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免疫チェックポイント阻害薬による皮膚障害の対処法

【発症時期】
PD-1/PD-L1阻害薬

CTLA-4阻害薬

PD-1阻害薬+CTLA-4阻害薬

- ●免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の作用により、免疫恒常性が破綻し免疫応答が過剰になることなどで発症する免疫関連有害事象(irAE)の1つである。
- ●最も発現頻度が高いirAEの1つである。
- ●発症時期は、PD-1/PD-L1阻害薬で6週頃、CTLA-4阻害薬で3~4週頃、PD-1阻害薬+CTLA-4阻害薬で2~3週頃と報告されているが、投与直後から期間を問わず発現する可能性がある。投与終了数カ月後に発現することもあるため、治療終了後も注意が必要である。
- ●皮膚症状は、紅斑、点状紅斑、爪囲紅斑、紅斑性丘疹、斑状丘疹状皮疹、苔癬様皮疹、乾癬様皮膚炎、乾癬様発疹、乾癬様皮疹、汗孔角化症、水疱性類天疱瘡、緊張性水疱、白斑、白斑様色素脱失、脱毛症、等多彩である。
- ●軽症例が多いものの、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)などの重篤な皮膚障害を発症することがある。
参考:日本臨床腫瘍学会 ,編.: がん免疫療法ガイドライン 第3版. 金原出版. 2023.
Schneider BJ, et al.: J Clin Oncol. 2021; 39(36): 4073-126.
Tang Si-Qi, et al.: Cancer Res Treat. 2021; 53(2): 339-54.

写真1 白斑
(膀胱癌に対してペムブロリズマブ投与患者)

写真2 点状紅斑
(肺癌に対してデュルバルマブ投与患者)

写真3 紅斑
(食道癌に対してニボルマブ投与患者)

写真4 乾癬様皮疹
(膀胱癌に対してペムブロリズマブ投与患者)

写真5 汗孔角化症
(肺癌に対してペムブロリズマブ投与患者)

写真6 水疱性類天疱瘡
(尿路上皮癌(膀胱癌)に対してアベルマブ投与患者)
- 写真 :吉成宏顕先生提供
- ※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要
【予防】
- ●現在のところ、確立された予防法はない。
【治療】
- ●CTCAEに基づく体表面積に占める皮疹面積の割合を目安に重症度分類し、重症度に応じた治療を行う。
有害事象共通用語規準 v5.0日本語訳JCOG版(略称:CTCAE v5.0 -JCOG)

- ●皮疹面積の評価には、熱傷面積の推定法である「9の法則」を用いるのが簡便である。左図のように、頭部、上肢(左・右)を各9%、体幹(前胸部・腹部・胸背部・腰背部・臀部)、下肢(左・右)を各18%、陰部を1%として、皮疹面積を算出する。
- ●出血、水疱、嚢胞、潰瘍、粘膜部病変、発熱の合併は、SJSやTENなどの重篤化の可能性があるため、皮疹面積にかかわらず皮膚科専門医にコンサルトする。
- ●SJSやTENでは、眼の充血や眼脂などの眼症状を合併することがあり、眼症状を認める場合は眼科専門医にもコンサルトする。

【Grade 1:皮疹が体表面積の<10% 】ICI投与継続
【Grade 2:皮疹が体表面積の<30% 】ICI投与継続
- ●Grade 1ではstrong class以上、Grade 2ではvery strong class以上の外用ステロイドを投与する。
※顔面の場合は、Grade 1ではmedium class、Grade 2ではstrong classを投与する。
※Grade 1では、投薬しないことも検討する。
※Grade 2では、抗ヒスタミン薬や経口ステロイドも考慮する。(経口ステロイドは、プレドニゾロン 1mg/kgで開始し、中止する場合は4週間かけて漸減する。) - ●モニタリングの頻度は週1回など頻回に行う。
- ●皮膚への刺激を避けるよう患者に指導する。
- ●Grade 1で2~4週間後に改善しない場合はGrade 2として扱う。
Grade 2で2~4週間後に改善しない場合はGrade 3として扱う。
【Grade 3:皮疹が体表面積の≧30%】ICI投与中止
【Grade 4:皮疹が体表面積の≧30%、かつ、びらん・水疱<10%、発熱と粘膜疹を伴う】ICI投与中止
- ●皮膚科専門医(および眼科専門医)にコンサルトする。
- ●very strong class以上の外用ステロイドを投与する。
抗ヒスタミン薬や経口ステロイドも考慮する。(経口ステロイドは、プレドニゾロン 1-2mg/kgで開始し、中止する場合は4週間かけて漸減する。)
※顔面の場合は、strong class以上の外用ステロイドを投与する。
※Grade 4では静注ステロイドも考慮する。
※ステロイドが効果不十分な場合は、免疫グロブリン大量療法などの治療を検討する。 - ●モニタリングの頻度は、Grade 3であれば毎日、Grade 4であれば入院下で毎日2~3回など極めて頻回に行う。
- ●症状が改善した(ベースラインまたはGrade 1以下)場合のICIの再投与について、Grade 3を発現していた患者であれば皮膚科専門医と協議のうえICIの再投与を検討する。Grade 4を発現していた患者であれば別の治療法への変更も選択肢に入れて慎重に検討する。
参考:日本臨床腫瘍学会 ,編.: がん免疫療法ガイドライン 第3版. 金原出版. 2023.
Schneider BJ, et al.: J Clin Oncol. 2021; 39(36): 4073-126.
Julie R Brahmer, et al.: J Clin Oncol. 2018; Jun 10; 36(17): 1714-68.
【作用機序、皮膚障害の発現機序の伝え方】
- ●免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、体の免疫細胞(T細胞)を活性化させて、がん細胞を攻撃しやすくする薬剤です。しかし、免疫の働きが強くなり過ぎると、がん細胞だけではなく皮膚の細胞も影響を受け、皮膚障害が起こることがあります。
【免疫関連有害事象(irAE)についてどう伝えるか】
- ●irAEは、皮膚以外に肺や肝臓、消化器、眼、内分泌系、心血管系など、ほぼ全身の臓器に影響を及ぼす可能性があります。主な症状としては、皮膚障害(皮疹、掻痒、紅斑、白斑、スティーブンス・ジョンソン症候群など)、肺障害(免疫関連肺炎)、肝障害(免疫関連肝炎、AST/ALT上昇など)、消化器障害(免疫関連胃腸障害、下痢、大腸炎など)、眼障害(ぶどう膜炎など)、内分泌障害(甲状腺機能異常、副腎不全、1型糖尿病など)、心血管系(心筋炎、血管炎など)など様々ですが、一つの症状とは限らず、一度の治療で複数の症状が起こる場合があります。
- ●症状が軽度の場合は、ICIを継続しながら対症療法を行います。中等度以上の場合は、ICIの一時中断やirAEの種類に応じて副腎皮質ステロイドの投与を検討します。
- ●irAEは進行が早いことがあるため、早期発見・早期対応が重要となります。明らかに体調がおかしいと感じたり、いつもと違う症状が出たら、自己判断せず病院に連絡してください。
- ●救急外来や他の医療機関を受診した際には、ICIの投与を受けている旨を必ず伝えてください。
- ●実際の指導では、各メーカーが発行している、患者向けパンフレットを用いて説明しています。
- ●初回指導時においては、現在の患者さんの状態の把握(皮膚の状態など)や事前スクリーニング、治療日誌への意識付けのため、irAEの説明を行いながら、患者さんと一緒に治療日誌の記載を行なっています。
【皮膚障害の予防策・発現時期・症状発現部位】
- ●皮膚障害の好発時期(2〜6週)や治療終了後も症状が発現する可能性、日常生活のスキンケア(保湿や紫外線対策など)について説明し、必要に応じて保湿剤(ヘパリン類似物質)の処方依頼を行います。
- ●胸や背中、腕などに出やすいですが、全身のどこにでも出現する可能性があります。
- ●いつもと違う発疹や痒みなどを感じたら、我慢せずに教えてください。
- ●症状が軽度の場合は、ICIを継続しながら外用ステロイドや抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬の支持療法を用いた対症療法を行い、中等度以上の場合は、ICIの投与を休止し、重症度に応じて入院管理となる場合があります。
【副作用対策・対応のポイント】
- ●irAEの早期対応のためには、irAEの自覚症状を患者さんに十分理解してもうらための患者さんや家族への指導が重要となる。irAEの発現時期や重症度は症状によって様々であり、受診のタイミングについても夜間救急外来の可能性がある。いつでも相談できるように緊急連絡カードを配布して、少しでも不安なく治療が行えるように取り組んでいます。
【症状・特徴について】
- ●免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による皮膚障害は、最も頻繁かつ早期に観察される副作用に一つである。
皮疹が軽度でも、眼症状がある重症例はステロイドパルス療法を検討する。 - ●ICI単剤治療だけではなく、ICIの併用療法逐次治療において重篤な皮膚障害の報告があり継続したモニタリングが必要となる。
- ●ICIによる免疫関連皮膚障害(特に白斑[写真1]、苔癬様皮疹、乾癬)の発現は治療効果と関連があり、全生存期間が延長する傾向があるとの報告がある。発疹、白斑の発現は無増悪生存期間を延長するとの報告もある。
ICIによる治療継続は可能であるが、見た目の変化の配慮が必要となる。 - ●写真2は、ICI投与1コース目に発症した皮疹、写真3は、ICI治療終了後543日目に発症した皮疹である。ICIによる皮膚障害は、発症時期は早く頻度は高いが、症状は軽症なことが多い。しかし、ICI治療終了後やレジメン(治療内容)の変更後も、irAE発現の可能性を念頭においてモニタリングを行うことが重要である。
大腿部や背部などは患者さん自身が気付きにくい部位であるため、日常生活で鏡を活用することや家族に変化がないか確認してもらうことも重要と考える。さらに、薬剤師が写真2、3の部位を確認するためには、患者さんとの信頼関係が必要となる。

- 写真 :吉成宏顕先生提供
【外用ステロイドで制御できない場合】
- ●免疫チェックポイント阻害薬誘発性水疱性類天疱瘡の治療においてリツキシマブが有効であるとの報告がある。(適応外)*
(Front Lmmunol;13:953546(2022))
参考:Freeman-Keller M, et al; Clin Cancer Res. 2016; 22: 886-94.
Du Y, et al; JAMA Dermatol. 2023; 159: 1093-101.
