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2023.12.26
DC-000445
DC-000445
分子標的薬による蛋白尿の対処法
広島市立北部医療センター安佐市民病院 薬剤部 阪田 安彦 先生
【好発時期】
蛋白尿を引き起こす分子標的薬は種類が多く、適応がん種や用法等も様々である。基本的には用量依存的に起こると考えられるが、発現頻度や好発時期を一概に説明することは難しい。投与開始からの時期に依存しない場合もあるので、尿蛋白の定期的測定など観察を十分に行うことが勧められる。
参考:Land JD, et al.: J Oncol Pharm Pract. 2016; 22: 235-41.
【特徴】
- ●初期の臨床症状は乏しいことが多く、浮腫など非特異的である。重篤化するとネフローゼ症候群をきたすこともある。
※参考 ネフローゼ症候群について
(厚生労働省 重篤副作用疾患対応別マニュアル ネフローゼ症候群(平成22年3月(平成30年6月改定))) - ●機序は明確ではないが、糸球体上皮細胞の血管内皮増殖因子(VEGF)産生が阻害されることによるフィルター機能の低下(糸球体構造とろ過機能の破綻)などが推測されている。
-
●下記のような分子標的薬が原因となりうる。
(例)- ・ 抗VEGF抗体:ベバシズマブ
- ・ VEGF阻害薬:アフリベルセプト
- ・ 抗VEGFR抗体:ラムシルマブ
- ・ VEGFR阻害薬:アキシチニブ
- ・ マルチキナーゼ阻害薬:レンバチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、パゾパニブ、レゴラフェニブ、バンデタニブなど
【予防】
- ●確立された予防法はないため、可能であれば治療開始前に尿蛋白を測定し、患者背景と併せて評価することが勧められる。治療可否の基準は各薬剤やがん種によって異なるため、詳細は添付文書や適正使用ガイド(臨床試験の登録基準)を参考にする。
- ●高血圧や糖尿病の既往は腎機能低下と相関し、蛋白尿発現のリスクとなる。
- ●評価は尿定性検査だけではなく、24時間蓄尿や尿蛋白/クレアチニン比(UPC比)による定量的評価を行うことも多い。
(参考)
尿蛋白/クレアチニン比(g/g・Cr)=尿蛋白定量結果(mg/dL)/尿中クレアチニン濃度(mg/dL)
※24時間尿蛋白排泄量(g/日)と相関するため、推定値として用いられる。
【治療】
- ●確立された治療法はないため、重症度を評価の上で減量や一時休薬が検討される。減量、休薬、再開の基準は各薬剤やがん種によって異なるが、グレード2以上で減量、休薬等が検討されることが多い。詳細は添付文書や適正使用ガイド(臨床試験の登録基準)を参考にする。
- ●休薬や減量は治療継続によるメリット、デメリットを考慮の上で検討する。
- ●休薬後も蛋白尿が改善しない、または進行する場合は腎臓専門医へのコンサルテーションを検討する。
参考:CTCAE v5.0による蛋白尿の重症度
有害事象共通用語規準 v5.0 日本語訳JCOG版
【発現時期、頻度について】
- ●この治療中はいつでも蛋白尿が起こる可能性があります。
- ●使用量が増えることや長期の使用で出現しやすくなる可能性もあるので、しっかり確認しながら治療をしていきましょう。
【自覚症状、モニタリング方法について】
- ●蛋白尿は、自覚する症状はほとんどありませんが、まれに症状の進行により浮腫が生じることがあります。体重の変化や体(特に下肢)の浮腫を注意深く観察しましょう。
- ●蛋白尿が出現した場合も、通常は自覚症状はありません。しかし、放置するとネフローゼ症候群などの重篤な腎機能障害を引き起こす可能性があるため、定期的に尿検査を行うことが必要です。
【高血圧について】
- ●この治療薬(蛋白尿を引き起こす分子標的薬のほとんど)は、副作用として血圧上昇も引き起こす可能性があります。血圧が高い状態が続くことで、腎臓の血管が収縮して腎臓に悪影響を及ぼし、蛋白尿の悪化にもつながります。腎機能を保護するため、定期的な家庭血圧の測定も重要です。
- ●家庭血圧が高い状態が続く場合は、降圧剤を服用し正常な血圧を維持することが必要です。
【蛋白尿の薬学的介入時に留意すべきポイント】
- ●分子標的薬投与時に出現する蛋白尿は、重篤化することは多くないが、まれにネフローゼ症候群などに進展する場合がある。そのため、定期的に尿定性などでモニタリングすることが必要である。
【UPC比について】
- ●高齢者やるい痩の患者は、筋肉量が少ないためクレアチニン分泌も低下するので、UPC比が過大評価される可能性がある。
- ●慢性腎疾患患者においては、UPC比と24時間尿蛋白排泄量(24hr-UP)の相関性が報告されている。当院で行った前向き研究の結果、抗VEGF抗体関連尿蛋白についてもこれらの相関性が示唆された。
【蛋白尿評価のポイント】
- ●尿定性にてグレード2以上の蛋白尿(2+以上)が出現した場合は、24時間蓄尿やUPC比を測定して投与の可否を検討する。
- ●尿定性による蛋白量の判定はアバウトであり、尿定性にて2+以上が出現した場合も、24時間蓄尿やUPC比では中止基準にあたることが少ない。よって、分子標的薬の投与可否は尿定性のみで判断するのではなく、24時間蓄尿時の蛋白定量、UPC比、血清のアルブミン値、クレアチニン値や臨床所見を踏まえて評価した後に判断する。
- ●蛋白尿の臨床症状の一つである浮腫については、蛋白尿以外にも、肝機能低下(低アルブミン血症)、腎機能低下、心機能低下、甲状腺機能低下、リンパ浮腫、深部静脈血栓症、薬剤性など様々な要因で出現する可能性がある。これらは、抗VEGF抗体、またがん患者の病態により引き起こされる症状も多い。浮腫が出現した場合には、その要因によって臨床症状が異なるため、浮腫の出現部位(全身性、局所性)、圧痕性の有無などを確認するとともに、必要な検査を行うことで要因を推察する。
【蛋白尿対策のポイント】
- ●分子標的薬による蛋白尿は、用量依存的かつ可逆的に出現する場合が多い。よって、投与中に蛋白尿が出現した場合は、薬剤の減量や休薬が必要である。
【高血圧対策のポイント】
- ●本稿で扱う分子標的薬の副作用の一つとして血圧上昇があり、蛋白尿と同時に起こりうる。また、血圧の上昇は腎臓の毛細血管も収縮させるため、蛋白尿や腎機能障害に影響することが報告されている。よって、家庭血圧を定期的に測定し、血圧の上昇を認めた場合は降圧剤の服用などで正常な血圧を維持する。
- ●降圧剤の中でもアンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬は、血圧降下作用のほか、輸出細動脈を弛緩させることにより糸球体内圧を低下させることで腎保護作用、蛋白尿漏出を低下させる作用も報告されている。蛋白尿発生を抑制したという報告もあるため、高血圧対策として降圧剤を選択する際には、これらの薬剤を選択することが望ましい。
参考:Nihei S, et al.: Cancer Chemother Pharmacol. 2018; 81: 1051-9.
阪田 安彦 他: 第28回日本医療薬学会. 2018.