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2019.6.13
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抗がん剤全般による腫瘍崩壊症候群の対処法

監修がん研究会有明病院 薬剤部 根本 真記 先生

副作用:腫瘍崩壊症候群 頻発抗がん剤:抗がん剤全般

好発時期・初期症状

【好発時期】

  • 通常、初回の化学療法時の治療開始12~72時間以内に発症するが、大部分は治療開始24~48時間に発症するとされている。
  • 高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症がおこり、その結果、二次的低カルシウム血症、急性腎不全、筋痙攣、感覚異常、心室性頻脈、心室細動等の腫瘍崩壊症候群による種々の病態が生じる。
  • 治療直後(直後~数時間内)や数日後に出現した例もあるため、化学療法1サイクル目では、症例により治療後しばらくは注意深い観察を要する。

【特徴】

  • 治療開始により腫瘍細胞が崩壊すると、細胞内代謝産物(核酸、リン、カリウム、蛋白、サイトカインなど)が血中に放出される。通常、これらは尿中に排泄され血中に蓄積されることはないが、腫瘍細胞が急速に崩壊した場合、尿酸、カリウム、リンの尿中排泄能を超え、以下のような種々の病態を引き起こす。
    • ・ 高尿酸血症 : 急性腎不全
    • ・ 高カリウム血症 : 神経筋症状(筋痙攣、感覚異常など)、致死的不整脈(心室性頻拍、心室細動、心停止など)など。
    • ・ 高リン血症 : 急性腎不全、悪心・嘔吐、下痢、嗜眠、痙攣など。
    • ・ 低カルシウム血症 : 神経筋症状(テタニ-、感覚異常、筋攣縮など)、不整脈、低血圧、心不全、痙攣、突然死など。
      ※過剰なリンがリン酸カルシウムを形成することで、二次的に生じる
    • ・ 高サイトカイン血症:全身性炎症反応症候群(SIRS)、多臓器不全
  • 腫瘍崩壊症候群(TLS)は、臨床検査値異常であるLaboratory TLSと、直ちに積極的な治療介入が必要なClinical TLSの2つに分類される。
    • ・ Laboratory TLS(LTLS) :
      高尿酸血症、高カリウム血症、高リン血症(いずれも>基準値上限)のうち、2つ以上を治療開始3日前~7日後までに認める。
    • ・ Clinical TLS(CTLS) :
      LTLSに加えて、腎機能障害(血清クレアチニン≧1.5×基準値上限)、不整脈、突然死、痙攣のいずれかを認める。
  • 下記のような疾患で発症頻度が高いことが知られている。

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要
  • 生命を脅かすオンコロジー・エマージェンシーの1つであり、治療開始前の発症予測と、発症リスクに応じた発症予防が重要である。
  • 日本臨床腫瘍学会によるTLS診療ガイダンスでは、リスク評価を行い各リスクに応じた予防法を行うことが推奨されている。

【リスク分類(発症予測)】

  • リスク評価は、 ①LTLSの有無、 ②疾患によるリスク分類、 ③腎機能、病態によるリスク調整を経て実施される。(詳細はTLS診療ガイダンス参照)
  • 高リスク疾患(発生率5%以上)、中間リスク疾患(発生率1~5%)、低リスク疾患(発生率1%未満)の3つに分類される。

①LTLSの有無

  • ・ TLSは、治療とは無関係に腫瘍の自然崩壊によって発症する場合もある。治療開始時点で、LTLSの病態を呈している場合もあるため、治療開始前に血液検査にてLTLSの有無を確認する。
  • ・ LTLSが有る場合、高リスクと評価する。
  • ・ LTLSが無い場合、疾患、腎機能、病態を考慮して評価する。

②疾患によるリスク分類

  • ・ 腫瘍細胞の増殖が速く、治療感受性の高い場合に発生リスクが高くなる。
  • ・ がん種だけではなく、病期や病態進行スピード、使用薬剤の腫瘍に対する感受性・効果発現時期なども考慮の上、リスク分類を判定する。
    【参考 : 比較的リスクの高い疾患】
    急性白血病(特にリンパ性)、バーキットリンパ腫、胚細胞腫瘍や小細胞肺がん等化学療法高感受性の腫瘍 など

③腎機能、病態によるリスク調整

  • ・ 白血病や悪性リンパ腫の場合は、腎機能、白血球数、LDH値、bulky病変の有無などによりリスク調整を行う。
    ※LDH(乳酸脱水素酵素)の値は細胞増殖スピードを反映する
  • ・ 多発性骨髄腫の場合は、原疾患の病態として腎障害を合併している場合も多い。TLS診療ガイダンスでは、低リスク疾患として分類されるが、腎機能だけではなく、病態(骨髄中腫瘍細胞数、末梢血中の形質細胞、del(13)などの遺伝子異常の存在)や、選択される治療・薬剤を考慮して、リスク調整を行う。
  • ・ 固形がんの場合は、全体としては低リスクと分類されるが、化学療法高感受性の腫瘍や、以下のようなリスク因子の有無を評価し、症例毎に中間リスク以上へ調整する。

【予防】

  • 適切な予防を実施するためには、尿酸、リン、カリウムの変動を適切な時期に確認し評価することが重要である。そのため、必要な血液検査が適切なタイミングで実施されることがポイントとなる。
  • モニタリング、補液、尿酸降下薬の投与などがポイントとなる。
<補液>
アシドーシスや乏尿を改善し、尿酸やリンの尿中排泄を増加させる。

<キサンチンオキシダーゼ阻害剤(フェブキソスタットなど)>
尿酸生成抑制薬。既存の尿酸には作用しないため、ラスブリカーゼと比較して効果発現が緩徐である。

<ラスブリカーゼ>
  • ・ 尿酸分解酵素製剤。尿酸に直接作用して水溶性の高いアラントインに分解するため、作用が強力で速やかである。
  • ・ 抗体が発現するという報告もあり、アナフィラキシー症状が起こる可能性があることから再投与は推奨されていない。(初回投与から7日間までは継続投与可能)
  • ・ グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損の患者、その他溶血性貧血を引き起こすことが知られている赤血球酵素異常を要する患者は禁忌となる。(尿酸の分解と同時に産生する過酸化水素により赤血球の酸化が起こり、溶血性貧血となる可能性がある。)
  • 各リスクに応じた予防法は下記が推奨されている。
  • 炭酸水素ナトリウム注射液を用いた尿のアルカリ化は、尿酸のpKa、重炭酸ナトリウム投与に伴うナトリウムの過負荷、リン酸カルシウム結晶析出の亢進等を考慮し、現在推奨されていない。

【治療】

  • 基本的な対処は高リスクの予防法と同様となる。
  • プリン体代謝産物の除去や電解質異常の改善目的で、腎機能代行療法の導入が検討される。
    導入基準 : 高カリウム血症の持続、重症代謝性アシドーシス、利尿薬(フロセミド、マンニトールなど)に反応しない容量負荷、
          心外膜炎や脳症など尿毒症症状を認める場合。
    予防的導入基準 : 重篤で進行性の高リン血症(>6mg/dL)、重篤な症候性低カルシウム血症を認める場合。
日本臨床腫瘍学会 編.:腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス. 金原出版. 2013

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

  • 腫瘍崩壊症候群は治療にともなって発症する合併症です。患者にも医療者が行ったリスク評価(抗がん剤によく反応するがん種であること、腎機能が悪く発症しやすい状況であること等)の結果を説明し、自身のリスクを知ってもらった上で治療を進めていくことが重要となります。

【病態について】

  • これから治療を開始するにあって、腫瘍崩壊症候群という合併症に注意して治療を進めていくことが大切です。
  • 腫瘍崩壊症候群は、抗がん剤がよく効いて急にがんが小さくなる過程でおこるものなので、よく効く方ほど注意が必要ということになります。
  • 治療を開始するとがん細胞が壊れ始めます。壊れた細胞の中にあったリンやカリウム、核酸が血液の中に出てきます。それらは、通常は腎臓から尿として体の外に排泄されます。しかし、抗がん剤がよく効いてがん細胞が壊れるスピードが速すぎてしまうと、排泄が間に合わなくなり、これらが体に溜まってしまいます。尿酸やリンやカリウムが溜まりすぎると腎臓や心臓に負担をかけてしまって、腎不全や心不全のような危険な状態に進行します。そのため、そうならないように予防することがとても重要です。
  • 自覚症状として、電解質のバランスが崩れて、手足のしびれ、感覚異常、動悸、低血圧、痙攣などが生じることがあります。

【リスク、発現時期について】

  • 〇〇さんの病気は抗がん剤への反応がとても良いので(or 今、腎臓の機能が少し低下しているので、すでに尿酸が高く腎臓に負担がかかっている可能性があるので 等)、腫瘍崩壊症候群のリスクがとても高いと考えています。
  • 特に注意が必要な時期は、治療開始直後から数日で、1週間程度は経過をよく見ていきます。この期間は血液検査結果や尿量などを確認し、体への負担にならないよう腫瘍崩壊症候群の発症を予防しながら治療を進めますので、安心してください。

【予防について】

  • 尿酸やリン、カリウムを蓄積させず腎機能が悪くならないように治療を進めるためには、尿を出すことがとても重要です。
  • 尿をよく出すために数日の間は多めの量の点滴をします。水分を持続的に投与し尿量が維持できるよう排泄を促していきたいので、点滴時間は12時間や24時間など長時間となります。水分の点滴は、血液検査の結果や尿量を確認しながらいつまで続けるかを決めます。
  • 尿をよく出すことで、尿酸やリン、カリウムは体の外に排泄されます。尿をよく出すために利尿剤を使用しますので、トイレの回数が増えると思います。しかし、安全に治療を進めるにはとても重要なことです。特に夜間などは何度もトイレ行くのは大変ですが、大変だからと水分摂取を控えたりせず、自身でも積極的に水分をこまめに摂取し、尿を出すようにしましょう。
  • 尿酸が高い場合は薬で低くすることもできます。尿酸を壊す薬や尿酸が作られるのを阻害する薬を投与して、尿酸の値が高くならないように調整します。

+ワンポイント

【TLSは治療開始前に予測する】

  • TLSは一度急激な進行を認めた場合は時間単位で病状が進行し、致死的な経過をたどる場合がある。そのため、疾患の病態に加えTLSの病態を理解し、治療開始前に、その後の尿酸、リン、カリウムの推移を予測することが重要である。
  • 通常の採血では、尿酸及びリンは検査していない場合が多い。治療開始前に、必要な項目(尿酸、リン、カリウム、カルシウム、血清クレアチニン、LDH)を含む血液検査を実施し、治療とともに予防対策を計画する。

【予防対策を確実に実施する】

①血液検査の実施

  • 多くの施設で休日の血液検査は、検査可能項目が限定される場合がある。TLSの経過予測には血液検査による尿酸、リン、カリウム値の確認が不可欠のため、治療スケジュールと合わせて血液検査の実施日、検査項目も計画する。
  • 中間及び高リスク症例では、最終化学療法投与後24時間(遅くても数日内)には尿酸、リン、カリウム値の確認は必須と考える。急性骨髄性白血病やバーキットリンパ腫などの治療では、症例により4〜6時間毎に血液検査を実施し、時間単位での評価が必要となる場合もある。

②補液の量と速度

  • 大量補液はTLS治療の基本である。しかし、症例によってはTLS診療ガイダンスに示された補液量は過量投与となる場合もあり、患者毎に総投与液量、投与速度を調整する。
  • 実臨床では、生理食塩液1~2L/日(化学療法とは別に)を12〜24時間かけて持続静注することが多い。
  • 高齢者や心疾患合併患者では補液追加による心負荷の程度を考え、尿量や血清クレアチニン値の推移を確認しながら、補液総投与液量と投与速度を決定する。

③尿酸値のコントロール

  • TLSの発症の過程で、尿酸のコントロールは重要である。高尿酸血症により腎機能障害が発症し、そのことが高尿酸血症や高リン血症、高カリウム血症などを助長し病態を悪化させる。ラスブリカーゼは投与後4時間には尿酸低下効果が得られるため、尿酸の推移を確認し、適応を検討することがTLSマネージメントのポイントとなる。TLS発症リスクが高く、治療開始前に高尿酸血症を認める症例では、最初の抗がん薬投与前にラスブリカーゼを投与する。
  • ラスブリカーゼを使用する場合は、採血検体の取り扱い(検体氷冷)や投与に関する注意事項(投与時間、単独ルートを使用し前後フラッシュ等)について、投与を担当する看護師へあらかじめ指導しておく。

【予測不能な急な発症に備える】

  • 近年の化学療法の進歩により、これまで低リスクであった疾患からのTLS発症が報告されている。低リスク症例での発症や治療開始2週間目以降や数サイクル施行後など好発時期以外での発症など、予測していなかった突然のTLS発症を経験することがある。
  • 予測できなかった症例では、すでに急性腎不全や致死的な不整脈等の進行した病態を呈している場合が多く死亡率も高い。
  • 予測不能な発症に対応するために、化学療法を施行する施設では、高カリウム血症に対するGI療法、高尿酸血症に対するラスブリカーゼ投与が数時間内に開始できるような体制整備(必要な薬剤の在庫確保やTLSに関するスタッフ教育など)をしておくことも重要と考える。
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