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2024.8.23
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アファチニブによる下痢の対処法

監修徳島赤十字病院 薬剤部 組橋 由記 先生

副作用:下痢 頻発抗がん剤:イリノテカン

好発時期・初期症状

【好発時期】

【特徴】

  • 投与1週間程度をピークに生じる下痢で、初回発現は2週間以内が82.2%と高く、日本人は早期に発現する可能性がある。
  • 要因は消化管運動の変化、腸内細菌叢の変化、腸管へのCl分泌の亢進など複合的とされており、未解明な点も多い。
  • 発現頻度は全Gradeで95.2%、うちGrade3以上が14.4%と高く、日本人におけるGrade3の発現率は20.4%と報告されている。同じEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブやエルロチニブに比べても高いといわれている。

参考:Sequist LV, et al.: J CIin Oncol. 2013; 31: 3327-34.
Yang JC, et al.: Lancet Oncol. 2015; 16: 141-51.

対処・予防方法

【治療】

  • 重症度がGrade2で48時間以上継続する場合、またはGrade3以上の場合は、Grade1に回復するまでアファチニブを休薬する。回復後は10mg減量し、投与を再開する。また、1日1回20mg投与で忍容性が認められない場合は投与中止を考慮する。
  • 下痢は支持療法や休薬、用量の減量で管理可能であるが、一部の患者では投与中止に至ることもある。
  • 確立された予防法はないため、下痢の発現に備えて止瀉薬(ロペラミド塩酸塩) を常に携帯し、症状が発現したら速やかに服用する。
  • ロペラミド塩酸塩のほか、半夏瀉心湯が有効であったという報告もある。
  • 下痢に伴う合併症を予防するため、下記を指導する。
    <悪化予防(食事)>

    ・ 乳製品、揚げ物、食物繊維を多く含む物、香辛料など刺激が強いものは避け、消化に良い食事を心がける。

    <脱水(水分・電解質補給)>

    ・ スポーツドリンクなどの電解質が含まれた飲料を、こまめに補給する。

    <肛門部の傷・感染症(肛門周囲のケア)>

    ・ 排便時は温水洗浄便座を使用するようにする。温水洗浄便座がない場合は、新生児向けのお尻拭きなどのウェットティッシュを使用するとよい。

    ・ 肛門周囲を傷つけないように、押さえるように拭く。

    ・ 下痢の回数が多い場合は、肛門部を保護する目的で排便後に保湿剤などを塗布するとよい。

参考:山口 央 他: 癌と化学療法. 2015; 42: 581-3.

【リスク因子】

  • 女性、高齢患者(65歳以上)、低体重患者および腎機能が低下した患者ではより注意深く観察・管理する必要があるとされている。他に「内服開始前の便性状が硬便または軟便である患者」もリスク因子となるという報告もある。

参考:植田 有希 他: 医療薬学. 2016; 42: 670-7.

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

【下痢の発現頻度、時期】

  • 服用開始後1週間以内に、現在の排便回数よりも増加し、水分を多く含んだ便になる可能性があります。
  • 早めに対応することで重い下痢を避けることが可能なので、対策を一緒に考えていきましょう。

【普段の排便状況と排便に関連した薬剤の使用状況、食生活について確認する】

  • 今日までの1ヵ月間の1日の排便回数、便の性状、排便に関連する薬剤を使用しているかどうか、食事はどのようなものを食べておられるか、教えていただけますか。

【緩下剤を使用している患者に対して】

  • 緩下剤を普段通り続けてください。もし排便回数が普段より多くなる、あるいは水分を多く含む便に変化してきたら、緩下剤の服用をお休みしてください。それでも、下痢の傾向が進むようであれば、ロペラミド塩酸塩1mg1~2カプセルを服用してください。

【水分の摂取について】

  • 水分を多く含む便に変化する場合、脱水になる可能性があるので、白湯や常温の水、スポーツドリンクなど電解質入りの飲料水を少しずつ継続して飲んでください。

【食事について】

  • 下痢時にはアルコールや乳糖などを避け、ヨーグルトなどの乳製品を控えていただき、うどんなどの消化の良いものを少しずつ、食事回数を増やして食べてください。

【病院へ連絡する基準について】

  • 発熱や嘔吐、持続的な腹痛を伴う下痢、あるいは止瀉薬を服用しても下痢がおさまらない場合は、病院へ連絡してください。

※参考 便の評価指標(ブリストルスケール)について
    (ユニ・チャーム株式会社『排泄ケアナビ』)

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 服用開始後1週間以内に発現することが報告されており、早期の対応によって重篤化を防ぐことが可能である。経口薬は在宅で治療を継続できるが、内服期間は1年以上に及ぶこともある。下痢発現時の対応について教育が不十分であると、患者の不安増強、アドヒアランス低下、治療拒否につながる可能性があるため、患者の現在の排便状況や生活スタイルに寄り添った指導が必要となる。
  • 入院期間中であれば、ロペラミド塩酸塩を1回分ではなく2回分患者の手持ちとすることで、患者が躊躇することなく自己判断による頓服が可能となる。
  • 高齢者や一人暮らしの患者の場合、下痢発現時の対応が遅れる可能性があるため、家族や介護者にも説明を行う。
  • 経口薬であることから、患者は普段と同様に生活をしている可能性がある。外出先で下痢を発現する可能性もあることから、ロペラミド塩酸塩を携帯するよう指導することも必要である。
  • 発熱・嘔吐を伴う下痢は、感染性腸炎の可能性があり注意が必要である(特に冬季)。持続的な腹痛がある場合も、重篤な腸管粘膜障害を起こしている可能性があるため、病院へ連絡するよう指導する。

【下痢の評価のポイント】

  • 下痢のGrade評価は、患者の普段の排便状況を基準としていることを理解する。
  • 緩下剤の使用状況や食事の内容、併用薬を確認しながら、アファチニブによる下痢か、それ以外の原因が考えられるのか鑑別しながらモニタリングする必要がある。

【下痢対策のポイント】

  • ロペラミド塩酸塩、食事内容の工夫によって下痢が改善する場合は、アファチニブの継続服用が可能である。しかし、過度のロペラミド塩酸塩服用は、重度の便秘を発現する可能性もあるため注意が必要である。
  • アファチニブの低用量開始が検討されることもあるが、その後の増量が実施検討されずに効果不十分となる可能性がある。1日1回40mg投与、有害事象発現時の即減量が基本となることに留意する。実地臨床において、特に高齢者では低用量開始も検討されるが、有害事象を評価した上で増量を考慮する必要がある。
  • アファチニブの投与タイミングは「空腹時」であり、時間帯に規定はない。アドヒアランスの観点から朝に投与されることも多いが、最高血中濃度到達を就寝中とすることで下痢の発現が抑えられる可能性を考慮し、夕方の投与を検討してもよいかもしれない。

【緩下剤を使用中の患者での注意点】

  • 患者は副作用の下痢について説明を受けると、継続服用している緩下剤を中止しようとする。患者が他院で処方されている薬剤を含め、使用中の医薬品やそれに対するご本人の理解を把握するとともに、緩下剤を中止する必要がないことや緩下剤の調節方法について指導を行う。
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