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2023.10.19
DC-003434
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キナーゼ阻害剤による手足症候群の対処法

監修がん研究会有明病院 薬剤部 前 勇太郎 先生

副作用:手足症候群 頻発抗がん剤:キナーゼ阻害剤(ソラフェニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ等)

好発時期・初期症状

【好発時期】

  • フッ化ピリミジン系薬剤等に比べ、比較的早期に発現し、数日〜数週で発現することもある。従って、投与前からしっかりとした予防対策を講じることが重要である。
    また、皮膚症状は投与終了後も1ヵ月以上持続することもあり、投与終了後も対策を続ける必要がある。

【特徴】

  • 皮膚症状が現れる前の初期症状として、チクチク感、ヒリヒリ感などの違和感が認められることがある。
  • 皮膚症状は荷重部位に発症しやすく、初期では限局性の紅斑が認められ、通常、疼痛を伴う。フッ化ピリミジン系薬剤等による手足症候群と初期皮膚所見が異なる場合がある。
  • 症状が進行すると、著明な紅斑、水疱形成、強い疼痛が認められ、日常生活に支障が生じる。

ソラフェニブによる手足症候群(Grade3)
手指に限局性の紅斑が認められる。疼痛を伴い物が握れない等、日常生活に支障を来す。

スニチニブによる手足症候群(Grade3)
足底全体に鱗屑・痂皮を伴うび漫性の紅斑がみられ、土踏まず部などには表皮下水疱(ないし膿疱)を反映する黄白色皮疹が認められる。

厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 平成22年3月(令和元年9月改定)より引用

  • 手足症候群と同義語にキナーゼ阻害薬による手足中心の皮膚障害を手足皮膚反応(Hand foot skin reaction (HFSR))と呼ぶこともある。

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

【予防】

  • 荷重部位に発症しやすいため、鶏眼(ウオノメ)・胼胝(タコ)がある場合は、治療開始前に処置する。患者自身がかみそりなどを用いて処置しようとすると皮膚を損傷する可能性があるため、場合によっては皮膚科への受診を勧める。
    また、角質重複部はサリチル酸ワセリンで軟化させることが重要となる。サリチル酸は、角質重複部の軟化に奏功するが、潰瘍や亀裂を生じている場合に滲みることがあるので痛みがある場合は避ける。尿素軟膏にも同様に角質軟化効果はある。
  • 予防・対策の基本は「保湿、保清、保護」となる。
  • 手足の保湿が発症予防・症状軽減につながるため、下記のタイミングを目安に、治療開始時より保湿剤(白色ワセリン、ヘパリン類似物質、尿素含有製剤など)を塗布する。
    ・ 最低、1日2~3回は保湿剤を塗布する。
    ・ 手洗い後や入浴後は乾燥しやすいため、なるべく10分以内に毎回保湿剤を塗布する。入浴直後でなくても保湿効果は変わらないという報告もあり、大切なのは1日1回、至適量以上を塗ることである。
    ・ 就寝中に乾燥しないよう就寝前に塗布し、木綿の手袋や靴下を着用するとよい。
  • 保湿剤使用量の目安は、大人の両手分で1FTU(大人の人差し指の一番先から第1関節に乗る量、約0.5g)が基本となる。片手および片足に塗る至適量は、それぞれ1FTUおよび2FTUである。
  • 圧力、熱、摩擦が、発症・悪化のリスク因子となるため、これらを回避する。ただし、下記のような対処をそのまま伝えることは患者に過度の生活制限をかけることにつながる可能性がある。下記はあくまで一例としてとらえ、患者の症状や理解度、生活環境を考慮して指導する必要がある。
【日常生活の指導の例】
  •  <圧力、摩擦>
    ・ きつくない木綿の靴下などを着用する。
    ・ ヒールや革靴などの硬い靴、サイズの合わない靴は避け、柔らかいスニーカーやサンダルを履く。また、圧のかかりにくい靴の中敷(ジェルや低反発のもの)を使用する。土踏まずにソールを入れて、踵などから体重分散することがよい。
    ・長時間の立ち仕事や歩行、ジョギングは避ける。
    ・ 洗顔・入浴の際は過度に皮脂を落とさないようにする。また、石鹸は良く泡立て良くすすぎ、ナイロンタオル等の使用は避ける。
    ・ ゆるめの衣服を着用するなど、衣服や労作による刺激を避ける。
  •  <熱、刺激など>
    ・ 入浴・シャワーは、低めの湯温とする。また、長時間の入浴は避ける。
    ・ 水仕事を行う場合は、ゴム手袋を着用し、直接皮膚に洗剤類がかからないようにする。
    ・包丁やガーデニング用具など握りしめる物を使う時は、握りしめる時間を短くしたり、圧をかけなくてよいもの(ピーラーなど)を使用したりする。
    ・ 外に出る際は直射日光を避け、日焼け止めを使用する。日焼け止めは、SPF25以上のものが臨床試験でも使用されている。長袖、帽子でも日光は回避できる。

参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 平成22年3月(令和元年9月改定)

【治療】

  • 皮膚症状が認められたら、保湿剤に加えて、very strong ~ strongestクラスのステロイド外用薬を塗布する。
  • 炎症に対しては、経口の非ステロイド性抗炎症薬を用いる。
  • 手足症候群の予防に臨床用量のセレコキシブ内服の有効性がメタアナリシスで証明されている 1-3)。ただし、その用途には保険適用外である。
  • 掻痒に対しては、抗ヒスタミン薬(外用ジフェンヒドラミンなど)を用いる。
  • 機械的刺激から保護するため、創傷被覆材を使用することも考慮する。
  • 休薬によって比較的速やかに改善するため、発症後早期の休薬・用量調整が重要となる。症状の重症度に応じて、各薬剤の添付文書に従い減量・休薬を行う。目安として、紅斑、水疱、疼痛などの中等症以上の症状がみられて日常生活に差し支えるような場合に減量・休薬が必要となる。

参考:

  • がん治療におけるアピアランスケアガイドライン2021年版
    重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群 平成22年3月(令和元年9月改定)
  • 1) Macedo LT, et al.: Support Care Cancer. 2014: 6: 1585-93.
  • 2) Pandy JGP, et al.: Support Care Cancer. 2022: 11: 8655-66.
  • 3) Ramasubbu MK, et al.: BMJ Support Palliat Care.2022: spcare-2022-004011.
参考:CTCAE v5.0による手掌・足底発赤知覚不全症候群の重症度

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

【発現頻度・時期について】

  • キナーゼ阻害剤の中でも薬剤によって異なりますが、ほとんどの人に出現する副作用です。また、出現する時期も早期に出る場合や急激に悪化する場合があります。
  • 圧力のかかるところに出現することが多いです。手を使うお仕事の人は手に、よく歩くお仕事の人は足に出現することが多いです。

【軟膏を使用するタイミング】

  • 保湿剤は治療開始から2回/日以上手足にすり込むように塗りましょう。
  • ステロイド剤の軟膏は赤みが出たり、痛みが出てきたら塗りましょう。治療の薬剤によっては早期からでることもありますので、治療開始時にもらっておくと安心です。

【病院への連絡のタイミング】

  • 手足の痛みがあれば連絡してください。その時に治療薬を継続するかどうかも確認してください。
  • 急激に悪化する場合があるため、我慢せず早めに連絡してください。

【その他】

  • 治療開始後少なくとも1ヵ月後程度は毎週受診した方がよいと思います。症状が安定したら受診間隔を延長していきます。
  • 症状を適切に医師、薬剤師に伝えるため、治療日誌をつけることをお勧めします。

大切なのは、Grade3にしないことです。Grade2で休薬させ回復を待つことです。患者や時に医師も治療を進め、休薬を嫌うばかりに症状が進行することがあります。症状がGrade3になってからの回復は、遅く日常生活動作(ADL)に大きく影響する手足の皮膚障害は、大きくQOL低下要因になりますので、時に休薬を進めることは、指導のポイントです。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 初回治療時に保湿剤とステロイド軟膏の使い分けについて重点的に指導を行う。症状が出ていないと軟膏の塗布を継続できない患者もいるため、診察毎に確認を行い、アドヒアランスの向上を目指す。
  • 見たこと、経験したことのない副作用だと、症状が強く出るまで我慢してしまう患者も少なくない。そのため、アドヒアランスが向上するような患者指導が重要となる。
    (例)
    ・ 予めGrade2程度の症状を写真で見せて想像してもらう
    ・ 外用剤の塗布で症状が軽減できることを説明する
    ・ 症状が増悪した場合の不利益性を説明する
    ・ 保湿、保清、保護という包括的な皮膚ケアができていたら、引き続きモチベーションが維持されるよう励ます など
  • 上記のキナーゼ阻害剤の中でも発現率、発現時期が異なる。臨床試験のデータを確認したうえで、実臨床に活かしていく。また、日本人の発現率が高い薬剤(レゴラフェニブの場合、全Grade:80%、Grade3以上:27.7%)は日本人データも確認し指導を行うこと。
  • 手や足の使用頻度によっても症状が変わる可能性があるため、職業や生活スタイルを確認し指導に活かしていくとよい。
  • 保湿剤を塗る順番(ステロイドの前、後など)やタイミング(入浴後、洗顔後など)に言及しすぎると「ステロイドを塗らない=保湿剤も塗らない」「入浴・洗顔しない=塗らない」といった行動パターンとなる可能性もある。

【手足症候群対策のポイント】

  • 症状の出現する前から保湿剤の塗布の徹底を指導する。
  • 皮膚の赤みや痛みが出現するようならステロイド軟膏を開始する。ステロイド軟膏のランクは徐々に上げていくのが一般的であるが、症状の急激な悪化が見込まれる際はstrongestのステロイド軟膏を最初から使用することも必要である。(レゴラフェニブなどの場合、ステロイド軟膏を予防投与することもある)
  • 手足症候群の症状出現がある方が治療効果が高いという報告もあり、予後予測因子となる可能性がある。また、用量強度を維持したい術後化学療法の場合、皮膚症状によって安易に休薬したり減量することは不利益となる。皮膚症状は日常的なケア次第で軽減できるので、患者のアドヒアランスをあげる指導が重要である。
    一方で、発症後の早期休薬や用量調整も治療継続に大切な要素となるので、必要時には患者や医師に提案できるようにしておく。

【その他】

  • キナーゼ阻害剤において手足症候群の対策を行うことは必須であるため、薬剤導入前から医師、薬剤師、看護師が連携し、評価方法、支持療法薬の確認、副作用出現時の対応などを決めておくことが重要である。万全な準備を行うことで患者に対して平等な医療が提供できると考える。
  • 併発する可能性のある皮膚症状(ざ瘡様皮膚炎など)や爪囲炎などについても特徴や好発時期を把握しておく。

参考:Grothey A, et al.: Lancet. 2013; 381: 303-12.
Amado RG, et al.: J Clin Oncol. 2008; 26: 1626-34.
Zielinski C, et al.: Br J Cancer. 2016; 114: 163-70.

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