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2019.11.15
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オピオイドによる便秘の対処法

監修国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 薬剤部 山浦 佳子 先生

副作用:便秘 頻発抗がん剤:オピオイド

好発時期・初期症状

【好発時期】

【特徴】

  • オピオイドの投与初期にみられ、用量依存的に頻度も重症度も増していく。
  • 鎮痛作用が発現する必要量の約1/50で起こり、経口モルヒネ服用患者では約40~70%に発生する。
  • 高頻度に発現し、ほとんど耐性を形成しないためオピオイド使用中は症状が持続する。
  • 発現機序として、消化酵素の分泌抑制、消化管の蠕動運動抑制、大腸における水分吸収促進、肛門括約筋の緊張亢進などが挙げられる。

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

【予防】

  • 便秘は高頻度に認められることから、オピオイド開始時に下剤を投与するなどの予防的対応が必要である。
  • オピオイド開始時の下剤投与に関して、国内のガイドライン(がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン)においては、「オピオイドを開始する時は、患者の排便状態について十分な観察を行い、水分摂取・食事指導や下剤の投与など便秘を生じないような対応を行う」とされている。
    (例)
    ・元々便秘ではない患者(便が柔らかい、下痢をしている患者も含む):
     オピオイド開始時の下剤の定期的併用は必ずしも必要ない。ただし、患者の排便状態を観察することが重要である。
    ・元々便秘傾向の患者、下剤(OTCを含む)を服用している患者:
     オピオイド開始時から下剤を定期的に投与、または作用機序の異なる下剤を追加し、患者の排便状態を観察して調節する。

【治療】

下剤投与開始前にオピオイド以外の要因鑑別、消化管閉塞の有無などについて確認した上で便秘を評価し、症状に合わせた下剤投与を行う。また、オピオイドが原因であれば、便秘を予防した上でセルフケアを行うことが大切である。

下剤投与開始前の対応

《オピオイド以外の要因の鑑別》

がん患者における便秘は、下記のようにオピオイド以外の要因も考えられるため、鑑別が必要である。鑑別の上、治療や原因薬剤の中止も検討する。
(便秘要因の例)
・ がん関連:腹水、脊髄圧迫、腸閉塞、高カルシウム血症
・ 薬剤:抗コリン薬、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗精神薬、抗がん薬、利尿薬、鉄剤、降圧薬、制酸薬
・ 食事量の低下:食物繊維の減少、脱水
・ 活動性の低下:麻痺・体力低下による腹圧低下、蠕動低下
・ 交感神経優位:痛みによるストレス、不安など
・ その他:糖尿病、元々の便秘傾向、高齢

《消化管閉塞の確認》

  • 排便、排ガスの有無を確認し、機械的(器質的)消化管閉塞や機能的消化管閉塞の有無を確認する。がん患者では機械的消化管閉塞が起こることが問題となることが多い(完全閉塞の場合、下剤の投与は禁忌となる)ため、腹部レントゲン撮影やCTで確認する。完全閉塞でなければ、下剤の服用による蠕動痛や疝痛などがないことを確認しながら下剤を使用する。
  • 宿便を認めれば、経直腸的な処置が必要となり、摘便、グリセリン浣腸、微温湯浣腸などを検討する。
下剤投与の対応

《便秘の評価》

オピオイド開始後は、継続的に便の状態と下剤の使用状況を確認し、症状にあった対応を行う。
(便の状態の確認例)
硬さ:コロコロ、ソーセージ状だがひび割れがある、普通便、形にならない柔らかさ、泥状、水様 など
   ブリストルスケールを用いてもよい。
量・回数:トイレに行くたびに柔らかい便が少しずつ出る、下痢便が少しずつ出る、大量の下痢便がでる など

※参考 便の評価指標(ブリストルスケール)について
    (ユニ・チャーム株式会社『排泄ケアナビ』)

《下剤の投与》

必要に応じて増量や作用機序の異なる薬の併用を検討し、宿便とならないようにコントロールすることが重要である。
  • 浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロースなど):主に小腸で腸管内の水分を移行させ、便を柔らかくする。便が硬い場合(コロコロ、ソーセージ状でひび割れがある など)に使用する。
  • 大腸刺激性下剤(ピコスルファート、センノシド、センナなど):大腸の刺激により腸蠕動運動を促進する。腸蠕動が低下している場合に使用する。
  • 坐薬や浣腸など:直腸付近に貯留した便が排便できない場合に使用する。
上記対応後も排便がコントロールできない場合の対応

《その他の薬剤投与の検討》

  • 上皮機能変容薬:腸管粘膜上皮に作用し、腸管分泌と腸管輸送能を促進する。慢性便秘症の治療に準じて投与されることもある。なお、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインにはルビプロストン(腸管内への水分分泌を促進して便を柔らかくし、腸管内輸送を高めて排便を促進するクロライドチャネルアクチベーター)について記載がある。
  • ナルデメジン:消化管のオピオイド受容体に結合してオピオイド鎮痛薬と拮抗することにより、便秘を改善する。他の下剤との位置づけについては明確になっていないが、海外のガイドラインでは他の下剤で十分な効果が得られない場合の薬剤として位置づけられている。

《その他の対応》

  • オピオイドスイッチング(モルヒネ・オキシコドンからフェンタニル貼付剤への変更)を検討する。
  • 神経ブロックや放射線治療などによってオピオイドの減量・中止が可能か検討する。
セルフケア
患者の負担にならない範囲で、水分摂取、食物繊維の摂取、軽い運動、腹部のマッサージや保温を行う。ただし、消化管狭窄の場合は食物繊維が便秘を助長させるので、低残渣食へ変更する。

参考:日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会監修.: がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014年版. 金原出版. 2014
日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編集:慢性便秘症診療ガイドライン 2017. 南江堂. 2017

がん薬物療法認定薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

  • オピオイドによる副作用として頻度が高いものは、便秘、悪心・嘔吐、眠気であることを説明する。
  • オピオイドによる便秘が原因で食欲不振や悪心・嘔吐をきたすことも多いため、排便コントロールも重要であることを説明する。

【発現と下剤投与のタイミング】

  • 悪心・嘔吐や眠気は、オピオイドの投与初期あるいは増量時に生じやすく、数日で耐性が生じるが、便秘は耐性が生じない。そのため、オピオイド開始と同時に下剤などを使用しながら排便コントロールをすることの大切さを説明する。
  • 特にオピオイド開始前から便秘傾向の患者に対しては、積極的に下剤を使用して自己調整することを説明する。

【下剤の自己調整(セルフコントロール)】

  • 便秘や下痢の認識が医療者と患者間でずれている可能性もあるので、普段の排便状況(回数、形状、腹部症状、肛門症状など)を具体的に聴取する。その上で、どのような状況の時に下剤の服用量はどの程度が良いかなどを患者ごとに定期的かつ具体的に示し、患者が自己調整できるようにする。
  • 食事内容、食事量、水分の摂取量、運動量などは毎日違うので、下剤を同じように使用しても同じように排便がある(便の性状が同じである)とは限らない。そのため、下剤の特徴を理解し、自己調整できるようになることが重要であることを説明する。自身で下剤の調節ができる方かどうかも確認する。
  • 下剤の特徴(便を柔らかくするものか、大腸を刺激して排便を促すものか など)を理解していただいた上で、併用も含めた自己調整の方法を説明する。
    (例:1日3回定期的に塩類性下剤を使用している場合)
     便が硬いとき:塩類性下剤を増量する。2日間排便がなければ、大腸刺激性下剤を追加する。排便があるまで大腸刺激性下剤を増量しながら連日服用する。
    便が柔らかいとき:塩類性下剤を1日2回または1回に減らす。あるいはその日の塩類性下剤は服用せず、次の日からいつも通り服用する。
  • 患者に宿便(腸内に長く滞留している糞便)について説明し、それを避けるために、数日に1回は排便があるように下剤を調整してもらう。
    なお、排便の日数に根拠はないが、「2~3日に1回」と説明することが多い。(このように説明しても、4~5日排便がないという状況が多いため)

【食生活等について】

  • 患者の負担にならない範囲で、水分摂取や食物繊維の摂取をすすめる。ただし、個々の患者の消化管状況や病状に配慮して指導を行う。(消化管狭窄の場合は食物繊維が便秘を助長させるので、低残渣食へ変更する など)
  • 食事量の多くない患者は便が貯まらないと考えていることもあるが、食事をしなくても腸粘膜の生まれ変わりによって便は生成されるということを伝える。

【便失禁について】

  • 便失禁は患者にとって強いストレスとなる。下剤の追加、増量による心配や不安が強い場合には、リハビリパンツの着用をすすめることもある。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • オピオイドに対して間違った認識をもつ患者も少なくない。また、副作用の発現を恐れてオピオイドの増量や服用自体を拒否する患者もいる。オピオイドによる便秘の副作用により、除痛に必要な十分量のオピオイドを投与できないことがあるという報告もある。まずはオピオイドに対する患者の思いを聞き、適宜補足説明しながら患者の不安を取り除き、患者が安心して治療を受けられるように配慮した対応が必要である。
  • 上記を踏まえて、排便コントロールの状況と併せてオピオイドがきちんと服用できているか、疼痛がコントロールできているかどうかも適宜確認する。

【便秘評価のポイント】

  • 便秘が患者に与える影響は過小評価されがちである。高度の便秘はQOLにも影響するため注意が必要である。
  • がん患者においては、複数の要因が長期間にわたって便秘に影響しやすいことに注意が必要である。
  • 溢流性便秘の可能性も念頭においておく。宿便があると、それが栓になり、軟便~水様便しかその隙間を通過できないため、見かけ上は下痢となることがある。その場合、安易に止瀉薬を使用することは危険であり、注意が必要である。
  • 腹膜播種やがん性腹膜炎、腹水貯留している患者では消化管閉塞になっていないか、排ガス、排便の有無、下剤服用後の蠕動痛、疝痛の有無を確認するなど、特に注意が必要である。
  • 消化管閉塞の可能性があれば、画像などで確認した上で、下剤使用の可否について医師と相談する。

【便秘対策のポイント】

  • 便秘になる前から予防的に下剤を服用開始することをすすめる。
  • 患者は、下剤服用後の便失禁や外出時の便意など、便意を催すタイミングを気にされることが多いので、下剤の目安の効果発現時間を伝える。ただし個人差があるので、下剤を服用してから排便のあった時間を確認し、逆算して服用時間を設定する。
  • 自己調整が出来ない患者に対しては、個々に合わせた具体的な調整方法を患者と一緒に考えることも重要である。

【各薬剤投与のポイント】

  • 酸化マグネシウム:腎機能障害のある患者において高マグネシウム血症を起こすおそれがあり、注意が必要である。
             効果が強すぎると少量の軟便が何度も出ることがあるため、減量を考慮する。
  • ナルデメジン:消化管閉塞患者には禁忌であることオピオイド離脱症候群を起こす可能性があることなどに注意が必要である。

【その他】

  • オピオイドを開始したタイミングで悪心が出現した場合はオピオイドが一因であることが多いが、オピオイドを長期投与していて突然悪心が出現した場合は、便秘による悪心を一因として考えることも大切である。患者に排便状況、下剤の使用方法、疼痛コントロール状況、オピオイドの使用状況、食事、運動などの生活面についても尋ね、症状マネジメントすることが大切である。
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