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抗がん剤全般によるインフュージョンリアクション・アナフィラキシーの対処法
がん研究会有明病院 薬剤部 友松 拓哉 先生
【好発時期】
インフュージョンリアクション
- ●薬剤によって違いはあるが、投与開始直後~投与開始後24時間以内に発現することが多く、投与速度上昇時にも発現しやすい。
- ●初回投与時が最も発現率が高く、2回目以降では低下することが多い。
アナフィラキシー
- ●投与開始直後~5分以内に生じることがあり、通常30分以内に発現することが多い。投与開始から発現までの時間が短いほど、重症化しやすい。
- ●薬剤により好発時期は異なる。タキサン系抗がん剤では初回投与時の発現率が高いが、プラチナ系抗がん剤では投与を繰り返すことで発現率が高くなる。
【特徴】
インフュージョンリアクション
- ●症状:非特異的であり、明確な診断基準はない。主な症状は、抗がん剤投与の数分~数時間後に、皮膚・粘膜症状(紅潮、蕁麻疹、掻痒症)が最大90%、呼吸器症状(喘鳴)が40%、循環器症状(血圧低下)が30~35%、消化器症状(悪心、嘔吐、痙攣、下痢)が発現する1-3)。症状の反応が急速に進行するほど、重症化する可能性が高い4)。
- ●発現機序:明確ではないものの、抗体薬と各種生体細胞、腫瘍細胞の反応により血中に炎症性サイトカインなどが放出されることで症状が惹起される、サイトカイン放出症候群の1つと考えられている。非アレルギー性の反応であり、抗原としての感作を必要とせず発現するため、ほとんどが初回投与時、かつ投与開始から24時間以内に生じるとされている5)。
- ●代表的な薬剤と発現率:モノクローナル抗体には、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト型抗体の4種類があり、挙げた順に異種タンパク由来の割合が高くなり、発現頻度も理論上高くなる。一例として、抗CD20抗体のリツキシマブはキメラ抗体であり、発現率は非ホジキンリンパ腫では77%とされる6)。一方、抗CD38抗体のダラツムマブはヒト型抗体であるものの、抗体依存性細胞傷害作用や補体依存性細胞傷害作用などを有し、各種サイトカインの放出を誘導するため、静脈投与時において40~50%と高頻度でインフュージョンリアクションを生じると報告されている7)。
アナフィラキシー
-
●以下の2つの基準のいずれかを満たす場合、アナフィラキシーである可能性が非常に高いとされる8)。
- 1. 皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間で)発症し、さらに少なくとも次の1つを伴う場合。
A. 気道/呼吸:呼吸不全(呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支攣縮、吸気性喘鳴、最大呼気速度低下、低酸素血症など)
B. 循環器:血圧低下または臓器不全を伴う症状(筋緊張低下[虚脱]、失神、失禁など)
C. その他:重度の消化器症状(重度の痙攣性腹痛、反復性嘔吐など) - 2. 典型的な皮膚症状を伴わなくても、投与後に、血圧低下(収縮期血圧が平常時の70%未満または成人で収縮期血圧が90mmHg未満)または気管支攣縮または喉頭症状(呼気性喘鳴、変声、嚥下痛など)が急速に(数分~数時間で)発症した場合。
- 1. 皮膚、粘膜、またはその両方の症状(全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・舌・口蓋垂の腫脹など)が急速に(数分~数時間で)発症し、さらに少なくとも次の1つを伴う場合。
- ●発現機序:主にIgEを介するGell & Cooms分類のⅠ型(即時型)アレルギー反応に分類される。ヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質が放出されることで生じ、全身の各標的器官でアレルギー反応を起こして全身症状の発現をみるものである。
- ●代表的な薬剤と発現率:あらゆる抗がん剤で起こる可能性があるが、代表的な薬剤と発現頻度、特徴を以下に示す。
参考:
- 1) Peavy RD, et al.: Curr Opin Allergy Clin Immunol. 2008: 8: 310–15.
- 2) Gleich GJ, et al.: Oncol (Williston Park). 2009: 23: 7-13.
- 3) Vultaggio A, et al.: Immunol Allergy Clin North Am. 2014: 34: 615–32.
- 4) Rosello S, et al.: Ann. Oncol. 2017: 28: iv100-8.
- 5) Lenz HJ.: Oncologist. 2007: 12: 601-9.
- 6) Joerger M.: Ann. Oncol 2012: 23: x313-9.
- 7) Voorhees PM, et al.: Blood 2015: 126: 1829.
- 8) 一般社団法人 日本アレルギー学会. アナフィラキシーガイドライン2022.
- 9) Makrilia N, et al.: Met Based Drugs. 2010: 1-11.
※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要
【予防】
インフュージョンリアクション
- ●前投与 : 副腎皮質ステロイド剤、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、解熱鎮痛剤などの前投与の有用性が確立している薬剤もある。各薬剤の電子添文や適正使用ガイドに記載がある場合は確実に実施する。
- ●投与速度の制限 : 投与速度とインフュージョンリアクションの発現には相関があるため、電子添文上で投与速度が規定されている薬剤においては、そちらを遵守する。なお、インフュージョンリアクションの発現がなければ、投与速度を上げることができる薬剤も多い。
- ●患者指導 : インフュージョンリアクション発現の可能性について説明し、なにか違和感がある場合はすぐに医療スタッフに伝えるように指導する。
- ●体制整備 : 医療スタッフ間で緊急時の対応情報等をあらかじめ共有し、必要な薬剤や設備を用意する等、体制を整えておく。
アナフィラキシー
- ●前投与 : 副腎皮質ステロイド剤、ヒスタミンH1受容体拮抗薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬などの前投与の有用性が確立している薬剤もある。各薬剤の電子添文や適正使用ガイドに記載がある場合は確実に実施する。
- ●アレルギー歴の確認 : アレルギー歴は、発症リスクとなるため事前に必ず確認する。また、添加剤としてアルコールが含まれている薬剤を投与する場合は、アルコール不耐症も確認する。
- ●患者指導 : アナフィラキシー発現の可能性について説明し、なにか違和感がある場合はすぐに医療スタッフに伝えるように指導する。
- ●体制整備 : 医療スタッフ間で緊急時の対応情報等をあらかじめ共有し、必要な薬剤や設備を用意する等、体制を整えておく。
【治療】
インフュージョンリアクション
- ●投与開始後より患者を観察し、自覚・他覚的に現れる軽度の徴候(搔痒感、顔が赤い、動悸、くしゃみ、気分不快など)を見逃さず、発現が疑われたら迅速に対応を行う。
- ●症状の程度により、患者の様子を確認しながら下記のような対応を行う。重症のインフュージョンリアクション発現後の再投与については基準が確立されていないことが多く、再投与不可とされている薬剤もある。そのため、リスクと治療の有益性を考慮し、各薬剤の電子添文や適正使用ガイドなどを参考に、慎重に判断をする必要がある。
参考:CTCAE v5.0による注入に伴う反応の重症度
有害事象共通用語規準 v5.0 日本語訳JCOG版
アナフィラキシー
- ●投与開始後より患者を観察し、自覚・他覚的に現れる軽度の徴候(搔痒感、顔が赤い、動悸、くしゃみ、気分不快など)を見逃さず、発現が疑われたら迅速に対応を行う。
- ●発現時には症状の程度にかかわらず、速やかに投与を中止する。バイタルサイン、心電図のモニタリング等の十分な観察を行い、症状の程度を確認しながら下記のような対応を行う。なお、発現時は軽症であっても、急速に重症化することがあるので慎重に対応する。
- ●アナフィラキシーが発現した薬剤の再投与は行わない。
参考:CTCAE v5.0によるアレルギー反応・アナフィラキシーの重症度
有害事象共通用語規準 v5.0 日本語訳JCOG版
【リスク因子】
インフュージョンリアクション
-
●下記のように、リスク因子が電子添文に明記されている薬剤もある。
- ・リツキシマブ : 血液中に大量の腫瘍細胞がある(25,000/μL以上)など腫瘍量の多い患者、脾腫を伴う患者、心機能、肺機能障害を有する患者
- ・トラスツズマブ : 安静時呼吸困難(肺転移、循環器疾患等による)のある患者又はその既往歴のある患者
<インフュージョンリアクション>
【病態について】
- ●抗がん剤の投与中または投与後24時間以内に多く現れる合併症です。
- ●比較的軽症から中等症では、発熱、悪寒、筋肉痛、皮疹、倦怠感、頭痛などのインフルエンザ様症状や掻痒感が出現します。重症の場合、アナフィラキシー様症状や呼吸症状、低血圧、頻脈などの症状が出現することがあります。
【発現頻度、時期】
- ●一般に投与中に発現することが多く、特に投与直後や投与速度を上げた後に発現することが多いです。
- ●多くが初回投与時に発現し、2回目以降は発現頻度が低下し、症状の程度も軽減します。
【指導時の留意事項】
- ●我慢せず何か少しでもおかしいと感じたら直ちに医療者に伝えましょう。我慢し様子をみてしまうと、重症となるケースがあります。
- ●症状発現後も、程度により点滴の減速や症状を緩和するアレルギー用薬などを追加することで軽快する場合が多く、投与再開が可能です。
<アナフィラキシー>
【病態について】
- ●抗がん剤による過敏反応です。
- ●多くは、顔面紅潮や蕁麻疹がみられます。程度によって喘鳴や呼吸苦などの呼吸器症状や血圧低下、また、吐き気や嘔吐などの消化器症状が出現します。
【発現頻度、時期】
- ●多くは投与開始直後から30分以内に発現します。
- ●多くの抗がん剤は、初回または2回目投与時に発現しますが、プラチナ系抗がん剤は、繰り返し投与により症状が発現しやすくなります。
【指導時の留意事項】
- ●我慢せず何か少しでもおかしいと感じたら直ちに医療者に伝えましょう。我慢し様子をみてしまうと、重症となるケースがあります。
<インフュージョンリアクション>
【予防対策のポイント】
- ●規定された前投薬の投与と点滴速度を遵守することが重要である。レジメン管理による院内共通ルールを整備することが望ましい。点滴速度に関連して、抗がん剤の投与終了時にはまだ点滴ルート内に薬剤が残っているため、次の薬剤に変更する際に急速投与とならないよう投与スケジュールに留意する。
【治療のポイント】
<アナフィラキシー>
【予防対策のポイント】
- ●前投薬など予防が推奨されている抗がん剤は、必ず対策することが重要である。
- ●症状発現時に速やかに対応できるように、発現リスクをあらかじめ想定しておく。主な危険因子は、加齢や慢性呼吸器疾患、心血管疾患、併用薬(β受容体遮断剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤など)である。
【治療のポイント】
- ●早期発見・早期対応が重要である。緊急時の対応フローや使用薬剤・物品の配置など、事前に体制を整備しておく。
- ●投与する薬剤については、次のような点に留意し、使用する。
- ●ヒスタミンH1受容体拮抗薬は掻痒感、紅潮、蕁麻疹、血管浮腫、鼻及び眼の症状を緩和するが、呼吸器症状には無効である。
- ●第二世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬は、第一世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬と同等の効果があり、眠気などの副作用が少ない可能性があるが、十分なデータはない。
- ●β2受容体刺激剤の吸入は、喘鳴、咳嗽、息切れなどの下気道症状には有効であるが、上気道閉塞などの症状には無効である。
- ●副腎皮質ステロイド剤は二相性アナフィラキシーを予防する目的で使用する。
参考:S. Rosello, et al.: Ann. Oncol. 2017; 28: 100-18.