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2025.8.25
免疫チェックポイント阻害薬による下痢・大腸炎の対処法

【好発時期】

- ●免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の作用により、免疫恒常性が破綻し免疫応答が過剰になることなどで発症する免疫関連有害事象(irAE)の1つである。
- ●irAEのなかでは発症頻度が高い。
- ●各ICIごとの発現頻度
- ●Grade3以上の腸炎の好発時期は、抗PD-1/PD-L1抗体薬では約7~11週、抗CTLA-4抗体薬では約4~7週、抗CTLA-4抗体薬+抗PD-1抗体薬併用療法では約4~9週と報告されている。
- ●投与直後から期間を問わず発現する可能性がある。投与終了数カ月後に発現することもあるため、治療終了後も注意が必要である。
- ●腹痛、便の性状(形や色の変化)、便の回数が増えるといった通常の下痢の症状が現れる。
- ●細胞障害性抗がん剤による下痢とは異なり、症状発現後、急速に悪化し致命的になることがある。
参考:日本臨床腫瘍学会, 編.: がん免疫療法ガイドライン 第3版. 金原出版. 2023.
Schneider BJ, et al.: J Clin Oncol. 2021; 39(36): 4073-126.
- ※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要
【予防】
- ●現在のところ、確立された予防法はない。
- ●早期発見・早期対応が重要であり、血便、粘液便、腹痛、発熱を伴う下痢がみられたら次の診察を待たずに医療機関に連絡するよう患者に指導する。
【治療】
- ●CTCAEに基づいて重症度評価を行い、重症度に対応した治療を行う。
- ●治療効果の判定には、臨床症状だけでなく、血液検査(白血球・炎症反応)、画像検査(CT・下部内視鏡検査)や便中カルプロテクチン検査(腸の炎症の有無)も参考にするとよい。
- ●中等度の下痢を認めた場合、便中白血球検査、便培養検査を実施し、クロストリジウム・ディフィシル腸炎やその他の細菌性・ウイルス性腸炎、他の炎症性疾患など、他の原因を除外する。

<Grade 1>
- ●ICIを投与継続しながら、整腸剤などの対症療法を行う。
- ●ロペラミド塩酸塩などの止瀉薬は下痢の症状をマスクし、適切な重症度評価を行えなくなるため、投与は慎重に判断する。
<Grade 2>
- ●消化器内科専門医にコンサルトする。
- ●鑑別診断のため、下記の検査を行う。
- ・便・血液培養:細菌性・ウイルス性腸炎など他の炎症性腸疾患などとの鑑別。
- ・単純X線・単純CT:ICIによる下痢では腸管壁の肥厚を認めることが多い。
- ・下部内視鏡検査・病理組織検査:炎症所見・病理組織の確認。緊急内視鏡検査の適応判定のために便中カルプロテクチン検査を考慮する。なお、腸管穿孔などのリスクが高いと判断される場合は、下部内視鏡検査は実施しない。
- ●ICIを中止し、対症療法を行う。3日間程度で症状改善が認められない場合は、経口ステロイド(プレドニゾロン換算:0.5~1mg/kg)を投与する。
- ●経口ステロイドで改善がみられた場合、少なくとも1ヵ月以上かけてステロイドを漸減する。
- ●Grade 1以下に改善した場合は、ICI再投与を検討する。
<Grade 3/4>
- ●消化器内科専門医にコンサルトする。
- ●鑑別診断のため、下記の検査を行う。
- ・便・血液培養:細菌性・ウイルス性腸炎など他の炎症性腸疾患などとの鑑別。
- ・単純X線・単純CT:ICIによる下痢では腸管壁の肥厚を認めることが多い。
- ・下部内視鏡検査・病理組織検査:炎症所見・病理組織の確認。緊急内視鏡検査の適応判定のために便中カルプロテクチン検査を考慮する。なお、腸管穿孔などのリスクが高いと判断される場合は、下部内視鏡検査は実施しない。
- ●ICIを中止し、高用量静注ステロイド(プレドニゾロン換算:1~2mg/kg)を投与する。改善がみられた場合、少なくとも1ヵ月以上かけてステロイドを漸減する。
- ●ステロイド無効例またはステロイド漸減中に再燃を認める例には、インフリキシマブ(5mg/kg)の投与(1~2回、2回目の投与は初期投与から2週間後)を検討する。ただし、保険適用外であり、穿孔、敗血症を認める症例には投与しない。(適応外)*
- ●Grade 1以下に改善した場合のICI再投与は、各薬剤の電子添文などを確認のうえ、慎重に検討する。
参考:日本臨床腫瘍学会 ,編.: がん免疫療法ガイドライン 第3版. 金原出版. 2023.
Schneider BJ, et al.: J Clin Oncol. 2021; 39(36): 4073-126.
【原因とメカニズム】
- ●免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の投与により、免疫系が過剰に反応し、腸管に炎症が生じることが原因である。
- ●免疫系が正常な細胞を攻撃することで、下痢や大腸炎が発生する。
【発現時期と頻度】
- ●発現時期は、中央値で約30~60日間と範囲が長く、さらに1年以上経過してから発現する場合もある。
- ●下痢や大腸炎を含めた消化管障害については、irAEの中でも発現頻度が高い副作用である。
【症状】
- ●腹痛、便の性状(形や色の変化)、便の回数が増えるといった通常の下痢の症状が現れる。
- ●粘液便、血便、発熱を伴う場合は特に注意が必要である。
【病院へ連絡する必要がある症状について】
- ●激しい腹痛
- ●通常の排便回数と比べて4回以上増える
- ●発熱を伴う下痢
- ●血便、粘血便
【治療方法】
- ●重度の症状の場合は、ステロイドや免疫抑制剤(インフリキシマブなど)の投与が必要になることがある。(適応外)*※
- ●軽度の症状の場合は、食事の調整や水分補給を行う。
- ●感染性腸炎との鑑別が重要であり、必要に応じて内視鏡検査や血液検査が行われる。
【注意点】
- ●水分補給をしっかり行い、脱水症状を防ぐことが重要である。
- ●食事は消化に良いものを選び、脂っこい食べ物や刺激物は避けるようにする。
- ●症状が悪化した場合や新たな症状が現れた場合は、すぐに病院へ連絡するようにする。
【その他】
- ●早期の対応が重要であるので、下痢や腹痛の症状が出たら些細なことでも医療者へ伝えやすいような雰囲気を作ることが大切である。
- ●テレフォンフォローアップやアプリでの積極的な患者サポートに取り組むことは、副作用マネジメントにおいて有効な方法である。
- ●症状が続くことで不安やストレスを感じることがあるため、心理的なサポートも行う。
【ロペラミドの投与】
- ●対症療法としてロペラミドの使用はirAEをマスクし、適切な治療開始が遅れ重症化することがあるので安易な使用は控える。
【下痢・大腸炎の診断】
- ●排便回数の増加や腹痛、粘液便または血便といった症状を認めた場合はGrade2以上の下痢、大腸炎として扱う。
- ●免疫力低下に伴う感染性腸炎でないことを必ず確認すること。
【下痢・大腸炎の治療~ステロイド】
- ●臨床判断を重視し、ステロイドの投与をためらわないことが重要である。
- ●効果は投与開始後3日以内に現れる。
- ●長期投与となるとサイトメガロウイルス腸炎やクロストリジウム・ディフィシル腸炎を併発することがあるので留意する。
- ●ステロイドパルス療法は行わない。
【下痢・大腸炎の治療~ステロイド抵抗性】
- ●Grade2においてステロイド治療による反応が3日以内(Grade3は1~2日以内)に認められない場合は、インフリキシマブ又はベドリズマブの追加投与を検討する。(適応外)*
- ●穿孔や敗血症、感染症が認められる場合は、インフリキシマブは使用しない。
- ●インフリキシマブ抵抗性の場合は、ベドリズマブ(5~10mg/kg)が有効であったとの報告がある。(適応外)*
- ●ベドリズマブ抵抗性の場合は、トファシチニブ又はウステキヌマブを考慮する。(適応外)*
【投与再開について】
- ●抗CTLA4抗体薬は、Grade2以上で永続的に中止する。
- ●抗PD-1/PD-L1抗体薬は、Grade3であればGrade1以下に回復すれば投与再開を考慮し、Grade4であれば永続的に中止する。
- 1) Magee DE, et al.: Ann Oncol. 2020; 31: 50-60.
- 2) Prieux-Klotz C, et al.: Target Oncol. 2017; 12: 301-308.
- 3) Wang Y,et al.: J Immunother Cancer. 2018; 6: 37.
- 4) 日本臨床腫瘍学会, 編.: がん免疫療法ガイドライン 第3版. 金原出版. 2023.
※ステロイドを使用するため、糖尿病合併患者の高血糖に注意する。
*本記事内で記載されている適応外使用の情報に関しては、東和薬品として推奨しているものではございません。
