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2025.6.26
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オピオイドによる便秘の対処法

監修東京女子医科大学病院 薬剤部 薬剤部長 塩川 満 先生
東京女子医科大学病院 薬剤部 大野 瑞穂 先生

副作用:便秘 頻発抗がん剤:オピオイド

好発時期・初期症状

【好発時期】

  • オピオイドの投与初期から発現し、ほとんど耐性を形成しないためオピオイド使用中は症状が持続する。

【特徴】

  • 鎮痛作用が発現する必要量の約1/50で起こり、オピオイド使用がん患者の60~90%に発生する。
  • 用量依存的に頻度も重症度も増していく。
  • 発現機序として、腸管のオピオイドμ2受容体活性化による消化酵素の分泌抑制、消化管の蠕動運動抑制、大腸における水分吸収促進などが挙げられる。

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

【予防】

  • 便秘は高頻度に認められることから、オピオイド開始時に下剤を投与するなどの予防的対応が必要である。(予防投与は適応外)
  • オピオイド開始時の下剤投与に関して、国内のガイドライン(がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン)においては、オピオイドが原因で便秘のあるがん患者に対して、オピオイドの投与と同時に、または投与後に、下剤(浸透圧性下剤、大腸刺激性下剤)を定期投与することを推奨する(強い推奨、弱い根拠に基づく)」とされている。
    オピオイドが投与されていない患者に対する予防的下剤投与も行われているが、その有用性を検討したエビデンスは存在しない。

【治療】

下剤投与開始前にオピオイド以外の要因鑑別、消化管閉塞の有無などについて確認した上で便秘を評価し、症状に合わせた下剤投与を行う。また、オピオイドが原因であれば、便秘を予防した上でセルフケアを行うことが大切である。

セルフケア
患者の負担にならない範囲で、水分摂取、食物繊維の摂取、軽い運動、腹部のマッサージや保温を行う。ただし、消化管狭窄の場合は食物繊維が便秘を助長させるので、低残渣食へ変更する。
下剤投与開始前の対応

《オピオイド以外の要因の鑑別》

がん患者における便秘は、下記のようにオピオイド以外の要因も考えられるため、鑑別が必要である。鑑別の上、治療や原因薬剤の中止も検討する。
(便秘要因の例)
・ がん関連 : 腹水、脊髄圧迫、腸閉塞、高カルシウム血症
・ 薬剤 : 抗コリン薬、抗けいれん薬、抗うつ薬、抗精神薬、抗がん薬、利尿薬、鉄剤、降圧薬、制酸薬
・ 食事量の低下 : 食物繊維の減少、脱水
・ 活動性の低下 : 麻痺・体力低下による腹圧低下、蠕動低下
・ 交感神経優位 : 痛みによるストレス、不安など
・ その他 : 糖尿病、元々の便秘傾向、高齢

《消化管閉塞の確認》

  • 排便、排ガスの有無を確認し、機械的(器質的)消化管閉塞や機能的消化管閉塞の有無を確認する。がん患者では機械的消化管閉塞が起こることが問題となることが多い(完全閉塞の場合、下剤の投与は禁忌となる)ため、腹部レントゲン撮影やCTで確認する。
    完全閉塞でなければ、下剤の服用による蠕動痛や疝痛などがないことを確認しながら下剤を使用する。
  • 宿便を認めれば、経直腸的な処置が必要となり、摘便、グリセリン浣腸、微温湯浣腸などを検討する。
下剤投与の対応

《便秘の評価》

オピオイド開始後は、継続的に便の状態と下剤の使用状況を確認し、症状にあった対応を行う。詳しくは緩和薬物療法認定薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)を参照。
(便の状態の確認例)
硬さ:コロコロ、ソーセージ状だがひび割れがある、普通便、形にならない柔らかさ、泥状、水様 など
   ブリストルスケールを用いてもよい。
量・回数:トイレに行くたびに柔らかい便が少しずつ出る、下痢便が少しずつ出る、大量の下痢便がでる など

※参考 便の評価指標(ブリストルスケール)について
    (ユニ・チャーム株式会社『排泄ケアナビ』)

《下剤の投与》

浸透圧性下剤、大腸刺激性下剤、ナルデメジン、ルビプロストンが有効とされているが、使い分けは確立していない。病態、下剤の副作用、コスト、投与されているオピオイドの種類などを患者ごとに考慮して下剤を選択し、必要に応じて増量や減量、そして下剤の変更、作用機序の異なる下剤の併用などを行い、宿便とならないようにコントロールすることが重要である。
  • 浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロースなど) : 主に小腸で腸管内の水分を移行させ、便を柔らかくする。便が硬い場合(コロコロ、ソーセージ状でひび割れがある など)に使用する。酸化マグネシウムを投与する場合は、高マグネシウム血症に注意する。
  • 大腸刺激性下剤(ピコスルファート、センノシド、センナなど) : 大腸の刺激により腸蠕動運動を促進する。腸蠕動が低下している場合に使用する。ただし、高用量の長期連用は避けるよう注意する。
  • ナルデメジン:消化管のオピオイド受容体に結合してオピオイドの作用と拮抗することにより、便秘を改善する。本剤は血液脳関門を通過できないため、鎮痛作用に影響を与える可能性は低いとされている。
  • ルビプロストン:腸管内への水分分泌を促進して便を柔らかくし、腸管内輸送を高めて排便を促進する。オピオイドによる便秘に対して有効性が報告されているが、メサドン投与患者では有効性を認めなかったとの報告がある。
  • 坐薬や浣腸など : 直腸付近に貯留した便が排便できない場合に使用する。

《その他の対応》

  • オピオイドスイッチング(モルヒネ・オキシコドンからフェンタニル貼付剤への変更)を検討する。フェンタニルはμ2受容体に対する作用が弱く便秘を起こしにくいとされている。
  • 神経ブロックや放射線治療などによってオピオイドの減量・中止が可能か検討する。

参考:日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会監修.: がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版. 金原出版. 2020
日本消化管学会 編.: 便通異常症診療ガイドライン2023−慢性便秘症. 南江堂. 2023

*本記事内で記載されている適応外使用の情報に関しては、東和薬品として推奨しているものではございません。

緩和薬物療法認定薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

【オピオイド導入時】

「オピオイドによる眠気や吐き気は数日から1週間程度で身体が慣れて自然に症状が改善することが多いですが、便秘は薬を服用している間は続けて注意が必要な副作用です。必要に応じて下剤を開始(または量を調整)しますので、お通じの状況についても変化があれば教えて下さい。」

  • オピオイドによる便秘は耐性を生じないため、継続した排便コントロールが必要となる。オピオイド導入前の排便状況を確認し、早期より薬剤の追加を検討するだけでなく、患者さん自身にもオピオイド導入後の排便状況の変化に気をつけていただき早めに報告していただくことで適切な排便コントロールができることを説明している。

「便秘の原因はオピオイドだけではなく、日々の体調や食事なども原因となることがあります。ご自身の状況を一緒に把握していき、○○さんに合った下剤の調整を検討しましょう。」

  • 前項でも述べたが、排便コントロールは患者さん自身も積極的に実施することが重要である。ブリストルスケールを用いて、理想的な硬さについて説明を実施したり、下剤について作用機序の説明を行い、排便状況によって薬剤を使い分けられるよう指導していく必要がある。また、薬剤の効果発現について目安はあるものの、個人差もあるため、本人の薬効の発現がどのくらいかを調査し、適切なタイミング・量で薬剤を使用できるよう本人と一緒に対策を立てることが重要となる。また、下剤のコントロールはとても大切であるが、薬剤以外の対処も重要であるため、食事や運動等も可能な範囲で見直していただく必要がある。その際必要に応じて管理栄養士やリハビリスタッフと連携し対応できると良い。

「下剤を服用しても排便がなく、お腹の痛みや吐き気や嘔吐がある場合には、すぐに病院に連絡して下さい。」

  • オピオイドだけでなく原疾患、高齢、その他さまざまな要因で便秘になっており、消化管閉塞に注意が必要である。特に緊急時にはすぐに医療機関に繋がれるよう説明をしておくことも重要。

【ナルデメジンの導入】

この薬は、毎日飲み続けることでオピオイドによる便秘を解消(予防)するお薬です。他の下剤と違って、自己判断で中断したり、頓用で使用したりしないでください。

  • ナルデメジンが他の下剤と同様に自己調整されるケースもあるため、十分な説明が必要である。私はナルデメジンを下剤、便秘薬と説明するのではなく、便秘を解消(予防)する薬だと説明している。

+ワンポイント

  • 便秘について、きちんとした対応ができていないと、腸閉塞等のリスクもさることながら、オピオイドの拒薬に繫がる可能性もある。また、患者さんが便秘の症状のみに囚われてしまうことがQOLの低下を招くことにもなるため、積極的な介入が必要である。
  • 便秘の原因は複数にわたるため、様々な要因を考慮した上で対策を行う必要がある。
  • 溢流性便秘についても注意が必要である。水様便の訴えがあった場合に安易に止瀉薬を使用することは危険である。疾患や排便の状況を丁寧に確認し、溢流性便秘の可能性はないか評価する。
  • オピオイド導入前より便秘傾向の患者では、オピオイド開始時に下剤の投与を検討する。
    排便状況を確認し、便の性状や排便の頻度などを聴取する。その状況に応じて開始する薬剤の提案を行なっている。また、オピオイドが高用量や長期投与になると予想される場合は、早期よりナルデメジンの開始を提案することもある。
  • 便秘は悪心・嘔吐やせん妄の原因にもなりうる。そのような症状が出現した際には、排便状況も再評価し、改めて排便コントロールを積極的に実施する。

<各薬剤>

  • 刺激性下剤:耐性や習慣性を避けるために必要最小限の使用にとどめ、できるだけ頓用または短期間での投与とする。
  • 酸化マグネシウム:腎機能低下者、高齢者、長期投与患者においては高マグネシウム血症を起こすおそれがあり、服用する場合は定期的な血清マグネシウム値の測定が必須。私は推定CCr 30未満では他剤への変更を医師に照会している。
  • ナルデメジン:オピオイド高用量患者、長期投与患者ではナルデメジン開始によりオピオイド離脱症候群による下痢が起こる可能性があるため、まずは他剤で便秘をリセットした後にナルデメジンを使用することがある。効果発現時間が約5時間のため、朝食後に服用することが多い。血液脳関門が機能していないと思われる疾患では、オピオイド離脱症候群やオピオイドの鎮痛作用の減弱を起こす恐れがあるため注意が必要である。
  • ルビプロストン:悪心の副作用がある。特に若年女性、腎疾患、精神疾患では悪心が出やすいため注意が必要。また、パーキンソン病、精神疾患を有すると有効性が低下する報告もある(便通異常症診療ガイドライン2023-慢性便秘症)
  • エロビキシバット:作用機序より大腸運動が低下している症例においてより適している。食前に服用する必要がある(食事の20〜30分前の服用が最も効果を発揮する)。また食事量が少ない患者では十分な効果を発揮できない可能性もあるため評価する。ウルソデオキシコール酸服用患者では、ウルソデオキシコール酸の作用が減弱するおそれがあり、他剤への変更を検討している。
  • リナクロチド:下痢の副作用軽減のために食前服用となっており、適応外使用ではあるが、食前で効果不十分の場合は食後に服用することもある。また、大腸痛覚過敏改善作用があり腹痛等の副作用が出にくい印象がある。
  • マクロゴール4000配合剤:腸閉塞、消化管穿孔には禁忌であるが、比較的安全性が高い。ジュースやお茶、スープ等に溶かして服用できるが、65℃以上で速やかに分解・特異的なにおいを発生する恐れがあるため、温かい飲料は30〜40℃に冷ましてから溶かす必要がある。
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