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2024.5.9
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フッ化ピリミジン系薬剤による下痢の対処法

監修がん研究会有明病院 薬剤部 主任 横川 貴志 先生

副作用:下痢 頻発抗がん剤:フッ化ピリミジン系薬剤(フルオロウラシル、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、カペシタビン等)

好発時期・初期症状

【好発時期】

【特徴】

  • 投与1週間〜1ヵ月後程度をピークに生じる下痢で、抗がん剤による消化管粘膜の直接障害が原因である。腸管粘膜の萎縮、脱落による防御機能の低下や好中球減少時期と重なることで、腸管感染を伴うことがある。
  • FOLFIRI療法(フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン)、CAPIRI(XELIRI)療法(カペシタビン、イリノテカン)、FOLFIRINOX療法(フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、オキサリプラチン)など、フッ化ピリミジン系薬剤とイリノテカンを併用するレジメンの場合、イリノテカン起因性の消化管粘膜障害が併発する可能性、また、コリン作動性の下痢が起こる可能性がある。

対処・予防方法

【治療方法】

  • 収斂薬(タンニン酸アルブミン、次硝酸ビスマス)、吸着薬(天然ケイ酸アルミニウム)、ロペラミド塩酸塩などの止瀉薬を投与する。タンニン酸アルブミンあるいは天然ケイ酸アルミニウムと、ロペラミド塩酸塩を併用する場合は、服用間隔を2~3時間程度空けるようにする(同時服用するとロペラミド塩酸塩の効果が減弱する)。
  • 重篤な下痢の場合は、入院のうえ、水分・電解質バランスの是正、ロペラミド塩酸塩(投与量は添付文書、ASCOガイドラインを参照)、アヘンチンキ(1回0.5mLで1日1.5mL)などの投与を検討する。症状が改善しない場合や好中球減少を伴う場合は、腸管感染の可能性も検討し、抗菌薬の投与などを行う。

参考: Benson AB 3rd, et al.: J Clin Oncol. 2004; 22: 2918-26.

【リスク因子】

《DPD欠損》
dihydropyrimidine dehydrogenase (DPD)は、フッ化ピリミジン系抗がん剤における不活化の第1段階を担う酵素である。5-fluorouracil(5-FU)は、投与量の80~90%が肝臓のDPDにより異化代謝されるため、DPD欠損患者では代謝が著しく阻害され、5-FUが体内に長時間蓄積する。DPD欠損患者の割合は極めて少ないが、治療開始早期にGrade3以上の有害事象が発現し重篤な経過をたどることが多い。S-1単剤、カペシタビン単剤レジメンはもちろんではあるが、FOLFIRI療法やFOLFIRINOX療法に関してはUGT1A1遺伝子多型だけでなくDPD欠損患者も潜在している可能性を念頭におき、治療にあたる必要がある。早期に下痢を含む重篤な有害事象(口内炎、下痢、血液障害、神経障害等)が発現したら、速やかに休薬および対症療法を行うとともにDPD活性の測定を検討する。

参考:Hayashi K, et al.: Clin Cancer Res. 1996; 2: 1937-41.
Sumi S, et al.: Am J Med Genet. 1998; 78: 336-40.
Díaz R, et al.: J Chemother. 2004; 16: 599-603.
Saif MW, et al.: Clin Colorectal Cancer. 2006; 5: 359-62.
Baek JH, et al.: Korean J Intern Med. 2006; 21: 43-5.
van Kuilenburg AB: Eur J Cancer. 2004; 40: 939-50.

《腎機能障害》
クレアチニンクリアランス(CCr)低下症例では、5-FUの異化代謝酵素阻害剤であるギメラシルの腎排泄が低下し、血中5-FU濃度が上昇する。S-1適正使用ガイドにおいて、CCr 60mL/min未満はS-1を原則減量すること、CCr 30mL/min未満にいたっては禁忌とされている。また、CCr 70mL/min未満の症例において、70mL/min以上の症例と比較してGrade3以上の下痢が高頻度であった(21% vs 6%)との報告もあり、減量基準に該当しなくてもCCrが低下している患者にS-1を投与する場合には注意が必要である。
カペシタビンにおいても、腎機能に留意する必要がある。CCr低下症例では、カペシタビンおよび代謝物の排泄が遅延し、AUCが上昇する。それにより、重篤な有害事象が高率に発現することが報告されている。そのため、カペシタビンの適正使用ガイドでは、CCr 30mL/min未満は投与禁忌、CCr 30-50mL/minでは75%用量(1段階減量)が推奨されている。

参考:Yamada Y, et al.: Lancet Oncol. 2013; 14: 1278‒86.
Poole C, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 2002; 49: 225-34.
Twelves C, et al.: Clin Cancer Res. 1999; 5: 1696-702.
Cassidy J, et al.: Ann Oncol. 2002; 13: 566-75.

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

【止瀉薬を使用するタイミング】

  • 普段の排便回数より4回以上増える、あるいは水様便が出るようならロペラミド塩酸塩を1カプセル服用してください。
  • ロペラミド塩酸塩は服用約1〜2時間後に効果が出はじめ、ピークは4時間後となります。

【緩下剤服用中の患者に対して】

  • 緩下剤はそのまま続けてください。もし、下痢が生じた場合は緩下剤を中止し、それでも止まらなければロペラミド塩酸塩を服用してください。

【病院へ連絡する基準に関して】

  • 発熱や嘔吐、持続的な腹痛を伴う下痢、あるいは止瀉薬を服用しても下痢がおさまらない場合は、抗がん剤の服用を中止して、病院へ連絡してください。
※参考 便の評価指標(ブリストルスケール)について
    (ユニ・チャーム株式会社『排泄ケアナビ』)

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 発熱・嘔吐を伴う下痢は、感染性胃腸炎の可能性があり注意が必要である(特に冬季)。骨髄抑制と下痢の発生時期が重複する場合に注意が必要であり、イリノテカンにおいては過去に骨髄抑制に関する緊急安全性情報(平成9年7月)が発出されている。その場合、ロペラミド塩酸塩は使用せず、早急な受診が必要となる。また、持続的な腹痛がある場合も、重篤な腸管粘膜障害を起こしている可能性があるため、病院へ連絡するように指導する。

【下痢評価のポイント】

  • 下痢のGrade評価は、患者の排便ベースラインを基準としていることを理解する。
  • S状結腸や直腸を切断している患者は排便回数が多く、回腸ストマ(人工肛門)を造設している患者は水様便であることが多い。また、膵臓がん患者の特徴的症状の1つとして下痢がある。他に、婦人科領域や大腸がんでは骨盤腔内への放射線照射の有無も下痢の評価を行う上では重要となる。患者の病態と手術歴、排便ベースライン(回数、量、性状)の確認は必須である。
  • セロトニン受容体拮抗薬やオピオイド系薬剤を使用中の患者では便秘の発現に注意する。貯留便の排泄を下痢と誤って評価し、止瀉薬を用いると症状が悪化する危険性がある。特に、パロノセトロン注による便秘の発現率は全Gradeで17.4%と報告されており、消失半減期が41.6時間であることから、効果が持続している期間中、腸蠕動運動が低下し、硬便化と排便量の低下につながる可能性がある。下痢の原因を正確に評価できるように、排便の経過(性状・回数・腹部膨満感・腹痛の有無)を症状日誌等で確認することが重要である。

【下痢対策のポイント】

  • ASCOガイドラインと本邦の添付文書ではロペラミド塩酸塩の用法用量が異なる。
  • セロトニン受容体拮抗薬やオピオイド系薬剤を使用中の患者では便秘の発現に注意する。下痢の原因が貯留便の排泄と判断できた場合、緩下剤での対応を検討する。

参考:Suzuki K, et al.: Ann Oncol. 2016; 27: 1601-6.
Maemondo M, et al.: Ann Oncol. 2009; 20: 1860-6.

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