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2023.6.12
DC-000786
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抗がん剤全般による血管外漏出、静脈炎の対処法

監修湘南医療大学薬学部 がん専門薬剤師 佐藤 淳也 先生
国際医療福祉大学病院 がん看護専門看護師 塚越 真由美 先生

副作用:血管外漏出、静脈炎 頻発抗がん剤:抗がん剤全般

好発時期・初期症状

【好発時期】

  • いずれも投与終了後に症状が発現する可能性がある。

【特徴】

  • 血管外漏出と静脈炎は原因や特徴が異なり、対処法も変わるので鑑別が重要となる。いずれも原因薬剤を再投与しにくい状況となる点で、予防が重要な点は同じである。

《血管外漏出(extravasation:EV)の特徴》

  • 投与時、抗がん剤が血管外の皮下組織に漏出することによって、周辺組織を障害する。
  • 初期には局所に違和感、疼痛、発赤、膨張などがみとめられる。投与数日~数週後に水疱、潰瘍、壊死形成へと進行することもある。
  • 血液の逆流が正常にみとめられない。
  • 血管外漏出時の障害の程度は薬剤によって異なる。

<原因薬剤の分類と例>

※炎症性抗がん剤とする報告もある

写真 : 佐藤淳也先生提供

写真 : 佐藤淳也先生提供

参考 : Pérez Fidalgo JA, et al.: Ann Oncol. 2012; 23(Suppl 7): vii167-73.

ここに分類できない薬剤も多い。筋注や皮下注ができる薬剤は、非壊死性抗がん剤と考えることができる。また、抗体製剤の分子標的薬も、非壊死性抗がん剤と考えてよい。表に分類されない起壊死性(アントラサイクリン系抗がん剤、タキサン系抗がん剤など)以外の抗がん剤は、炎症性と考えるのが妥当である。
ただし、炎症性であっても大量に漏れた場合、漏出に気づかなかった場合は、起壊死性に準じた対処が必要である。
また、ゲムシタビンもシスプラチンも互いに壊死性ではないものの、薬剤同士の併用により壊死した例がある。論文ではゲムシタビンで傷ついた組織がシスプラチンに曝露されることにより、周辺組織の壊死が起こった可能性があると報告されている。

参考:Hiroto O, et al.: Internal Med. 2018 : 57: 757-60

抗がん剤以外にも血管に負担をかけるといわれている薬剤があり、併用や化学療法前に投与されていた場合は血管外濾出のリスクが高まる可能性がある。
例えば、ホスアプレピタントが静脈を傷つけ抗がん剤による静脈炎を助長する可能性を示唆しており、改善薬としてホスネツピタントがある。

参考:Takeo F, et al.: Anticancer Res. 2015; 35(1): 379-83.

【血管外漏出に注意すべき薬剤】(抗がん剤は含まない)

参考:

  • 1) Buter J, et al: Extravasation injury from chemotherapy and other non-antineoplastic vesicants.Up To Date, 2020.
  • 2) 赤木 晋介.: 薬事. 2022; 6(1): 98-100.
  • 3) 田村 敦志.: Medicina. 2003; 40(6): 1002-5.
  • 4) 工藤 恭子.: 小児内科. 2021; 53(4): 677-82.

《静脈炎の特徴》

  • 抗がん剤投与によって、血管自体に炎症が起こる。
  • 穿刺部位から血管に沿って疼痛、発赤、色素沈着などがみとめられる。投与終了後に硬結や潰瘍の形成などが起こることもある。
  • 血液の逆流が正常にみとめられる。
  • 薬剤の細胞障害性、血液とのpH・浸透圧の差などが炎症を起こす原因となる。また、薬剤と血管の物理的接触が長くなることもリスクとなる。(血管の収縮、投与速度など)
  • 血管痛は、血管内皮の損傷であり、すでに静脈炎が生じ始めている危険サインと考えてよい。
  • 一般に、抗がん剤に限らず経静脈的に投与される薬剤は、pH8以上、pH4以下、浸透圧比2以上では、静脈炎の原因となる血管内皮の損傷が生じる。そして、一度生じた静脈炎は、pH6以下の点滴でも悪化するとされ、このようなカテゴリーに入る薬剤は多い。
    (原因薬剤の例)
    エピルビシン、ゲムシタビン、ビノレルビン、ダカルバジン など

抗がん剤のpHと浸透圧比

※製品、剤形、溶解・希釈液の種類や溶解量などにより異なります。

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

【予防】

  • 血管選択:前腕、太く(=血流の多い)柔らかい弾力のある血管が最も望ましい。下記のような血管は、特に血管外漏出のリスク因子となるので、避けるようにする。
    • ・ 細く脆い血管
    • ・ 化学療法や薬剤使用の繰り返しにより硬化した血管
    • ・ 関節など、動きの影響を受けやすい部位の血管
    • ・ 一度で穿刺が出来なかった血管
    • ・ 血管炎や血管外漏出の既往のある血管
    • ・ 静脈疾患や局所感染、創傷瘢痕を伴う部位
    • ・ 24時間以内に注射・採血した部位よりも末梢側の血管
  • 患者指導:下記のような注意事項を患者に伝えておく。
    • ・ トイレや着替えは点滴前に済ませる
    • ・ 点滴中はなるべく安静にし、点滴ルートの取り扱いに注意する
    • ・ 痛みや膨張、違和感がある場合や滴下が遅い場合などはすぐに医療スタッフに知らせる
    • ・ 帰宅後にも症状出現の可能性があることを伝え、何かあればすぐに連絡する
    • ・ 投与後、穿刺した腕にあまり負荷をかけないよう、重い荷物などは反対の腕で持つ
  • 体制整備:医療スタッフ間で血管外漏出、静脈炎発現時の対応情報等をあらかじめ共有し、マニュアル整備、必要な薬剤やキットを用意する等、体制を整えておく。
  • 投与方法:抗がん剤投与時に下記のような対策を行う。
    • ・ アントラサイクリン系抗がん剤などでは、濃度は高くなってもより短時間で投与したほうが静脈炎の頻度が少ない(ドリップ点滴よりワンショット静注)。
    • ・ ステロイドの混和は、pHの上昇など予防的に有効である。制吐剤で使用するデキサメタゾンを静脈炎を生じやすい抗がん剤と混合、あるいは側管やピギーバック方式で投与するなどの方法がある。

【治療】

《血管外漏出(extravasation:EV)》

  • 漏出の疑いがある場合、下記のような対処が検討される。ただし、あくまで一例でありエビデンスが不十分とされる処置も多いので、各院内でコンセンサスの得られた対処法を実行する。
    (対処例)
    ①直ちに投与中止
    ②針は留置したまま、漏出液もしくは血液を数mL吸引(いずれもエビデンスとして不十分であり、推奨には至っていない)
    ③漏出部位の外縁をマーキングし、薬剤の組織障害性、漏出量に応じて下記のような対処を検討
  • アントラサイクリン系抗がん剤漏出時には、デクスラゾキサン(保険適用)が有効であり、1日1回、3日間連続で静脈内投与する。なお、血管外漏出後6時間以内に可能な限り速やかに投与開始が必要である。
  • デクスラゾキサンの海外第II/III相試験によると、アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤の血管外漏出患者54人中 53人(98.2%)の患者で壊死が予防された。1人の患者(1.8%)は、外科的デブリードマンを必要とした。38人の患者(71%)が、予定されていた化学療法を延期することなく継続することが可能であった。
  • 参考: Mouridsen HT, et al. Ann Oncol. 2007; 18(3): 546-50

  • 通常、成人には、デクスラゾキサンとして、1日1回、投与1日目及び2日目は1000mg/m2(体表面積)、3日目は500mg/m2を1~2時間かけて3日間連続で静脈内投与する。
    なお、血管外漏出後6時間以内に可能な限り速やかに投与を開始し、投与2日目及び3日目は投与1日目と同時刻に投与を開始する。また、用量は、投与1日目及び2日目は各2000mg、3日目は1000mgを上限とする。
    中等度及び高度の腎機能障害のある患者(クレアチニンクリアランス:40mL/min未満)では投与量を通常の半量とする。
    ※いずれもエビデンスとして不十分であり、推奨には至っていない

    局所注射に痛みがあるようであれば、外用剤塗布も選択となる。また、局所注射後の外用剤塗布の併用も有用と考えられる。

    ④血管外漏出の記録
    ⑤経過観察、患者指導
  • 冷罨法:皮膚障害・炎症の増悪や進行を防ぐために弱く推奨される。
    (ただし、オキサリプラチンでは末梢神経障害誘発・増悪の可能性があるため避ける)
  • 温罨法:薬剤の拡散を促進する可能性があるがその施行は推奨されない。
  • 投与薬剤と血管の接触を減らすため、点滴時間短縮、生理食塩水によるフラッシュ(投与後)などにより緩和をはかる。
  • 現在、ステロイド局注は推奨されない。代替的にステロイド外用剤の塗布が望ましい。レトロスペクティブコーホート研究によると、壊死起因性抗がん剤漏出後にステロイド皮下注射を受けた患者は、ステロイド外用薬のみを投与された患者に比べ皮膚手術の発生率が高かった(オッズ比、1.61;95%信頼区間、1.14-2.26;P=0.007)。
  • 参考: Ohisa K, et al.: Eur J Oncol Nurs. 2022; 58: 102119.

  • 一度静脈炎を生じた腕の対側に穿刺しても、同じ薬剤の投与により過去の静脈炎部分に炎症が生じることもあるため、よく観察する(フレア現象)。
  • 漏出に気がつかず、症状があらわれるまで放置してしまった場合は、下記の対処を行う。
    漏出に気がつかず放置された場合の対処

【リスク因子】

  • 血管外漏出のリスク因子としては下記のようなものが挙げられる。
    • ・患者の状態:高齢、栄養状態不良、肥満、糖尿病や皮膚結合織疾患などの罹患歴、血管・血流障害、化学療法を繰り返している、多剤併用療法中、血管が細くて脆い、医療者と意思疎通が困難、血管外漏出の既往(リコールアクションの懸念) など
    • ・その他:薬剤の大量投与、急速投与、輸液などですでに使用しているルートの再利用、抗悪性腫瘍薬の反復投与で使われている血管を使用、同一血管に対する穿刺のやり直し、24時間以内に注射した部位より遠位側の穿刺 など
  • 静脈炎のリスク因子として注射剤の異物が考えられるため、通過に支障のない薬剤以外は、インラインフィルターの使用が望ましい。

参考:

  • 日本がん看護学会緩和医療学会 編.: 外来がん化学療法看護ガイドライン
  • 1抗がん剤の血管外漏出およびデバイス合併症の予防・早期発見・対処 2014年版. 金原出版. 2014

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

【指導時の留意事項】

  • 抗がん剤が血管に入った直後は濃度が高い状態です。したがって、がん細胞が壊れるように血管の内側も傷つきます。
  • 通常、血管が傷つくと、まず痛みや違和感、熱感を感じることが多いので、ちょっとしたことでも申し出ましょう。
  • 一度血管が傷つくと、次回はもっと強く炎症を起こすことがありますので、早期に対処が必要です。
  • 抗がん剤に炎症止め(ステロイド)を混ぜたり、輸液を増やしたり、温めて血管の流れをよくしたりする対処方法があります。(静脈炎)
  • ご自宅に帰った後など、投与後しばらくしてから血管が炎症をおこすこともあります。原因となるお薬によっては、様子をみていると手遅れになることもあるので、迷わず連絡しましょう。

がん看護専門看護師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

【指導時の留意事項】

  • 抗がん剤を投与したところの反対側や末梢側の血管で採血をしてもらうようにご自身からも伝えましょう。
  • 毎回同じ血管から抗がん剤を投与しないように、ご自身でもどの血管を使ったか覚えておきましょう。
  • 血管外漏出や静脈炎は必ずしも痛みを伴うとは限りません。抗がん剤投与中はご自身でも刺したところやその周りに異常が無いかときどきみるようにしましょう。
  • 漏れると炎症を起こすタイプの抗がん剤を投与するときは、特に注意が必要です。注意深く投与していきますが、点滴ルートを引っ張らない、体の下敷きにならないように注意するなど、患者さんの協力がとても大切です。
  • 針を刺したところや刺したところから先の部分が、痛い、腫れている、赤くなっているなどに気付いたら、すぐに医療者に伝えましょう。
  • 違和感があったときに「あともうちょっとでおわるから」「また刺されるのが嫌だから」と我慢してしまうと、その血管がしばらく使えなくなることがあります。気が付いた時にすぐ対処することで、症状が軽く済み、早く治ることが期待できます。
  • 治療が終わってから2〜3日後に遅れて、痛みや赤くなるなどの症状があらわれることがあります。刺したところの周囲をよく観察して、異常があったらすぐに連絡してください。

+ワンポイント

【指導時に留意すべきポイント】

  • 事前に血管外漏出や静脈炎の説明をする際には、患者さんの恐怖心をあおらないような配慮が必要である。
  • 血管外漏出は、疼痛や後遺症などによる身体的苦痛だけでなく、外観の変化、運動・神経障害に伴う心理的苦痛を伴うため、患者さんの身体的・心理的苦痛を配慮した誠実な対応や説明が重要である。
  • 患者さんのキャラクターによっては、軽微な血管痛でも我慢している方も多い。

【その他】

  • 海外では、漏出時の救済薬としてヒアルロニダーゼやジメチルスルホキシドなどの使用が推奨されている。しかし、本邦において保険適用された救済薬は、アントラサイクリン系抗がん剤漏出時のデクスラゾキサンのみである。
  • デクスラゾキサンの使用は、血管外漏出後6時間以内に開始する。高価な薬剤であることや漏出の頻度から、病院に常備採用できないことも多い。この場合、医薬品問屋や地域と情報共有して常備しておくこともよいであろう。
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副作用とその対処法(インフォメーションモデル)