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2023.10.10
DC-003432
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カペシタビンによる手足症候群の対処法

監修長野赤十字病院 薬剤部 若林 雅人 先生

副作用:手足症候群 頻発抗がん剤:カペシタビン

好発時期・初期症状

【好発時期】

  • 分子標的薬に比べ発現は穏やかであり、数週~数ヵ月後に発現することが多い。
  • 1回投与量が多いほど、手足症候群の発現頻度が高く、重症化しやすいという報告もある。

【特徴的な症状】

  • 皮膚症状が現れる前に、チクチク感、ヒリヒリ感などの違和感が初期症状として認められることが多い。
  • 皮膚の初期症状としては、紅斑が認められ、次第に皮膚表面光沢、指紋消失傾向、色素沈着がみられるようになり、疼痛を訴えるようになる。爪の変形などを伴うこともある。キナーゼ阻害剤等による手足症候群と初期症状所見が異なることが多い。
  • 症状が進行すると、著明な紅斑、過角化、亀裂、落屑、強い疼痛、水疱形成などが認められ、日常生活に支障が生じる。

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

【予防】

  • 予防・対策の基本は「保湿、保護、保清」となる。

<保湿>

  • 治療開始時より、下記のタイミングを目安に保湿剤(白色ワセリン、ヘパリン類似物質含有製剤、尿素含有製剤など)を塗布する。なお、尿素含有製剤は亀裂があると沁みることがあり、他の保湿剤と比べて予防効果が有意に優れているとはいえないため、がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版では積極的に選択する必要はないとしている。
    • ・ 手 : 手洗い後は毎回保湿剤を塗布する。
    • ・ 足 : 1日5回を目標に、少なくとも1日2~3回は塗布する(朝、夕、入浴後や就寝前など)。
    • ・ 手足とも就寝前に保湿剤を塗布し、木綿の手袋や靴下を着用するとよい。
  • 保湿剤使用量の目安は、大人の両手分で1FTU(1フィンガー・チップ・ユニット)が基本となる。
    • ・ 軟膏、クリーム剤 : 大人の人差し指の一番先から第1関節に乗る量、約0.5g
    • ・ ローション剤 : 1円玉大
  • 圧迫、熱、摩擦が、発症・悪化のリスク因子となるので、これらを回避するため日常生活においては次のような事項に留意することを伝える。ただし、患者に過度の生活制限をかけないように、患者の症状や理解度、生活環境、職業など患者背景を考慮する必要がある。

参考:がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版

<保護>

  • ・ きつくない木綿の靴下などを着用する。
  • ・ ヒールや革靴などの硬い靴、サイズの合わない靴は避け、柔らかいスニーカーやサンダルを履く。また、圧のかかりにくい靴の中敷(ジェルや低反発のもの)を使用する。
  • ・長時間の立ち仕事や歩行、ジョギングは避け、こまめに休む。
  • ・ 水仕事を行う場合は、ゴム手袋を着用し、直接皮膚に洗剤類がかからないようにする。
  • ・家庭で使う用具(包丁、ドライバー、ガーデニング用具など)を使用する時、握りしめる時間を短くしたり、圧をかけなくてもよいもの(ピーラーなど)を使用したりする。
  • ・ 外に出る際は直射日光を避け、日焼け止めを使用する。

参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 平成22年3月(令和元年9月改定)

<保清>

  • ・ 洗顔・入浴の際は過度に皮脂を落とさないようにする。具体的には、石鹸は良く泡立て良くすすぎ、ナイロンタオル等の使用は避ける。
  • ・ 入浴・シャワーは、低めの湯温とする。また、長時間の入浴は避ける。
  • ・ 低刺激の石鹸を使用し、手足を清潔に保つ。

【治療】

  • Grade2以上の症状が認められたら、very strong~strongestのステロイド外用薬を塗布する。
  • ビタミンB6製剤(ピリドキシン)や制汗剤はカペシタビンによる手足症候群の予防および改善に寄与しなかったと報告されているため、積極的な使用は避けたい。
  • 機械的刺激から保護するため、創傷被覆材を使用することも考慮する。
  • 腫脹が強い場合は四肢の挙上と手足の冷却を検討する。
  • びらん・潰瘍化した場合は、病変部を洗浄し、白色ワセリンやアズレン含有軟膏などで保護する。
  • 二次感染を伴った場合には、外用または内服の抗生物質投与を考慮する。
  • 手足症候群は症状が進行するほど改善しにくくなる。そのため、症状に応じた適切な対処が重要となる。チクチク感などの違和感に留まらず、はっきりとした痛みを伴うような症状の場合をGrade2と判定する。Grade2以上の症状が発現した場合、添付文書に従い休薬を行う。
  • カペシタビンにおいては、休薬や減量を行っても適切に治療継続が行われれば、有効性が損なわれないことが報告されている。

参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 平成22年3月(令和元年9月改定)

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

【症状について】

  • 手のひらや足の裏に症状が出現する副作用です。
    • ・ 初期症状 : 手や足にしびれ、ヒリヒリまたはチクチクするような感覚異常があらわれることがあります。このような感覚異常は、手や足に外見上の変化がなくても起こることがあります。また、手や足が全体的に赤く腫れることもあります(写真1)。
    • ・ 進行した症状 : 皮膚表面に光沢が生じ、指紋が消失する傾向がみられるようになると次第に疼痛が出現します。さらに進行すると、水疱(水ぶくれのような状態)やびらん(ただれやガサガサしたような状態)が出現します(写真2)。
  • 写真1 写真2

【発現頻度・時期について】

  • 頻度 : カペシタビンの投与量(投与方法)により異なりますが、発現率は50~80%と高頻度にみられます。
  • 時期 : 症状が出始める時期は個人差があります。2コース目がピークで、多くの方は8コース目までに出現しますが、それ以降も出現する可能性がありますので、治療中は手のひらや足の裏の症状には注意をしてください。

【外用剤(保湿剤、ステロイド外用剤)について】

  • 保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤など) : 治療開始と同時に手足の保湿を開始しましょう。保湿剤は洗浄後に1日2~3回以上たっぷりとやさしく広げるように塗ります(すりこまないこと)。保湿は毎日行うことが効果的ですので、症状の有無にかかわらず保湿剤の使用を継続してください。
  • ステロイド外用剤 : 手足が赤く腫れたり、痛みが出現してきたら、保湿剤に加えてステロイド外用剤を併用します。
  • 保湿剤とステロイド外用剤の塗布順序 : 保湿剤を先に手足全体に塗布してから、ステロイド外用剤を病変部位を中心に塗布します(洗浄→保湿剤→ステロイド外用剤の順)。

【日常生活上の注意点について】

  • 皮膚への刺激や長時間の圧迫は、手足症候群の発症や重症化の原因となるため避けるようにしましょう。
  • 木綿の手袋や靴下の着用、室内ではスリッパを使用するなど、手や足の保護に注意してください。
  • 洗浄と保湿と保護で皮膚を守りましょう。
  • 買い物袋などの重みで手のひらが圧迫されるような状況を避けましょう。
  • 雑巾を絞るような動作をしないようにしましょう。
  • 靴底が硬いハイヒールなどをなるべく履かないようにしましょう。
  • 長時間の立ち仕事は避けてください。

【病院へ連絡する基準に関して】

  • 手のひらや足の裏を毎日観察してください。痛みを伴う皮膚症状(紅斑(発赤)、腫脹(はれ)、水疱、びらん)が出現した場合には、病院へ連絡してください。

【その他】

  • 手足症候群は適切な処置により良くなることがわかっています。また、手足症候群によって一時的に薬を休んでも、適切に治療を継続すればがんの治療効果には差がないという報告があります。
  • がん患者さんは多少の副作用は我慢される傾向があります。ところが、手足症候群を我慢すると症状が悪化してしまい、がんの治療自体を休止しなければならなくなります。一度悪化した手足症候群が軽快するまでに1ヵ月以上を要しますので、我慢してしまうと、むしろ治療再開が大幅に遅れることになってしまいます。そのため、症状は我慢せず伝えるようにしてください。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 手足症候群は、手や足に出現する紅斑(発赤)、腫脹、疼痛、色素沈着などを伴う皮膚症状の総称である。軽度のものでは、感覚異常、紅斑、色素沈着に終わる。高度のものでは、疼痛を伴った紅斑(発赤)、腫脹、水疱、びらんを形成することもある。手掌・足底は角化、落屑が著明になり、亀裂を生じるようになり、知覚過敏、物がつかめない、歩行困難などの機能障害を伴った症状や指紋消失がみられることもある。
  • 患者側のリスク因子 : 高齢者、貧血、腎機能障害を有する患者にGrade2以上の手足症候群が発現することが多い。
  • カペシタビンやステロイド外用剤の長期使用により皮膚が薄く弱くなったりするので、軽くぶつけただけで皮膚に傷ができることもある(写真)。保護についても指導することが必要である。
写真

【手足症候群評価のポイント】

  • 数字で判定する客観的検査と異なり、手足症候群の判定には痛みや機能障害の有無といった主観的要素が含まれる。
  • Grade分類は、CTCAE v5.0の分類(表)とBlumの分類がある。CTCAE v5.0は、症状と機能を一緒にした記載となっており、Blumの分類は症状と機能を二分し、Grade1(臨床領域:しびれ、皮膚知覚過敏、ヒリヒリ・チクチク感、無痛性腫脹、無痛性紅斑 機能領域:日常生活に制限を受けることのない症状)、Grade2(臨床領域:腫脹を伴う有痛性皮膚紅斑 機能領域:日常生活に制限を受ける症状、Grade3(臨床領域:湿性落屑、潰瘍、水疱、強い痛み 機能領域:日常生活を遂行できない症状)で評価する。
    表 CTCAE v5.0 「Palmar-plantar erythrodysesthesia syndrome(手掌・足底発赤知覚不全症候群)」
  • Grade判定の目安としては、初期症状である手足がヒリヒリまたはチクチクするなどといった感覚異常はGrade1、はっきりとした痛みを伴う場合はGrade2、日常生活に支障をきたす場合はGrade3となる。機能障害の程度の判定は、箸が持てない、ボタンがかけられない、歩行ができないなどを指標とする。
  • CapeOX療法においては、オキサリプラチンによる末梢神経障害なのか、カペシタビンによる手足症候群なのか判断に迷う可能性もある。患者の訴え(温めると痛い、冷たいと痛い など)、各薬剤の投与時期と副作用の発現時期、患者の症状などを確認し、総合的に判断する必要がある。
Blum JL, et al.: J Clin Oncol. 1999; 17: 485-93.

【手足症候群対策のポイント】

  • 手足症候群は基本的には急性毒性で累積性はないので休薬が有効である。原則として、Grade2以上でカペシタビンの休薬・減量を考慮する必要がある。手足症候群はいったんGrade3まで悪化してしまうと休薬後の回復に時間がかかることが指摘されているため、適切な対応を行い、Grade3へと悪化させないことが重要である。
  • 具体的には、カペシタビンでは手足症候群が進行していく場合、紅斑(発赤)・腫脹から皮膚表面に光沢が生じ、指先の指紋や手掌・足底の皮膚紋が消失する傾向が見られ、次第に疼痛が出現してGrade2に進行することが多い。このことを見逃さないように注意する必要があり、Grade2の手足症候群発現時には直ちに休薬することが推奨される。タイミングを逸してGrade3に悪化してしまった場合も可能な限り早急に休薬する。
  • 大腸がんや乳がんの治療において、副作用発現時にカペシタビンの休薬・減量や投与延期を行っても治療効果は低下しない。
今、発現している副作用のグレードは?

【その他】

  • 発現機序 : 現在のところ明確な発現機序は不明である。皮膚基底細胞の増殖能の阻害、エクリン汗腺からの薬剤分泌が原因として考えられている。
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