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2022.09.26

TC療法

監修順天堂大学医学部附属練馬病院 薬剤科 金 素安 先生

このレジメンの重要事項・ポイント等

Drからみたポイント

  • ○乳がん患者の生存期間は非常に長く、晩期の心毒性はできるだけ回避する必要がある。TC療法は乳がんの術後補助療法として、アンスラサイクリン系薬剤を回避できる治療法として重要な位置付けとなる。
  • ○TC療法のエビデンスとなっている臨床試験では、リンパ節転移陰性例が48%と約半数を占めており1)、リンパ節転移陽性の患者ではアンスラサイクリンとタキサンの併用療法(AC→T)を考慮すべきである。
  • ○シクロホスファミドによる卵巣機能抑制があり、若年の乳がん患者に対しては挙児希望の有無を治療前に確認し、妊孕性温存の選択肢について説明する必要がある2)

薬剤師からみたポイント

  • ○術後補助療法は用量強度を保つことが重要となるため、4コース完遂できるよう支持療法を提案する。自宅で副作用症状に対処できるよう、メトクロプラミドなどの制吐薬、下剤、うがい薬、発熱時の対処薬などの事前処方を医師に提案する。
  • ○TC療法の発熱性好中球減少症発現率は報告により異なるが、メタ解析の結果では29%と高頻度に起こる副作用であるため3)、pegG-CSF製剤の一次予防的投与を検討する。使用時には骨痛、発熱の副作用を必ず説明し、自宅で対処できるよう予防的に薬剤を処方提案する。また、発熱時の対応や医療機関への連絡方法を説明する。
  • ○乳がん患者は若年の方が多く、治療中も仕事を続けられる方、お子さんがまだ小さい方など様々である。個々の患者の生活環境を理解した上で、副作用への対処の指導やセルフケアの支援を行う必要がある。

看護師からみたポイント

  • ○脱毛が高頻度に起こるため、治療前に必ず医療用ウィッグの説明を行う必要がある。
  • ○発熱性好中球減少症のリスクが高いので、発熱時の対応や医療機関への連絡方法を説明する。
  • ○シクロホスファミドは揮発性の高い薬剤であり、家族への曝露を心配される患者が多くいる。特に若年乳がん患者ではお子さんがまだ小さいことも多く、過度に不安を煽らずに適切な対処方法を指導する。具体的には治療後48時間はトイレを2度流すこと、排泄物や吐瀉物がついた洗濯物は別に洗うこと、その他の家庭内での接触は問題ないこと等をお伝えする。
1) Jones SE, et al.: J Clin Oncol. 2009; 27(8): 1177-83.
2) 乳がん患者の妊娠・出産と生殖医療に関する診療の手引き, 金原出版
3) Younis T et al.: Support Care Cancer, 2012(20): 2523-30

副作用の詳細

副作用の発現率

主な副作用有害事象共通用語基準

副作用名 主な症状 薬剤による対策 指導のポイント
過敏症自覚症状でわかる
  • ●掻痒感、蕁麻疹
  • ●顔面浮腫、顔面紅潮
  • ●しびれ
  • ●脱力感
  • ●口腔内・咽頭不快感
  • ●咳、くしゃみ
  • ●動悸、頻脈、悪心
  • ●通常、前投薬は不要だが、必要に応じてステロイドを投与。
  • ●発現時は投与中止。症状に応じて、抗ヒスタミン薬、ステロイド、β作動薬、アドレナリン投与など適切な処置を行う。
  • ●少しでも何か異常を感じたら、すぐにスタッフに伝えるように指導。
  • ●軽度の場合は症状消失後、点滴速度を遅くして再投与を試みることもあるが、経過を注意深く観察。

発現時期の目安
day1(-2)

悪心・嘔吐自覚症状でわかる
  • ●吐き気
  • ●嘔吐
  • ●食欲不振
  • ●中等度催吐リスクに準じ、day1 は5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン、パロノセトロンなど)+デキサメタゾン点滴で対応。day2-day3にデキサメタゾン内服、効果不十分な場合は悪心原因を考えた上で、アプレピタント内服などの追加を検討する。
  • ●強い不安をもつ患者では催吐リスクが高いため十分な説明が必要。
  • ●3〜4日以上の嘔吐の持続、1日以上食事が困難な場合は、医療機関に連絡するよう指導。
  • ●悪心・嘔吐時は食事を工夫(水分量が多く、喉ごしのよいものなど)。
  • ●軽い散歩などの気分転換。
  • ●悪心の原因は抗がん剤だけでなく、その他の麻薬・不眠・便秘などでも起こることがあるため、色々な要因を視野に入れる。

発現時期の目安
day1-7

好中球減少検査でわかる
  • ●易感染
    (自覚症状に乏しい)
  • ●G-CSF予防的投与
  • ●発熱時:リスク評価の上、抗菌薬を投与
  • ●自覚症状が乏しいため、感染の予防・早期発見が重要。
  • ●悪寒・発熱時の対処法と医療機関に連絡するタイミングの確認。
  • ●手洗い、含嗽、歯磨きの励行。
  • ●シャワー浴などによる全身の清潔保持。
  • ●外出時はマスクを着用、人混みは避ける。
  • ●こまめに室内を清掃。

発現時期の目安
day7-14

脱毛自覚症状でわかる
  • ●頭髪の脱毛
  • ●腋毛、陰毛、眉毛などの脱毛
  • 確立された予防法はない。
  • ●脱毛から回復までの過程(時期・抜け方など)を説明。
  • ●見た目の脱毛量が減るため、治療前に頭髪をカット。
  • ●低刺激のシャンプーを使用して優しく洗髪。
  • ●脱毛した髪が飛び散るのを防ぐため帽子・バンダナを使用。
  • ●医療用ウィッグなどの購入(治療前に検討することが好ましい)。

発現時期の目安
day14-

関節痛・筋肉痛自覚症状でわかる
  • ●肩や腰の痛み
  • ●肘や膝などの関節の痛み
  • ●NSAIDs
  • ●多くの場合、NSAIDsが有効であり、発現から数日で消失する。
  • ●入浴などで、血行をよくする。

発現時期の目安
day2-7

浮腫自覚症状でわかる
  • ●下肢の浮腫
  • ●全身浮腫
  • ●デキサメタゾンの前投薬で、浮腫を軽減できることが報告されている。
  • ●発症後:マッサージや着圧ソックスで対応できることが多い。重症例では利尿薬を検討する。
  • ●早期発見のため、体重増加、足背の変化を観察。
  • ●浮腫のある部位は傷つきやすいため、保湿剤で皮膚の保湿を維持。
  • ●感覚低下による熱傷・凍傷に注意。

発現時期の目安
day1-

※本サイトに掲載されている薬剤の詳細は各製品の電子添文をご参照ください。