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2024.3.1
DC-003610
DC-003610
S-1、カペシタビンなどフッ化ピリミジン系経口剤による
流涙(眼症状)の対処法
静岡県立静岡がんセンター 薬剤部 副薬剤長 石川 寛 先生
【好発時期】
- ●投与開始から3カ月以内に発症することが多いが、いつでも発症しうる副作用である。
- ●流涙症研究会が実施したS-1による涙道障害の多施設研究1)では、発生頻度は約10~25%、発症時期は6.8~15.2ヵ月で、大半が両側性で、涙点や涙小管が影響を受けやすいことが示されている。
1) 坂井 譲, 他: 臨床眼科. 2012; 66: 271-4.
【特徴】
- ●フルオロウラシルが涙液中に移行し、角膜障害と涙道障害を生じることが原因と考えられている。なお、重症化すると不可逆的な変化に至る可能性がある。
- ・角膜障害:細胞分裂が活発な角膜上皮細胞や角膜上皮環細胞を障害することで発症すると考えられている。
- ・涙道障害:涙液が涙道を通過する際に、涙道粘膜の炎症や涙道扁平上皮の肥厚と間質の線維化を引き起こし、涙道の狭窄・閉塞が生じると考えられている。
【予防】
- ●抗がん剤のウォッシュアウトを目的に、防腐剤を含まない人工涙液を1日6回以上点眼する。
- ●ヒアルロン酸含有の涙液は、粘稠度の高さから涙液停滞を引き起こし、増加させる可能性があるため選択しない。
【治療】
- ●重症化する前に眼科を受診するようにする。10-20%が不可逆的になるため、早期受診が必要である。
- ●眼科では、涙道通水検査(涙点より生理食塩水を流し、鼻の方に流れるかを確認する)などを行い、涙道の狭窄・閉塞の程度を確認する。
- ●軽症(涙点の閉塞がない、通水時に逆流がない)
- ・予防と同様に、抗がん剤のウォッシュアウトを目的に、防腐剤を含まない人工涙液を1日6回以上点眼する。
- ・重症化する前に、早めの涙道チューブ留置術(ヌンチャク型の涙道チューブを涙点から挿入して留置)を検討する。治療途中でチューブを抜去すると再狭窄・閉塞の恐れがあるため、治療終了まで留置するのがよい。
- ●重症(涙点の閉塞がある、通水時に逆流がみられる)
- ・涙道チューブ留置術を行う。
- ・涙道チューブ留置術で改善しない場合は、外科的処置(涙嚢鼻腔吻合術:涙嚢と鼻腔を直接つなげることで、涙道とは別のバイパスを形成する)を検討する。
- ・被疑薬の減量・休薬・中止を検討する。他の薬剤への変更もありうるが、ただし、他の薬剤(例:ドセタキセルなど)でも同様の症状が知られるため注意が必要である。
- ・抗がん剤中止後もしばらくは人工涙液を使用し続ける。
- ・重症化した場合、人工涙液では治らない。
いくつかの報告では、症状に応じて治療薬として用いられている。- オキシブプロカイン塩酸塩点眼液(ラクリミン):涙液分泌抑制
- ステロイド(フルオロメトロン):涙管の炎症抑制
- プラノプロフェン(NSAIDs):涙管の炎症抑制
炎症による感染併発例には、キノロン(レボフロキサシン)点眼薬も使用する。 - ・結膜炎と眼脂以外は薬物治療で改善することが困難であるため、リスクとベネフィットを考えながら判断する。
参考:金澤 卓, 他:日本外科系連合学会誌. 2008; 33: 150-4.
柴原 弘明, 他: 癌と化学療法. 2010; 37: 1735-9.
参考:CTCAE v5.0による流涙の重症度
有害事象共通用語規準 v5.0 日本語訳JCOG版
- ●フッ化ピリミジン系抗がん剤による眼障害は早期に発見し、治療をすることで、原疾患に対する抗がん剤の治療を継続することができる。そのため、少しでも眼に違和感を感じた場合、医療者に伝えるように説明する。
- ●涙管狭窄は、流涙症としていつも泣いているように見えるため、先にご家族が気づくことがある。ご家族に伝えておくとよい。
- ●患者に眼障害(流涙など)の症状を、眼がうるむ感覚、涙があふれ出る感触、などと伝えても分かりにくい。
そのため、以下の症状のように簡単な表現で話をするとよい。
また、以下の項目で1つでも該当する症状があれば、医師に伝えるよう指導する。- □涙が多い、またはあふれる
- □眼やに(眼脂)が多い
- □見えにくい
- □眼がかすむ
- □眼が痛い
- □眼がゴロゴロする(異物感)
- □眼が赤い(充血)
- □かゆい、よく眼をこする
- □まぶしい
- ●防腐剤無添加であり、ヒアルロン酸ナトリウムやコンドロイチン硫酸等の粘性を上げる成分が含まれていない点眼薬(ソフトサンティア、ロートソフトワン点眼薬など)を1日6回、1回につき、2~3滴使用する。
- ●常に潤んでいるため目脂や感染症の原因となるため、眼をこすったりマスクが眼に触れないように注意する。
- ●サングラスや帽子などで眼を遮光するのは効果的である。
参考: あたらしい眼科. 2021; 38(1)
【服薬指導時に留意すべきポイント】
- ●抗がん剤による眼障害は、悪心・嘔吐等と比較すれば、まだ医療従事者の認知度が低い副作用である。また、患者自身も抗がん剤の副作用とは考えず、診察時に申し出ないため、発見が遅れがちとなり、症状が進行し、患者のQOLが低下する。そのため、抗がん剤導入時に早期発見の必要性を説明する。
- ●抗がん剤開始時までに眼症状の有無を確認する。もし、すでに眼の症状があれば抗がん剤由来ではない。抗がん剤以外にも抗菌薬や抗てんかん薬などの薬剤でも起こるという報告がある。また、季節性のアレルギー性結膜炎や花粉症などの病態や眼疾患や眼障害につながる疾患(糖尿病など)がないか、既往および合併症を確認する。そのため、すべてが抗がん剤由来ではないため、可能な限り鑑別を行い、みだりに抗がん剤の使用を中止しないようにする。
- ●抗がん剤による眼障害予防のため、抗がん剤を洗い流す目的で、防腐剤無添加の点眼薬を1日6回、1回につき、2~3滴使用する。眼障害発現前より使用することで、抗がん剤をWash Outできる。なお、ヒアルロン酸は、その粘稠性により、抗がん剤含有の涙液をうっ滞させ、さらに障害を悪化させる可能性があるため使用は避けるべきである。
- ●眼症状は、早期発見し眼科受診することと、適切な時期の休薬、中止などの対応が大切である。手遅れになると、治療中止後も症状が改善しないことがあり、日常生活に支障をきたすような重大な副作用と考える必要がある。また、患者の状況により休薬し難いケースも考えられるため、眼症状を重症化させないために、薬剤師と主治医と眼科医との情報共有が不可欠である。
参考:柏木広哉: 日本医事新報. 2013; 4641: 55-9.
細谷友雅: あたらしい眼科. 2008; 25(4): 449-53.