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2023.7.6
DC-003430
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オピオイドによる悪心・嘔吐の対処法

監修名古屋大学医学部附属病院 薬剤部 副薬剤部長 宮崎 雅之 先生

副作用:悪心・嘔吐 頻発抗がん剤:オピオイド

好発時期・初期症状

【好発時期】

【特徴】

  • オピオイドの投与初期にみられ、鎮痛作用が発現する必要量の約1/10で起こり、悪心は服用患者の約40%に、嘔吐は15~25%に発生する。
  • 数日から1週間で耐性が生じて改善されることが多い。
  • 発現機序として、①末梢性神経路の刺激、②化学受容器引金帯(CTZ)の刺激、③前庭神経系の刺激、④中枢神経系の刺激に伴うものが挙げられる。
  • 発現は、オピオイドの種類、投与経路、患者要因(年齢、性別)、オピオイドの用量が関係するとされている。

参考:Coluzzi F, et al.: Curr Pharm Des. 2012; 18: 6043-52.
Gregorian RS Jr, et al.: J Pain. 2010; 11: 1095-108.

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

【予防】

  • オピオイドによる悪心・嘔吐の多くは、数日から1週間で耐性が生じて改善するため経過観察も選択肢であるが、患者さんにとって不快な症状であり服薬アドヒアランスの低下につながる。
  • オピオイドによる悪心・嘔吐に対する制吐薬の予防投与について、European Association for Palliative Care (EAPC)やEuropean Society for Medical Oncology (ESMO)のガイドラインでは、オピオイド開始時の制吐薬の予防投与は推奨していない。またNational comprehensive cancer network (NCCN)ガイドラインでは、オピオイド誘発性の悪心の既往がある患者には予防投与を推奨しているが、通常の悪心の既往のない患者には推奨されていない。
  • 国内のガイドライン(がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版)においては、「原則として制吐薬の予防投与は行わない。ただし、悪心が生じやすい患者では予防投与を行ってもよい。」とされており、制吐薬の予防投与を積極的には推奨していない。
  • 国内では抗ヒスタミン薬やドパミンD2受容体拮抗薬であるプロクロルペラジンの予防投与が第一選択薬とされているが、プロクロルペラジンの予防投与によりオピオイドによる悪心・嘔吐を抑制できないというデータもある。
  • 悪心・嘔吐には耐性が生じるため、制吐薬を予防投与する際は、投与後1~2週間で減量もしくは中止を検討する。特に外来では、プロクロルペラジンが2週間を超えて継続されていることもみられるため、投与期間に注意が必要である。
  • 制吐薬(特にドパミンD2受容体拮抗薬)を漫然と長期投与することは錐体外路障害発現のリスクにもなる。

参考:Cherny N, et al.: J Clin Oncol. 2001; 19: 2542-54.
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版
Ishihara M, et al.: Clin J Pain. 2012; 28: 373-81.
Tsukuura H, et al.: Oncologist. 2018; 23: 367-74.

【治療】

  • 症状から悪心・嘔吐の機序を推測し、投与する制吐薬を選択する。
    • 持続する悪心・嘔吐
      化学受容器引き金帯(CTZ) に発現しているμ受容体の刺激によりドパミン遊離が促進され、CTZおよび嘔吐中枢(VC)のドパミンD2受容体が刺激される機序が考えられる。ドパミンD2受容体拮抗薬(プロクロルペラジンなど)を投与する。
    • 体動時に発現する悪心・嘔吐、めまいを伴う悪心・嘔吐
      前庭器のμ受容体の刺激によりヒスタミン遊離が促進されてCTZおよびVCが刺激される機序が考えられる。抗ヒスタミン薬を投与する。
    • 食後に発現する悪心・嘔吐
      消化管蠕動運動の抑制による胃内容物停滞を介し、求心性にシグナルが伝わりCTZおよびVCが刺激される機序が考えられる。消化管運動亢進薬(メトクロプラミド、ドンペリドンなど)を投与する。
    • 予期悪心により発現する悪心・嘔吐
      過去に抗がん薬などで悪心を起こしたときに、「また吐くのではないか」という不安(予期悪心)により、大脳皮質からシグナルが伝わりVCが刺激される機序が考えられる。GABA神経系に作用するベンゾジアゼンピン系薬剤を投与する。
  • 上記の制吐薬投与で改善しない場合は、下記を試みる。
    • ・上記薬剤の中で、作用機序の異なるものを2種類併用する。
    • ・ドパミンD2受容体をはじめ複数の受容体に作用する非定型抗精神病薬(オランザピンなど)やフェノチアジン系抗精神病薬(クロルプロマジンなど)、またはセロトニン拮抗薬を投与する。なお、オランザピンを投与する際は糖尿病の既往がないか確認が必要である。
    • ・オピオイドスイッチング(モルヒネからオキシコドンまたはフェンタニル、オキシコドンからフェンタニルへの変更)を行う。
    • ・投与経路を変更(経口剤や貼付剤から注射剤など)する。
  • 上記の対策でも改善しない場合は、非オピオイド鎮痛薬や神経ブロックなどを用いて鎮痛を維持しつつ、オピオイドを減量できないか検討する。
  • がん患者における悪心・嘔吐はオピオイドだけが原因ではなく、オピオイド以外の要因も考えられるため、鑑別が必要である。その他の要因として、以下が挙げられる。
    • 1. 電解質異常
      高カルシウム血症:倦怠感、口渇、意識障害などを伴う
      低ナトリウム血症:倦怠感、意識障害などを伴う
    • 2. 中枢病変
      がん性髄膜炎:頭痛、けいれん発作、複視、嚥下障害などを伴う
      脳転移:頭痛、けいれん発作、麻痺などを伴う
    • 3. 腹部病変
      消化管閉塞:腹部膨満感、腹痛、排便障害などを伴う
      消化性潰瘍:腹痛、胃部不快感、食欲不振などを伴う
      その他:腹水貯留、肝腫大、便秘など
    • 4. 薬剤、治療の副作用
      抗うつ薬、抗痙攣薬、ジゴキシン:服用期間、血中濃度と相関して症状が増悪する
      抗悪性腫瘍薬、放射線療法:治療タイミングと相関して症状が発現する
      NSAIDs、鉄剤:消化管障害を起こす
    • 5. その他
      肝不全:黄疸、腹水貯留、浮腫などを伴う
      腎不全:浮腫、尿量低下、意識障害などを伴う
      感染症:炎症所見を伴う
      不安、精神的ストレスなど

参考:Becker DE: Anesth Prog. 2010; 57: 150-6.
Smith HS, et al.: Ann Palliat Med. 2012; 1: 121-9.

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

  • オピオイドによる副作用として頻度が高いものは、悪心・嘔吐、便秘および眠気であることを説明する。

【発現と制吐薬投与のタイミング】

  • 悪心・嘔吐や眠気は、オピオイドの投与初期あるいは増量時に生じやすく、数日~1週間で耐性が生じ、症状が治まることが多いことを説明する。
  • 悪心・嘔吐出現時あるいは予防的に使用する制吐薬の使用方法について説明する。悪心出現の前兆があれば早めに制吐薬を服用することが望ましいことを指導する。

【患者さんにお願いすること】

  • 悪心の程度を客観的に評価することは難しく、患者さんの表現で評価されるので、発現した際は、その時期や状況、嘔吐物の性状を詳しく教えてほしいと指導する。
    (例)時期や状況:朝に多いのか、食前食後か、1日中か、起き上がったときか、めまいがあるかなど。
    嘔吐物の性状:透明なのか、胃液(酸っぱい)なのか、胆汁(苦い)なのか、数時間前に食べたものなのかなど。

【その他の副作用について】

  • 高度の便秘は悪心・嘔吐の原因となる可能性があり、併せて説明したい。便秘は、高頻度で発現し、悪心・嘔吐と異なり耐性が形成されない。また緩下剤(浸透圧下剤、大腸刺激性下剤など)の継続的な服用と自己管理が必要であることを指導する。さらにオピオイド導入前から便秘の患者では、便秘がより高度になることも多い。
  • さらに、一部の制吐薬(特に中枢性のドパミンD2受容体拮抗薬)では、眠気が発現する可能性があるため、併せて説明したい。眠気は、悪心・嘔吐と同様、オピオイドの投与初期あるいは増量時に生じやすく、数日以内に耐性が生じる。不快な眠気が続いたり、日常生活に支障を来す場合には報告するように伝える。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • オピオイドの開始時には、オピオイドの使用方法、主な副作用とその対策の詳細についての説明を平易な言葉でわかりやすく、具体的にかつ不安を煽らないようにあらかじめ説明する。
  • オピオイドの使用にあたり、患者は「寿命が縮まるのではないか」、「麻薬中毒になるのではないか」といった真実ではない誤解を抱いていることも少なくない。また副作用の出現を恐れてオピオイドを服用しない、不適切に使用するといったことも起こりうる。オピオイドの導入時にはオピオイドの薬効、副作用の説明のみならず、オピオイドに対するイメージを確認し、医療用麻薬の使用により寿命が短縮したり、麻薬中毒が発現することはないことなど具体的に時間をかけて説明する。患者の訴えを傾聴し、患者がより積極的に安心して治療を受けられるよう、配慮した対応が必要である。

【その他の副作用に関するポイント】

  • オピオイドによる便秘が原因で悪心・嘔吐を来すことは多いため、便秘のケアも重要である。オピオイド誘発性便秘は高頻度で発現し、悪心・嘔吐と異なり耐性は形成されないため、オピオイドを開始する際は緩下剤を同時に開始することが望ましい。オピオイド誘発性便秘に対して、浸透圧性下剤、大腸刺激性下剤に加え、末梢性μオピオイド拮抗薬であるナルデメジンが有効である。
  • オピオイド服用時に患者が下痢を訴えた際は、溢流性の下痢を疑い、画像検査(臥位のX線写真、腹部CT)で宿便がないか確認することもある。
  • オピオイド、制吐薬ともに眠気を引き起こす薬剤である。眠気に伴う転倒・転落や、自動車の運転などの機械の操作には注意が必要であることも伝える。オピオイド開始時に予防的に制吐薬を併用する際は、眠気の増強に注意し、悪心・嘔吐が認められなければ速やかに減量・中止を検討する。
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