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2023.11.16
DC-003437
DC-003437
分子標的薬による口内炎の対処法
山形大学医学部附属病院 薬剤部 志田 敏宏 先生
【好発時期】
- ●抗がん剤による口内炎は投与数日~10日目頃に発症することが多い。分子標的薬は服用開始後2週目頃から発現頻度が増加する。その後、2~3週間で徐々に改善し、予後は良好である。ただし、予後を良好にするためには服用中止もしくは適切な対処が必要であり、服用を継続している間は、十分な対策を心掛ける。
- ●免疫チェックポイント阻害薬においても口内炎発現が報告されている。
【特徴】
- ●一般的に発症初期には、紅斑、疼痛が認められる。
- ●分子標的薬ではアフタ性口内炎が多く見られる。
- ●症状が進行すると、強い疼痛、出血、偽膜、潰瘍形成などがみられ、食事困難となり全身状態の悪化、QOLの低下、闘病意欲の低下を招く。治療中止を余儀なくされる場合もある。
- ●好中球減少症を併発した場合、敗血症など重篤な感染症リスクが高くなる。(骨髄抑制に伴う口内炎については、抗がん剤全般による骨髄抑制も参照)
- ●好発部位は、機械的刺激を受けやすい部位(舌口唇、舌側縁部、頬粘膜など)であるが、mTOR阻害薬などの分子標的薬では機械的刺激の少ない部位にも認められることがある。
- ●抗がん薬が口腔粘膜に直接障害を与える一次性口内炎と、骨髄抑制時期の口腔感染によって重症化する二次性口内炎に分類される。
【予防】
治療開始前
- ●可能であれば、歯科医による虫歯や歯周病の治療、プラークや歯石の除去など、口腔ケアを行う。
- ●看護師によるブラッシングなどの口腔ケアの指導を行う。
- ●薬剤師による口内炎の発現時期とその予防法などの患者教育を行う。
治療開始後
《口腔内清潔保持》
口腔内の不衛生は発症・悪化のリスクとなるため、清潔保持に努める。
口腔内の不衛生は発症・悪化のリスクとなるため、清潔保持に努める。
- ●歯ブラシは、毛先の硬さは「ふつう」のナイロン製のものを用いる。出血傾向や疼痛、強い骨髄抑制がある場合は「軟毛」または「超軟毛」のものを用いる。
- ●歯磨き粉は、メントールやアルコールなど刺激性の成分が含まれないものを用いる。また、多くの歯磨き粉に含まれるラウリル硫酸ナトリウムなどの発泡剤も口腔内を刺激するため、発泡剤を含有していない歯磨き粉の使用が望ましい。
- ●やわらかい歯ブラシやスポンジブラシを使用して、粘膜や舌の清掃も行う。
- ●真水、塩水、生理食塩水、重曹、アズレンスルホン酸ナトリウム水和物などで、積極的(4回/日以上、6~8回/日を目標)に含嗽(30秒程度のブクブク、クチュクチュうがい)を行う。ヨードや過酸化水素、アルコールを含む含嗽剤は粘膜刺激作用が有るため、使用は避けることが望ましい。
- ●mTOR阻害薬による口内炎予防ではステロイド含嗽薬やステロイド外用薬の使用を検討してもよい。
参考:がん治療に伴う粘膜障害マネジメントの手引き 2020年版
<含嗽薬の例>
- アズレンスルホン酸ナトリウム水和物・重曹10g+グリセリン60mL+水約500mL
参考:厚生労働省.: 重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎. 平成21年5月
《保湿》
口腔内の乾燥は発症・悪化のリスクとなるため、保湿に努める。
口腔内の乾燥は発症・悪化のリスクとなるため、保湿に努める。
- ●市販の口腔内用の保湿ジェル・スプレーも有用であるので、口腔内乾燥が強い場合や口腔内乾燥が強くなる夜間に用いることが望ましい。
- ●含嗽は保湿の観点からも重要である。
《症状の早期発見》
- ●1日1回、鏡で口腔内をチェックし、紅斑などの異常が認められた場合は報告するよう指導する。
- ●口腔内がヒリヒリ、チクチクするような症状がある場合、または、疼痛がある場合は、視覚的な変化の有無にかかわらず報告するよう指導する。
【治療】
根本的治療はないため、予防法に加えて下記の対症療法を行う。
《鎮痛》
- ●局所麻酔薬を混ぜた含嗽液で含嗽する。
- ●半夏瀉心湯を内服または含嗽する。
- ●WHOラダーに従って、アセトアミノフェン、NSAIDs、医療用麻薬を投与する。
- ●物理的な保護目的に、局所管理ハイドロゲル創傷被覆・保護材を使用する。
- ●歯磨きの際、痛みが強い場合は、超軟毛の歯ブラシやスポンジブラシを用いる。
参考:がん治療に伴う粘膜障害マネジメントの手引き 2020年版
<疼痛がある場合の含嗽薬の例>
- リドカイン塩酸塩50mL+アズレンスルホン酸ナトリウム水和物・重曹5g+水約500mL
参考:厚生労働省.: 重篤副作用疾患別対応マニュアル 抗がん剤による口内炎. 平成21年5月
- ●難治性の場合は、口腔内カンジダ症やヘルペス性口内炎を疑う。
- ●細菌感染に対しては嫌気性菌にも有効な抗菌薬、真菌感染には抗真菌薬、ヘルペスには抗ヘルペスウイルス薬を投与する。
- ●口内炎以外の口腔合併症との鑑別が困難な場合は、歯科に照会する。
- ●安易に口腔ステロイド剤を使用せずに、原因に合わせた薬剤を選択する。
【日常生活について】
- ●一度口内炎が発現すると、治療期間中(分子標的薬服用中)は治りにくくなるため、予防することが大切です。香辛料を多く含む刺激の強い物、酸味の強い物、または、炭酸飲料などはできるだけ避けてください。
- ●口の中に傷があると、そこから感染して口内炎がひどくなることがありますので、硬いせんべいやクラッカーなどは避けていただき、歯磨きの際は、刺激の少ない歯磨き粉を使い、柔らかいブラシでブラッシングしてください。
- ●毎食後と寝る前の歯磨きの後に、うがい薬(アズレンスルホン酸ナトリウム含嗽)を使ってください。
- ●(鎮痛薬や表面麻酔薬が処方されている場合)食事時の疼痛管理のため食前に服用しても良いです。
【患者さんにお願いすること】
- ●口の中に赤い部分がある、または、ヒリヒリするなどの症状があったら、ひどくなる前に教えてください。
- ●口内炎は、抗がん剤だけではなく様々な原因が考えられるので、自己判断で安易な口腔用ステロイドの使用は避けてください。
- ●1日1回は口の中を観察してください。
【服薬指導時に留意すべきポイント】
- ●口内炎は重症化するとQOLを著しく低下させてしまう原因になるため、予防することが重要である。口内炎に限ったことではないが、説明の際は、症状そのものではなく、その予兆や初期症状を説明し、患者が副作用発現の第一発見者となるように、患者教育をするように心がける。
- ●特に口内炎は、軽く見積もっている患者が多いと思われる。当院の分子標的薬服用患者について口内炎の発現率を調査したところ、エベロリムスで83.3%、スニチニブで62.9%であり、再審査報告書に記載されている発現率よりも高かった(エベロリムス重篤1.6%、非重篤43.7%、不明0.1%1)、スニチニブ19.2%2))。Grade1〜2程度の粘膜が赤い、または、ヒリヒリするなどの初期症状を訴えてくれる患者は少ないことが考えられる。患者の訴えだけでは、発見が遅れてしまうことがあるため、普段から口腔内について質問するまたは実際に観察するよう心がける必要がある。分子標的薬による口内炎は、物理刺激の有無にかかわらず発現することがあるため、普段から観察するよう説明をしていくことが重要である。
1) アフィニトール®錠2.5mg/5mg 特定使用成績調査 I(L1401 調査)再審査報告書[平成 31 年 1 月 29 日]
2) スーテント®カプセル12.5mg 再審査報告書[平成 29 年 10月 23日]
2) スーテント®カプセル12.5mg 再審査報告書[平成 29 年 10月 23日]
【口内炎評価のポイント】
分子標的薬の口内炎は、殺細胞性抗がん剤による口腔粘膜炎とは異なり、アフタ性口内炎に似た症状であることが報告されている。しかし、がん治療を受けている患者においては、副作用に伴う免疫低下などにより、ヘルペス性口内炎やカンジダ性口内炎などの発現も考えられ、症状に応じた対応が必要である。最終的には医師の診断が必要になることもあるが、薬剤師として特徴的な症状(表1)を把握することや、評価することも重要である(表2)。【口内炎対策のポイント】
- ●口内炎は痛みを伴うことが多く、経口摂取による患部への物理刺激でさらなる疼痛を引き起こすため、QOLの低下や摂食困難、栄養状態の悪化等から治療中止を余儀なくされる場合もある。軽度の口内炎は軽視されがちであるが、十分な対策が必要な副作用である。
- ●前治療の内容によっては、その影響を受け、分子標的薬服用初日からでも口内炎が発現してしまうことがある。または完全に治癒しないまま、次の分子標的薬が開始になると、その薬剤の影響でさらに悪化してしまうことがあるため、早めの対応が必要である。
- ●当院では、予防対策として、看護師が口腔内ケアの指導を行った上で、分子標的薬開始と同時にアズレンスルホン酸ナトリウム含嗽を使用している。1日6〜8回が目安ではあるが、回数のみを説明しても患者は実際の症状がないと実施しないことが多いため、毎食後と寝る前の最低4回は実施していただくよう指導している。
上記介入を継続し、口内炎発現頻度が高いエベロリムスで調査したところ、非介入群の発現が83.3%に対し、介入群では53.3%と有意に発現が低かった。また、スニチニブでは非介入群62.9%に対し介入群で28.9%と同様の結果であった。
【疼痛対策のポイント】
- ●口内炎に伴う疼痛に対してはNSAIDsやオピオイド等が使用されることがある。持続性の痛みに対しては効果があると考えられるが、食事の際の物理刺激による痛みにはほとんど効果がない。そのため、食事の前に局所麻酔剤を含む含嗽等を行うなど、鎮痛剤の使い分けをしていく必要がある。ただし、麻酔作用により咀嚼時の感覚が鈍くなるため、口腔内を噛まないようにする等注意が必要である。
また、当院では、局所麻酔剤を含有する含嗽で効果が低かった場合は、リドカイン塩酸塩ビスカスを患部に直接塗布するなどの対応をしている。しかし、急性炎症等を伴う場合は、局所麻酔剤が効きにくく、また吸収も速まることがあるため、注意が必要である。
参考:Creel PA: Clin J Oncol Nurs. 2009; 13: 19-23.
志田 敏宏 他: Palliative Care Research. 2014; 9, 122-7.
Motzer RJ, et al.: Lancet. 2008; 372: 449‒56.
Sonis S, et al.: Cancer. 2010; 116: 210-5.