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2023.03.31
DC-003292
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抗がん剤全般による味覚障害の対処法

監修長野赤十字病院 薬剤部 若林 雅人 先生

副作用:インフュージョンリアクション・アナフィラキシー 頻発抗がん剤:抗体薬、タキサン系抗がん剤、プラチナ系抗がん剤、L-アスパラギナーゼ、ブレオマイシン、シタラビンなど

好発時期・初期症状

【好発時期】

  • 原因により発現時期は異なるが、治療開始後すぐに出現することもある。多くの場合約2~6週までの間に出現し、治療中は症状が継続する。終了後は数ヵ月以内に改善することが多い。

【特徴】

  • 味覚障害の発生頻度の高い抗がん剤としては下記の様に言われているが、投与量による違いや個人差もある。
    • ・プラチナ系抗がん剤:オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン
    • ・タキサン系抗がん剤 : パクリタキセル、ドセタキセル
    • ・代謝拮抗薬 : フッ化ピリミジン系薬剤(フルオロウラシル、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、カペシタビン等) 等
    • ・アントラサイクリン系抗がん剤:ドキソルビシン、エピルビシン、ピラルビシン、ミトキサントロン
    • ・アルキル化薬 : シクロホスファミド
  • 味覚障害の症状は多彩である。代表的な訴えとして、下記のようなものがある。
    • ・味覚減退 : 味が薄くなった、味を感じにくい
    • ・味覚消失・無味症 : 全く味がしない
    • ・解離性味覚障害 : 特定の味(甘味など)だけが分からない
    • ・異味症・錯味症 : 本来の味と異なる味に感じる(しょう油が苦く感じるなど)
    • ・悪味症 : 何を食べても嫌な味になる
    • ・味覚過敏 : 味が濃く感じる
    • ・自発性異常味覚 : 口の中に何もないのに苦みや渋みを感じる
    • ・片側性味覚障害 : 一側のみの味覚障害
  • 致死的な副作用ではないが、治療中の発現頻度は45~84%と高く1)、患者のQOLに大きく関わる。また、治療法別としては、化学療法単独治療群では56%、放射線単独治療群で66.5%、化学放射線療法で76.0%という報告もある2)

    1) Gamper EM, et al.: J Pain Symptom Manage. 2012; 44(6): 880-95.
    2) Hovan AJ, et al.: Support Care Cancer. 2010; 18(8): 1081-7.

  • 原因は様々で、下記のようなものが考えられるが複合的であることも多い。化学療法の副作用としては、味覚受容器の障害(口腔粘膜炎など)、味覚受容器の再生障害(亜鉛欠乏)、味覚の伝達障害(口腔乾燥、末梢神経障害など)などが主に考えられる。

参考:

  • 厚生労働省, 重篤副作用疾患対応別マニュアル 薬物性味覚障害 平成23年3月(令和4年2月改定)
  • Gamper EM, et al: J Pain Symptom Manage. 2012; 44: 880-95.
  • Hovan AJ, et al.: Support Care Cancer. 2010; 18: 1081-7.

対処・予防方法

※現時点での各薬剤の保険適応については個別に確認が必要

【予防】

  • 確立された予防法はないが、口腔粘膜炎や口腔乾燥を防ぐためにも保清、保湿等の口腔ケアが重要となる。患者に味覚障害が出現する可能性があることを伝え、日常的な口腔ケアを実施できるよう指導する。
    分子標的薬による口内炎の対処法 【予防】項目も参照)

【治療】

  • 治療段階においても口腔ケアは継続する。
  • 味覚障害の原因は様々なので、治療歴、口腔内観察、神経障害、栄養状態なども確認し、要因鑑別の上で適切な治療を検討する。確立された治療法はないが、症状に応じて下記のような対策が考えられる。
    • ・口腔粘膜炎への対策:
      根本的治療はないため、予防法に加えて鎮痛や感染症対策などの対症療法を行う。
      分子標的薬による口内炎の対処法 【治療】項目も参照)
    • ・亜鉛欠乏への対策:
      食品やサプリメントからの亜鉛補充を検討する。
      食事等による亜鉛摂取で十分な効果が期待できない場合は血清亜鉛濃度を測定し、血清亜鉛濃度が70μg/dL未満の場合は酢酸亜鉛水和物錠からの亜鉛補充を検討する。
      酢酸亜鉛水和物の使用が困難な場合、保険適応外であるが、ポラプレジンクの使用も検討される3)

      3) 若林 雅人 他.: 医薬品相互作用研究 2021; 45(3): 123-8.

    • ・口腔乾燥への対策:
      人工唾液やピロカルピン、市販の口腔ケア用のスプレーやジェルの使用、唾液腺マッサージ(耳下腺、顎下腺、舌下腺)などが検討される。
      参考:唾液腺マッサージの方法
      耳下腺(耳たぶの下、ほお骨のでっぱりのすぐ内側)
      ・親指以外の4本の指を耳たぶの下にあててまわすようにマッサージしましょう。
      顎下腺(下顎左右の骨のすぐ内側)
      ・指を使って顎の下から耳の下までを順番に押しましょう。
      舌下腺(舌の付け根の真下)
      ・親指をそろえ、あごの真下からゆっくり押しましょう。
  • 抗がん剤に限らず、薬物性味覚障害に対して亜鉛の補充療法が行われることは多いが、がん化学療法に伴う味覚障害に対してのエビデンスは現時点で明確ではない。栄養指導や生活指導なども含め、様々な方法で患者サポートを検討する必要がある。
  • 症状に応じて食事を工夫する必要があり、看護師や栄養士との協力が必要である。症状が強く食べられない場合は無理をせず、食べられるものだけを食べるようにする。

参考:国立がん研究センターがん情報サービス
   味覚やにおいの変化 もっと詳しく (3)食事の工夫 より引用

   一般に、味覚が変化しているときには、カレーライスなどの丼物や、イモ類、カボチャ料理が食べやすいといわれています。

国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス
症状を知る/生活の工夫|さまざまな症状への対応|味覚やにおいの変化|
味覚やにおいの変化 もっと詳しく(3)食事の工夫より引用
https://ganjoho.jp/public/support/condition/taste_or_smell/ld01.html 令和4年現在

  • 口腔カンジダ症は味覚障害や乾燥の原因となる。
  • 治療終了後も長く症状が持続する場合は耳鼻科受診を勧める。
  • 患者の自覚症状から評価されることが多いが、CTCAEによるGrade評価や血液検査、味覚機能検査(ろ紙ディスク法、全口腔法、電気味覚検査など)、唾液分泌検査(サクソンテスト)なども用いられる。
    ※サクソンテスト
    予め計量した乾燥したガーゼを2分間一定の速度で噛み、ガーゼに吸収される唾液の重量を測定して唾液の分泌量を測定する。
    ガーゼの重量増加が2g以下の場合、口腔乾燥ありと判断する。

参考:CTCAE v5.0による味覚不全の重症度

有害事象共通用語規準 v5.0 日本語訳JCOG版

がん専門薬剤師から患者さんへの話し方(わたしの場合)

治療開始前の説明
【味覚障害】

私たちが味覚を感じるのは、舌の表面にある味蕾(みらい)という微小な感覚器官です。
味覚障害を引き起こす原因はさまざまですが、味覚障害の原因として一番多いといわれているのが亜鉛不足です。味蕾は10~14日という短い周期で新しく生まれ変わっており、味蕾の再生にはたくさんの亜鉛が必要です。すなわち、体内の亜鉛が不足してしまうことにより味蕾の新生・交代が滞り、味覚障害を引き起こしてしまうのです。
抗がん薬による治療開始後に味覚障害が出現することがあり、実際に多くの患者さんに味覚障害がみられます。抗がん薬治療中に出現した味覚障害の原因はさまざまであり、亜鉛不足だけでなく、それ以外の原因で味覚障害が出現することもあります。なお、現在のところ、味覚障害に対する治療法は確立されていないのが現状ですが、口腔ケアや食事の工夫などの対処法を患者さんにしっかりと伝えることが必要です。また、栄養不良などによる体重減少は、予後や臨床症状、QOLの低下などに関連してくることから、早期から栄養士などと多職種協働で対応することが重要になります。

【症状】

  • 味覚障害の症状は患者さんによって異なります。「口の中が苦く感じる」、「味付けが薄いと感じたり、味を感じない」、「本来の味と違った味に感じる」、「何を食べても美味しくない」など、出現する自覚症状は異なります。

【発現時期】

  • 抗がん薬による治療開始後、味覚障害がすぐに発現することもありますが、多くは治療を繰り返す、あるいは抗がん薬を継続して服用することで発現します。

【患者さんにお願いすること】

  • 個々の患者さんで自覚症状は異なりますが、味の感じ方に変化がないかどうかなど、日頃から味覚の変化に気を付けてください。味覚の変化を感じたら、早めに医師・薬剤師に相談してください。
  • 亜鉛を多く含む主な食品としては、①肉類(牛肉、豚レバーなど)、②乳製品(チーズなど)、③魚介類(牡蠣:カキ、たらこ、ホタテなど)、④ナッツ類(カシューナッツ、アーモンド、かぼちゃの種など)、⑤海藻類(のり、わかめなど)、⑥大豆製品(高野豆腐、納豆など)などがあります。偏った食生活によって食事からとる亜鉛の量が不足しないようにバランスのよい食事を心がけてください。
  • うがいや歯磨きを励行し、口腔内を清潔に保ってください。

症状発現時の説明

味覚障害の原因はさまざまですが、考えられます原因と対処法について説明します。

【原因】

  • 亜鉛欠乏 : 抗がん薬と亜鉛が結合し、亜鉛が尿から多く排泄されてしまうことで、亜鉛不足が生じている。
    亜鉛欠乏が原因かどうかを調べるために、血液中の亜鉛濃度の確認を医師に依頼してみます。血清亜鉛値が基準値よりも低下している場合は、亜鉛欠乏性味覚障害の可能性があります。
  • 味蕾の減少、変化 : 抗がん薬により、味蕾の数が減少している、もしくは味蕾の形態変化が生じている。
  • 口腔内の乾燥 : 抗がん薬、放射線による唾液腺の障害、加齢や摂取障害からの咀嚼運動の低下などに伴う唾液分泌の低下によって味成分の伝達が阻害されている。
  • 舌苔 : 舌の表面に舌苔(舌の表面や口腔内の細胞がはがれ落ちたもの、舌表面に付着した細菌や、食べかすなどが集まったものなど)が付着している、もしくは口腔カンジダ(カンジダという真菌の一種による粘膜の表面の炎症、表面に白い薄い膜ができる)が付着しているなど、口腔内の環境が悪化している。特に口腔カンジダはステロイド使用中の患者さんなどに発症しやすいため必ず確認することが重要です。
    これらを確認するため、口腔内を観察させていただきます。
  • 末梢神経障害 : 抗がん薬の副作用である末梢神経障害により、味覚に関わる神経が障害されている。

【対処法】

  • 亜鉛欠乏性味覚障害の場合
    亜鉛を含有する薬(ポラプレジンク、酢酸亜鉛水和物錠)を使用します。亜鉛を含有する薬で改善することがありますが、全ての方が改善するとは言えません。
  • 口腔内が乾燥している場合
    口腔ケア用の保湿ジェルや保湿スプレー、うがい薬を使用してみてください。うがい薬については、ノンアルコールの保湿成分入りのものをおすすめします。
  • 舌苔が付着している場合
    舌の清掃を行ってください。舌苔を取るときは舌ブラシや舌用のヘラなどの専用の除去器具を使用してください。
    専用の器具で舌の奥の方から手前(先端側)に向かって、力を入れずに軽くかき出します。かき出す回数は1~3回程度で何回もかき出す必要はありません。頻度としては、1日1回が限度です。
  • 口腔カンジダ症の場合
    抗真菌薬を使用します。

+ワンポイント

【服薬指導時に留意すべきポイント】

  • 味覚障害は患者自身も副作用だと気付いていないことが多く、見逃されがちである。「何を食べても美味しくない。」「口の中が苦くて食べる気がしない。」といった患者の発言に気づくことが重要である。
  • 味覚障害が食欲不振や体重減少の原因となることもあり、全身状態の悪化につながることもあるので、早期発見・早期対応が重要となる。
  • 食事にはこだわらず、多少の味付けが濃いものも良く、ソース焼きそばやたこ焼きなど匂いも食欲を感じる上で重要な要素となる。
  • 疾患や併用薬(睡眠薬や麻薬など)に注意は必要だが、少量の食前酒であれば、多幸感、消化管血流の増加で食欲を増進させるには良い。
  • 口腔乾燥症、抗がん薬治療、ステロイド薬の投与などによる口腔カンジダ症の発症に注意する。特に口腔内が乾燥すると口腔カンジダ症が発症しやすくなるので、口腔乾燥に注意する。口腔乾燥の症状としては、「口の中が渇く」、「口の中がねばねばする」、「唇が渇く」など。口腔ケア用の保湿ジェルや保湿スプレー、保湿成分入りのうがい薬などを用いた口腔ケアを心がけるよう指導する。
  • 患者の訴えだけを聞くのではなく、口腔内の観察も行い、唾液の分泌、舌苔、白苔の有無を確認する。口腔乾燥、口腔清掃状態不良、口腔カンジダ症によっても味覚異常が発現することがある。白苔を認め口腔カンジダ症を疑うときは、舌の培養検査と抗真菌薬の投与を医師と検討する。
  • 口腔内に異常所見を認めない場合は、血清亜鉛値の測定を医師に依頼し、亜鉛欠乏の有無を確認する。血清亜鉛値は70~120μg/dLが基準値とされている。
  • 抗がん薬に起因する味覚障害は、その細胞傷害性によって味蕾細胞が傷害されることも機序の1つとして知られている。
  • 味蕾で感じた味の情報は鼓索神経と舌咽神経によって脳に伝わる。抗がん薬による末梢神経障害により、これらの神経のどこかが障害されると味覚障害が発現する。
  • 非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんにおける栄養不良(悪液質)の患者のうち、6ヵ月以内に5%以上の体重減少があり、以下の1〜3のうち2つ以上を認める患者にはグレリン様作用薬(アナモレリン塩酸塩)の使用も検討する。
    1.疲労または倦怠感
    2.全身の筋力低下
    3.CRP値0.5mg/dL超、ヘモグロビン値12g/dL未満又はアルブミン値3.2g/dL未満のいずれか1つ以上
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