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2024.2.15
DC-004058
DC-004058
分子標的薬による高血圧の対処法
岩手医科大学附属病院 薬剤部 薬剤長 二瓶 哲 先生
【好発時期】
- ●投与初期から1~2ヵ月以内に発現する場合が多い。治療期間を通していつでも発現する可能性はある。
- ●血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬における高血圧は可逆的であることから、VEGF阻害薬の中止・減量により高血圧は改善することが多い。
- ●中止後の回復期間は明らかになっていないが、各薬剤の半減期を考慮する必要がある。チロシンキナーゼ阻害薬は数日の休薬で、抗体薬は数週間の休薬で血圧が回復することが多い。
【特徴】
- ●VEGF阻害作用を有する抗体医薬やマルチキナーゼ阻害薬が原因となり得る。
- ●VEGF阻害は、血管内皮の機能的変化(血管拡張作用を有するNOの産生低下など)および器質的変化(微小血管床減少による血管抵抗性増加など)を介して血圧上昇が生じると考えられている。
- ●既存の高血圧、年齢≧60歳、 BMI≧25kg/m2はVEGF阻害薬による高血圧のリスク因子である。
- ●高血圧は無症候であることが多いが、急激に血圧上昇が生じた際は頭痛、めまい、吐き気などを訴える場合もある。
- ●極めて稀であるが、高血圧性脳症又は高血圧性クリーゼにおいては死亡に至った例が報告されている。
- ●高血圧の発症はVEGF阻害薬の治療効果と相関するという報告があり、高血圧を上手くコントロールしながらVEGF阻害薬を投与継続することが重要である。
参考:
- Hamnvik OP, et al.: Cancer. 2015; 121: 311-19.
- Dahlberg SE, et al.: J Clin Oncol. 2010; 28: 949-54.
【予防】
- ●循環器系の基礎疾患がある患者では、高血圧を放置すると脳・心血管イベントや腎機能障害のリスクが上昇するため、治療開始前に心血管リスクを包括的に評価する。
- ●『高血圧治療ガイドライン2019』に準じて140/90mmHg未満(診察室血圧の場合)を降圧の目標とする。必要に応じて専門医と連携して管理を行う。
- ●VEGF阻害薬を投与する患者に対しては、全員に治療開始前および治療期間中の血圧モニタリングを実施する。
- ●血圧測定については、診療室血圧の測定のみでは十分でなく、家庭血圧の測定と血圧手帳等への記録を指導する。 家庭血圧と診察室血圧に差があった場合には、家庭血圧による評価を優先する。
【治療】
- ●降圧薬治療を開始する目安は、140/90mmHg以上(Grade2)である。
- ●最大限の降圧薬治療にも係わらず160/100mmHg以上(Grade3)となる場合は、降圧薬の追加や薬剤変更を考慮するとともに、VEGF阻害薬の休薬が推奨される。
- ●『高血圧治療ガイドライン2019』では、第一選択薬としてARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、利尿薬、β遮断薬の5種類の主要降圧薬の中から、積極的適応、禁忌、慎重投与となる病態を考慮して選択することを推奨している。
- ●VEGF阻害薬の高血圧に対して特定の薬剤が優れているという根拠はないが、第一選択薬としてARBまたはACE阻害薬、Ca拮抗薬(ジヒドロピリミジン系)のいずれかが選択されることが多い。
- ●ARBまたはACE阻害薬は、蛋白尿にも有益な効果が期待できる可能性があり、蛋白尿を併存する場合は積極的適応となる。血清クレアチニン上昇や高カリウム血症の副作用に注意が必要である。
- ●Ca拮抗薬は、降圧効果が比較的強く、かつ副作用が少ないため、高齢者や合併症の有無にかかわらず幅広く選択される。非ジヒドロピリジン系はCYP3A4阻害による薬物相互作用の可能性があるため推奨されない。
- ●利尿薬(サイアザイド系)やβ遮断薬(含αβ遮断薬)は、積極的適応を除き単剤で選択されることは少ない。
- ●降圧効果が不十分な場合、降圧薬の増量よりも、種類の異なった他の降圧薬を少量ずつ併用する方が良好な降圧効果が得られやすい。2種類の降圧薬でもコントロール不良の場合には専門医への紹介を推奨する。
参考:
- 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 2019
- Cohen JB, et al.: Hypertension. 2023; 80: e46-e57.
- Camarda N, et al.: Curr Oncol Rep. 2022; 24: 463-74.
参考:CTCAE v5.0による高血圧の重症度
有害事象共通用語規準 v5.0 日本語訳JCOG版
【高血圧について】
- ●治療期間中は、高血圧になることがあります。
- ●高血圧を放っておくと、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病など病気になることもあります。
- ●無症状のことが多く気づきにくいため、家でも毎日血圧を測定するようにしてください。
- ●塩分の摂りすぎは、高血圧を誘発し、薬剤による高血圧を悪化させる可能性があるので、食事に気をつけましょう。高血圧治療ガイドラインでは、高血圧の人だけでなく、血圧が正常な人にも、食塩として1日6グラム未満が推奨されています。過度な減塩は食欲不振になるので、スパイス(唐辛子、山椒、カレー粉など)や酸味(酢、レモン汁など)、薬味(青じそ、しょうがなど)などで味のアクセントをつけるとよいでしょう。
【血圧測定のポイント】
- ●できるだけいつも同じ時間に測定しましょう。
- ●朝に測る場合は起床後1時間以内、食前(服薬前)、排尿後に、夜に測る場合は就寝前に測りましょう。
- ●測定前に喫煙、飲酒、カフェインの摂取は避けましょう。
- ●椅子に座って1~2分の安静後に測りましょう。
- ●腕を机などに乗せ、心臓と二の腕が同じ高さになるようにしましょう。
- ●上腕タイプの血圧計を使用してください。市販されているものであれば問題ありません。手首タイプの血圧計の使用は勧奨されません。
【血圧が高いときの対応】
- ●急に血圧が上昇(180/120mmHg以上)し、意識がもうろうとしたり、頭痛、めまい、吐き気などがある場合は、医療機関にすぐに連絡してください。
- ●治療開始前と比べて血圧に変化がみられた場合、あるいは140/90mmHg以上の場合には、担当の医師や薬剤師にご相談ください。
- ●血圧が高い場合でも、多くの場合は血圧を下げるお薬を服用することで治療を続けることができます。
- ●血圧を下げるお薬を服用しても血圧が安定しない場合には、医師の判断により治療のお薬を減量したり、休薬することがありますが、血圧が安定すれば治療を再開することができます。
- ●血圧を下げるお薬が処方された場合は、忘れずに服用してください。血圧を下げるお薬を中止すると多くの場合は血圧が上がるため、服用を継続することが大切です。
参考:van Doorn L, et al.: Br J Cancer. 2023; 128: 354-62.
【朝や夜に血圧を測定するのはなぜ?】
- ●血圧は1日の中で大きく変動する(日内変動)。血圧は夜になるにつれて下降し、睡眠中にさらに低くなり、起床とともに上昇する。早朝高血圧は、心筋梗塞や脳卒中などの脳心血管疾患イベントにつながる可能性が高く、夜間や早朝の血圧コントロールが重要視されている。朝(起床後)の血圧測定は早朝高血圧を見逃さないために重要である。夜(就寝前)の血圧は1日の平均的な値が出ると言われている。
【一度の血圧測定では評価できない!】
- ●血圧は日内変動のほか、食事や運動、ストレス、気温の変化など様々な要因で変動する。常に一定ではないので、たった一度の測定では血圧は決められない。1回でも目標値を超えたらダメというわけではなく、できるだけ長期間(最低でも1週間以上の血圧の平均)を評価することが基本である。
【拡張期高血圧にはどのように対応するか?】
- ●収縮期血圧は加齢に伴い高齢に至るまで上昇していくが、拡張期血圧は50歳代をピークにして以降減少に転じる。
拡張期高血圧は若年・中年層にみられるが、収縮期血圧が120~130mmHgくらいであれば、拡張期血圧が90mmHg台でも心血管イベントのリスクの増加は明らかではないため、積極的に介入する必要性はあまりない。ただし、高齢者の拡張期高血圧においては、腎血管性高血圧をスクリーニングすることを推奨する。
【VEGF阻害薬中止後の血圧変化にも注意!】
- ●VEGF阻害薬を中止した場合は、その後の血圧変化も注意深く観察する。VEGF阻害薬中止後は高血圧が改善することが多く、降圧薬をそのまま服用していると過度な血圧低下を起こすこともあるため、降圧薬の用量設定や継続の可否を検討する必要がある。