等)に注意する必要がある。皮膚状態を注意深く観察する。また、硬結予防の観点から左右の腹部等に交互に投与する等同一部位への連続注射を避ける。
  • ○ボルデゾミブによる末梢神経障害は日常生活に影響を及ぼす可能性があるため、早期発見に繋がるように観察する。症状出現時の生活上の工夫についても患者に指導・提案を行う(転倒・怪我予防策、保護等)。
  • ○重篤な肺機能・心機能障害の報告もあるため、息切れや倦怠感等自覚症状の確認・早期発見に努める。
1) 日本血液学会 編; 造血器腫瘍診療ガイドライン 2024年版. 第3.1版, 金原出版. 2004.
2) Reece PA, et al.: Cancer Chemother Pharmacol.; 16(2): 194-7. 1986.
3) Bosanquet AG, et al.: Cancer Chemother Pharmacol; 12(3): 183-6. 1984.
4) 日本癌治療学会 編; 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂. 第3版, 金原出版. 2003.
*本記事内で記載されている適応外使用の情報に関しては、東和薬品として推奨しているものではございません。

副作用の詳細

副作用の発現率

移植非適応の未治療多発性骨髄腫患者を対象としたVISTA試験1)におけるMPB療法(n=340)のGrade3以上の有害事象は好中球数減少40.0%、血小板数減少37.1%、白血球数減少22.6%、リンパ球数減少19.7%、貧血18.2%、末梢神経障害12.9%等であった。

1) San-Miguel JF, et al.: N Engl J Med. 2008; 359(9): 906-17.

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
肺障害自覚症状でわかる
  • ●咳嗽
  • ●息苦しい
  • ●発熱
  • ●ステロイド
  • ●ステロイドパルス療法
  • ●抗菌薬
  • ●抗真菌薬
  • ●早期発見のポイントは、患者本人による自覚症状の気づきであるため、肺障害の自覚症状について説明し、疑われる症状がみられたら速やかに医療機関に連絡するようにする。

発現時期の目安
day1-

心機能障害自覚症状でわかる
  • ●息苦しい
  • ●息切れ
  • ●むくみ
  • ●倦怠感
  • ●β遮断薬やACE阻害薬を考慮
  • ●心機能障害を疑う症状がみられたら速やか に医療機関に連絡するようにする。

発現時期の目安
day1-

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●好中球数1,000/μL未満で発熱、または好中球数500/μL未満になった時点でG-CSFを考慮。
  • ●発熱時:抗菌薬(レボフロキサシン500mg/日、シプロフロキサシン600mg/日等)
  • ●発熱性好中球減少症発症後は、患者のリスク因子に応じて、ペグフィルグラスチムの使用も検討する。
  • ●自覚症状がないため、感染の予防・早期発見が重要である。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングを確認する。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行する。
  • ●シャワー浴等による全身の清潔を保持する。
  • ●外出時はマスクを着用、可能な限り人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃する。

発現時期の目安
day7-28

血小板減少検査でわかる
  • ●皮下出血
  • ●粘膜組織からの易出血
  • ●血小板数だけでなく、出血症状、合併症、侵襲的処置の有無等を総合的に考慮して、血小板輸血を検討する。
  • ●歯ぐきや鼻粘膜等の粘膜組織から出血しやすいため、歯みがきや鼻をかむときは優しく行う。
  • ●出血時は安静にし、出血部位をタオル等で圧迫して止血する。
  • ●出血が止まらない場合は、病院に連絡するようにする。

発現時期の目安
day7-28

貧血自覚症状でわかる
  • ●口唇・眼瞼粘膜等の蒼白
  • ●息切れ
  • ●めまい
  • ●頭痛
  • ●耳鳴り
  • ●貧血傾向が出現した場合には、初期対応として鉄剤の投与を考慮する。
  • ●Hb値<7g/dLを目安として赤血球輸血を検討する。
  • ●緩徐に進行した場合、自覚症状に乏しいので注意。
  • ●体力低下に応じた周辺環境の整備や動作の補助。
  • ●四肢の冷えに対する保温。

発現時期の目安
day21-

下痢自覚症状でわかる
  • ●軟便
  • ●水様便
  • ●腹痛
  • ●症状が重度の場合は、止しゃ薬(ロペラミド塩酸塩等)の投与、輸液等の対症療法を行う。
  • ●下痢がひどいとき(頻回び水様便等)はすぐに主治医に連絡するよう指導。
  • ●脱水症状に注意し、水分補給を心がける。
  • ●排便時には、肛門を清潔に保つ。

発現時期の目安
day7-14

末梢神経障害自覚症状でわかる
  • ●四肢のしびれ・痛み・筋力低下
  • ●腱反射減弱
確立した予防法・治療法はないが、下記の投与が試みられている。
  • ●メコバラミン
  • ●疼痛に対しては、アミトリプチリン、プレガバリン等
  • ●少しでも症状に気づいたら、連絡する。
  • ●早期発見のため問診、ふらつき等の動作支障の観察、VAS等の客観的評価を行う。
  • ●感覚障害(痺れや痛みの程度)と機能障害(ボタンを留めることができる、ペンで文字を書くといった機能の程度)の評価を行う。
  • ●患部のマッサージ・保温、手指の運動(症状が悪化する場合は、中止する)。
  • ●感覚低下のため、けが・転倒・熱傷等の対策。

発現時期の目安
day3-

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。