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2023.9.21
DC-003435
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抗がん剤全般による骨髄抑制の対処法

監修同志社女子大学 薬学部 教授 内田 まやこ 先生

副作用:骨髄抑制 頻発抗がん剤:抗がん剤全般

好発時期・初期症状

【好発時期】

好中球減少、血小板減少

赤血球減少

  • 一般的な好発時期であり、使用レジメンにより異なる。
    また、コースを重ねることで骨髄機能が低下し、重症化、持続期間・回復期間の延長がみられる。

CTCAE v5.0による骨髄抑制の重症度

※LLN:施設基準下限値

発熱性好中球減少症の定義
①好中球数が500/μL未満、または1000/μL未満で48時間以内に500/μL未満に減少すると予測される状態で、かつ②腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合を示す。

参考:日本臨床腫瘍学会 編集.: 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第2版). 南江堂. 2017

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

好中球減少、発熱性好中球減少症(FN)

【予防】

  • 好中球減少自体の予防ではなく、FNの発症予防として各種対策を行う。また、好中球低下の値だけではなく持続期間もリスク評価に必要である。
  • FN発症により、感染症だけではなく抗がん剤の減量や強度の低い治療への変更などによる治療効果の減弱も問題となる。そのため、FNは短期的および中長期的観点から予防が重要となる。
  • 化学療法開始前に、感染源となる不適合義歯やう蝕歯、歯周病、口腔カンジダ症等の有無確認、治療を行う。
  • 外来では、感染予防として帰宅時・食事前の手洗い・うがい、食事後の歯磨きの励行、外出時のマスク着用を指導する。
  • 各リスクを勘案して、下記薬剤を投与する。
<顆粒球刺激因子製剤(G-CSF)>

これまで「FN発症率20%」を基準にG-CSFの予防的投与が規定されていたが、科学的根拠の見直しに伴い、日本癌治療学会の「G-CSF適正使用ガイドライン2022年10月改訂第2版」では、癌種別に使用推奨が分かれている。

  1. 1. 一次予防的投与(1コース目より、好中球減少や発熱を確認することなく、FN予防目的で投与する)
    <強い推奨>
    1. ・乳がんに対する薬物療法
    <弱い推奨>
    1. ・非小細胞肺がんに対するドセタキセル+ラムシルマブ療法
    2. ・前立腺がんに対するカバジタキセル療法
    3. ・古典的ホジキンリンパ腫に対するBV-AVD療法
    4. ・B細胞リンパ腫に対する薬物療法
    5. ・T/NK細胞リンパ腫に対する薬物療法
    6. ・再発・難治リンパ腫に対する薬物療法
    7. ・成人急性リンパ性白血病に対する薬物療法
    8. ・好中球減少症が持続する骨髄異形成症候群
  2. 2. 二次予防的投与(前コースでFNを生じたり、遷延性の好中球減少で投与スケジュールの延期が必要となった場合に、次コースで予防的に投与する)
    <弱い推奨>
    1. ・悪性リンパ腫の薬物療法
    2. ・固形がん患者の薬物療法(特に治癒を含む十分な効果を期待でき、治療強度を下げないほうが良いと考えられる疾患)

参考:G-CSF適正使用ガイドライン 2022年10月改訂 第2版

<抗菌薬>

好中球数100/μL以下が7日を超えて継続することが予想される場合は、フルオロキノロンの予防投与が推奨される。

<抗真菌薬>

急性白血病(AML、ALL)、好中球減少を伴う骨髄異形成症候群、口内炎を伴う自家造血幹細胞移植時、同種造血幹細胞移植時、明らかなGVHD出現時は、フルコナゾールまたはイトラコナゾールの予防投与が推奨される。

<ST合剤>

急性リンパ性白血病、成人T細胞性白血病、リツキシマブ併用療法、プリンアナログなどT細胞を減少させる薬剤、ステロイド(プレドニン換算20mg)を4週間以上投与、放射線+テモゾロミド療法では、ニューモシスチス肺炎の予防としてST合剤(アレルギーなどの理由で投与できない場合は、ペンタミジンまたはアトバコン)の予防投与が推奨される。

<抗ウイルス薬>

プロテアソーム阻害薬では、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化予防として、アシクロビルまたはバラシクロビルの予防投与が推奨される。

【治療】

  • FNが重症化するリスクの層別化にMASCCスコアは有効であるが、低リスク患者でも約10%に重症化するリスクがある。
  • MASCCスコアはFN発症後のトリアージで、臨床症状の重症度、その他患者の状態に関する因子を用いて評価を行う。26点中、21点以上を低リスク群、20点以下を高リスク群とする。
  • 初期治療(経験的治療)の診療アルゴリズムは下記のとおりである。

<抗菌薬>

外来
  • 重症化リスクが低い場合は外来での治療も可能である。ただし、十分な経過観察が必要である。
  • 重症化リスクが低い場合は経口抗菌薬での治療も可能であり、日本での標準用量は、シプロフロキサシン200mg×3回/日、アモキシシリン250mg/クラブラン酸125mg×3回/日である。
    シプロフロキサシン単独は、グラム陽性菌に対する抗菌力が弱く推奨されない。モキシフロキサシンやレボフロキサシンは、単剤でもシプロフロキサシン+アモキシシリン/クラブラン酸に代わる経口抗菌薬となる。
    抗菌薬は、72時間以上継続し、24~48時間の解熱が得られかつ好中球が500/μL以上になるまで継続する。しかし、途中採血がされない場合、初期治療で解熱するまでの中央値は高リスクで5日、低リスクで2日程度であり、3~4日後の評価により初期治療の有効性を判断する目安となる。
入院
  • FN発症時は、入院管理下による抗菌薬の経静脈投与が基本となる。
  • FNに対する初期治療として、抗緑膿菌作用を有するβ-ラクタム薬の単剤治療が推奨される。
  • 下記の場合、β-ラクタム系抗菌薬に加えアミノグリコシド系抗菌薬またはシプロフロキサシンの併用を考慮する。
    • ・ 肺血性ショックや肺炎などの重症感染症
    • ・ 緑膿菌感染の既往や壊疽性膿瘡など緑膿菌感染のリスクが高い
    • ・ 耐性グラム陰性菌が疑われる
  • 下記の場合、β-ラクタム系抗菌薬に加えて抗MRSA薬の併用を考慮する。ただし、経験的に抗MRSA薬を併用した場合、グラム陽性菌が検出されなければ2~3日で中止する。
    • ・ 血行動態が不安定な重症感染症
    • ・ 血液培養でグラム陽性菌を認め、その感受性が判明する前
    • ・ 重症のカテーテル感染症が疑われる
    • ・ 皮膚・軟部組織感染症
    • ・ MRSA、ペニシリン耐性肺炎球菌を保有
    • ・ フルオロキノロンの予防投与がなされた患者で重症の粘膜炎を伴う場合
  • FNにおいては、解熱が得られ、かつ好中球≧500/μLとなるまで抗菌薬投与を継続する。

<抗真菌薬>

  • 広域抗菌薬を4〜7日間投与しても反応しない場合は、経験的抗真菌薬投与の開始を検討する。ただし、実際に真菌感染症を確認できる症例は少ないという報告もあり、抗真菌薬の毒性や薬物相互作用、高薬価なども問題となる。
  • 深在性真菌症を示唆する検査所見が得られた場合に、想定される真菌種を標的とした抗真菌薬投与を開始する治療戦略も検討されている。一般的に検査が困難な施設や全身状態が不安定な場合は、経験的治療の優先が考慮される。

<顆粒球刺激因子製剤(G-CSF)>

  • 重症化リスクが高い場合は、G-CSFの治療的投与を考慮する。

血小板減少

【予防】

  • 血小板減少自体に対する予防法はない。
  • 血小板減少時は易出血状態となるため、怪我に対する注意を喚起する。(具体的な指導内容は「がん専門薬剤師から患者さんへの話し方」を参照)

【治療】

  • 血小板数<1万/µLの場合、血小板輸血を検討する。ただし、出血リスクが高い場合や血小板製剤入手に制限がある場合は血小板数<2万/μL、治療前の急性前骨髄球性白血病では病態によって血小板数2〜5万/µLで輸血するなど、患者の状態等により柔軟に対応する。
  • 頻回の血小板輸血により、輸血後も血小板数が増加しない血小板不応状態を生じることがある。原因として、発熱、感染症などによる非免疫学的機序と抗体産生などによる免疫学的機序がある。後者の場合の大部分は抗HLA抗体によるものであり、HLA適合血小板製剤を必要とする。

参考:日本輸血・細胞治療学会血小板使用ガイドライン小委員会.: 日本輸血細胞治療学会誌. 2019.; 65: 544-61.

赤血球減少

【予防】

  • 赤血球減少自体に対する予防法はない。
  • 貧血症状に対する注意を喚起する。(具体的な指導内容は「がん専門薬剤師から患者さんへの話し方」を参照)

【治療】

  • Hb値(<7〜8g/dL)、持続期間、臨床症状を総合的に勘案して、赤血球輸血を検討する。
  • 低リスクの骨髄異形成症候群による貧血に対しては、ダルベポエチンが有効である。
  • 赤血球濃厚液1単位には約100mgの鉄が含まれているため、一定量の輸血を行うと鉄過剰症を生じる。連続する2回の測定で(2ヵ月以上にわたって)血清フェリチン値>1,000ng/mL、総赤血球輸血量≧40単位(成人の場合)で、1年以上の予後が期待される場合は、血清フェリチン値500ng/mL以下を目標に鉄キレート療法(デフェロキサミン、デフェラシロクス)を検討する。

参考:厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 特発性造血障害に関する調査研究班(研究代表者 三谷 絹子).:
輸血後鉄過剰症診療の参照ガイド 令和 1 年改訂版. 2020.
日本輸血・細胞治療学会ガイドライン委員会 赤血球製剤の使用指針策定に関するタスクフォース委員.:
日本輸血細胞治療学会誌. 2018; 64: 688-99.

白血球の減少と感染症

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

  • 一般的には、がん化学療法開始1週間~10日後に白血球が最低値となります。
  • 帰宅時、食事前、内服前、排泄後、掃除後、植物やペットに触れた後などは、石鹸と流水でしっかりと手を洗いましょう。
  • 起床時、食事前、薬剤内服前、勤務先・学校到着時、掃除後などのタイミングでうがいをしましょう。うがいは、口内乾燥を防ぎ、口内炎予防にも繋がります。
  • 乾燥が気になる時、のどに違和感がある時などは、こまめにうがいをしましょう。
  • うがいは、歯や口腔粘膜に付着している汚れを落とすための「ブクブク」「クチュクチュ」、喉の汚れや細菌を落とすための「ガラガラ」の2種類を取り入れたうがいをしましょう。
  • 歯垢は口腔内の感染を悪化させてしまう可能性があるため、必要時には歯科受診し、歯の治療や正確な歯磨き方法を身につけましょう。
  • 陰部や肛門周囲は不潔になりやすいので、シャワーや入浴で清潔を保ちましょう。
  • 混雑している場所や時間を避けて外出し、外出時にはマスクを着用しましょう。
  • 皮膚常在菌を減らすために、洗濯と十分乾燥させた清潔な衣服を着ましょう。
  • 好中球減少が始まったら、魚・肉・卵などの生ものは加熱処理後の摂取が望ましいです。しっかりと食材を洗浄することや調理後はすぐに摂取することも大切です。
  • カビ感染予防のため、病室に生花・ドライフラワー等は持ちこまないようにしましょう。
  • 感染の兆候を知るために、毎日体温を測定し、発熱時の対応について、どのように対応するか、どんな時に連絡するか、あらかじめ主治医の先生に確認しておきましょう。
  • 最近では、発熱にて救急外来や夜間外来を受診時に新型コロナウイルス感染症の検査のみで帰宅となることがあります。自身ががん治療中であることを医療者に伝えることで、抗がん剤による骨髄抑制かもしれないという認識に繋がりますので、治療日誌を持参するなどして医療者に伝えましょう。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 一般的には、がん化学療法開始1週間~10日後に白血球が最低値となるが、トリフルリジン・チピラシル塩酸塩配合錠のように、3~4週目に最低値となる抗がん薬もあることに注意が必要である。
  • 粘膜障害による粘膜バリア能の低下により、骨髄抑制時は口腔内細菌などによる口腔内感染リスクが高くなる。そのため、感染予防の観点から口腔ケアは重要であることを説明する。
  • 化学療法施行前に、不適合義歯やう蝕歯、歯周病、口腔カンジダ症の有無チェック、治療のため歯科受診が行われているか確認する。
  • 口内炎等により含嗽がしみる場合は、痛みなくうがいができるように、体液とほぼ同じ濃度にした「生理食塩水」での含嗽を勧める。
    (生理食塩液の作り方:500mLのペットボトルに塩小さじ1弱(4.5g)を入れよく振り混ぜる。うがいをするときはコップに小分けして残液は冷蔵庫保存し、1日で使いきる。)

【化学療法施行時のポイント】

  • G-CSFの適応症及び用法として、造血幹細胞移植時・白血病治療時には点滴静注、固形腫瘍での好中球数減少時の使用では原則皮下注となっている。
  • G-CSFの投与法に関して皮下投与と静脈内投与との無作為化比較試験は少ない。単回投与で同一用量であれば皮下注の方が、静注より効果的に好中球数を増加させる。
  • G-CSFはガラス、ポリビニルクロライド(polyvinyl chloride)、ポリプロピレン(polypropylene)に吸着することが報告されているが、血小板減少時や種々の出血傾向を伴う病態では持続静脈内投与も広く行われる。
  • 骨髄中の芽球が十分減少していない骨髄性白血病や、末梢血液中に芽球が認められる骨髄性白血病にはG-CSFは禁忌となる。
    ※寛解導入療法中は、末梢血中0%、骨髄中の芽球<15%であれば、感染症合併時に救命目的にG-CSFの使用が許可されている。
  • ペグフィルグラスチムを使用する場合は化学療法施行から24時間以上あけることが望ましい。
  • 歯科医/歯科衛生士による口腔ケアを実施している患者は、非実施患者に比べて、FN発生率や口内炎の発生率が低いことが報告されている。

【患者観察】

  • G-CSFの投与を受けた患者の有害反応として、骨痛・腰背部痛が約1~3%に生じる。そのほとんどが一過性であり臨床的に問題にならないことが多いが、疼痛有無を確認する。
  • 末梢血幹細胞の動員ドナーではG-CSF投与により約半数に骨痛・腰背部痛が生じるとされており注意する。
  • G-CSF投与中の骨痛・腰背部痛に対して、必要時はNSAIDs投与を考慮する。

参考:Johnston TP: PDA J Pharm Sci Technol. 1996; 50: 238-45.
Sugiura M, et al.: Biol Pharm Bull. 1997; 20, 684-9.
Kashiwazaki H, et al.: Support Care Cancer. 2012; 20: 367-73.
日本癌治療学会.: G-CSF適正使用ガイドライン 2022年10月改訂 第2版. 金原出版. 2022.
Lambertini M, et al.: Support Care Cancer. 2016; 24: 1285-94.
日本がんサポーティブケア学会 粘膜炎部会.: EOCC(The European Oral Care in Cancer Group)口腔ケアガイダンス 第1版日本語版. 2018

血小板の減少と出血

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

  • 一般的には、がん化学療法開始1週間~10日後に血小板が最低値となります。
  • 血小板が少なくなると、鼻血、血便、血尿などが起こりやすい状態になります。
  • 内出血も起こしやすいため転倒や打撲に注意し、特に頭を打たないように足元に気を付けましょう。また、つまずきやすいもの(コード類、マットのへりなど)、滑りやすいものの点検を行い、室内を整理・整頓しましょう。
  • 怪我をして出血した場合は、ハンカチ等で傷を抑えて出血を止めて近くの病院へ行きましょう。
  • 軟毛の歯ブラシ(手動または電動)を使用し、ヒゲを剃る時は、皮膚や粘膜が傷つきにくいよう、カミソリを使うのではなく電気カミソリを使用しましょう。
  • 排便時は強くいきまないように、無理なく排便するために適度な水分補給と状況により便秘薬を上手く使いましょう。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 血小板輸血により、皮疹や掻痒感、瞼や唇の腫脹、呼吸困難感等のアレルギー症状が出現することがあるため、血小板輸血投与後は、アレルギー症状発現の有無を注意深く観察する必要がある。
  • アレルギー症状の予防として、輸血の30分~60分前に、適宜、抗ヒスタミン薬又はステロイド薬を使用する。

【化学療法施行時のポイント】

  • 血小板輸血製剤は、カルシウムイオンを含有する薬剤と混注すると血小板製剤中の血漿の凝固が起こる。やむを得ず同一ラインで輸血を行う場合には、輸血前後に生理食塩液を用いてラインをフラッシュする。
  • 通常、血小板数が1万/μL未満の場合が血小板輸血の適応となる。

【患者観察】

  • 輸血前は、体温、血圧、脈拍、可能であれば経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定する。
  • 成人の場合、輸血開始から最初の10~15分間は1mL(20滴)/分、1滴/3秒の速度で輸血する。その後は、5mL(100滴)/分、5滴/3秒まで速度を上げることが出来る。
  • 輸血開始後5分間は、アレルギー症状確認のためベッドサイドで観察する。
  • 輸血開始後15分程度経過した時点でも再度観察する。
  • アレルギー症状出現時は、輸血を中止し、生理食塩液または細胞外液類似輸液剤の点滴に切り替える等適切な対応を行う必要がある。
  • 輸血後も輸血関連急性肺障害(TRALI)や細菌感染症等の副作用が起こることがあるので、輸血終了後も継続的な観察を行う。

参考:厚生労働省医薬・生活衛生局.: 血液製剤の使用指針. 平成29年3月
日本輸血・細胞治療学会血小板使用ガイドライン小委員会.: 日本輸血細胞治療学会誌. 2019.; 65: 544-61.
日本赤十字社ホームページ.: 血小板製剤|輸血手順|輸血の実施|医薬品情報.
http://www.jrc.or.jp/mr/transfusion/procedure/platelet/. 令和4年11月現在

赤血球の減少と貧血

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

  • 赤血球の寿命は120日と長いため、すぐには起こりません。一般的には、がん化学療法開始2週間後より徐々に起こり始め、数週間以上経ってから出現することもあります。
  • 赤血球は、酸素を全身に運ぶ役割を担っており、赤血球が減少すると貧血を来たします。
  • 赤血球が減少すると体内が酸素不足となり、息切れや疲れやすさ、めまい、立ち眩み等の症状が現れることがあります。
  • スリッパ・サンダルは転倒して怪我をしやすいので避けましょう。
  • 急に動かず、ひとつひとつの動作をゆっくりと行い、安静を心がけ事故予防に努めてください。
  • 末梢組織の新陳代謝が低下するため、保温を心掛けましょう。
  • 四肢の冷感やしびれ感には、手袋や靴下、湯たんぽ等を使用するのも一案です。
  • 鉄分やタンパク質の多い食事を取りましょう。肉やレバーだけではなく、魚にもこれらは含まれますので、過度に偏らないように、バランスよく食べることが大切です。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 赤血球輸血により、皮疹や掻痒感、瞼や唇の腫脹、呼吸困難感等のアレルギー症状が出現することがあるため、赤血球輸血投与後は、アレルギー症状発現の有無を注意深く観察する必要がある。
  • アレルギー症状の予防として、輸血の30分~60分前に、適宜、抗ヒスタミン薬又はステロイド薬を使用する。

【化学療法施行時のポイント】

  • 赤血球輸血製剤は、カルシウムイオンを含有する薬剤と混合すると、凝固が起こりフィブリンが析出するため、乳酸加リンゲル液やカルシウム剤などとの混注は避ける。
  • ブドウ糖溶液と赤血球輸血製剤を混合すると、赤血球が凝集したり赤血球の膨化による溶血が起こる。やむを得ず同一ラインで輸血を行う場合には、輸血前後に生理食塩液を用いてラインをフラッシュする。
  • 固形癌化学療法、造血器腫瘍化学療法、造血幹細胞移植治療などによる貧血において、赤血球輸血の適応となる基準値(トリガー値)は、Hb7~8g/dLが推奨されている。

【患者観察】

  • 輸血前は、体温、血圧、脈拍、可能であれば経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定する。
  • 成人の場合、輸血開始から最初の10~15分間は1mL(20滴)/分、1滴/3秒の速度で輸血する。その後は、5mL(100滴)/分、5滴/3秒まで速度を上げることが出来る。
  • 輸血開始後5分間は、アレルギー症状確認のためベッドサイドで観察する。
  • 輸血開始後15分程度経過した時点でも再度観察する。
  • アレルギー症状出現時は、輸血を中止し、生理食塩液または細胞外液類似輸液剤の点滴に切り替える等適切な対応を行う必要がある。
  • 輸血後も輸血関連急性肺障害(TRALI)や細菌感染症等の副作用が起こることがあるので、輸血終了後も継続的な観察を行う。

【その他の留意すべきポイント】

  • 貧血は倦怠感を誘発する因子である。また、倦怠感は患者の日常生活における活動性を低下させる。従って貧血の改善はQOLの向上につながる。
  • 貧血はゆっくり進行する副作用のため耐性が生じること、がん患者は安静にしていることが多いため動悸を感じにくいことも念頭に置いて、観察する。

参考:Crawford J, et al.: Cancer. 2002; 95, 888-95.
日本輸血・細胞治療学会ガイドライン委員会 赤血球製剤の使用指針策定に関するタスクフォース委員.:
日本輸血細胞治療学会誌. 2018; 64: 688-99.
日本赤十字社ホームページ.: 赤血球製剤|輸血手順|輸血の実施|医薬品情報.
http://www.jrc.or.jp/mr/transfusion/procedure/red_blood_cell/. 令和4年11月現在

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副作用とその対処法(インフォメーションモデル)