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2023.8.30
DC-003436
DC-003436
抗がん剤全般による脱毛の対処法
諏訪赤十字病院 薬剤部 網野 一真 先生
【好発時期】
- ●治療開始2~4週間後より脱毛が始まる。
- ●治療終了2~6ヵ月後より再発毛が始まり、1年程度でほぼ脱毛前の状態に戻る。ただし、脱毛前とは髪質や色が異なることがある。
【特徴】
- ●脱毛は全身に起こりうるが、頭部の毛母細胞は成長が速く、多くが細胞分裂期にあるため影響を受けやすい。
- ●各抗がん剤の脱毛の程度や頻度は下記のように言われているが、投与量による違いや個人差もある。一概に説明することはできないため注意が必要である。
・ アルキル化薬:イホスファミド、シクロホスファミド
・ アントラサイクリン系:ドキソルビシン、アムルビシン、エピルビシン
・ 微小管阻害薬:ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン
・ トポイソメラーゼ阻害薬:イリノテカン、エトポシド
<比較的軽度>・ 代謝拮抗薬:フッ化ピリミジン系薬剤
(フルオロウラシル、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、カペシタビン等)
・ 分子標的薬:全般
[参考 レジメンごとの脱毛発現頻度(All Grade)] ※別の臨床試験での結果
乳がん
・AC療法:92.4%
・DTX単剤療法:91.2%
・FEC療法:(Grade2)>90%
・EC療法:85.0%
卵巣がん
・TC療法:(Grade1)2.6%、(Grade2)95.6%
・DC療法:93%
・PTX単剤療法:(Grade2)29.7%
・PLD単剤療法:16%
肺がん
造血器腫瘍
・AMR療法:70.4%
造血器腫瘍
・CHOP(±)R療法:97%
参考:日本臨床腫瘍学会 監修.: 改訂第7版 がん化学療法レジメンハンドブック. 羊土社. 2022
【予防・治療】
- ●確立した予防・治療法はない。
- ●用量規制因子ではなく、治療の延期や中止理由にはならないため、見た目や心理・精神面のケアが重要となる。患者が自発的に対処できるよう支援する。
- ●頭皮冷却法
化学療法中にクーリングキャップを装着し、頭皮を冷やすことにより血流を減らし、毛根への抗がん剤の作用を少なくすることで脱毛を抑制する方法であり、2019年より国内でも頭皮冷却装置が承認されている。
【対策】
<治療開始前の情報提供>
- ●脱毛の経過、治療終了後の再発毛の経過を伝える。
- ●脱毛は、頭髪のみでなく、全身の体毛に起こりうることを伝える。
- ●脱毛中の対策(かつらなど)について説明し、治療前から検討を開始することが望ましいことを伝える。また、相談できる窓口を紹介することも大切である。
- ●ロングヘアの場合、脱毛量が多く見え精神的ショックが大きくなりやすく、また抜け毛の処理も大変なため、短く切ることを提案する。
<ヘアケア>
- ●頭髪・頭皮は清潔に保つ。抜け毛を抑えるために洗髪を疎かにすると、皮膚炎の原因となる。
- ●シャンプーは手にとって泡立ててから、指の腹をつかい優しく洗髪する。シャンプーが頭皮に残らないようよく洗い流す。
- ●洗髪後は、タオルでやさしく押さえながら水分を拭き取るようにする。
- ●ドライヤーを使用する場合は低温・弱風で使用する。
- ●パーマやカラーリングは、頭皮の刺激となるため治療中は避ける。
<かつら、スカーフ、バンダナ、帽子など>
- ●かつらは、既製品、セミオーダー品、フルオーダー品、また人工毛、人毛、混合毛など選択肢が多い。金額も安価なものから高価なものまであり、フルオーダー品は完成までに数ヵ月かかることもある。専門店などで相談したり、試着して確認することが望ましい。
- ●スカーフ、バンダナ、帽子などの着用も有用である。これらに付け毛を加えると、より自然な見た目でカバーできる。
<眉毛や睫毛の脱毛>
- ●眉毛の脱毛には、眉を描くことでカバーする。治療開始前に自分の顔写真を撮影しておくと参考になる。
- ●睫毛の脱毛には、アイラインを入れたり、つけまつげを使用したりすることでカバーする。
参考:日本がんサポーティブケア学会編 がん治療におけるアピアランスケアガイドライン 2021年版 金原出版株式会社 2021
【指導時の留意事項】
- ●がん薬物療法を行うと必ず脱毛が起こると考えている方も少なからずいるので、治療法の種類により、脱毛の起きる頻度や程度が異なることを説明する。
- ●脱毛に対して患者から受ける質問の多くは、抜け始める時期と生え始める時期なので、治療の種類ごとに目安を伝えるとともに、個人差が大きいことを説明する。
- ●患者の中には一度抜けてしまうと、二度と生えてこないと思っている方もいる。期間限定の治療であれば、治療が終了、または中断すれば再び発毛することを説明する。
- ●生え変わる髪の毛は、必ずしも脱毛前の髪質の状態にすぐ戻るわけではない。
生え始めの毛質や色などは脱毛前のものと異なることを説明し、元の自毛に戻るまでには年単位で時間が必要であることを説明する。
【脱毛の薬学的介入時に留意すべきポイント】
- ●脱毛は患者の容姿等QOLに影響をおよぼすため、術後補助療法や寛解治療等、期間限定の治療であればそのスケジュールなどを説明し、脱毛から発毛までの見通しをイメージしてもらうことも重要である。
- ●再発転移治療の場合、一概に「治療終了後に再発毛する」と説明せず、患者がしっかりと脱毛リスクを受け止めた上で脱毛対策を検討し、治療を開始できるよう支援することも重要である。
- ●患者から頭皮冷却法について聞かれた場合には、頭皮冷却法による脱毛の軽減効果がみられるメリットと冷却による苦痛のデメリットを説明した上で、施設ごとの対応も異なるため、実施可能施設の情報も併せて提供する。
- ●患者によっては脱毛開始時に頭皮のピリピリ感、ムズムズ感を感じる方もいるため、脱毛開始のサインになることを伝える。
- ●脱毛開始前後の洗髪状況を確認し、シャンプーによる刺激を感じるようであれば、低刺激性のシャンプーへの変更を提案することも重要となる。
- ●患者の中には、脱毛を恐れるあまりに洗髪を疎かにする方もいるため、頭皮皮膚炎のリスクを説明し、洗髪を十分に行い頭皮を清潔にするよう促す。
【看護師他医療スタッフとの連携】
- ●看護師他医療スタッフは、脱毛におけるかつらやウィッグの取り扱いの知識が豊富なので、患者への相談を促すなど、情報共有を行うことが望ましい。
- ●また、がん相談支援センター、アピアランス支援センター等の機能を有している施設では、必要に応じて該当部署に紹介を行う。
- ●脱毛の発現により、ストレスを感じたり心身の喪失を伴う方も出てくるため、治療開始時に脱毛に対する患者の捉えかたを傾聴し、患者状況を看護師と共有する。