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    抗がん剤全般による肝障害の対処法
【好発時期】
            - ●抗がん剤による肝障害は、多くの場合は用量とは無関係であり、予測不可能である。また、発症時期だけで原因を特定するのも難しい。
 - ●一般的に、薬剤性肝障害は薬物服用後60日以内に起こることが多いが、約20%程度の症例では90日以降に発症することもある。
 - ●ICIによる肝障害の初回発現までの期間は、PD-1/PD-L1阻害薬では8~16週、CTLA-4阻害薬では8~9週、両者の併用では6~9週と報告されている。
 - ●ICIによる肝障害の発現頻度は、PD-1/PD-L1阻害薬単独では1~10%、CTLA-4阻害薬単独では1~15%と報告されている。さらに、両者の併用では発現頻度が3~30%に増加するという報告もある。
 
参考 : Tang Si-Qi, et al.: Cancer Res Treat. 2021; 53(2): 339-54.
【症状】
- ●重要な関連症状として以下があげられる。
                    
- 1)全身症状:倦怠感、発熱、黄疸
 - 2)消化器症状:食思不振、嘔気、嘔吐、心窩部痛、右季肋部痛、便の色の変化
 - 3)皮膚症状:皮疹、 掻痒感
 
 - ●高ビリルビン血症では、黄疸が顕在化する前に、尿が暗色化することがある。
 
【血液検査】
- ●肝障害を調べるための血液検査として以下があげられる。
                    
- 1)肝細胞障害を反映する項目 :AST、ALT、LDH
 - 2)タンパク合成能を反映する項目:PT、アルブミン、ChE、コレステロール
 - 3)胆汁うっ滞を反映する項目 :ALP、γ-GTP、ビリルビン
 - 4)代謝を反映する項目:アンモニア
 - 5)肝線維化を反映する項目 :血小板
 
 - ●自覚的症状を認めず血液検査所見が診断の契機となる場合も少なくない。
 
【特徴】
- ●発症機序により、直接型(中毒性)、特異体質型(特異体質性)、間接型(特殊性)に大別することができる。特異体質型はさらにT細胞依存性に肝障害を生じるアレルギー性によるものと、薬物代謝関連酵素の遺伝子多型が関連し、代謝遅延などが影響して生じる代謝性によるものに大別される。
 - ●病態により、肝細胞が障害され、ASTやALTが上昇する肝細胞障害型と、胆汁がうっ滞して、ALPやγ-GTPが顕著な上昇を示す胆汁うっ滞型、その両方を併せ持つ混合型に大別される。
 - ●以下の病型分類を理解することは、原因薬剤を特定しやすくなり、より適切な治療戦略を立てることに役立つ。
 
薬剤性肝障害の発症機序による病型分類
            
                    参考 : 厚生労働省. : 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害(平成20年4月(令和元年9月改定)).
                    臨床消化器内科編集委員会, 編.: 臨床消化器内科 2023; 38(7): 87-94.
                
薬物性肝障害の病態による病型分類
            参考 : 厚生労働省. : 重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬物性肝障害(平成20年4月(令和元年9月改定))
薬剤性肝障害の主な表現型と薬剤例
            監修者提供スライド
※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要
            【鑑別】
- ●薬物性肝障害を疑ったら、患者の薬物服用歴をサプリメントや健康食品も含めて詳細に聴取する必要がある。特に服薬期間の情報は重要である。
 - ●肝障害をきたす薬物性肝障害以外の肝疾患(ウイルス性肝炎、ヘルペスウイルス感染症、自己免疫性肝炎、アルコール性肝障害、肝・胆道系疾患など)のスクリーニングを行う。
 - ●薬物性肝障害の可能性について、日本消化器病学会及び日本肝臓学会で公開しているスコアリングシステムRECAM-J 2023を参考に評価する。ただし、これは診断基準ではないことに留意する。
 - ●RECAM-J 2023は、以下の5カテゴリーに分けて各症例にスコアをつけ、合計スコアに応じて「非常に可能性が高い」、「可能性が高い」、「可能性が残る」、「可能性が低い」 となる。
                    
- ①発症までの期間
 - ②肝障害発症後の経過
 - ③過去の肝障害の報告
 - ④他の原因の除外
 - ⑤その他
 
 
【重症度分類】
- ●抗がん剤投与時における肝障害の重症度評価には、NCI(米国国立がん研究所)の有害事象共通用語基準を用いたGradingが汎用される。
 - ●FDA(米国食品医薬品局)及びEMA(欧州医薬品庁)ガイダンスでは、肝機能の評価方法としてChild-Pugh分類を使用することを推奨している。
 - ●NCI-ODWG(National Cancer Institute-Organ Dysfunction Working Group)では、総ビリルビン(T-Bil)とトランスアミナーゼ(AST、ALT)に基づき評価することを推奨している。
 - ●Child-Pugh分類とNCI-ODWG基準による肝障害の分類の結果については、互換性がなく、相互比較ができないことには注意が必要である。
 - ●肝障害は腎障害のように明確な基準や定義が確立されていないため、症例や薬剤(電子添文等の記載内容)に応じて適切に重症度分類を使い分ける必要がある。
 
有害事象共通用語規準 v5.0 日本語訳JCOG版より改変
            NCI-ODWG基準による肝障害の分類
            【対処方法】
- ●肝障害のリスクがある抗がん剤では、初回投与後、定期的に肝機能検査を実施し、肝障害の早期発見に努める。
 - ●薬物性肝障害が発現した場合、疑わしい薬剤の使用を中止させた上で、重篤化しないかを確かめ、早急に適切な治療を開始する。
 - ●軽度の場合は、薬剤の中止で自然に改善することが多い。中等度以上や黄疸を呈する場合には、入院させた上で、一般的な急性肝障害の治療に準じて、安静臥床、食事療法(又は輸液)、薬物療法により管理する。
 - ●確立されたエビデンスはないが、肝細胞障害型にはグリチルリチン酸製剤やウルソデオキシコール酸、胆汁うっ滞型で黄疸が長期的に遷延する場合はウルソデオキシコール酸、副腎皮質ステロイド、フェノバルビタール(適応外)*を使用することがある。
 - ●掻痒感が強い場合はコレスチミド投与、黄疸が遷延した場合は脂溶性ビタミン補給を行うことがある。
 
<ICIによる肝障害>
- ●ICIによる肝障害については、 日本消化器病学会と日本肝臓学会により作成された手順に沿って対応する。ASCO(米国臨床腫瘍学会)、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)、JSMO(日本臨床腫瘍学会)など各学会で作成されている irAEに対するガイドラインも存在するため、併せて参考にしたい。
 - ●血液検査・画像検査による精査により、ICIによる肝障害と診断された場合は、CTCAE v5.0による有害事象の重症度判定を行う。
 - ●CTCAE v5.0により、Grade3以上の場合は、治療開始前に肝生検を実施しておくことが望ましい。ただし、重症例であり、ICIによる肝障害が強く疑われる場合には、肝生検の結果を待たずに治療を開始すること。
 - ●治療介入として適切な時期に副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)を投与する必要がある。 ステロイド治療抵抗性の場合はミコフェノール酸モフェチルの併用を考慮する(適応外)*。インフリキシマブは肝毒性があるため使用は原則的に不可である(適応外)*。
 
<肝障害時の投与量設計>
- ●電子添文、インタビューフォーム、適正使用ガイド等の医薬品情報(肝障害時の薬物動態、用量調節の基準等)を参考に投与量を決める。FDA、EMA、MHRA(英国医薬品医療製品規制庁)などの海外規制機関から発出される医薬品情報には本邦の資料に記載のない情報も記載されていることがあるため、併せて参考にしたい。
 - ●Giraudらのレビュー論文(PMID:37269847)では、海外規制機関情報や文献に基づき、224種類の抗がん剤による肝障害時の投与量設計(減量基準等)の推奨事項がまとめている。肝障害時の薬物動態や投与量設計に関する原著論文があれば、詳細なPK/PDパラメータの情報も参考にしたい。
 
参考:
- 田中篤: 肝臓. 2024; 65(10); 482-90.
 - Krens SD, et al.: Lancet Oncol. 2019; 20(4):e200-e207.[PMID:30942181]
 - 伊藤隆徳 他: 肝臓. 2024; 65(6): 268-76.
 - Giraud EL, et al.: Lancet Oncol. 2023; 24(6): e229.[PMID:37269847]
 
*本記事内で記載されている適応外使用の情報に関しては、東和薬品として推奨しているものではございません。
        - ●薬物服用歴の聴取では、医薬品のみではなく、サプリメントやハーブを含む健康食品、OTC医薬品、漢方薬の摂取歴とその用量、投与頻度、使用期間を確認する。
 - ●飲酒歴の聴取が必要であるが、大量飲酒を否認し過少申告するケースも多いことから、可能な限り家族からも飲酒量を聴取すべきである。
 - ●血液を介した肝疾患の水平感染、垂直感染(B型肝炎、C型肝炎など)が原因となることもあるため、海外旅行、危険因子を持った人との接触、輸血や血液製剤の使用歴、 針刺し、肝疾患の家族歴を聴取する。
 - ●現在の肝障害との関連を把握するため、過去の黄疸及び肝炎の既往を確認する。
 - ●特異体質型では皮疹や発熱を伴うこともあり、バイタルサインや随伴症状を確認する。
 
【肝障害評価時の注意点】
- ●便色の変化は、胆汁うっ滞性黄疸(閉塞性黄疸や重度肝障害)で目立つ。この際の便色は、灰白色~淡黄色に留まる。完全に黄色が消失した灰白色便(白っぽい粘土様便)は、完全閉塞性黄疸(膵頭部癌・進行胆管癌など)で現れる。読者が思うほど、肝障害で便の色は変わらない。
 - ●そう痒の原因は、ビリルビン値だけでなく胆汁酸の血中蓄積によるため、相関しないことがある。T-Bil3~5mg/dL以上でそう痒を訴えることが多い。ビリルビンが高い=そう痒とは限らない。
 - ●肝細胞障害型の急性期には肝臓に多く含まれるAST優位な上昇を、慢性期になれば半減期の長いALT優位の上昇を示すことが多い。また、肝細胞障害型が持続すると、引き続いて胆道系酵素とビリルビンが上昇するので、肝障害の発見が遅くなると混合型と診断される場合もある。
 - ●T-Bilのみ上昇する場合は、直接及び間接ビリルビンも評価し、肝障害以外の要因も検討する。
 - ●絶対に見逃してはいけないのは急性肝不全や慢性肝不全(肝硬変)であり、肝臓予備能がわかるChE、PT、アンモニアの測定も重要である。
 - ●がん患者では、腫瘍の局在や進行の程度により肝胆道系酵素が上昇することや、悪性腹水、脳腫瘍、がん悪液質などのがん特有の病態が交絡となることを理解する。
 
【造血幹細胞移植後の肝中心静脈閉塞症候群/肝類洞閉塞症候群(VOD/SOS)】
- ●発症の危険因子として、以下の4つに大別される。
                    
- ①移植関連因子(ブスルファン含む移植前処置など)
 - ②患者と疾患関連因子(成人では高齢者>若年者など)、
 - ③肝臓関連因子 (ゲムツズマブ・オゾガマイシン、イノツズマブ・オゾガマイシンの投与歴など)
 - ④小児特有の因子(1 ~ 2歳未満など)
 
 - ●EASIX calculatorを利用してVOD/SOS発症リスクを算出し、ハイリスク症例についてはできるだけリスク因子を回避することを検討する。
 - ●予防薬としてウルソデオキシコール酸の有効性が示されており、一般的に使用されている(予防投与は適応外*)。この他にヘパリン、低分子ヘパリン、プロスタグランジンE1製剤、アンチトロンビン製剤、新鮮凍結血漿なども予防薬として用いられることがあるが、これらは推奨されているものではない(いずれも予防投与は適応外*)。
 - ●デフィブロチドナトリウム静注がVOD/SOSの唯一の治療薬として日本でも保険承認されている。この他にメチルプレドニゾロンがVOD/SOSの治療に使用されることもある(適応外*)。
 
【ICIによる胆管炎】
- ●稀な病態であるが、発症した場合は患者の予後に大きく関係するため、早期発見が重要である。
 - ●ICI使用中に胆道系優位の肝障害を認めた場合は、造影CTやMRCPにて胆管壁の肥厚や拡張の有無を確認する必要がある。
 - ●ICIによる胆管炎の特徴として、①閉塞機転のない肝外胆管拡張あるいは肝内胆管の多発狭窄、②びまん性の肝外胆管壁肥厚、③胆道系酵素優位な肝障害、④自己抗体(抗核抗体や抗ミトコンドリア抗体等)陰性、⑤血清IgG4値は正常範囲内、⑥CD8陽性T細胞の胆管浸潤、⑦副腎皮質ステロイドによる治療効果は中等度から不良であることが報告されている。
 
参考:
- 令和2学会年度日本造血・免疫細胞療法学会ガイドライン委員会, 編: 造血細胞移植ガイドライン SOS/TA-TMA(第2版).
 - 日本造血・免疫細胞療法学会. 2022.
 - 伊藤隆徳 他: 肝臓. 2024; 65(6): 268-76.
 
                *本記事内で記載されている適応外使用の情報に関しては、東和薬品として推奨しているものではございません。
            
        
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
    
        
        
        
        


